表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/145

第80話 決戦スペルビア

 ぬらぬらとした鱗、そして鋭い牙。

 魚の様な表皮だというのに四足歩行する巨大な化け物。ディアル――《使徒》スペルビアが変化した姿だ。

 トガ曰く《使徒》の中にはごく少数だが戦闘に特化するため姿をラークのように変える者もいるという。そう簡単に変化できるものではなく、かなり力を使うというがその力は圧倒的と言わざるをえない。

 腕の一振りで隅まで宙を飛ばされ、素早く距離を詰められ踏みつけられそうになること数回。なんとか連携をとり起き上がることに成功しているが、未だに確かな手ごたえはなかった。

「……」

 今、ヤツの攻撃はトガにむいており横薙ぎ攻撃をバックステップで避けたトガに瞬時に近づいて更に左右から薙ぎ払いをかけ、トガはそれをまたバックステップで避け、そして出来た僅かな隙をついてスペルビアの懐に飛び込んで双剣による攻撃をしている。しかし、どちらの攻撃も相手にあたることはない。

 《使徒》同士だからといって今の状況から見ても、手を抜いている様子もない。

 クロノスを一度具現解除すると弓に持ち替え片膝をついて構える。

 早く決着をつけなくてはいけないという焦りと、慎重に攻めなければこちらが負けてしまうという恐怖。その2つの感情を抑え狙いを定める。

「待って、アルマ」

「?」

 肩に置かれた手に、弦を離そうとしていた右手が止まる。

「僕が陽動をするから、アルマはトガと連携して攻撃をしてほしいんだ。レクトルが盾を使って攻撃を受け止めてカウンターで相手の動きを止める。……いいね?」

「ん」

 再びクロノスを構えると、重心を低くしダッシュの姿勢をつくる。

「合図で。……まず、レクトルさん。……今です!」

「ああ! ……ヤアアアアァァァァァっ!」

 盾と当たった鋭い爪が空気を震わせる。

 間髪入れず飛び込むと空中から蹴りを入れ、続いてヤツの鼻腔を狙い斬りつける。しかし、空振りに終わる。

「トガ! ムータ!」

「ああ!」

「……え?」

 後ろへ大きく跳び、距離をとる。

 その時に後ろからとび込んできたトガとすれ違った時、起こった事象に思わず声を出してしまう。

 『ムータ』。

 これはPFO内の用語なのだ。

 必死になりすぎて思わず叫んでしまったが、本来ならPFOプレイヤー以外には分からないはずの単語なのだ。主にパーティを組んで戦う際に使うもので、私もNPCとパーティーを組んだ際に使ったことがある。連携をするときに重要になるのだ。

 攻撃をしているプレイヤーが後ろへ下がる数秒前に出すサインで、後ろに控えるパートナーとスムーズに交代するために出す号令であり、これがあることで通常は途切れてしまう攻撃を途切れさせずチェインという連続攻撃による威力上昇が得られるものだ。

 無論、タイミングが合わなければ意味がなく、それ相応の練習とパートナーとの相性が必要になってくるが、ボス攻略や攻防戦の時には絶大な威力を発揮していた。

(それを、なんで、トガが知って……)

 ブーツが床につくのを感じて足に力をこめてブレーキをかける。

 大旅団員ならば戦闘部員のほとんどがPFOプレイヤーということでなんとか説明がついたかもしれない。実際、チームで動く際には使われているという。

 だが、トガは大旅団員ではない。

 もしかしたら地球の生命ではない。惑星リエースや惑星ハーウィンのあるこの銀河系の生き残りであり、その生き残りが《使徒》となったのさえ思っていた。

 どういうことなのか、混乱してくる。

「おい、アルマ! アラキアに射撃でブレイクさせてそのあと交代だ!」

「!?」

 まただ。

 ブレイク。これも。

 一般的に考えて分からないわけでもない。しかし、敵の守りを壊す、という意味で使われることがあるのだ。PFOの中で。

 この連携で確実なダメージをスペルビアに与えられていることは分かっている。

 ぬらぬらとしている表皮には先ほどまでなかった傷が刻まれている。所々に深いものもある。

(PFOでもある程度ダメージを与えないとブレイクできなかった……)

 これは偶然なのか。

 ずっと前から抱いてきたPFOとはなんなのか、そしてこの現実とは何なのか、という疑問が再度膨れ上がってくる。

「……アルマ、今は信じてくれないか。……大丈夫だ、PFOの理論を信じて」

 半透明だが、しっかりと立っているマーテルは頷く。

「……わかった」

 マーテルのことを信じてここまで来た。

 なら、信じぬくのみ。

 トガが攻撃の手を緩め、後ろにとんだ瞬間、これまでずっと溜めていたクレアレアを全開放したアラキアの極太ビームによる攻撃がスペルビアの顔面を直撃する。

「ゴアアァァァァッ!」

 叫び声を上げ、よろよろと後進した巨体。

 次いで尻もちをつき、地面が大きく揺れる。

「アルマ、ムータ! ブレイクラストっ!」

「!」

 ありったけのクレアレアを2つの剣に込めると、大きく露出したスペルビアの腹めがけて床を蹴る。そこだけが唯一うろこに覆われていない。つまり、ゲームで言えば弱点。剣に纏った光が軌跡を描き、まるで翼のようだった。

