第84話 監視者
満面の笑みを浮かべた小さな影はゲート広場に走り込むと出撃許可をとりワンシップ乗り場に走る。
「ま、待ってよ、アルマ!」
遅れて現れたアラキアも不慣れな手つきで出撃申請をするとアルマを追いかける。
しかし、乗り場へ続くゲートをくぐる前に何か白い影が横をすり抜けたかと思うと背中に衝撃を感じ立ち止まる。
振り返ってみると制服のフードを目深にかぶったアルマがアラキアを盾にするように隠れていた。
「どうした、アルマ? 先に行ったんじゃないのか?」
「んん」
勢いよく首を横に振る。
こんな反応の時は、何かあったということだ。そしてそれはおそらく。
「……何の御用でしょう?」
目の前に立つ黒スーツの男に話しかける。
日本人らしく黒髪に黒の瞳、そして黒縁のメガネ、と全身黒ずくめである。むっつりしたその表情からは何も読み取れない。
「私は情報部所属、片山賢だ。一度、第0番艦で顔は合わせているはずだが」
「!」
そういえば証拠の数々を結城に届けたのはこの男だった。
「結城総司令から君達のサポート並びに護衛を命じられた」
「……護衛、ですか?」
イスクでないのは確かで、あの後すぐに第0番艦から撤退していた。
ならば、そのような人物がイスクであるアラキア達の護衛にまわるなど全く意味がない事なのだ。トルムアやラーク、《使徒》の前ではイスク以外は無力。
「失礼ですが……」
「これでもそう言えるか?」
不意に横に突き飛ばされ床に叩きつけられそうになる。アルマが押したのだ。
何とか受け身をとると見えたのは組み合うアルマと片山の姿だった。それでも宙に投げられたアルマは強化された身体能力を生かし綺麗に着地する。しかし臨戦態勢は崩さなかった。
(強い……!)
少なくとも下手なイスクより体術は上だろう。
リミッターさえかかっていなかったらもう少し対処のしがいはあっただろうが、それでもほとんど動きが見えていなかった。アルマが反応できたのは接近職の反応速度がゆえに、だろう。
前言撤回だ。汚灰の力を使わないものに対してだけなら護衛の価値はあるだろう。
しかし、それは先日の様な身内での戦いのみだ。外の世界は汚灰の力しかない。
「……ところで、結城総司令が命じたという証拠は? 何故、護衛など?」
「それについては、これを」
片山が差し出したのは正式な令状だ。ちゃんと印まで押してある。滅多に発行されることはないため本物なのは確かだ。
模倣しようとしてもできない。
「……しかし、なるほど。さすがは光騎士の零。クレアレアが扱えない場所で接触して正解だな。クレアレアを使われていたら、いくつ命があっても足りないだろうな」
片山は未だに臨戦態勢を解かないアルマを見て頷く。
「……それで、片山さん。まさかとは思いますけど、その護衛っていうのは船内だけですよね?」
「無論だ。私はイスクどころかトゥルーエでもないのでな。……それに、アラキア君。君にはこう言っておこうか。私に与えられた真の命令は別にある」
「……へぇ?」
「護衛ついでに彼女の事を知れれば十分だ」
「……食えない人ですね」
「褒め言葉として受け取っておこう」
つまりは、アルマの監視ということか。
事態は彼女を中心に動いていると言っていい。それか、彼女が巻き込まれているか。
トガもこれまでの記録上ではアルマにだけ接触している。
今の状況で心配事はなるべくつぶしておきたい、というのが上層部の意向だろう。それに、彼女から得られた情報で解決策を見つけたいというのも本音だろうが。これが結城でなければ、また、と呆れるところだが、きっとあの人の事だ。何か考えがあるのだろう。
「……言っておきますが、僕らは何も知りませんからね」
「君達を疑っているわけではないが。……まあ、そうなるか。では、少しでも印象を良くしておくとするか。このままでは私は警戒されたままだろう。特に、彼女には。……というわけであいさつ代わりだ」
怪しい素振りを見せたらとびかかってやる、と言わんばかりのアルマを片山はチラリとみる。制服の腰に下げたレた光剣に手が伸びているのも見間違いではないだろう。
片山はおもむろに白いハンカチを取り出すと前に伸ばした左拳に被せ、一気に取り去る。
「!」
次の瞬間、左腕には白い鳩が止まっていた。
案の定ソレにくぎ付けになったアルマの瞳はキラキラと輝いていた。
「……ほら」
片山はしゃがみ、腕をアルマに差し出す。
最初は戸惑い躊躇していたアルマだが、警戒しながらも一歩、二歩、と近寄ると片山の腕にのった鳩を受け取る。
「……」
「……」
「……もふもふ」
機嫌よく鳩を撫でるアルマはフードの下に笑みを浮かべていた。
「あれ、どうやったんですか。マジックですか?」
「……大旅団内の雑貨屋で見つけたのだが。クレアレアの技術を使ったマジック用具らしい。……クレアレアでなくとも使えるらしいからと買ってみたが、こんなところで役に立つとは」
「……で、あの鳩は?」
「あれもクレアレアで構成された言わば動くリアルなぬいぐるみの様なものらしい。数時間でクレアレアに分解され消える」
「……嫌われますよ、片山さん」
凄まじい爆発音と共に地面が揺れる。
惑星ハーウィン、海岸エリア。
少し前までは《使徒》スペルビアの配下であった魚類系のラークが闊歩していた場所だが、スペルビアが倒れ力の供給が途絶えたことによってその姿は少なくなっていた。それでも完全に消えたわけではなく、波間からチカチラと顔を出してはその瞬間、アルマのオーバーキルすぎる超高火力魔法で焼き尽くされてゆく。
得意の氷魔法ではなく炎の魔法を使っているというところから見ても相当、らしい。クレアレアを紡ぐ魔法は感情の影響を受けやすい。
あの後、結城に直接連絡をとり護衛の件が本当なのか確認をとり、惑星ハーウィンに向けてワンシップで出発した。そこで、アラキアが一番危惧していた事態が起こったのだ。
白い鳩の身体が青く光ったかと思うと、次の瞬間パリンという微かな音を立てて光となって消えてしまったのだ。
唖然としたアルマにマジック用具の事を説明すると、表情が一転。
惑星ハーウィンに到着し、敵対生物の姿を確認した瞬間、詠唱することもなく超高火力魔法が炸裂したのだった。
(……帰還してからの片山さんの無事を祈っておこう)
彼がリミッターが解除さえている場所でアルマに出会わないようにしなければ。




