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結局、その日の訓練にはむくれっ面の汐音、無表情の乃衣絵を伴って、同じ都西市内の外れにあるサクラ重化学の倉庫へと向かうことになった。
乾いたディーゼル音の響く路線バス。
車窓には郊外の無機質な風景とほこりっぽい空気が流れていく。
聞くだけのことを聞いてしまった汐音は不機嫌そうに横を向いている。
チャームポイントの笑うと糸目になる切れ長の一重も、今はつり上がっていてこんな時はなんだかこわい。
有栖と別れてから、怒濤の質問攻めにあった樹はすっかり辟易していた。
一方、乃衣絵は静かに参考書を広げていた。そういえば乃衣絵も様子がおかしかった。樹の説明も心ここにあらずといった様子で半分も聞いていないようだった。
汐音の怒りも分からなくはない。消息不明の兄の凪人の身を案じているのに、それにつながるかもしれない情報を樹は伝えなかった。
伝えられない理由も十分あったのだが、汐音は納得しないだろう。
第一の理由は、知り得た秘密があまりに重すぎたから。
平行宇宙の存在。
装機という名の時空を超えるアバター型戦闘ロボット。
あまりにSF的で、あり得ないものばかりだった。もう一つの宇宙があるとすれば、そこに消失した3万人の住人が生存しているのだろうか。
第二は汐音の兄である草間凪人をはじめとした消えた合宿参加者たちの影。
認知工学研究所と学園を運営するニダバ財団、そしてこれから向かうサクラ重化学。この三者にはなんらかのつながりがある。鏑木らは明かさないが、合宿参加者たちはあの装機の装着者として訓練を受けていた可能性がある。
そして、そこから導き出されるのは、装機=アバターを操りこの世界への浸食を繰り返すのは彼ら自身かもしれないという可能性。
第三は単純に二人を巻き込みたくなかったから。
樹は、ナビゲーターであった認知工学研究所の鏑木、そしてこれから向かうサクラ重化学の担当者である雲林院を百パーセント信用している訳ではなかった。いや、むしろ不信の念の方が強い。
突如として樹の日常生活に割り込んできた速水有栖の出現も限りなく怪しい。
だからこそ、真相に近づく必要があった。
寂れた工業団地を抜けると、いつの間にか乗客は三人だけとなり、最後のバス停で彼らは下車した。
休耕田に建てられた巨大な倉庫へと向かう。3人が汗ばみながら無言で歩く道中、背後から単車特有のマフラー音がした。
あっという間に追い抜かれたが、すらりとした黒のライダースーツの背中にいやな予感がした。