「だああぁぁぁぁぁっ!」

 そのまま柔らかい腹を切り裂くと、一度全身の力を抜く。

 慣性に従い自然と沿った姿勢になり、そのまま宙で逆さまになる。

 そこで素早く剣の柄同士を打ち合わせ捻る。カチャリという音がして一振りの両剣となったクロノスを両手で持ち、垂直にして大きく突き出す。

 落下に加え羽によるブーストをかけて深く突き刺さる。

「っ!」

 限界を超えたのか、巨体は濃い汚灰はいを振りまきながら崩れ去ってゆく。

「……」

 そのおかげで汚灰はいの流れをはじめてしっかりと見ることができた。

 大部分はトガへ。そしてアラキアとレクトルには少量のみ。私自身は汚灰はいの渦の中にいたから確認は出来ていない。

「……終わったのか?」

 アラキアが茫然とつぶやく。

「……いや、まだだ」

 みるとあのバケモノがいた場所に黒衣の男がうずくまっていた。

 男はゆっくり立ち上がると笑う。

「……は、ははは。……まさか、ここまでとは。……だが、……まだだ」

「そんなボロボロの状態で私達に勝てるとでも?」

「……私が戦うんじゃないさ。……私の、駒が戦うんだよ!」

 背後で膨れ上がった殺気に全員が振り返る。

「!」

 いたのはスペルビアの配下である魚類系のあのラーク達だ。それもぎっしりと。

「そんな、ヤツらは水がないと出現できないんじゃ……!」

「そんなの、見せかけに決まってるだろう? クレアレアが空間にとらわれないように、ラークも汚灰はいの力さえあればどこにでも現れ、そして侵食し喰らう! 最終的には主の力となる」

「なんだとぉ!?」

 全員が一歩ずつ後ろに下がるが。

「おっと、僕がいるって忘れないでよね?」

「!」

「挟み撃ち……か。やられたな」

 スペルビアは笑う。

「トガぁ、そんなものだったなんてがっかりだよ」

「……ッチ! ……貴様なんぞ、私の敵では……ないというのに!」

「じゃあ、なんで本気を出さないんだ? ……まさか、そこの駒に情でもわいた? 君が本気を出せばこの場なんて簡単に吹き飛んじゃうだろうにさ」

「……」

 撃っても斬っても続々とわいてくるラークの群に、先ほどのスペルビアとの戦いで疲弊したからだが悲鳴を上げ始める。

 スペルビアがトガとの会話に夢中になっているだけ背後を気にせずにすむから救いだ。

「……ほんとに情でもわいちゃった、か。駒如き、そんな虫けらに」

「……黙れ」

「んー?」

「黙れと言っている! ……これ以上、侮辱するなよ、スペルビア。どうなっても知らんぞ」

「……駒を駒と、虫けらを虫けらと言って何が悪い? ここにいる奴らは全て私の研究のための駒さ。……それ以外のなんだと? それに、代えなら地球にたんまりとあるし……困るものはないさ」

「はぁ……」

 トガが押し殺したため息を吐いた瞬間、空気がまるで粘液にでもなったかのように重くなる。

「だからやめとけと言ったのに」

「!」

 深々とスペルビアの胸を貫いていたのは1本の両剣だった。

 しかし、それを握るのはトガではない。

「……殺す」

「き、さま……!」

 白い騎士装にポタポタと黒い血液が染みてゆく。

「……アルマ、そこまででやめておけ。貴様がそこまでやる必要はない。のちに苦しむだけだ。……スペルビア、引導は私が渡してやる」

「や、やめろっ……トガ……! うがぁっ!」

 振るわれた剣に今度こそスペルビアの身体は汚灰はいとなり消え去っていった。同時に押し寄せていたラークも消え去る。

「……今度こそ、終わったのか」

 アラキアは床に座り込む。

 それでもなお、部屋の中央では2人のエルフが身動き一つせず立っていた。

 レクトルは剣をしまうと2人に近づいてゆく。

「ご苦労……いや、今回はお疲れさま、だな。アルマ君。……そしてトガ君、君には感謝せねばなるまい」

「……いえ、私は私の目的があってここに来た。それだけです。結城総司令。……そう、それ以上でもそれ以下でもなく、私の目的は達せられた。で、権限はどうなった?」

「それなら全て、私の元へ戻してもらえたよ。だろう、マーテル?」

「ああ。結城、いやレクトル。その通りだ。……ただ、1つ伝えなくてはいけないことがある」

 マーテルは俯く。

 その動作にその場にいた全員が不安を覚えた。伝えられた言葉に顔色一つ変えなかったのはトガだけだった。

「大旅団全体で確認できる生命反応はここ、第0番艦を除き、……第4番艦……研究部艇の研究室の1室のみだ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