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空色の奇兵 Militia in Blue  作者: 齊藤 鏤骨
Ⅳ 昇藤(ルピナス)
33/33

 ひらひらと舞うのは一頭の黒揚羽。

 その鱗粉きらの跡を追うと、そこは夢現ゆめうつつのサイバー空間。

 それは、胡蝶の夢にも似たVRヴァーチャルリアリティの世界。


 「さあ、皆さんお茶の時間よ」


 臨時に召集された電子会議の会場は、あでやかな牡丹が咲き誇る中華庭園。モネの絵を思わせる可憐な睡蓮の池を廻るのは、黄瓦と朱柱の回廊。


 女主人のカンナはいつものアイパッチにエレガントな花緑青色エメラルドグリーンの明朝風漢服姿。


 急勾配な軒反りが特徴的な黄と朱に彩られた四阿あずまや

 円卓に座す残りの3人は、人民服をテクノ風に着こなした鏑木、風格ある漢服姿の雲林院うじい、相変わらず着古した白衣の三木だった。


 そして、飲茶のサービスワゴンを運ぶのは、スリットが挑発的な黒地に金刺繍がほどこされたチャイナドレス姿のアリス。トレードマークのツインテールは今回は三つ編みのお団子にまとめられている。


 「今日は、鏑木さんに少し珍しいロータスティー(蓮茶)を用意していただきました」


 手毬のような花茶をガラスの器に入れて湯を注ぐ。一杯目はゆすぐだけ。二杯目を注ぐと蓮の花が水中花のように開いた。器を軽く振ると独特の芳香が漂う。


 アリスが湯気が立ち上る飲茶のせいろを給仕する。


 鏑木は口の中をすすぐように、最初の一口を含んだ。

 花茶特有のかすかなえぐみと爽やかな香味が同時に広がる。

 我ながら、完璧な仕上がりだ。

 だが、鏑木の心はいらだちを抑えられなかった。


 「鏑木さん、今回は本当にご苦労様でした。おかげで宇宙ステーションのハッキングは阻止できたようね」

 と、カンナ。


 「まあ、ほとんど僕の働きだけどね」

 と、アリスは嬌態を見せつけながら、口をはさんだ。おちゃらけながらも、データの監視者たるカンナと三木、現場を仕切っている鏑木と雲林院の間に軋みが生じていることを見逃さなかった。


 「どういうことなんだ。あんたらはやつらの計画がわかっていたのか?だったら何故現場に連絡しない」

 鏑木の想いを代弁するかのように雲林院がまくし立てた。


 「あら、わたしたちはそんなに早く萌黄を出陣させるなんて知らなかったんですもの。まずは万全な監視体制で彼らの意図を推しはかろうとしただけよ。あなたたちに変に動かれては困るわ」

 カンナの言葉にデータマイニングのプロである三木が大きくうなずいた。


 「意図は明白です」

 鏑木がようやく声をあげた。


 「彼らは宇宙飛行士の生命を我々との交渉手段にしようとした。だが、今回が初めてなのでしょうか?もしかしたら、我々が知らされていないだけで、反逆者側からの交渉が続いているのではありませんか?」


 「そのことについては、各国の上層部インナーサークル、より高次な意思決定機関が絡んでくるとしかいえません。この場では明らかにできないのですよ」

 その件に関して、カンナに取り付く島はなかった。


 「ねえ、それよりも考えてみなさいな。あなたが作り出したこの空間が本当の世界に、あなたと雲林院さんが作り出した装機が本当の肉体になる日を。肉体と精神がVR(仮想現実)に融合する世界を。今は、小義を捨てて大義を得る時なのです。サイバネティクスによる社会変革はもうすぐ始まろうとしているのだから。それに朗報があります。我々は、あちらの世界に内通者を得たのです。彼らの悪あがきもそう長くは持たなくてよ」

 カンナは鏑木を取りなすように語りかけたあと、高らかに勝利の宣告をした。得意げな三木の顔が今回の立役者が誰かを雄弁に物語っていた。


 その複雑で単調な人間模様を眺めながら、アリスは皮肉っぽく頬をゆがめた。

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