第1節 すべてのはじまり
キャラクター紹介:
寄木 聡 (よりき さとし)
:高校一年男子 中学時代は吹奏楽部所属、生徒会副会長を経験。
美津 侑宇
:高校一年女子 中学時代は新体操部所属で部長として部員を牽引。
美津 優羽
:高校一年女子 中学時代は帰宅部だが、運動神経抜群で様々な部活のピンチヒッターに抜擢されていた。侑宇の双子の妹。
紫宮 なる(しのみや なる)
:高校一年女子 中学時代は新体操部所属、生徒会長を経験。人望が厚い。
逆井 青空
:高校一年女子 中学時代は吹奏楽部所属。プライドが高く、頭脳明晰
「寄木、どうしたの?こんな所まで連れてきて・・・」
目の前の彼女はそう言って振り向く。
かわいい、そう思った。
彼女の前ではそれ以上の感想なんていらなかった。
「うん、ここまで悪いな・・・あのさ、」
そんな彼女に俺は、
「好きです、付き合って下さい」
―――告白した。
中学の頃から好きだった。
同じ高校には入れて、しかも同じクラスになった。
彼女とは中学で出会ったが当初から気が合い、よく話した。
―――ぶっちゃけ俺のこと好きなんじゃね?そう思ってはいたものの、機会を幾度も逃し、今に至っていた。
今日ここに連れてこれたのも、偶然一人でいるところを見かけたからで、勢いだけで来たようなものだ。
さぁ告白はした。彼女の回答は―――
「・・・ごめんなさい」
・・・
「・・・え?・・・なんで??」
それしか、言えなかった。
「それは、、ごめん・・・」
それだけつぶやき、彼女は走り去っていった。
彼女を追うように吹き付けた風が俺に無数の傷跡をつけた。
*
「はぁ・・・」
さっきから何度目か分からない溜息を口にする。
寒いな、春先なのにそう感じるのはおそらく先ほどの出来事のせい。
「ちきしょー・・・」
自然と怨嗟のような、しかし空虚さを感じるつぶやきがこぼれる。
とにかく帰ろう、そう思った刹那―――
「あれ、寄木!」
昇降口の周りに響く快活な声。
「・・・紫宮か」
だがその声を聞いたとしても、俺の気持ちは晴れない。
「あれ?なんか昏いよ?どーしたの??」
紫宮なる、中学時代は生徒会長を務め、その明るい人柄から人望も厚かった。
その当時俺は副会長として共に活動していた。会長と副会長、よく話のネタにされる組み合わせだが、俺たちにそういう話は特になし。従来の関係のまま引退、そして今に至っている。
「いやべつに・・・」
本当のことを言うわけにもいかないので、曖昧なことを言うしかない。
「そ。まいいや」
ただ彼女はそれを気にはせず、スルーしてくれた。このドライさは少し意外だったが、スルーしてくれるのに越したことはない。
「ねぇ寄木、これから一人でしょ?駅まで帰らない?」
唐突にそう言い放ってきた。
ただ、断る理由もないし、一人だとまたうじうじ考え込んでしまいそうだったので、
「いいよ」
と答えていた。
外靴に履き替え、いざ歩き出すと紫宮はすぐに話題を振ってきた。
よく考えると、高校に入ってこんなに紫宮と話すことはなかったかもしれない。
そのせいもあってか、話は弾んだ。
「あつくなってきたねぇ~」
彼女はそう言いながら、跳ねるように歩いて行く。跳ねたら余計暑いだろうに。
「あ、夏休みになったらさ、遊びに行こうよ!」
唐突に振り返って彼女は言う。
「遊びに?例えばどこよ?」
「う~ん・・・寄木の行きたいとこかな~?」
「なんも考えてなかったのかよ・・・」
あははっ!明るく彼女は笑う。
「でも遊びたいのはホントだよ」
「じゃあどこ行こうか・・・」
と、校門の近くまで来たとき、
「あっ!なるちゃん!」
「あっ、そら~!」
後ろから声がして振り返ると、そこには長身の女子が一人。
「っ・・・!」
「あっ・・・」
