第69話 蛮族のやり方
『複数の敵機がミサイルを装填。攻撃目標を予測中』
「目標を本陣と想定。追撃に備える」
司令部からの報告に、ライナーは即座に指示を出す。
同盟軍とて友軍のいる最前線に放ってくるような真似はすまい。
となれば今ライナーのいる本陣が狙われる可能性が最も高い。
しかし同時に疑問も抱く。
戦力が拮抗している現状、本陣へのミサイル攻撃が成功する可能性は極めて低い。
それを承知でなぜ、それを行うのか。
『予測完了。目標は本陣。十分に対処可能であり危険度は低い』
「(餌を撒く狩人とそれを喰らう獣であれば、喰らう獣が先を行く。多少残したとしても仔細ない。しかし狩人とてそれは承知。果たして撒いた餌に意味があるか、喰らわせることに意味があるか)」
ギア同士の集団戦が成立する条件として、敵のミサイルを迎撃可能であることが挙げられる。
遠距離から一方的に放たれるミサイルに対処する術がないのなら、地上戦にもつれ込む余地はなくそれだけで決着がつくためである。
しかし概ね、この世界においてミサイルによる攻撃と迎撃の競争は迎撃側有利とされている。
敵に被害を与えるに足りるだけの爆薬と、それを飛翔させるための燃料を積んだミサイルは相応に大型で、スペースを取るため数に限りがある。
対して迎撃側はミサイルの爆発範囲に入る前にこれを撃ち落とすことが出来れば良いため通常の火器で対応可能であり、またチャフやフレアといった照準を狂わせる対ミサイル兵器も開発されている。
もしも一撃で、広範囲に対し致命的な被害を齎すような威力を持ったミサイルが開発されればまた話は変わってくるだろうが、現状そのような兵器は開発されていない。
そのためミサイルの用途はある程度限られており、戦闘開始直後、乱戦になる前にまとめて使用されることが多い。
そのミサイルをここまで温存し、そして今ここで切ってきたのは何故か。
『ミサイルの発射を確認。迎撃を準備―――迎撃開始!』
航空機と敵地上部隊から放たれたミサイルを、帝国軍側が迎撃してゆく。
同盟軍が放ったミサイルの中には爆薬の代わりに煙幕弾やレーダーを阻害するチャフが含まれており、視界が遮られてゆく。
この時点でライナーは判断を下す。ミサイルは囮。
ならば本命は―――。
「迎撃を中断。Fを本陣に」
支援砲撃を担当していたF中隊を本陣へ戻す。
第四世代ギアの強襲に備える。
しかし―――。
『ミサイルの自壊を確認……内部より敵第三世代ギアが出現!』
「(竜に頼り切るでなく、騎士を混ぜてきた……)」
報告を聞き、裏を掛かれたと理解する。
第四世代ギアによる本陣への強襲は読んでいたが、ミサイルに紛れこませて第三世代ギアまで送り込んでくるとは想定していなかった。
そして当然敵が送り込んでくるのは第三世代ギアだけでなく。
「(竜には竜を。互いに相食むが運命。この未来は覆しがたく避けられぬ定めか)」
第四世代ギア、シュヴァルツシルトとウィズダムが迫る。
後方支援と全体指揮を務めるライナーにとって、この展開は歓迎できるものではなかった。
敵第四世代ギアに対応するため、同盟軍側は複数のプランを用意していた。
敵第四世代ギアと同じポイントに、こちらの第四世代ギアを投入し対抗するのがプランB。
しかし当然敵戦力は第四世代ギアだけではない。
第四世代ギア同士の戦闘に持ち込むため、露払いを務める戦力が必要になる。
そのための予備兵力を、クラベルは予めミサイルの中に潜ませていた。
機体に直接超大型ブースターを取り付けて強引に推進力を与えるサンダーアローと異なり、この手法であればギア本体への負荷はそれほど大きくない。
しかしミサイル内部にギアを搭載という手法のため手間がかかり、事前に準備をしておく必要がある。
また、空中で迎撃されればギア本体もダメージを受ける恐れがある。
そのために前半に発射したミサイルは煙幕、チャフフレアを搭載したものとし、ミサイルによる攻撃を囮と誤認させた。
「クルト、目標は?」
『……恐らくは中央の大型機。周囲の機体は奴の護衛だ』
ミサイルによるギア部隊の投下直後、エアー2から発進したウィズダムとシュヴァルツシルトも戦場に立つ。
ナイトメアとの戦闘時、セレニアが特定できないような長距離からサイコジャミングによる妨害が行われた。
