1話ー① この村娘、実は普通の娘じゃありません。
「アーサー! そっち行ったぞ!!」
迷宮内でデーモンウルフの群れの討伐クエストを一緒にこなしていたパーティーメンバーが最後の一匹を俺の方へと誘導する。
「了解!」
俺は大きな口を開けて牙を向けて突進してくるデーモンウルフの動きに合わせて腰に装備していた剣を抜き身体を真っ二つに斬った。
最後に俺が斬ったデーモンウルフは黒い靄へと変化していき、赤く輝く石の結晶へと変化した。
「よぉーし! 流石はアーサー! これで今日のクエストも無事に終了だぜ!」
モンスターを倒すと出てくるドロップアイテムと呼ばれる結晶は村に戻りクエストを管理しているギルドと呼ばれる施設でお金と換金できる。
俺達も含む冒険者はこうやってモンスターが出現する不思議な門、迷宮と呼ばれる場所でモンスター狩り、金銭を稼いでいるのだ。
デーモンウルフの群れを狩るクエストを終えた俺達は迷宮から出てすぐに村へと戻る。
迷宮門から村までかなり近くの場所にある為、門の前には国が設置した門番所がある。 ここでは何のクエストをして何時頃戻ってくるのかなどギルドで発注したクエスト表を提示しないと迷宮に入れないように管理されている。
「よォお前達か。 今回も随分と早く終わったな!」
門番所を出てすぐにガシャガシャと重そうな白銀の鎧を纏った中年の男性が声をかけてきた。 彼はこの門番所の統括責任者を纏められている騎士の1人だ。
「はい! 目的のデーモンウルフの群れが迷宮門からかなり近くまで来てたので早く終わってしまいました。」
「そうかそうか。 そりゃよかった!」
「? よかった? 何か用事でもありましたか?」
「いんや? 俺からはない。」
騎士の人が苦笑いで親指で指をさす。
俺は疑問に思いながら指をさされた方へ視線を向ける。
「カレン!」
俺が思わず名前を呼ぶと、カレンと呼ばれた少女は俺の姿を認識したと同時にパッと笑顔を見せて駆け足で走ってきた。
「お帰りなさい! アーサー!」
風になびく綺麗な赤髪の長髪を揺らしながら誰が綺麗な顔立ちで満面の笑みを浮かべる彼女に、迷宮から戻ってきた冒険者に門番所の騎士達は全員彼女に見惚れる。
そんな彼女の名前はカレン。
俺の幼い頃からの幼馴染でこの近くにある村の娘だ。
「ど、どうしたんだよカレン。 こんな場所まで。 何かあったのか?」
「え?! あっ・・えっと・・その・・・」
俺の質問に対して何か言いにくい事なのかカレンは顔を下に向ける。
「そ、その・・今日の夕飯で作っていたシチューが思っていた以上に美味しくできたものだから、良かったらアーサーにも食べてほしいなぁーって思って、呼びに来たと言いますか。」
「へ~そんなすぐに食べてほしいほど上手くできたのか? 行く行く! すぐに食べに行く!」
「!! ホント!!」
顔を地面に向けていたカレンは急に顔を上げた。
「もちろん行くよ! お前の手料理すげぇ上手いから!」
「そっ、そっか~! 良かった! それじゃあ早速「お前達も行く?」―――へぁ?」
ピシッと空気が固まる音が聞こえる。
しかしアーサーはそんな事など気にもしないで純粋な瞳で後ろにいるパーティーメンバーや門番所の騎士に声をかける。
「カレンの手料理すげぇ上手いんだよ! お前達も来るだろ?」
アーサーの誘いに戸惑う男性陣達は全員カレンに視線を向ける。 そこには鋭い視線で男性陣達を睨みつけるカレンの目と合う。
「お、俺達はこのままギルドに向かって今日の報酬と換金してくるよ!」
「え? でも換金は明日でも・・・・。」
「俺達は今日! この日に! 報酬が欲しいんだよ!!」
「そ、そっか・・。 それじゃあ騎士のおっちゃんは・・。」
「悪いなアーサー。 俺も他の奴らもまだしばらくはこの場から離れられない。」
「そっか。 じゃあ仕方ないな。 俺だけになっちまうけど大丈夫かカレン?」
「もちろん!!」
アーサーがカレンの方へと振り向き替えると、先ほどまでの鋭い視線は消え優しい瞳に戻っていた。
「それじゃ今日は先に帰るわ。 お疲れー!」
そう言ってアーサーはカレンに手を引っ張られながら村へと戻っていった。
「・・・なぁ、騎士のおっさん。」
「なんだ?」
「あれだけカレンちゃんがアピールしてるのにアーサーの奴どんだけ鈍感なんですかね。」
「うぅ・む。 あいつは少し年の割には純粋すぎる所があるからな。」
2人は一瞬だけ目を合わすと大きな溜息を吐き、今は姿が見えないアーサーとカレンが戻っていった村の方角へ遠い目をした眺めた。