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空色の奇兵 Militia in Blue  作者: 齊藤 鏤骨
第2章 満天星(ドウダンツツジ)
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 ジリジリというゼンマイ音。

 シュッ。

 童子が矢を射る。

 まるで生きているかのような躍動的な動作は二世紀をけみしてなお人々を惹きつける輝きを失わない。


 同時代のからくりと同様にゼンマイの動力を用いて、古典的なアクチュエーターであるギアとカムとワイヤー(糸)で制御されている。素朴で精緻なロボットの原型。


 特別展示室で樹は先人の仕事ぶりにすっかり魅せられていた。


 「すばらしいですね」

 やがて、樹がため息とともに静かな驚嘆の声を上げた。


 「ああ、矢立に並べられた矢を順番に取り、弓につがえ、的に射るを繰り返す。入力、出力、フィードバック。まさにサイバネティクスの原点だ」

 鏑木功児は少年の理解力を推し量るかのように説明を始めた。この手のレクチャーは得意だ。なにしろ本業だから。


 だが、ニダバ社の三木の狙い通りに事を進められるか自信はなかった。予期せぬ有栖の出現に驚いたが、今はなぜ早々に帰ってしまったのだろうと恨めしくさえ思っている。

 仮想空間で再会したときは、かつての繊細そうな少年の面影と女装姿の嬌態のギャップに当惑したが、彼ならうまくこの少年を誘導できるだろうに。


 「ロボットの始まりは人の動きを忠実に再現することだった。つまり、ロボットと向き合うことは人間と向き合うことなんだよ。機械も生体もこの世界の力学的法則からは逃れられない。人間を超えようとするほど、ロボットは人間に近づいていく。そして、人間は人間に近づいたロボットを恐れる。これはもう呪いと言っていい」

 最後の方は独白に近かった。


 「確かに人もロボットも最適化しようとすると同じ動作になるでしょう。人が人に似たロボットを恐れるのは、近づくほどに違いが顕著になってしまう。いわゆる不気味の谷ですね。俺は人間との類似性なんてあまり気にしたことなかったけど、先生はそんな風に人間とロボットを見ているんですか」

 相手に話を合わせることができる。なかなか聡い子だ。


 「ああ、人間だけでなく生き物全般をね。一時期は近所の動物園でキリンやゾウの動きを日がな一日眺めていたものさ」


 「なんだか哲学的ですね」


 「哲学といえば、からくり儀右衛門こと田中久重の哲学、宇宙観が残された作品がある。萬歳自鳴鐘、いわゆる万年時計だ」


 鏑木は別のブースへと誘った。展示ケースの白いカバーを芝居がかった仕草で外した。

 そこには漆塗りの天文時計が納められていた。


 「儀右衛門は人間の動きを写し取るのみならず、宇宙を模倣しようとしたともいえる。複雑な歯車機構だが核たる部分はスイス製の懐中時計だ。上部には太陽と月の天球儀オーラリー。六面の時計は、それぞれ二つのことなる時を刻む和時計と西洋時計、六十干支、月齢、曜日、二十四節気。このように、万年時計は一つの宇宙なんだよ」


 「なんだか盛り込みすぎて、いささか偏執狂的でもありますね」


 この少年と話すのは楽しかった。彼らの企てに巻き込むことに罪悪感を感じるほどまっすぐな少年だ。だが、そろそろ本題に戻らねばならない。

 鏑木は展示ケースに載せて、神経質そうにガラスをこつこつと指で叩いた。


 「儀右衛門の豊かな才能は時代が時代だっただけに軍事面でも利用されざるをえなかった。人々に娯楽を与えるからくり人形師として始まった彼の人生だが、幕末は蒸気船や銃砲の開発に携わり、明治期には殖産興業の中心的人物の一人となった。ロボット開発の目的も同じだ」

 再び樹の反応をうかがう。


 「究極の目的は産業用、軍事転用ということですね」


 諸手を挙げて賛成とはいかないが詮方無しといった表情。あからさまな拒否感は見られなかった。

 極端に好戦的でも盲目的な平和主義者でもない。まあ、及第点だろう。次のフェーズへ進む頃合いだ。


 「ああ、悲しいことだがね。おいで、君に見せたいものがある」

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