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幼馴染の村娘(魔王)  作者: 黄田 望
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2話ー③ 朝の日常


 アーサーが暮らす宿の主である奥さんの準備を手伝い水とパンが入った籠をテーブルへ次々に並べていく。

 この宿には若い冒険者から見習い騎士の人達が男女関係なく暮らしており、奥さんはここの人達の朝食から夕飯まですべてを作っている。


 「カレンちゃ~ん! そろそろ皆が下りてくるから盛り付けの方をお願いできるかしら~?」

 「はーい! わかりました!」


 カレンは奥さんに指示された通り先ほど作り終えたスープと焼き魚と野菜を次々に食器に並べていく。 すると奥さんの言う通り次々にこの宿で暮らす冒険者や騎士見習いがまだ寝ぼけた頭をフラフラとしながら降りてきた。


 「おはようございまーす!」


 カレンは降りてくる冒険者や見習い騎士達に笑顔で挨拶をしていく。 すでに見慣れた光景でもあるので朝食を取りに来る人達は全員カレンに寝ぼけならも挨拶を返していく。

 中には今朝の騒動をバッチリと聞いていた男性や落ち込んだ様子で部屋を掃除していたアーサーとトーマスの様子を面白可笑しくカレンに話す女性達も多数いた。


 宿の人達が朝食を食べに来てから1時間後。 ほとんどの人達はすでに部屋に戻り迷宮へ行くものや今日のクエストを何にしようかパーティー内で相談する者達、または騎士の仕事が休みでのんびりしている人達に分かれていった。

 そうして食堂が落ち着いてきた所に2人分の慌ただしい足音が近づいてくるのが聞こえてくる。


 「「間に合ったぁあああああああ!!」」


 食堂の入り口からスライディングするように入ってきたのは部屋の掃除を指示されていたアーサーとトーマスの2人だ。


 「お疲れ様アーサー! ごめんなさい・・本当は私が掃除した方がよかったのに・・。」

 「へぇ? いやいや気にしないでよ。 それよりも奥さんの手伝いの方が重要だって。 それで今日の朝食は何かな?」

 「えっと・・人参と玉ねぎを炒めたコンソメスープと焼き魚に野菜の煮つけです!」

 「おぉ! すげぇ美味しそう!」


 2人の空間に何かフワフワとした空間を作り上げている中、労いの1つもなかったトーマスは涙を流しながら奥さんから朝食をもらっていた。


 無事2人が朝食を食べ終えてから、カレンは一通りの食器を洗い終えて宿のキッチンを借りていた。

 

 作っている料理は簡単なおにぎり。 具材は朝食で残った焼き魚と人参と玉ねぎを細かく切り刻んで胡椒で味付けした野菜。 それらを一定の大きさに握ったおにぎりに詰め込み持ち運びが簡単に袋へ入れていく。


 「カレンー! 俺そろそろ迷宮行ってくるわー!」


 冒険者用の軽装に着替え腰に剣を装備したアーサーがキッチンにいるカレンに声をかけてくる。


 「あっ! 待って待って! アーサー! これ!」

 「おぉ! いつも悪いなカレン! ありがたく頂いていくよ! いつも昼の楽しみにしてるからさ!」

 「へぇ?! そ、そう? えへへへ・・・!」


 カレンは嬉しそうに頬を赤く染めながらアーサーには見えないように顔を手で隠す。


 「アーサー! そろそろ行かないと待ち合わせに遅れるぞー!」

 「あぁ! 今行く! それじゃカレン! 行ってきます!」

 「うん! ・・あっ待って! トーマス君にもこれ! おにぎり!」


 トーマスは名前を呼ばれた瞬間、雷が降ってきたようなリアクションで勢いよく振り返る。


 「え・・これ・・俺っちの為に・・?」

 「えぇ! アーサーの昼食のついでに作ったの! 今朝のお礼の代わり受け取ってもらえる?」

 「もぉぉちろんぉぉんんんん! やったぁぁぁあああ!! 女の子から! しかもカレンちゃん手製のおにぎりを食べられる日が来るなんてぇえええええ! これだけで1年は生きていけるぅぅぉおおおお!!」


 まさに神様から贈り物をもらうかのように涙を流して崇めながらカレンからおにぎりが入った袋を受け取ろうとした時、何故かカレンの手からおにぎりが離れる事がない。

 不思議に思ったトーマスはゆっくりと顔を上げると鋭い視線で見下ろすカレンと目が合う。


 「アーサーの身に危険が及ばないように、ちゃあんと見張っておいてくださいね?」

 「イ、イエスマム・・。」


 カレンはアーサーには聞こえない程度の小さい声でトーマスの囁き、先ほどまでの幸せの気持ちだったトーマスの心は一蹴して、おにぎりを受け取る代わりに悪魔の契約をさせられた気分だった。


