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空色の奇兵 Militia in Blue  作者: 齊藤 鏤骨
第2章 満天星(ドウダンツツジ)
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 三者面談があったのは、その前日の放課後。


 指定された空き教室へ向かうと担任の原田裕太と中等部の姉の夕子が待っていた。

 夕子は都会の大学を卒業した2年前、郁青学園の中等部の英語講師として採用されてからずっと都会暮らしで、1年前下宿先のアパートに樹を引き取った。

 樹と同じく北国出身者らしい色白の肌の持ち主で伸ばした黒髪を後ろで束ねている。まあ一見清楚な美人の部類だが、子供の頃から弁が立つタイプで樹はよくやり込められた。


 通常の三者面談であれば教師側が一で生徒側が二のはずだが、姉はもう原田教諭とタッグを組んで臨戦態勢である。初めから正面に並んだ二人に対して、樹は一人で向き合った。


 原田裕太が口火を切った。

 「君のキャリアデザインだが、就職するにしてもこの成績じゃあきびしいぞ」


 姉の夕子の視線がきつい。


 「君には耳が痛いかもしれないが、せっかく助かった命だ。君は多くのものを背負っていて、その重荷に押しつぶされそうなのかもしれない。僕が同じ立場だったら耐えられるかどうか分からない。だが、反対にいえば、君はその重荷に耐えられる人間だから、生き残ったんだ。きつい言い方だが、君の荷物は君が背負うしかないんだ」


 正直なところ、原田裕太がそこまで向き合ってくるとは思わなかった。見かけ通りのオタクっぽい事なかれ主義者だと思っていたが、不意打ちもいいところだった。

 腹立たしいことこの上なかったが、ここは殊勝さをみせてうなだれるしかなかった。


 原田教諭の言葉が終わると、夕子の小言が続いた。


 いちいちうるさいな、そんなこと家でいえばいいのに。


 日頃の鬱積を晴らすかのような夕子の言葉のつぶてに滝行に挑む修験僧の心境で耐えた。  


 「なあ、星川。弓曳き童子って知っているか」

 面談の後、原田裕太が声をかけた。言いたいことを言ってしまった夕子は部活の顧問だからと足早に立ち去っていた。


 「え、ええ、知ってますけど」

 急に何を言い出すんだろうと思いながら、多少の興味が沸いた。弓曳き童子とは幕末から明治期に活躍したからくり儀右衛門こと田中久重によって作られたからくり人形の最高峰だ。確か現存するオリジナルは2体。


 「認知工学研究所に大学の先輩がいるんだけど、地方のロボコン優勝者が受け持ちの生徒にいると話題にしたら、研究所の付属博物館の所蔵である弓曳き童子を見せてくれるというんだ。先輩の上司は鏑木功児博士といってサイバネティクスの専門では第一人者らしい。時間が合えば、その鏑木博士直々にからくりを説明してくれるそうだ」

 鏑木功児の名前は科学誌で見たことがあった。


 「い、行きます。是非伺わせてください」

 先刻の三者面談の憂鬱さはあっさりと吹き飛んだ。


 「そうか、明日の夕方6時なら都合がいいそうだ」

 それが昨日の放課後の出来事。

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