外伝3 ギアについて
時系列的には一章の直前くらいの話になります。
TRPG化するにあたってギアフォートレスの世界観だの歴史だのを頑張ってまとめたので、折角なので公開します。
説明書のような扱いの内容なので、興味のない方はスルーして頂いても大丈夫かと。
ワールドアーミーズは知ってますよ。昔から大好きだったし、今も購読してる。部数は流石に落ちてきてるらしいが、ミリオタにとっちゃ今でもナンバーワンだと思ってるよ。
俺が軍人になったのはおたくらの雑誌の影響かもしれない。そんな俺がまさかインタビューを受ける立場になるとは思わなかった。
あぁ、それでギアについてだったか。生い立ちから知りたい? そりゃ確かに俺の得意分野だ。新兵共には必ず聞かせてる。
ジョーンズ? 確かにあいつにも聞かせたことがあるが、奴が俺の名前を出したのか。今度一杯奢ってやることにしよう。
どうして新兵に聞かせてるのかっていや、その話をすれば今の地上戦のセオリーが説明できるからさ。
何故戦車は淘汰され、ギアがここまで戦場に普及したのか。まぁ、まずは順を追ってギアの登場の話からしようか。
今から六十一年前、九七〇年。あぁそうだ、帝国の打ち上げたロケットが初の月面着陸に成功した次の年。倭国のアスモ重工が人工筋肉を使った産業用の強化外骨格――ギアを発表した。
ギアの始まりといえる、今でいう第一世代ギアだな。
こいつは装着者の身体の動きをトレースするから難しい操作は不要。ご家庭のコンセントで充電でき、最大五十キロの補助力を発揮する。
重さは二十キロくらいあったらしいが、全身の動きをアシストするから装着してもそれまでとさして変わらない速度で走り回ることが出来たらしい。
これがまた安価で購入出来て、学生の小遣いくらいの値段でリースもされた。こいつのせいで小型の運搬車だのクレーンだのは軒並み無用の長物となったらしい。
当然他の会社でも似たようなものを作ってブームに乗ろうとしたが、結果は散々だったらしい。何しろ技術力、価格、供給量どれを取ってもアスモ重工の出すオリジナルが群を抜いてたからな。
聞いた話じゃ、発表の時点で量産体制は完全に整ってたらしい。商品がコケてたらアスモ重工はそのまま潰れてただろうな。
それからしばらくして、ギアは兵器として扱われるようになった。こいつを使えば一人じゃ運用出来なかったガトリング砲だの大口径砲だのを楽に振り回せるようになるからな。
その辺りに目を付けたアルティマ社が、装甲を強化した戦闘用のギアを発表した。そうなりゃ今度は武器の方も需要が出てきて、ギアで運用することを前提とした重火器が幾つも開発された。
戦車は第三世代によって淘汰されたなんて言われてるが、俺に言わせれば戦車の天敵は第一世代だよ。何しろ戦車の火力を歩兵が出せるようになっちまったんだからな。
極論だと思うか? 確かに第一世代の機動力はそれほど高くない。装甲だって戦車に比べりゃそりゃ劣るさ。
けど対策するのは簡単だ。車両に乗ればいい。装甲車やヘリに第一世代を乗せて攻撃させるってのは今でも取られてる有効な戦法だ。
そして何より、二本の腕を自由に使えるという汎用性の高さが比べ物にならない。小銃、ガトリング砲、グレネードランチャー、キャノン砲、トリガーさえ付いてりゃ何でも扱えるんだ。
任務に応じて容易に装備を変えられるし、戦車に比べりゃ隠密性も高い。
そうして歩兵は高い火力を手に入れたわけだ。
それから二十年ほどが経って、九九二年。アルティマ社が第二世代と銘打って発表したのが初代ナイトG2。まぁジョーク兵器だ。
最高時速四十キロ! 百キロの武器も片手で運用可能! 第一世代のガトリング砲の直撃にも耐える強固な装甲!
夢と浪漫があったことはまぁ認めるが、アレは酷い代物だった。
第一世代の長所を全部投げ捨てて作った戦車もどき。
後になって分かった話だが、軍の納期に間に合わせて無理矢理発表した未完成品だったらしい。
あんな歩く棺桶を大量に抱え込むことになったラズフィアが気の毒になるが、人型兵器ってものの問題点を洗い出すって意味では成功した。つまりは失敗の見本市だな。
人型兵器を二足歩行させるってのは簡単なことじゃないし、何よりも操作の複雑さが致命的だ。
ナイトG2が固定標的に狙いを付けて射撃をするのにどれだけかかるか知ってるか? 公表はされてないが、パイロットが一人の場合十分かかる。それでも早い方だとは思うがね。
ナイトG2はそこまで酷い物でなく、今でも現役で使われてる?
