藍碧ルーム
シルクの風が
頬
撫でるように
通り過ぎて行った
秋の海辺
笑わない彼女と
愛想笑いの彼が
防波堤で繋いだ手
変に力強くて
彼女の口元
微かに動いた
自転車を押して
彼は一人
防波堤の上に
胡座をかいて本を読む
たまの動きは
近くの自販機で買った
ペットボトルを
口元へ持って行く事だけ
誰にも邪魔されない晴天が
彼の部屋だった
雲の形が鯵に変わる
足音無い僕の歩行
たまに彼が見ているけど
僕は誰にも懐かない
彼は誰にも邪魔されたくない
利害の一致の距離感が
二つで居られる理由
雑音の無い波音
雑音の無い風音
この部屋には
沢山入っているけれど
この部屋では
一人になれる
彼と僕の違いも
許容できるから
お互いにぶつからない
存在を認識しながら
僕と彼の欲求は
交わる事は無い
自転車を押して
彼は一人
何時ものように
何時もの場所に
時間が潮風と
遊んで笑ったら
どこかの彼女がゆっくり
歩いて来る
彼は少しだけ視線を上げたが
また
同じ世界へ帰っていった
雲の形が鱗に変わる
防波堤の高い所で
たまに
僕が彼女を見ているけど
彼女は防波堤の先端へ行くと
下を覗いて帰ってきた
何かの儀式のように
世界で
一人しか居ないかのように
雑音の無い波音
雑音の無い風音
この部屋には
沢山入っているけれど
この部屋では
一人になれる
彼と僕の違いより
彼女との違いがわからない
ぶつからないなら
どうでも良いけれど
お日様に映らない存在は
異質でしかない
いつしか彼は
本を読むのを辞めた
鞄にはいつも
本は入っているが
彼は
本を読むのを辞めた
彼は彼女という人間を
読む事にした
言葉が潮風を
少しづつ甘くした
潮風は
いつしか甘くなりだした
それは何故か
僕には興味が無かった
雑音の無い波音
雑音の無い風音
この部屋には
沢山入っているけれど
この部屋では
一人になれる
彼女と彼の甘い音は
声からしかわからないが
お互いに遠慮しながら
存在を認識しながら
彼と彼女は確認していく
僕とは
交わる事は無い
僕とは
挨拶を交わすだけだ
雑音の無い波音
雑音の無い風音
この部屋には
沢山入っているけれど
この部屋では
一人になれる
彼と彼女は
昨日より近くなった
遠目に居る僕には
それがわかった
彼と彼女の欲求は
触れた瞬間の手と顔で
確かにわかった
僕とは
交わる事は無い
既に
別の部屋に居る
二人だから