第86話 敵対するもの
「聖なる光のために」
そう言い一連の動作をし終えたラストは振り返る。
「……そうやって毎回見てるだけじゃなくて一緒にどう?」
「……別に。ただ貴様のようすを見ているだけで十分だ」
入り口の柱に寄りかかり腕を組んだトガはぶっきらぼうに答える。
「……私は、決まった宗教というものを持っていないからな。……興味はあるが」
「ふぅん? 僕にしたら信じる神がいないっていうのはあり得ないけどなぁ」
「まあ、私のいた国が特殊だったというだけだろう。日常に宗教行事は溢れているというのに、何故か宗教というものを恐れる人が多かった。気味の悪い、得体のしれぬものだとな。信仰心がないわけではない。だが……心から信じる神がいるほうが珍しかった……」
組んでいた腕を解くとトガは祭壇に歩み寄る。
「……だから、心から信じる……心のよりどころとなる神がいるという貴様らは、正直羨ましい」
「けど……」
「ああ、分かっているさ。それこそが、貴様らを殺し世界の姿を変えてしまった原因なのだと」
「……」
「ラスト、貴様もそろそろ覚悟を決めたほうがいいかもしれないな。……どちらを選ぶのか。いや、むしろ選ばぬか」
踵を返し去ってゆくその後姿を見ながらラストは微笑んだ。
「……既に、決まっております。この身、この命、……全ては我が主のために」
延々と続くとも思える長いらせん階段を早足で下る。
大理石のようで、しかし固いトガにとっては未知の素材で出来たこの塔はとても高い。500メートル以上あるのは確かだ。
エレベーターのような昇降機もあるのだが、下りは毎回必ず階段で降りている。
理由は壁に掘られた彫刻だ。
一番下から最上階の扉の前まで、埋まっているのだ。正確には一番上はつくりかけだが。
歴史を刻んだもののようで、そこに描かれているモノだけで一連の流れが見えてくる。丁寧に扱われていたようだが、ところどころに何かで穿かれた痕もある。そして何より、時折目に入る変色した床。
あれは血を吸ったあとだ。
宗教施設であったことは確かで、このほかにも惑星リエースのあの遺跡も同じだ。あの遺跡に比べここはかなり巨大であり、格が高いことが分かる。それなのに何故争ったあとがあるのか。
その理由が知りたいがゆえに、私は壁画を見続けてきた。
そして、アレが何なのか知るために。
しかし答えは出ない。何度見ても、何度ここを通ろうとも。
一人静かに考えを巡らせられる時間。しかし。
「っ!」
感じた異様な気配に宙を睨み付ける。
案の定、そこには双子が浮かび嗤っていた。
「わざわざ、こんなところまで何の用だ、双子」
「なにって」
「用事って」
グライとリティイは顔を見合わせる。
「私の前に姿を現すとは、なんだ。……喰われたいのか?」
「ちがうちがう」
「そんなんじゃないわ」
「僕らはね」
「私達はね」
双子は嗤う。
「トガの本気がみてみたいんだ」
「器の本気がみてみたいんだ」
「……っ!」
「見せてみてよ」
「感じさせてよ」
「《継承者》の本気をさ!」
「《継承者》の奇跡をね!」
「……はぁ……はぁ」
荒い息を整えようとしながらあたりを見渡す。
森の中に建っていた建物は見る影もなく崩れ去り、白い埃で視界はかなり悪い。塔の内部での戦闘は回避したが、転移先であった惑星リエースの森林にあった遺跡群がほぼほぼ壊滅状態になってしまった。幸い、中に入れるような遺跡ではなく、ほぼ価値もなく朽ち果てるのを待つようなものばかりだったが。
「……くそっ、……なんの、真似だ!」
「なにって」
「どうしてって」
「おまえが」
「あんたが」
「いつまでも本気をださないからだろ」
「まだ、本気を出してくれないからでしょ」
グライの持つ短剣の刃を受け流す。だが、宙を切り裂く音がし、とっさに後退する。
通り過ぎていったのは矢だ。
(厄介な……!)
この双子は互いに弱点を補い連携しながら攻めてくる。傷つくことも恐れずに。
だからこそたちが悪い。
そして、何より手段を択ばない。
冷たいあの刃の力こそ本当に恐れるべき力。
「……ねぇ」
「……あなた」
「そろそろ」
「いい加減」
「使えよ、力を!」
「振るいなさいよ!」
襲撃を受けてからここまで防御に徹していたのにはわけがある。
飽きっぽい双子のことだ。すぐに諦めるとおもったのだ。
それに、『あの力』と言ってきた双子の狙いはおそらくアトミアの書の力をトガに使わせることである。何故なのかは分からないが、それだけはしてはいけないと直感が告げている。
見た目通りの幼さゆえの残酷性。
故に、《使徒》の中で一番恐ろしい。
ずっと彼らの事は要注意対象として見てきた。今も、そしてこれまでも。これからも。
「……仕方、ないか」
双子の猛攻を防ぎながらトガはため息をつく。
「……おい、双子。聞け!」
「!」
「!」
初めて反撃に出てグライを吹き飛ばす。
「……貴様らの返答次第では、本気で相手してやる。……ただし、命の保証はせん」
「やっと?」
「本気?」
「さてな。……人間、とて腕や足の一本二本失ったところで死なんだろう。《使徒》ならば……どういうことか分かるな? 私にそこまでさせてくれるなよっ、双子っ!」
手に具現した両剣が黒い汚灰に包まれる。
「まさか」
「そんな」
「その通りだ。双子、私はあのような力を借りずとも……まだ本気は出していない! どうする? やるか?」
「くっ……!」
「う……ああああああああ!」
とびかかってきた双子に向かって、その攻撃を避けることなくトガは両剣を振り下ろした。