逆井青空。中学時代は同じ吹奏楽部に所属していた。彼女は―――
「どうしたの?・・・ああ・・・」
紫宮も俺たちの様子を不思議がっていたが、納得した様子。
―――彼女は、俺の元カノだった。
*
中学二年の終わりの頃。
「寄木、あんた嫌い。別れよ。」
ある放課後、逆井にこう告げられた。
数日前までいつも通り話していたし、時々遊びにも行っていた。
「え、どうした。急に」
「それはあんたが考えて。じゃあね。」
彼女はこう言い放ち、それ以来、彼女と話すことはなかった。
*
そんな彼女との突然の再会に、俺は立ち尽くしていると、
「ね、ねぇ、そらもいっしょに駅のほうまで行かない?方面同じでしょ?」
紫宮がフォローするように声をかけてくれた。ただ、
「え、あの、それは・・・」
「やだ。」
「「え?」」
俺が思わず抵抗の声を上げようとしたとき、青・・・逆井がはっきりと拒絶した。
「なるちゃんはそこの男と帰ってるんでしょ?だったら二人で帰ればいい。あたしは一人で帰る」
彼女は淡々とそう述べ、一人立ち去っていく。
「ちょ、ちょっと!」
紫宮は思わず逆井を追いかける。でも、
「ごめん寄木!また今度ね!」
こうやって律儀にあいさつしてくれるあたり、やっぱり彼女らしい。
「はぁ・・・」
結局一人になってしまった。
しかも、青・・・――あぁ、まただ――・・・逆井と会ってしまったせいで余計気分が沈んでしまった。
重い足を引きずるように校門を出る。と、人の気配を感じ、左を見た。そこには―――
「?!」
「っ・・・」
なんと、先ほど俺を振った天使――美津侑宇がいた。
「・・・」
「・・・」
「ど、どうした・・・?」
重い空気の中、俺は何とか言葉を発した。が、
「べ、別にっ・・・ふんっ!」
なぜか少し拗ねた様子でそっぽを向かれてしまった。
「・・・私に振られたからってすぐ他の女の子と話してるなんて・・・サイテー・・・」
「え?何?何か言った?」
「別に!あんたみたいなたらしにはカンケーないっ!!じゃあねっ!!!」
と、先ほどの逆井を彷彿とさせるような様子で去っていった。
「なんなんだよ、ホントに・・・」
意味が分からない。青・・・逆井とは別れてしまったからともかく、美津はなぜ、一方的に「口」撃してくるのか・・・。俺が一人悶々としていると、
「わっ!」
「ギャッ!」
突然背中から衝撃が加わり、思わず倒れそうになる。何とか体勢を保ち、後ろを見るとそこには、
「びっくりしたっしょ~~??」
美津が――いや美津によく似た少女がいた。
「なんだ、優羽か・・・」
「そだよ~みんなのあいどる、優羽ちゃんでぇ~っす!」
美津優羽。天使――美津侑宇の双子の妹だ。姉、侑宇が冷静沈着、おとなしめなのに対し、妹、優羽はこの通り、THE・元気っ子であり、完全に正反対な双子となっている。ただそのアンバランスさが案外うまくいく理由なのだろう。二人はいつも一緒にいるし、仲もとてもよい。
「ホント、相変わらずだな・・・で、なんでここにいるんだ?侑宇もだけど」
「さとくん、そういうこときいちゃう~?女の子の秘密、聞いちゃうの~?」
まぁただ、この通り優羽は明るいを通り越してウザくなることがある。それがなければ・・・と思い、つい本人に言ってしまったこともあるのだが、本人曰く、「ギャップ萌えってあるよねぇ~?そういうことだよ~」とのこと。何がそう言うことだかちっとも分からないし、ギャップと言うほどの変化もないと思ったが、、、これ以上はヤブ蛇な気がして突っ込まなかった。
「なんだよそれ」
「みすてりぃだよ!女の子はみんな秘密のひとつやふたつ、もってるんだよ!」
「そ、そうか・・・」
以後、こいつと話すときはあまり深く考えないようにしている。するとまぁ、