そのような真似が可能なPSI能力者は希少なため、敵から攻撃を受けづらい場所に布陣している可能性が高い。
となれば、可能性が最も高いのは敵の本陣。
仮に狙いが外れたとしても、本陣を強襲すれば少なくとも敵を混乱させることは可能。
そして重要なのは、この強襲部隊は、使い捨ての特攻隊ではないということだ。
「一分で目標を仕留めます。無理なら離脱。GX隊、援護を!」
『了解。GX1、2はACEを援護。GX3は退路を確保!』
敵がこちらの攻撃に対応し、包囲してくるよりも早く目的を果たし、この場を離脱。以降は遊撃隊として他部隊の支援に当たる。
この場に送り込まれたGX中隊は第三世代ギアながら、幾つもの修羅場を潜り抜けた腕利きばかり。
数の不利をモノともせずに、即座に行動を開始する。
『付いて来い!』
大盾とハルバードを装備したシュヴァルツシルトが目標に向かって突っ込む。
ウィズダムがそれに続き、更にその後ろをGX1小隊が続く。
帝国軍もされるままではない。近距離兵器を装備したトルーパーが即座に道を塞ぎにかかる。
足を止めればその瞬間に射撃の的となり、この強襲は失敗に終わる。
「っ……!」
同時に、酷い頭痛に苛まれる。サイコジャミングによる思考妨害。
しかしこれは想定済み。覚悟を決めていれば、戦えないほどの妨害ではない。
「(邪魔っ!)」
シャーリーは両手に装備したグレネードランチャーをトルーパーへ放つ。
通常のライフルや自動小銃では大型機に対し有効ではない。
爆発力と衝撃の大きい重火器で体勢を崩し、シュヴァルツシルトがハルバードで吹き飛ばし先へと突き進む。
ダメージを受けた機体のとどめはGX1小隊のギアが担当し、その後を追う。
突撃する第四世代とGX1小隊を、GX2小隊が砲撃で支援する。
GX3は中隊長が指示した通り、独立部隊として退路の確保に入る。
ミサイル発射前に目標の特定が出来なかったこともあり、目標までは未だ距離がある。
目標に至る前に、大盾を持った三機のトルーパーが立ち塞がる。
攻撃力を捨て、撃破されないこと、足止めを優先した装備。
「突撃を!」
号令と共に惜しむことなく、狙いも碌に定めずにシャーリーはグレネードランチャーを発射。ここで撃ち尽くすと決める。
GX2小隊もまた火力を集中。
同時にGX1小隊が追加ブースターを起動させて加速。シャーリーの操るウィズダムを追い抜いてゆく。
GX1小隊のギアは皆、軽量の小型機。
第三世代とはいえ、その機動力は相当なもの。
先陣を切るシュヴァルツシルトがさらに加速し、大盾を構えてトルーパーたちと正面衝突。
第四世代の大型機とて、同じ大型の第三世代三機を突き飛ばす程のパワーはない。
しかし、隙は出来た。
シュヴァルツシルトを追い抜き、足が止まったトルーパーたちの側面からGX1小隊が攻撃を加える。
その装備はヒートソードを始めとした、第三世代ギアでも使用可能な、白兵戦に特化したもの。
大型機相手にも致命傷を与えうる。
「っ、各機散会!」
シャーリーが気付き、指示を出すのに一拍遅れて、重火器を装備したトルーパーたちからの砲撃。
轟く爆音。足止めを担当したトルーパーごと吹き飛ばす攻撃だった。
迷わずこのような真似をしてくるあたり、本当に頭がおかしいと思う。
『はっ……まだまだぁっ!』
砲撃を受けながらもその場に踏みとどまり、撃破したトルーパーを押しのけてシュヴァルツシルトが突き進む。
吹き飛ばされたGX1小隊の状況を確認することなく、シャーリーもそれに続く。
「この先は各隊の判断に任せます!」
行動不能になった機体もあるだろうが、構っている暇はない。
犠牲なしに目的を果たせるなどとは初めから考えていなかった。
そしてギリギリの局面になれば、細かい指示を出している余裕もない。
グレネードランチャーをパージし、エネルギーブレードを装備。周囲の敵機が放つ砲撃をかいくぐりながら更に加速。
エネルギーシールドがオーバーヒートしたのを確認し、シールドを任意起動に変更。
目の前にシュヴァルツシルトの背中が迫る。
シュヴァルツシルトを弾避けに使うため、限界までは同じ軌道を取る。
「(クルトの速度が落ちた、ということは……)」
「クルト、代わりますっ!」
『助かるっ!』
目の前に、その進行を妨げる要因があるということ。