 アーサーとトーマスを見送った後、カレンは宿の人達の洗濯物を洗う。 

 宿の洗濯場では女子はともかく男性陣が洗濯を行うと悲惨な状態になる事をこの10年で痛いほど思い知ったカレンは自ら宿に暮らす男性陣の洗濯物を洗う事を引き継いだ。

 今日は仕事が休みの見習い騎士の女性や冒険者の女性陣の人達も手伝ってもらいながら汚れいる洗濯物を次々に洗い干していく。

 この仕事だけで午前中のほとんどを使ってしまうほど男性陣はいつも洗濯物を放置する事に手伝ってくれている女性達とトークを交わす。


 「ふぅー! ・・あら? カレンちゃん? その籠に入ってる服は洗わないの?」

 

 手伝ってくれていた見習い騎士の女性がまだ洗っていない洗濯物が入った籠に気が付く。


 「へぁ?! あの! これはですね! あとで洗おうとしていたと言いますかまた今度でいいかなと思ったと言いますか?! とにかく後でゆっくりと洗おうと思ったと言いますか??!」

 「?? ?? そ、そう? じゃあ私達これから別の用事があるから後はお願いしても大丈夫?」


 カレンは顔を勢いよく何度も縦に振る。

 

 手伝ってくれていた女性陣達にお礼を言いながら別れ、カレンは1つだけ手を付けなかった籠の中に入っている洗濯物を取り出す。

 顔を左右に振り周りに誰もいない事を確認すると、カレンは手に持っている洗濯物をゆっくりと顔に近づけて、しばらく服を顔を当て続ける。


 「・・・ふふ。 アーサーの匂いだ!」


 お分かりだろうが最後の籠に残っていた服はアーサーの洗濯物が入っている籠だった。

 カレンは毎日こうしてアーサーの服だけを最後にして誰もいない所でアーサーの服の匂いを嗅ぐことが日常としている。

 

 アーサーの服を抱きしめるように持ちながら匂いを満喫していると――――。



 カシャ!



 何処からかカメラのシャッター音が聞こえた。

 カレンはアーサーの服を抱きしめたまま顔だけを服から離して周囲を見渡す。

 しかし周りに人の気配は全くしなかった。 ・・となると考えられる事は1つ。


 「~~~~~~~ッ!!? 出てきなさい!! マーリン!!」

 『ホゲャァアアアアアアアアアアア!!???』


 地面を力一杯に踏みつけて周囲一帯に黒い稲妻を流し込む。 すると草むらの中から一匹のネズミが飛び跳ねた。


 『ぉぉぉ~~・・・さ、流石は姫様・・。 気配は完全に消していたと思っていたのですが地面に電気を放出する事によって敵をあぶりだすとは。 やはり貴女様こそ魔王になる素質を――!』

 「そんな事はどうでもいいわよ。」


 電気で痺れている状態のネズミの体を乗っ取っているマーリンに近づき鋭い視線で見下ろす。


 「今、ここで、何を見たのか。 そして何をしていたのか包み隠さず白状なさい。」

 『ご、誤解でございます姫様! 私はただここを通りかかっただけでございまして!!』

 「ふ~~~ん? それじゃあカメラを出しなさい。 どうせ空間魔法で収納してるんでしょ。」

 『へ? い、いやぁ~それはちょっ・・・・と。』


 汗をタラタラと流し目を逸らすマーリンにカレンはさらに睨め付ける。


 「・・・そう。 どうしても渡さないわけね。 それなら!」

 『!? ひ、姫様!! 一体何を!!』

 「無理矢理アンタの空間魔法をこじ開けるわ!」

 『ちょっ!! お待ちください姫様!! 待って! お願い!!』

 「問答・・無用!!」

 

 カレンは腕を大きく横に振るとマーリンの頭上で空間が切裂かれ勢いよく色々な物が落ちてきた。

 その中で目的のカメラを手にしたカレンは中の画像を確認する。 そしてその画像フォルダーにはしっかりと先ほどまでアーサーの服を嗅いでいたカレンの姿がバッチリと映されていた。

 

 しかし、画像はそれ1枚だけではなかった。

 少し画像のページを開くと、そこには今朝がたアーサーにキスをしようとしていたカレンの姿や悶絶している姿を激写している画像が残されていた。


 「~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!! マーリン!!」


 その時、周囲からカレンの怒号と共にネズミの悲鳴が響き渡り、辺り一帯のみ地面にヒビが入り割れたらしい。

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