「きになんないの~?さとく~ん?」
と、しつこく絡んでくるのだ。
「うっせーよ・・・それより帰んねぇのか?」
「あ~はなしそらしたぁ~まぁ帰るけどさぁ~」
「じゃあとりあえず歩かね?お前も駅の方だろ?」
「あれぇ?もしかしてさとくん、この私と帰りたいのかなぁ~~??」
「はぁ・・・?いやどっちでもいいんだけど・・・」
「へぇ~・・・私と帰りたくないんだ?私と帰ってくれれば・・・ちょっとくらいおっぱいさわってもいいよ・・・?」
「はぁ、何言ってんだおまえ・・・別に触りたくなんて」
「おねーちゃんに振られたんでしょー?さびしーんじゃな~い?」
「っ・・・!」
なんでお前が知ってるんだ、という質問は飲み込んだ。まぁ校門の前で侑宇と一緒に居たのだ。侑宇が話をしていてもおかしくはないだろう。
「ねぇ~どーなの~?」
正直、胸にぽっかり穴が空いた気分だった。崩れてしまうほど大きくはないが、確かに風が通り抜けていく穴。その穴は確実に俺の気分を下げていた。
「・・・そうだよ・・・確かに今寂しいさ・・・」
「あれぇ、やけに素直だなぁ・・・それだけつらいのかぁ・・・よーしよし、おねーちゃんが癒してあげますよぉ~」
「ちょっ、優羽・・・」
瞬間、彼女は俺の腕にひっついてきた。制服越しに確かに感じる優葉の温かさ、柔らかさ。何より、甘く優しい匂いが――当然、侑宇と同じ匂いが――ふわっと、俺を包んだ。
恥ずかしさもあったが、それ以上の優羽の包容力に、俺は抗うことを諦め、包まれていった。
「・・・」
「・・・」
くっついたそのままの状態で何分歩いただろうか。学校の周りに多かった雑木林や田畑は気付けば一軒家、アパートやマンションとなり、学校周辺では貴重なコンビニもゴロゴロとあるようになった。
歩いている間、ひと言も言葉は交わさなかったが、自然と不快ではなかった。むしろポカポカと暖かく、さっきまであった傷も少しずつ、ふさがっていくような気がした。
そしていよいよ駅前のバス通りへ出た。ここから人通りもだいぶ増えてくる所だ。
「・・・」
「・・・なぁ、優羽、そろそろ離れないか・・・?」
流石に気になることもあるので、提案した。と、
「ん~、私はもうちょぉっとこうしてたいけどなぁ~・・・まぁいっか!はい!」
意外にも素直に離れてくれた。もうちょっと抵抗されるかと思っていたが・・・
「どぉう~?ちょっとは楽になったでしょ~?」
「・・・うん、ありがとう。優羽のおかげだ」
「あ、あれぇ~、、ほんとに素直だぁ~、、、ちょ、ちょーしくるうなぁ~・・・」
「いやでも、優羽がいてくれなかったら、今頃もっと落ち込んでたよ。本当にありがとな・・・」
「う、うん、、、そ、それならよかった、かなぁ~??・・・」
いつもグイグイくる優羽の様子とは違い、どこか照れているような姿は何だか新鮮だった。ので、思わず声をかけてしまった。
「どうした?なんかいつもと違くないか?」
「えっ、え~?・・・いつもならこんなツッコンでこないのに・・・」
「ん?なんだって?」
「な、なんでもない!、、よ・・・」
何だか変だ。いつものハイテンションはどこへ行ってしまったのだろうか?
「あ、あのさ!」
「ん?」
なんだか決心したような表情で優羽は、
「私、貴方のことが好きです!」
告白を、してきた。
第1節、いかがだったでしょうか?初著作と言うことで至らない点ばかりだとは思いますが温かい心で読んでいただけると幸いです。
前半と後半でだいぶ雰囲気が変わってしまっていて、個人的に気になっているのでもしかしたらこの話自体作り直すかもしれません。気になった点、よかった点、このキャラをもっと出して欲しい、こんなキャラが欲しい、など、ご意見・ご要望ありましたら、よろしくお願いします。