第83話 光騎士として
「……と、いうわけだ」
口を閉じた結城に私は受け取った赤いマントを手に首をかしげる。
隣では同じ赤色のスカーフをもったアラキアも呆気にとられた顔をして立ち尽くしている。
任務へ復帰した矢先、私達は総司令室に呼び出されたのだった。そこには結城総司令以外に光騎士に、アストレとそうそうたる面々がいた。
大旅団に来てからは今までやらかしたことはないが、また何かやらかしてしまったのか、と思いこみつう向かったのだが言い渡されたのは昇級だった。
アラキアは光騎士のⅤに任命され、私も光騎士に任命された。
光騎士には上から順番に番号が振られていてジュークがⅠ、ユニータがⅡ、カストがⅢ、フィデがⅣとなっている。便宜上だがここにも以前は上下関係はあった。
そして新たに設置されたのがⅤ番の席。
ならば私はⅥが妥当なはずなのだが、私に与えられた番号は零。イレギュラーナンバーだ。
なんでも与える権限的にマズかったらしい。
光騎士と言えど、総務部からの指令に従い動いている。
しかし、私に今回与えられた権限は自由に動いてよいというものだった。組織の一員でありながら命令系統に組み込まれない、そしてある程度融通が利く立場。それが光騎士の零だったというわけだ。
「……」
「不満、かね?」
「え、いや……そういうわけじゃ……」
権限を与えすぎではないか、という私の問に結城は首を横に振る。
「これは私の一存ではないよ。……光騎士全員の許可も、そしてマーテルの推薦もある。……今回の働きと実績を見れば妥当ではないかね?」
「でも……」
「それに、今後、ますますアルマ君は重要な立場に立つことになるだろう。……あの力、クロノスが無ければ今頃どうなっていたか。……それだけでなく、スペルビアと交戦していた時のデータがある。これを見たまえ」
「ん?」
「……何かが《使徒》の力を抑え込んでいたのだ。……それが無ければたとえトガの助力があったとしても勝てなかっただろう」
何か、と言われて真っ先に思い浮かぶのはクレアレアだ。
クレアレアだけが汚灰の力に対抗できる。そう教わってきたのだから。
しかし、クレアレアが《使徒》の力を抑え込んでいたのならはっきりとクレアレアが抑え込んでいたと分かるはずなのだ。
と、なると思い浮かぶのはもう1つ。
手の平を軽く広げると白い本が現れる。
トガが『アトミアの書』と呼ぶ強力な力を持った謎の書物だ。マーテルもスペルビアがいなくなった今なら上層部にのみなら安全だろうと、私がこの本を持っていることは伝えてあるという。
「……アトミア、って何」
コンソールのロックを解除するときに右手の甲に現れたあの紋章もアトミアの紋章と呼ばれていた。
「……それは分からん。……マーテルも、時が来たら、とだけ言って教えてくれないからな。なあ、何にせよ今の我々にとって重要なものであるという事実は変わらん。そしてその本に触れるのが現状、アルマ君、君1人のみであるという事実も」
「ん……」
前に本を見せてほしいというハルに渡してみたが、触れた瞬間ハルは本を放り投げたのだった。空中で光に包まれたかと思うと次の瞬間、私の腕の中にあった。ハル曰くとてつもなく熱かったらしく、他の人に協力してもらって確かめても同じ反応をした。
いずれにせよ、この本が通常私のクレアレアと同化して吸収されてしまっているという点から他人への譲渡は難しいのだが。
強力な力を宿すこの書は一体なんなのだろうか。
「さてと、アルマはこの後どうするの?」
「うーん……」
どうする、と言われても特にやることはない。戦闘部の被害が大きく――主に私達のせいだが――惑星へ降下して調査・殲滅ができる状況ではないからだ。今の状況でまた《使徒》による襲撃があれば、降下している人員の他に対処できるほどのイスクがほとんどいない。
これは新体制になって新たに追加された防衛手段だが船内ではリミッターがかかることになったのだ。クレアレアの治癒術以外での使用、そして《使徒》の力を抑え込むこの技術は双方の力の根源が同じであることに着目して構成された。
一度図書館艇で飛ぼうとして盛大にこけたのはいい思い出だ。あれは、痛かった。
「おーい、アルマー!」
名前を呼ばれそちらを見てみると大きく手を振る白クロークの男が見えた。その隣には金髪の女性の姿もある。
「あ、クレアとカイだ」
あの2人とは第0番艦で別れたきりになっていたから少し気になっていたのだ。無事でよかった。
「よう、アルマ。それにアラキア!」
「お久しぶりです、お二人とも」
「……元気そうで、よかった」
