1話ー② この村娘、実は普通の娘じゃありません。
カレンが暮らす家はこの村で有名な食堂店で住み込みで暮らしている。。
冒険者だけじゃなく都会から派遣される騎士の間でも有名でお客の出入りは毎日途絶える事はないほどだ。
「オーナー! 只今戻りました!」
カレンが呼ぶオーナーはキッチンにいたが、返事を返す事はなくただ軽く手を振っただけだ。 しかしカレンはそれをなんとも思わずアーサーをそのまま自分が住まわせてもらっている2階へと案内する。
「今日もいつも通りだな。 オーナーは。」
「? 今日はかなり機嫌がいい日よ?」
わからん。
10年もこの店を出入りしているが、未だにアーサーはあの無口で無表情のオーナーの表情は読み取れないでいるが、昔から何故かカレンはあのオーナーの表情が読み取れていた。
「それよりも! ほらほら! 見てください! 今回私が作った自信作!! 特製シチューを!!」
鍋に入っているシチューの中を見ると、そこにはいい匂いを漂わせる美味しそうなシチューが作られている。
「本当だ! いい匂い!」
「そうでしょ?! じゃあすぐに温めなおすからそこに座っててね!」
カレンはアーサーに褒められた事が嬉しくクネクネと体を動かしながら部屋に装備されているキッチンに火をつける。
(う~ん。 このままだと少し時間がかかっちゃうわね・・・そうだ!)
アーサーは言われた通り用意されているテーブルの椅子に座り身に着けていた装備を外したその時だ。
ボンッ!!
すぐ後ろでシチューを温めていたカレンの方から小さな爆発音が響き渡る。 咄嗟に椅子から立ち上がりキッチンの方へ見ると、そこには先ほど美味しそうないい匂いを漂わせていた鍋から焦げた匂いが漂う真っ黒なシチューへと変貌していた。
「か、カレン?! 大丈夫か??!」
その焦げたシチューから微動だにしないカレンが心配になり近づくと、カレンは今にも泣きそうな顔をしていた。
「カレン? カレンさん?!」
「う・・うぅ~~~~~!!」
鍋が何故か爆発したせいか、その反動でカレンの顔にも炭のような物で真っ黒になっており、俺は持っていたハンカチでそれを拭う。
「台所の火じゃ温めるのに時間がかかるから、魔法で火を温めなおそうとしたら爆発しちゃったぁぁぁ。」
弱弱しい声でそう言ったカレンは、アーサーが拭いきって綺麗になった顔から涙を流した。
「だ、大丈夫だって! シチューはまた作ればいいし! それよりもお前に怪我がなくてよかったよ! だから泣くなって? な?」
「うぅ~~! ア~サ~~~~!」
優しい言葉をかけてくれるアーサーにそのまま抱き着こうとした時、ガシッと両肩を掴まれた。 思わず別に意味でドキッとしたカレンは少し頬を赤く染めてアーサーの顔を見る。
しかしそこには笑顔ではあるが目が笑っていないアーサーの顔があった。
「それよりもカレン。 君は今、何の魔法を使ったのかな?」
「へぁ?!」
咄嗟に逃げようとするカレンの体をアーサーは逃がさないと言わんばかりに両肩を強く掴む。 その為逃げ切れないと判断したカレンは目を泳がせてアーサーと目を合わせないようにした。
「普通の火魔法なら物が爆発する事はないよね? 炎魔法でも爆発はまずない。 つまり?」
目が笑っていない笑顔の表情でグイグイと問い詰めてくる。
「つまり・・その、私は今・・黒魔術を発動させました。」
カレンは諦めたように目線を泳がせながら白状した。
黒魔導士とはその昔、まだ魔族と呼ばれる種族と人間が争っていた時代。
魔族を統一して世界を支配しようとした王、魔王が作り上げた魔法だという。
その魔法は普通の種族が扱う魔法よりも強く、そして恐ろしいものだ。
生物の命を簡単に奪う事ができ、木は枯れ果て土は腐り水が蒸発する。
そんな恐ろしい黒魔術とよばれるものは魔王を含め数人しか扱う事はできないという。
そして今の時代、魔王と呼ばれる者は存在するが黒魔術を扱えるものは限られている。
「はぁ・・まぁ、人前で使ったわけじゃないから良いけど、絶対にその魔法は無暗に使ったら駄目だからな!」
「だ、だって~。」
「だってもヘタレもない! もし君がこの魔法を使えば君が普通の人間じゃなく、魔王であるとバレてしまう!」
そう。
彼女はその昔、世界を我が物にしようと恐怖と絶望に染めようとした歴史史上最悪の魔法を扱う種族、魔王の子孫であり継承者の1人なのだ。