一人歩きする心
「友情」をテーマに書いてみました。ハッピーエンドではありませんが読んでいただけると幸いです。
親友の桜田 葵に好きな奴がいるらしい。話を聞くと3組の男子だそうで委員会活動で一緒になったときからずっと気になっているらしい。
「そ、それでね。やっぱり私、後悔したくないから田中君に告白しようと思うんだ」
本番の告白でもないのに顔を赤らめている姿を見ると親友として心配になってくる。もうちょっと覚悟決めろとか言うべきだろうか。
「まあ・・・そうだな、いいんじゃね。俺は別にその田中ってやつのことあんまり知らないけどお前が好きになったんなら告白して損はねぇだろ」
そういってやると葵は少し笑顔になった。きっと告白する宣言を俺にしたのも覚悟を決めるためだったのだろう。
「うんそうだよね、後悔したくないからね。ありがとう私の相談にのってくれて」
「別にいいよこれぐらいの相談」
「いや今回は本当に助かったよ~拓也が親友でよかった」
親友・・・この言葉が少しだけ心に刺さった。そう、俺と葵は親友なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの親友なのだ。
桜田 葵とは昔からの付き合いだ。昔から家が近くよく二人で遊んだりしていた。小学校中学年頃になって男女が分かれて遊ぶようになっても葵の男女隔てなく話しかけるような性格もあり普通に遊んでいた。それゆえに高校になってもこんな腐れ縁が続いているのだ。
「よし!それじゃあ拓也からも応援してもらったし私、勇気出してくるね!」
そう言うと葵は一人で3組の方に走り出してしまった。
一人になった俺の心に一つの問いが生まれる。俺は葵の告白宣言に対して応援以外の何かが出来たのだろうか。告白をしない方がいいと言えたのだろうか。多分、何度でも同じように俺は葵の告白を応援してしまうだろう。
別に俺は葵のことが好きなわけじゃない。ただ親友というだけだ。それならばどうして葵の告白を止められようか、止める資格があるのだろうか。・・・だというのにこの胸に深く刺さるようなこの痛みは何なのだろうか。
夜、ベッドで寝転んでいると葵からメッセージが来た。そこには短く『相談にのってくれてありがとう』という言葉が書いてあった。きっとうまくいったのだろう。葵のことをかわいいかどうかは多分世間一般の意見からすれば一応かわいい女の子の部類に入る人間なのだから。
しかし、心には理由の分からない不快感が重くのしかかる。この不快感はなんなんだ、何が原因なんだと問いかけても答えはでない。別に俺は葵のことを恋愛対象と見ていたわけではない。ただの親友としてずっと自分の側にいると思っていただけなのに。
とりあえずメッセージに返信をしなければ。『おめでとう』そんな乾いた言葉しか出なかった。
すると返信がくる。
『ありがとう!それでね!今度の休みにデート行くことになったんだー!』
あぁそうか・・・この不快感の原因が分かった。この不快感の原因はこんなにも単純なものだったのか。そうこの不快感の原因はただの醜く一人よがりな独占欲だったのだ。
俺は親友として葵の側にいれたはずの時間がいきなり現れた田中とかいうやつに奪われるのが嫌だったのだ、一番葵のことを知っているはずの俺が知らない葵を知っている田中のことが妬ましかったのだ。なんて自分勝手な感情だろう。葵が誰を好きになってどんな感情を向けるかなんて葵の勝手だ。なのに自分はそのすべては親友である自分に向けられるべきだなんて思い違いをしていたのだ。
あぁ恥ずかしい。なんて恥ずかしい人間なのだろうと思う。親友というだけで自分はこんなにも愚かな思考をもってしまう人間なのだ!
『それはよかったね。楽しいデートになるように願ってるよ』
自分でもこんな返信はなんて白々しいのだと感じる。でもこの独占欲は俺の勝手な感情だ。葵に見せてはいけない。俺は葵の親友でしかないのだ。親友は相手の恋を応援するだけでいいのだ。
『あ!でもデートってどんな服着て行けばいいんだろう!?教えて拓也くん!』
あぁまったく・・・こんなメッセージで自分の方が葵に信頼されているだなんて優位を確認しようとしてしまう自分がおぞましい。
『しょうがないな・・・少しぐらいは一緒に考えてやる』
それでも俺はこんな優位を一つ一つ確認してしまうような惨めな人間なのだ。
「友情」をテーマに書いてみました。独占欲って誰にもあるものだと思うのですが友情に独占欲は多かれ少なかれつきものだと思います。長編が全然進んでない・・・