あぁ、それは改良型の方だ。確かにあっちは悪くないと思うよ。何しろ第三世代の制御ソフトがそのまま使われてるんだから。アルティマ社は絶対に認めないだろうけどな。
そう、第三世代の制御ソフト。散々こき下ろした後だが、ナイトG2もハード面でいや悪い物じゃなかった。
問題は制御ソフトだ。GCU―――ギアコントロールユニットの概念もまだ出てない頃だったからな。何もかも手探りの段階だったんだろう。
そう言った意味じゃあアスモ重工の対応は、見事を通り越して嫌味に思える程完璧だった。
九九五年、第二世代の登場から僅か三年後に発表された第三世代ギア八雲は、初代ナイトG2の問題点を完全に克服していた。
その操縦はモーションパッケージシステムによって簡略化されていて直感的。
転ぶのが難しいとまで言われる抜群のオートバランサに、高度なFCS。その他諸々etc……。
そして、それらのシステムを統括するGCU。
特許が幾つ取れるのか分かりやしないその技術の全てを、アスモ重工は惜しげもなく世界に公開した。
ギアという存在を世界に普及させるためには多様性こそが必要なのだ、ってな。
で、第三世代は爆発的な勢いで世界に普及したわけだ。
中枢技術に関するライセンス料が存在しないから生産も安価。
ハードに関してはそれ程高い技術力が求められなかったこともあって、各軍需企業は競い合うようにして第三世代の開発に着手した。
群雄割拠、一旗揚げようと起業する連中を懐柔買収して、大手はその規模を更に大きくした。アスモ規格が発表されたのもこの頃だな。
アスモ規格ってのはつまり、ハード並びにソフトの面で互換性を持たせる為の取り決めだ。
独自の仕様でパーツを開発して他社のパーツを使用できないようにするような、言っちまえば独占を防ぐ為の仕組みだな。
仕様面では協力し合い、あくまでも性能で競い合う。新参企業に付け込まれる隙を作るから大手は歓迎しなかったらしいが、アスモ重工がそれを推奨しちまったら逆らえない。
アスモ規格に対応してることは、あっという間に第三世代の常識になった。
分かりづらい? まぁ、ザックリいえばハウンドの腕をナイトG3に取り付けても基本的には問題なく動かせるわけだ。
武装も同じだ。機体専用の武装ってのは原則存在しなくて、どの機体のFCSにも対応して、発砲、リロードが可能。今じゃ半ば常識化してるかもしれないが、当時は画期的だったんだぜ。
そうして普及した第三世代によって地上戦の在り方が大きく変わって、一〇〇〇年。記念すべきミレニアム・イヤー。
倭国の月面探査船スバルが、月面から特殊金属ジュノーを持ち帰る訳だ。ジュノーについては確かおたくの雑誌でも掲載してたよな。
エネルギー吸収物質、月の石、神の御使い……方々で色んな言われ方をしてるが、未だ全貌が解明されていないあの石が宇宙開発競争の引き金になったのは間違いないだろう。
各国は惜しげもなく資金を投じ、月の利権を争った。
混乱を避ける為に各国は協議の上ジュノーの保有数と月への探査船の発射を制限する条約を設けて、そいつが連合国、帝国、経済連盟って括りになっていくわけだ。
そうして競い合い、牽制し合いながらの十年が過ぎて、一〇一一年。宇宙開発は唐突に中断される。
打ち上げられた探査船、宇宙ステーション、人工衛星。その何もかもが例外なく、一夜にして撃ち落された。
どこぞの国が秘密裏に作った攻撃衛星が暴走したことが原因と言われてるが、真相は未だ闇の中。
敵対勢力の仕業と決めつけた国々での戦争となり『大戦』に発展するわけだが、ともあれその末期。
遂にお待ちかねの第四世代が登場するわけだ。
『大戦』終結の切っ掛けとなり、ローレス結成の立役者となった第四世代ギア。一騎当千、獅子奮迅の活躍ぶりを見せた戦場の切り札。
ところで俺は、第四世代を最強たらしめる要因は大きく三つあると考えているんだが、分かるかい?
―――ジュノーエンジン。正解よく出来ました。
ジュノーエンジンによって齎されたジェネレータの出力上昇とエネルギーシールドの存在は結果として第四世代の兵器としてのキャパシティを向上させ、防御性能を大幅に強化した。
あー、注文良いかな? 冷えたビールを二つ。一つはこっちの記者さんにだ。後はチキンを追加で。
仕事中? そう硬いこと言わず受け取ってくれよ。正解のご褒美だ。
ほら後二つは?
