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ギアフォートレス  作者: 佐乃上ヒュウガ
少年と少女
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第71話 枷より解き放たれた者

 ジュノーを用いることによるロスのないエネルギー運用。

 自機に対する攻撃の運動エネルギーを吸収し、自らのエネルギーへと変換するエネルギーシールド。

 エンジンの出力が大きければ、その分ジュノーはその効力を発揮する。


 とはいえジュノーは、ギアに搭載しなければ安定しない。

 これはジュノーエンジンによる発電実験の失敗、シンフォニアの臨界事故によって得られた教訓である。


 この教訓を元に考案された抜け道が、第四世代ギアと連結する機能を有するフォートレス。

 設計者のクラウディアはこの機体を、フライトユニット対応型と呼んでいる。

 フォートレスの動力をジュノーが統括することにより、機体の出力は大幅に上昇する。


 この出力と質量、そして無制限の飛行が可能であるという利を活かせば、並の第四世代ギアなど敵ではない。

 しかし今回は、相対する敵も規格外。


「(有効打を与えるには、三枚のエネルギーシールドを突破する必要がある)」


 真っ直ぐ距離を詰めてくるエンペラーに対し、フォートレスと融合を果たしたフランベルジュを操るヒルダもまた真向から応じる。

 先ずは様子見と発射した二門のレールガンによる攻撃は、エネルギーシールドによって無効化される。

 とはいえその程度は想定通り。ナイトメアを相手にした際の経験が生きる。


「撃て!」


 ミサイルを一斉発射。更に二発、三発とレールガンを連射。

 正面からの撃ち合いは望む所。

 エンペラーは足を止めることなく、二門のレーザー機関砲によってミサイルを迎撃しつつライフルとランチャーによる反撃を行ってくる。


「(こちらの攻撃は、少なくとも相手に対し脅威は与えている)」


 この一斉攻撃を棒立ちで受け止められ、損傷がないようならお手上げだったが、流石にそのようなことはない様子。

 ならば手はある。とはいえ……。


「上昇!」


 エンペラーとの距離が完全に埋まる前に、ヒルダは指示を下す。フランベルジュからの攻撃と、指揮はヒルダが担当。

 回避行動を始めとした機体制御はフォートレスの乗員たちが務めている。


 目の前の空飛ぶ巨人と対峙するにあたってまず第一に警戒するのは二本のグレートアックス。

 あの巨体から繰り出される一撃をまともに受ければ、今のフランベルジュとてただでは済まない。

 正面からの撃ち合いには応じるが、白兵戦は避ける。


 機首を上げ、フランベルジュが上昇。

 そしてエンペラーに向ける機体の底部には銃座が設けられており、詰めるだけの武装を搭載したゼクトのファランクスが攻撃を行う。


 両肩にヘビィガトリングガン、両手にはキャノン砲にロケット砲。

 それらが一斉に火を噴き、フランベルジュに追い縋ろうとしたエンペラーに直撃。


『良し、入った!』

『ダメ、追ってくるっ!』

「っ、ブースト!」


 セレニアの警告を受け、咄嗟にヒルダが叫ぶ。

 意図を組んだランスロットのクルーは追加ブースターを用いて更に上昇の速度を上げる。

 そんな機体の底部を、エンペラーのグレートアックスが掠める。


 ファランクスの攻撃を受けながらも、エンペラーは大型ブースターを用いて加速したのだ。

 危うく最も避けるべき、とヒルダが判断したグレートアックスの直撃を喰らうところだった。


 白兵武器による一撃こそ紙一重で避けたものの、エンペラーは残った武装による一斉攻撃を仕掛けてくる。

 エネルギーシールドが展開できるようになったとはいえその全てを無効化することは出来ず、機低に損傷。

 鮮やかな紅の装甲が一部融解し、醜く歪む。


「損傷報告」

『あの程度なら問題ない』

「敵に与えた被害は」

『無傷でないのは間違いないが……まぁ、こっちよりはデカいダメージ受けてんじゃないか』


 推測交じりのガーランドからの報告に、ヒルダは小さくを舌を打つ。

 今のが対エンペラー向けに想定した戦法だったのだが、初撃から対応されるのは想定外だ。

 こちらの戦法を把握した以上、次は先ほどを超える対応をしてくる恐れがある。


「セレニア、警告の速度を上げることは」

『これ以上は無理。……ごめんなさい』

『遠距離射撃に専念しますか?』

「敵のシールドを貫くには接近が必須だ」


 ナーシャからの提案を否定する。

 本来であればミサイルと主武装であるレールガンを用いた遠距離戦が本機の想定だが、三枚のエネルギーシールドを貫くには先ほどのように攻撃を集中させる必要がある。

 遠距離からの撃ち合いでは埒が明かないどころか、シールド枚数の差でこちらが不利とさえいえる。


 航行速度はランスロットと連結したフランベルジュに分がある。

 しかし先ほどの様子から見るに、瞬間的な加速はエンペラーに軍配が上がる。


 クラウディア曰く、第四世代ギアと連結したフォートレスはまさしく空中要塞であり、空に敵なしとのことだったが、目の前の化け物は明らかにそれを上回っている。

