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第81話 本当の力


「……うぅ」

「ハル室長……、私にかわってください。交代してください!」

「ダメだよ、……ダメ。……須賀谷、あんた、……トゥルーエでも、底辺じゃん」

 荒い息の下でそう言うとハルは笑う。

「大、丈夫。……これでも、生命力は……ゴキブリなみ、って、みんな言うし。……それに、やりたい、んだ。……これは、償い。……巻き、込んで……しまった、皆への。手、出さないで。……これは、命令」

「室長……」


 どれほど時間がたったのだろう。

 もしかしたら数分かもしれないし、何時間も経っているのかもしれない。

 今もなお結晶を握り続けるハルは、目を閉じ須賀谷の肩に寄りかかっていた。蒼白な顔にはもはや表情はなく、ただ息をしているだけのようにも見える。意識があるのかさえ怪しいが、手に握る結晶が光を放ち続けているということは、まだわずかでも意識はあるのだろう。

 須賀谷はハルを見つめると決心したかのように頷いた。

「……俺は初めてあなたの命令を破ります。……許してください」

 手を重ね合わせると、力が緩んだすきに結晶を奪い取る。

「……」

 ハルは何か言いたげにピクリと身を震わせるが、何も言えずにそのまま体の力を抜いた。




「……それは、つまり」

「……大旅団は……壊滅した。……ディアル、《使徒》スペルビアによる環境値書変えで……皆」

「……っ!」

 あまりの衝撃に言葉が出なかった。

「研究室の1室のみ、……では、299万人以上が……亡くなったというのか。マーテル、正確な人数は分かるか?」

「第0番艦にここにいる戦闘部2人と総司令、そして艦内に戦闘部員43人……。そして研究室には237人。計283人だ」

「300万が……たったの283人だと……? さ、参謀は、僕の上官と同僚は?」

「……全滅だ」

「……なら、医療部は? アストレは?」

「アラキア、生き残っているのは研究室の1室に集められた研究部員のみだ」

「っく……!」

 白の手袋をした手が床を殴る。

「……だ」

「……え?」

 か細い声は段々と大きくなる。その声の主は俯き今まで微動だにしていなかった。

「……やだ……嫌だ、いやだイヤだ! 嫌だ……!」

 頬を涙がつたう。

「嫌だ、イヤダ……! 認めない、こんなの、認めない!」

「……アルマ」

「こんな結末……認めない。嫌だ……!」

「だが……」

「嫌だ……! 認めない……認められない……」

「けど、アルマ。これ……事実で」

「認めない……」

 宙で光がはじける。

「!?」

「認めない……ボクは認めない……」

「な、なんだ、この……威圧感は……」

 ピリピリとしはじめた空気にレクトルは目を見開く。

「クレアレアが、励起している……? しかし、これは、……許容限度を超えて」

「……認メない……こんなの……」

「アルマ君!? やめろ、これ以上クレアレアを取り込むな! 身体が持たんぞ!」

「なんだって!?」

 ついには揺れ始めた空気にレクトルは叫び、アラキアは目を見開く。

「嫌だ、認めナい……ウゥ……」

 光が幾たびも宙で弾ける。

「アルマ……!」

「ボクは……認めないんだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 ひと眩しい閃光が走り全員が目を閉じる。

 そして、遠くでチクタクという時計の秒針が時を刻むような音とガラスが割れるような音を聞きながら意識を手放した。



「アラキア君……アラキア君、聞こえるかね」

「う……うぅん……?」

 肩を叩かれ起き上がる。

 いつの間にか全員展開が解けており普段の姿になっていた。

「あれ、結城さん……? って、何があったんですか?」

「さて。……私にも皆目見当はつかないのだよ。だが……奇跡が起きたとしか言いようがない。そうだろう、マーテル?」

「ああ。そうだな、結城」

 頷くマーテルの口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

「何が、起きたんですか?」

「……全艦で……生命反応が復活したのだ」

「へ?」

「紛れもない事実だ。……だが、それが何故なのかはわからない」

「……で、トガ君、君は何か知っていそうだが。どうかね?」

 気を失っているアルマを抱えているトガの表情は仮面に隠れて見えない。だが、何となくヤツの感情が分かるようになってきている気がした。

 ヤツは今、悩んでいる。

「なあ、トガ。知ってるなら教えてくれないか? お願いだ」

「……アラキア」

「僕はこのまま夢を見ているかのような現実を受け入れるのは……怖いんだ……。本当に夢だったら、どうしようって」

「……本当に、お前は……人を扱うのがうまいな」

 トガは息を大きく吐き出す。

「……分岐した、んだよ。……クロノスは時空に干渉できる。……そして、コイツは時間を巻き戻した。その時点で大旅団が壊滅した世界と、被害が出なかったという世界が出来上がった。そして、私達は被害が出なかった、という世界パラレルワールドにいる。これが妥当な線だろうな」

「……パラレルワールド?」

「その通りだ。……事実は消えることはない。……しかし、世界というものはささやかな事象が1つ違うだけで分岐する。最初は1つだったものが、まるで大樹の枝のようにいくつにも、何万、何億……とな」

「それは……」

「……言っておくが、この世界こそ貴様らの正史であり、本来の世界だ。もしも、の世界には……貴様らは行くことはできない。安心しろ、貴様らがみているものは真実であり、事実だ。恐れることはない。……と、私はそろそろ退散するとするか。いつ捕縛されるかわからん」

 そう言うなり、トガの姿は闇に包まれ消え去る。

「パラレルワールド、か……」

 ぽつり、と呟いたアラキアの声は虚空へと消えていった。



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