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空色の奇兵 Militia in Blue  作者: 齊藤 鏤骨
第2章 満天星(ドウダンツツジ)
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 鹿威ししおどしの音が響く小宇宙。

 湿った苔と土の匂いが鼻腔をくすぐる。

 薄暗い仮想の茶庭を彩るのは、白、白、白。

 小手毬、大手毬、卯の花、利休梅の白い花。

 そして、きらめく銀河の満天星ドウダンツツジの垣根。

 足下には恵比根と一輪草。

 つくばいには遅咲きの白椿が浮かぶ。


 「さあ、皆さん。お茶の時間よ」

 山法師の木陰には、朱の野点傘と毛氈もうせんが敷かれた縁台。 

 亭主席では、龍剣紋が染め抜かれた薄紅色の無地を纏ったカンナが薄茶を点てていた。


 客人は四体のアバター。


 袴姿になるだけで書生っぽい雰囲気を醸し出す洒落者の鏑木。

 紬の野袴を太めの体躯に合わせた雲林院。

 三木はかたくななまでに着古した白衣姿。

 そして、アリスは黒地に貝合わせの華やかな中振袖。

 季節の彩りの茶菓子を楽しんだ後は、それぞれに爽やかな芳香の薄茶が振る舞われた。


 「さすが、鏑木さんだ。こういった空間を作らせると一級だね。味覚のセンスも抜群だよ。この時期にしか飲めない新茶の特徴を余すところなく再現している。相変わらす細かいガシェットやギミックが得意なんだね」

 と、本心がどこにあるかも分からぬアリスのおべんちゃら。


 当の鏑木はそれどころではなく気が重そうな表情だった。


 「鏑木さん、星川樹なる人物の報告を読みました。接触はうまくいったようですね」

 と、カンナ。


 「はあ」


 特別展示室を出た後、少年にグラウンド零の上空から現れる大いなる奇兵、玄天と蒼天がこちら側の世界を襲撃する映像を見せた。


 反逆者たちとの人知れぬ戦いとして最小限の範囲で明かした。少年の驚愕と怒り、そして密やかなる決意を感じながら。


 ゲリラ戦を繰り返す武装集団こそが、「あの日」の大消失を引き起こしたのだ、と断定を避けつつ少年が結論づけるに任せて。


 「さっすが~、鏑木さん」 

 「アリス、黙っていてちょうだい。あなたは少し動きすぎよ。鏑木さんの邪魔をしないで」

 「その件なんですが、むしろ有栖くんに積極的に活躍してもらった方が話が早いかもしれません」


 「どういう意味?」


 「所詮僕や雲林院さんは技術屋なんですよ。こういった心理的な作戦に不慣れなんです。それに星川樹は勘がいい。我々の計画に巻き込むのはいいが、扱いを間違えると新たな脅威になりかねない」

 一気に言ってしまうと肩の荷がやや下りた。


 だが、思わぬ方向から横やりが入った。


 「待ってください」

 ニダバ社の三木だった。


 「速水有栖は不適格者です。本来であればハイパーノヴァ計画の一切に関わるべきではない」


 あでやかな振袖姿のアリスの瞳がぞっとする光を帯びた。


 「あら、三木。今回の不祥事はあなたの不手際から引き起こされたのを忘れたのかしら。有栖を引きずり下ろして、代わりに草間凪人を推薦したのはあなたよ。それに有栖はニダバ社の広告塔としてクロノメティオのプロモーションに多大に貢献しているわ」

 カンナが鋭く指摘した。


 「草間凪人を選んだのは私ではなく、ニダバ統一検査です。人類初の包括的インベントリープログラムと言っていい。優生学と近代統計学の父フランシス・ゴールトンによって生み出された生物学的な優位層を発見するための適性検査は、いつのまにかmmpi、ミネソタ多面人格目録のような正常と異常を振り分けるだけのしきい値の標本となってしまった。ニダバ統一検査は初期の志へ立ち返り、情報社会の行き着く果て、現生人類の生存の臨界域である技術的特異点を超えたポストヒューマン時代の戦士を見いだすために生み出されました」


 「では、なぜ今や我々の敵となった草間凪人が選ばれたのかね?」

 珍しく寡黙な雲林院が横やりを入れた。


 「彼はおおむね標準的な偏りのない人物でしたが、ポストヒューマンの第一条件であるAIへの親和性が高かったのです。玄天を自在に操っている点からもそれは裏付けられます。また、高い正義感、責任感、倫理観、道徳心の持ち主であり、十五歳という時点で粘り強く柔軟な目的遂行能力を獲得していました。何より注目に値したのはその冷静沈着なる判断力。また経過を追ったトラッキング調査で人心掌握術に優れた強力なリーダーシップの持ち主であることも判明しています」


 「ますます分からないな。そのような優秀で高潔なる人物がなぜ我々に牙をむいて、紺青のミリシアを組織ごと奪取し、凶悪なる反逆を首謀したのか。これについての分析は?」

 と、この件についてこだわりを見せる雲林院。


 「そ、それは、分かりません」

 しどろもどろに三木は答えた。

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