 距離を取って逃げ回ることは可能だろうが、それをすればエンペラーは倭国への進攻を再開するだろう。


「短期決戦で臨む。榴弾弾頭を装填。機首をエンペラーに定め降下。ただし頭上の有利は譲るな」

『了解』


 反転。エンペラーに向かって降下しつつ距離を詰める。

 榴弾弾頭のミサイルを発射。先ほどの迎撃距離を参考とし、その前に遠隔で炸裂。鋼鉄球を撒き散らす。

 敵の強固な装甲に対しては然程有効ではないだろうが、エネルギーシールドを削るには十分な攻撃。


『シールド展開、確認できず』

「(読まれた、だが……このまま押し切るっ)」


 構わず二門のレールガンを発射。

 鋼鉄球とレールガンの波状攻撃でエネルギーシールドのオーバーヒートを狙う。

 直撃。後はそのまま先ほどより早いタイミングで上昇すれば……。


『上昇してっ!』


 セレニアの警告に反射的に反応し、ランスロットのクルーが機首を上昇。

 緊急と判断し追加ブースターも使用。

 しかしそれを上回る速度で、エンペラーの四本の拳が爆炎を上げて迫りくる。

 その攻撃に名を付けるなら、ブーストパンチとでも言ったところか。


『ふざけんなっ!』


 猛烈な勢いで突っ込んでくる拳を撃ち落とすべく、ゼストがヘビィガトリングガンを発射。

 しかし撒き散らされた弾幕は拳に命中する前にその勢いをなくし、相反するように先頭の拳がその勢いを増す。


 その現象はヒルダも良く知っている。

 エネルギーシールドによる運動エネルギーの吸収。そして吸収したエネルギーを用いた加速。

 つまり……エンペラーが撃ち出した"拳"の一つには、ジュノーエンジンが搭載されているということ。


「衝撃に備えろ!」


 拳は深々と機底に突き刺さり、役目を終えた拳は逆噴射。

 器用に機底から抜け出し進路を変えて、再びエンペラーの元へと戻っていく。


『直撃、くそっ、装甲を抜かれた!』

『何だあの武器は!』


 混乱するクルーたちの叫びに、解を与えてくれる者はいない。


『機関部を抜かれなかったのは幸いだが、同じのを何発も受けたら流石に不味いぞ』

「受けたのがギアでなかっただけマシだ。それより、こちらの攻撃はどうだ」

『損傷が見られる。シールドなしでレールガンが何発か直撃してるからな。今のところは痛み分けだ。どうする?』

「作戦に変更はない。ただし、総員退艦の準備はしておくように」


 ガーランドからの問いに即答する。

 痛み分け、相打ちとなれば最悪フォートレスが沈む。その損失は計り知れない。


 しかしここで退くのなら、そもそもここまでやって来はしなかった。

 セレニアが何を考えているのかは分からない。彼女はそれを語ろうとしない。


 しかしそれでも、彼女が何かを知っていて、それをどうにかするために行動しているということだけはヒルダにも理解できる。

 セレニアが、そしてゼクトがこの戦いを続けるというのなら、最後まで付き合ってやろうではないか。


「(甘いか? いや、しかし……)」


 彼女の主、クラウディア・ハーティアスは言った。

 帝国が倭国への攻撃を試みるのなら、如何なる手段を持ってしてもこれを防げ、と。

 今になって思えば、クラウディアはこの状況を予期していたようにも思える。


 どうあれ戦うと決めたなら、全てを賭けて挑むまで。

 その迷いのなさこそが、ヒルダの最も突出した才能といえた。







「機体の損傷率は?」

『三十パーセント程度です、プレジデント』

「彼我の戦力差は?」

『互角と推定します』

「ははっ、やるものだ」


 白髪交じりの金色の髭を擦り上げ、ロベルトは満足げに笑う。

 一人のギアパイロットとして全力を振るうのは十年ぶりだった。

 ロベルトは今、この瞬間を最高に楽しんでいた。


 自国民からは絶大な支持を受け、その逆に他国の者からは『大戦』の引き金を引いた征服者として蛇蝎の如く忌み嫌われる、野心に燃える愛国者。

 身体の内から溢れる熱が常にロベルトを突き動かした。

 もっと先へ。より良い未来へ。人の可能性はこんなものではないのだと、証明して見せろ。


 ―――しかしこの十年、彼はその熱を抑え込んできた。

 先へと進み為でなく、絶望の未来を避ける為に己が全てを費やしてきた。


 あの日出会った少女と共に見出した、最も希望のある未来。

 そこに辿り着く為、引かれたレールから反れぬように行動し続けた。

 そのなんと退屈なことか。


 この十年の間、ロベルトは未知の未来ではなく、既知の未来に振り回される奴隷だった。

 しかし、今この時からは違う。


「ああ、楽しいなぁ。全力を出すというのは……未知に挑むというのは、本当に楽しい」


 ここから先は好きにしてよいと、彼女は言った。

 最高の機体を作り出し、この場にやってくる敵と全力で戦う。その先はもう、好きにして良いと。


 この先のことは何も聞かされていない。何かをしろという指示も受けていない。

 既知の未来から解放され、彼は十年ぶりに自由を取り戻したのだ。


「さぁ、存分に見せてくれたまえ、君たちの力をっ!」


 そうして再び、エンペラーは突撃を開始するのだった。

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