正解する度にビールを飲まされるのかって? そいつはちぃと気が利かないってもんだろう。
心配しなくても次はチキンにしてやる。
―――フォートレス。はいその通り。
第四世代といっても、単機では所詮戦術兵器止まりだ。高速で海を渡れるわけじゃないし、継続戦闘能力だってたかが知れている。
その第四世代を戦略兵器に押し上げている要因がフォートレスだ。
高高度をジェット機並みの速度で飛行して、戦場に第四世代を放り込む輸送機。空飛ぶ基地。
ジュノーさえ保有していればある程度安価で生産可能なギアと違って、フォートレスの建造費には莫大な予算が必要になる。
そして有効な戦術プランも未だ確立されていない。試行錯誤を続けている段階だ。
実際の所第四世代の開発が遅れてる要因はギア本体でなく、フォートレスと最後の一つの要素が原因なんだが、最後の一つの要因が何かわかるか?
おっと、来た来た。ほら、観念して乾杯と行こう。最後の一つの要因はお手上げのようだし、ペナルティだ。
あぁ……やっぱこの一口目が最高だな。
っと、おたくも良い飲みっぷりじゃないか。気に入った。
気に入ったからこれ以上勿体ぶることはしない。第四世代を最強たらしめる最後の要因は、パイロットだよ。
強力と言われる第四世代だが、パイロットの技量に差がなければ第三世代でも十分に対処可能だ。まぁ第三世代二、三機……小隊規模の戦力で十分拮抗出来るだろう。
にも拘らず第四世代がここまで恐れられているのは、パイロットの腕が尋常じゃないからだ。
俺も遭遇した回数はそれほど多くないが、奴らはどいつもこいつも反射神経と判断力がずば抜けていて、頭のネジが一つ二つ飛んでいやがった。
機体とフォートレス、それにパイロット。これらの要素がすべて揃うことで、第四世代は初めて『完成した第四世代』になる。
その戦術的価値がどれほどのものかは、おたくも承知している筈だ。
プロジェクト・ギアフォートレス。強化兵士として人体実験をされていたパイロット達の反乱と独立。
ローレスを成立させた始まりの九機はその全てが『完成した第四世代』だった。
だからこそ世界に対しあれだけの影響力を発揮することが出来たわけだ。
しかし反乱時のごたごたとプロイジェクト・ギアフォートレスの開発主任、アリヤ・キリシマの失踪でアスモ重工からそれらのノウハウは失われた。
それから十年。世界中が躍起になって当時の技術を再現しようとしてるってんだから、中々の笑い話だよな。
再現は出来たのかって? まぁ『大戦』後に作られた『完成した第四世代』の筆頭は連合国が誇る騎士。ラウンズの連中だろう。
小国だったクラナダがその発言力を大きくさせてるのはその技術を握っているからだ。
連合国の代表を自負しているラズフィアからすりゃ忌々しいことだろうが。
ローレスが戦力の中核を担っている経済連盟は、まぁまちまちだな。
傭兵達が操るギアを運ぶ為の新型輸送機は随時開発されているから、そいつはフォートレスと呼べなくもないだろうが。
ああ、フォートレスってのは定義が曖昧なんだよ。ギアを運用することに特化した輸送艦ってな。
ラウンズは対象の第四世代を運用することに特化したフォートレスを建造して運用させてるが、一般的にローレスは見込みのある連中に輸送機や第四世代を貸与、或いは売却してその後の管理は個々人に委ねる形を取ってる筈だ。
ヴァンクールなんかは独自に『完成した第四世代』を作ろうとしているようだが、連合国に比べれば後れを取っている。
この辺りは、ローレスがパイロットに対する非人道的な扱いを認めていないってのも影響してるんじゃないかね。
兵士の自由と権利の保障ってのがローレスの基本理念だから、その辺りに関する拘束は相当に強い筈だ。
帝国? 悪いが帝国の状況は詳しくないんだ。情報統制が徹底されてるんだろうな。
軍上層部や国のお偉いさんなら多少の情報は得られるんだろうが、末端の兵隊に降りてくる情報は荒唐無稽な噂話ばかりだ。
月の再開発を目指して宇宙での運用が可能なフォートレスを作っているだの、複数のジュノーエンジンを搭載した第四世代を作っているだの、脳波で遠隔操作する第四世代を作っているだの。
まぁ、双子の悲劇事件だのシンフォニアの臨界事故だのを引き起こした連中だ。何をやらかしても驚きゃしないがね。
何にせよ再び帝国が侵攻を開始した時、この世界の勢力図は大きく変わることになるだろう。……と、俺は考えてる訳だ。
っと、辛気臭くなっちまったが、話はこの位でいいかい? それじゃあ改めて乾杯といこう。
何に対して? まぁそうだなぁ……。
奇跡的なバランスで均衡を保っているこの世界に、ってのは皮肉になっちまうかね?