シュヴァルツシルトを追い抜くと同時に、足止め役を担っていたトルーパーをエネルギーブレードで斬り捨てる。
この仕事を始めてすぐの頃は野蛮な武器だと馬鹿にしていたが、重量が軽いため予備武器に適しており、至近距離の相手に対しては絶大な威力を発揮するエネルギーブレードは乱戦に向いている。
自分もすっかり野蛮人の仲間入りだと自嘲しつつ、エネルギーシールドを起動。
シュヴァルツシルトとポジションを変えて、今度は自身が壁役に。
目標は目の前。イエローのカラーリングの、トルーパーと比べても一回り巨大な機体。
丸みを帯び、ずんぐりむっくりとしたその体躯はまるで宇宙服を着た人体のよう。
あれだけの重装甲、機動力は相当に低いと見える。離脱でなく迎撃を選んだのはそのためか。
「(武装らしい武装もない。幾ら重装甲でも、攻撃を集中すれば墜とせるっ!)」
距離を詰め、エネルギーブレードを振るう。直撃を確信したその瞬間、敵機は後退しつつ旋回。
「なっ!?」
直後に大型ブースターが火を噴き、急加速。目標がシャーリーの操るウィズダムから遠ざかる。
代わって目の前に現れるのは、アックスを構えたトルーパーたち。
更にラヴァータが六つ。
「(っ……釣られた!)」
向こうは自身を囮にして、こちらの第四世代ギアを確実に仕留める算段ということか。
行けると判断し踏み込んだ判断は、誤りだったか。
悔いるよりも早く敵の攻撃が放たれ、そしてその攻撃を、黒い装甲が遮る。
『ははっ、させるかってんだよっ!』
「クルト……」
大盾を捨て、ハルバードとエネルギーアックスを手にしたシュヴァルツシルトがウィズダムの前に飛び出し、目の前の敵を蹴散らす。
ラヴァータによる攻撃と遠距離からの砲撃を受けつつも、前へと突き進む。
『おらっ、早い者勝ちだテメェらぁっ!』
『『『おぉぉぉっ!!!』』』
腹の底から響くような、蛮族の雄叫び。
いつの間にか生き残ったGX1小隊、それに加えて砲撃支援担当の筈のGX2小隊までもがすぐ近くまで来ていて、目標を追って突っ込んでゆく。
陣形もなにもあったものではない。これが各隊に全判断を任せた結果なのか。
それは酷く不思議で、シャーリーからすれば不条理ともいえる光景。
意思の疎通など出来ておらず、各々勝手に目標を追っている癖に、連携が取れている。
ガトリングを装備した機体が弾幕を張ってラヴァータを撃ち落とし、障害となる第三世代ギアたちを味方が足止めし、残った機体が再び離脱を図ろうとする目標へと迫る。
シャーリーもまた、それに続く。
敵を撃墜し、味方を失いながら距離を詰める。
「(全く、本当に貴方たちは……)」
彼らはいつもシャーリーの理解の外にあって、時に彼女を苛立たせ、そして時として彼女を酷く奮い立たせる。
GX2小隊の機体が、近距離からの砲撃で目標の動きを足止め。
シュヴァルツシルトが砲撃の中突っ込み、二振りの刃で攻撃するも、目標はエネルギーシールドと己が装甲でこれを受け止める。
そんなシュヴァルツシルトを抜き去って、敵の背後からウィズダムがエネルギーブレードで斬りかかる。
更にもう片方の手に握っていたアサルトライフルを乱射。この猛撃で仕留めきれなければ、もう後はない。
背後から衝撃が走る。直撃。トルーパーにアックスで斬り付けられた。
点灯する赤ランプと警告音。相当なダメージを受けたことが伺える。
エネルギーシールドを展開するが、果たしてどこまで持つか。
焦るな、取り乱すことだけはするなと自分に言い聞かせながら、シャーリーは大きく深呼吸。
ここで無暗に機体を操作すれば即死だ。
「(しぶとい……いい加減に倒れろっ!)」
アサルトライフルの弾が切れる。目標に取り付いたまま、再度エネルギーブレードを振るう。
関節部から火花を散らすシュヴァルツシルトが、逃がすものかと敵に掴みかかる。
同じく接近した友軍機が、ヒートナイフを突き立てる。
―――果たして、決め手となったのはどの攻撃であったか。
『……お見事』
脳裏にそんな声が響いて、目標が崩れ落ちる。
撃墜、確認。しかし息をつく暇はない。
「全機、離脱します!」
興奮を抑え切れずに叫び、残った味方と共にGX3小隊の下へと向かう。
奇しくも同時に、離脱の期限と定めた一分が経過する。
彼女たちが敵本陣を離脱することに成功し、帝国軍が撤退を開始するのは、それから十分ほど後の話だった。