「そりゃこっちのセリフだぜ。別れたっきり会えなかったからな。……んでよ、お前らその赤の……って?」
カイが見ているのは私達がそれぞれ身につけている赤のマントだろう。思えば、この服装で初めて幹部以外と会うのだ。今が昼時なら食堂に近いこの辺りは人が多いはずだが、10時を回ったばかりであるため人はいなかった。
「……これは」
「光騎士、ですね?」
「ああ……うん……」
「へー、よかったじゃねぇか! 俺たちもうれしいしな。……ま、これからもなんかあったら頼ってくれよ! 弱っちいだろうけど、協力は惜しまねぇからよ」
「そうですよ。……では、これで失礼しますね」
「うん、またね」
2人の後ろ姿を眺めていると頭に手をのせられる。
「?」
「出来たじゃないか。……前は逃げ出してただろ?」
「……それは、……慣れてきたから、かな?」
「だとしてもだよ。えらいえらい」
そう言い、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「……ば、馬鹿にしてるでしょ」
「えー、なんのことかなー?」
「むううぅぅぅ」
「……さてと。……暇なら、ちょっと付き合ってくれないかな?」
「もちろんいいよ」
連れてこられたのは第1番艦内にある戦闘部の訓練施設だ。
ここの訓練場のみリミッターが解除されており模擬戦闘形式での訓練ができるようになっている。
「……」
15メートルほど離れたところに立つアラキアはパージを構えている。
しかしその形状は銃とは少し違っていた。
パージは正確にはライフルではない。剣としても使える銃剣なのだ。もっとも、PFOでは銃の方が圧倒的に有利なため銃剣となっている意味はない。
現実は違う。
接近戦が出来るということは追い詰められたときの対処法があり、なにより防御することができる。誰かを守ることができるということだ。
その訓練相手をしてほしいということだった。
「……準備は、いい?」
「ああ、どこからでもかかってこい!」
「……」
私は右手にクロノス1本、という片手剣装備で足を半歩ひく。と、溜める時間はつくらず床を蹴った。
「!?」
さすがにアラキアも驚いたらしく体をひねってその突進攻撃を避けると防御姿勢をつくる。
「っと」
着地すると左足を軸に半回転し再び右足で地を蹴ってアラキアに接近する。
そのまま剣を横に構えられた刃に向かい右、左、右、左、と交互に斬撃を打ち込んでゆく。
「……っ!」
しかし、アラキアもやられっぱなしではなかった。
私がわざと後ろに引きつくった隙を逃さずに接近してくると、やや大振りながら連続で斬りつけてくる。だが、接近戦をしたことがない事がはっきりわかる。打ち込もうと思えばいくらでも反撃できただろう。それに、一撃一撃が軽い。
とりあえず、これは一度模擬戦を終わらせ剣の扱いを教える必要がある。私だっていきなり銃を使えと言われたら同じだろう。
最後の一撃を弾くと、右手を左足の方へ下ろし軽くクレアレアを込めた刃で斬りあげる。
宙を舞っていったパージをアラキアは眺めていた。
「でいやあぁぁぁ!」
「ぬうぅ……!」
重い一撃が打ち込まれ剣を握る腕に力を入れる。
この数時間の訓練でアラキアの剣の腕はかなり上達していた。思った通り呑み込みが早かった。完ぺきとは言えないが、これならそこそこの相手までなら接近戦で対応できるだろう。
もっとも、《使徒》などおなると次元が違うが。
「はあぁぁぁ!」
「!」
突然の突き攻撃に身をかわす。
「……もらった!」
「!」
がら空きの背を柄で殴ると、アラキアはそのまま床に倒れ込んだ。
「うぅ……いたた……。もう一回!」
「もう一回って……、もう何試合やってるか……。十分じゃないの?」
「ダメなんだ。後ろにいて守られてるだけじゃなくて、守りたいんだよ。守る力が欲しいんだ。……おねがい、あともう一回だけ!」
「……わかった」
この前、カストに言われたことを気にしているのだろうか。
――それでよく彼女を守ると言えたものですね。守られていたのはあなたですよ
彼も時間稼ぎのためにああ言ったのだろうが、その言葉に対しアラキアは本気で怒っていたように見えた。いや、悔しがっていた。
アラキアにとって図星をついた言葉だったのだろう。
私にとってはとても頼れる、唯一連携がとれる人だというのに。
(あれ、そういえば、何でアラキアは死角にいても気にならないんだろう?)
それどころか共にいることで安心感がある。共にいて心地がいいのだ。
それはまたアストレや両親と共にいる時とは違った安らぎ。
抱いた感情に首を傾げると、パージを構えたアラキアの姿を見た。




