第85話 訓練環境
「ぐはっ……」
宙を大きく舞うと顔面から着地、そのままゴロゴロと転がりようやく止まると青い空が広がっていた。そのままいると顔の上に影が落ちる。
「……た、たんま!」
「……攻撃するんだったら、もうしてるよー」
両手をあげたアラキアにアルマはそう言うと首を傾げる。
今日はクレアレアを使い初めて本気で訓練ができていた。
正確に言うと、初めて本気を出してぶつかり合っても死ぬことがない環境で訓練ができた。
「満足かね?」
「もちろん! アラキアも鍛えられるし一石二……猫だよ!」
「それ言うなら一石二鳥だろ、アルマ……」
「鳥さんはダメ! だったら天敵である猫を……!」
「はいはい」
「むー!」
軽く頭を撫でられスルーされたことに抗議するが、見事なスルースキルで再びスルーされる。
「……」
足で草地を軽く蹴るが、この草もこの体も本物ではない。
ガライアによるVR空間だ。
きっかけは惑星ハーウィンで私が暴れまわったことである。アラキアと共に惑星ハーウィンから帰還してすぐに呼び出されたのだ。
総司令室に行った私達を待っていたのは苦笑した結城だった。既に片山から報告が入っていたのか、それともビルギットから報告が来たのか、今日降下し殲滅したエリアの資料を持っていた。
そこにタイミング悪く直接報告に来たらしい片山が現れたのだ。
船内のため当然リミッターは働いているはず。つまり、いくら元から強化されていようとほぼクレアレアを使えない環境で片山に与えられるダメージは問題ない程度だろう。
そう思い片山に向かって突進していったアルマの後ろ姿を見ていたアラキアと結城だったが、次の瞬間、クレアレアを完全展開した白い騎士装のエルフへと姿を変えたアルマを見て驚きの声をあげていた。
急いで止めにかかるが既に時遅し。
右手に具現化した剣がぎりぎり防御姿勢を撮り終えていない片山に直撃する。
本人も展開できたことに驚いていたのか、どうにかクロノスではなく木刀を具現化し、威力も出来る限り抑えたらしく片山に大した怪我もなかったのは幸いだった。
それからしばらくはリミッターの確認やセキュリティの確認などに走り回ったが、大旅団側のシステムには何の問題もなかった。実際にあの場でアラキアも完全展開してみようとしたができなかった。
結局一時的なシステムの不具合ということで片づけた。
そしてやっと本題に入ったわけだが、結城はハーウィンでの私の超高火力魔法のデータを見て生身での訓練を危険と判断したらしかった。そこで新たに提示された訓練方法がガライアを使った訓練だった。
未だに大人数で接続し稼働させるのは難しいが、それでもかなり性能も向上しており100人程度までなら登録されていないモーションを同期させても問題ないらしい。
全力でぶつかり合っても安全でしかも実際に体を動かしているのと大差はない効果が得られる。素晴らしい訓練環境を手に入れたのだった。
思う存分アラキアを鍛え上げ、途中から合流した結城ことレクトルとも何度か手合わせしたりもした。
さすがは総司令、というよりは生粋のゲーマーというべきか、かなりの強さを誇っていた。的確で堅牢な防御にはかなり手こずらされた。
アラキアも銃と剣を切り替えながら戦うなどかなり力をつけてきていた。遠くから一方的に攻撃されることも増えてきた。
そしてなにより、そのおかげで私も新たな技術が身についたのだ。
ほぼ意識せずともクロノスの特殊能力を引き出してしまっているのか、パージから放たれる光弾が目で追える。
「……」
久しぶりに光剣を引き抜くと、その軽さを生かして次々とその中心を狙って斬ってゆく。
アラキアは銃を構え直すと連発してくる。どれも正確に心臓を狙ってくるのだから現実なら絶対に出来ない訓練だ。今度は光剣を逆手に構えると大きく振り込む。
思った通りなかなか扱うのは大変だが扱えないわけではない。1発、2発、3発、と防ぐことに成功するが4発目。
(まずっ……)
光剣の横をすり抜けた光は真っすぐ胸へと迫る。
胸部のみは金属でできた防具を身につけているが、それは最低限のみ。もろに受ければただでは済まない。
だが、今から避けようとしても間に合うものでもない。
左手を軽く丸めると、次の瞬間、ズシリとした重みを感じる。クロノスの片割れ、空間を司る剣。持ち手から剣先にかけて紫から赤のグラデーションがかかっている。
だが、これで攻撃をしようと思っているのではない。一瞬剣が光を放つと目の前の空間がぐにゃりと捻じ曲がる。
鏡で反射したかのように空中で向きを変えた光線は私の背後の地面に撃ちこまれ草が焼けちる。
「はあぁぁぁぁ!」
そのまま一気に距離を詰めると光剣を振り下ろす。
「っ!」
しかし、それは同じ青白い刃で受け止められる。パージの剣型だ。
何度か切り結ぶが決定打はない。一度大きく後退すると、光剣を構え直す。
(これならば……)
もう一度、飛んでくる銃弾を避けながら距離を詰めると光剣を突き出す。そこに絡んできたのはやはりパージ。手から光剣が叩き落とされる。
「っ……」
「もらったぁ!」
アラキアの目が輝きパージを突き出してくる。
「……かかった」
「え?」
ボクが狙っていたもの。
それはアラキアが懐に飛び込んできて、且つ私の手に武器がないと思い込んだ瞬間、だ。
左手に加え右手にもクロノスを具現化させると片方でパージを弾き飛ばし、その首元に切っ先を突きつける。
「……」
「……ま、まいり……ました。って、うおわっ!」
バランスを崩したアラキアは後ろへ倒れ込む。少々大げさに草が舞うエフェクトがかかる。
「……だいじょぶ?」
「ああ、平気だ。……にしても、いきなり二刀に切り替えてくるなんて」
「アラキアの実力がついてきたから。……大丈夫だろう、って」
「だからっていきなりは」
「実際はそうも言ってられないだろうがね。アラキア君」
レクトルはクツクツと笑うと指をたてる。
「例えば、トガ。ヤツは剣の部類はもちろん、弓、魔法と様々な攻撃方法を用いてくる。剣も二刀に両剣と臨機応変、多種多様。……君達はそれに対応しなくてはならない」
「……ですよねぇ」
アラキアはため息をつくと立ち上がる。
「アルマ、もう一回頼む」




