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第78話 片山賢


「……ただの傀儡とかしたか、ジューク。それとも何か理由があるのかね?」

「……儂は」

 ジュークは一瞬だけ迷いを見せたが、次の瞬間には覚悟を決めたような表情を浮かべ結城――レクトルを見ていた。

「そやつらは反逆者。……そして、証拠もあります。そこをどいていただけないか、結城総司令」

「そうはいかんな。おかしいとは思わなかったのかね? そして、これを見てもそう言えるかね?」

「!」

 結城が差し出した端末を見てジュークは目を見開く。

「私の部下が調べてくれた真実だ。お前たちはそれでもアルマ君達を捕らえようというのかね?」

「それは……」

「……」

 うろたえる光騎士の中でカストはただ1人、表情を崩していなかった。

 考えてみればまだイスクとしての経験の少ないアラキア程度ならすぐに捕らえられたはずなのだ。しかし、彼は動いていなかった。本気ではなかった。

(カストが待っていたのはこれだったのか)

「……答えは?」

「……っ」

『何をしてるんだい、ジューク? お前のやるべきことは1つだろう? 守るために、ね?』

「この声は!」

 拡声器から流れてくるようにシップ内に響く声はディアル総司令のものだ。

『なあ、ジューク、分かっているだろう? 僕が船の鍵を握っている、っていう意味を』

「……っく、ディアル。分かっている。……こちらは戦闘中だ。これ以上話し掛けないでくれないか」

『そう言うと思ったよ。だから、プレゼントだ。……てこずってるみたいだし、邪魔者も増えたみたいだからね』

「なに……?」

「おい、伏せろっ!」

 沈黙を保っていたトガが叫び、弓を構え大きく横に飛ぶ。

 伏せた体の上を凄まじい勢いで通り過ぎた剣が突き刺さったのは。

「何だコイツ!?」

『大海の悪魔、リヴァイアサンさ。どうだい?』

「っは、これで、か?」

『なに?』

「これがリヴァイアサンだと? 笑わせてくれるな!」

 1人飛び出していったトガは両剣を真ん中でねじるような動作をする。するとカチャリという音を立てて2本の剣に別れた武器を左右の手に構えリヴァイアサンに向け斬りかかる。

 リヴァイアサンも巨体ながら素早い動きで応戦するがトガの動きには勝てなかった。

 まるで踊るように攻撃を避けながらその巨体を切り刻んでいくさまは圧巻だった。

 イスクであってもあそこまでの動きは出来ない。

 素早い攻撃の中でもしっかりとクレアレアが織り込まれており、これまで光騎士こうきしと戦っていた時でさえ手加減していたのが分かる。

「はあぁぁぁぁっ!」

 ついには地に倒れ伏したリヴァイアサンに止めとばかりに十字に斬りつけるとリヴァイアサンは汚灰はいとなり消えていった。

『ば、馬鹿な。リヴァイアサンが、たったこれだけで!?』

「……正確にはリヴァイアサンの劣悪な模造品、だろう? 《使徒》スペルビア」

『く、くそがあああぁぁぁぁ! こうなったら、くそっ! マーテル、お前も諦めが悪い奴め!』

「マーテル! そこにいるの? 無事なの?」

『……無事、とは言い難いな。まだ全権を握られていないとはいえ、大半の権限を奪われてしまっている。……そうだろう、結城? 貴方は真っ先に権限を解除されていたからな』

「そうだな。無事ならば私もこんな周りくどいやり方でなく、この絶対命令を解除しすぐにでもヤツを捕縛しに行くのだが」

「絶対命令だと!?」

 アラキアが驚くのも無理はない。私だって驚いている。

 絶対命令というのは、総司令と光騎士こうきしのみがもつ権限である。これが発動されれば大旅団員は己の感情や意思に関わらず絶対に従わなければいけない命令なのだ。

 逆らえば処刑の対象になるほどのものであり、本来緊急退避用の命令として整備されていた。

 それがこんな状況で使われていたとは。

 これは私達のことを相当の邪魔者と見たらしい。

「絶対命令は発令者にしか解けない。……だから私達は従うしかないのよ、アルマちゃん」

「ま、それも処刑されたくなければ、ですがね」

 カストは涼しい顔でそう言いきると構えを解く。

「ちょ、ちょっと何してるのよカスト!?」

「どうもこうも。逆らうのは自由ですよ。処刑されたくない、と思わないのであればね」

「そして、こうよんだのだろうカスト君。……元凶を倒してしまえばその処刑もなくなる、と」

「まあ、倒せればですけれどね。そして説得できれば。……それに、私とて良心がないわけではないんですよ? 仮にも弟が守ろうとした人であるあなた達をこの手で殺すなど気分が悪いどころではありませんし、そもそも私はこの件、最初からおかしいと思っていますからね。いえ、彼を手引きしたのも私ですし」

 カストの視線の先には黒スーツの男が立っていた。

 一見してすぐにイスクではないと分かる。

「結城総司令、これでいいですね?」

「ああ。もちろんだカスト君。ご苦労だった。……そして片山君も」

「はい、結城総司令。……報告いたします。やはりマザーシップ襲撃の際、防護壁を一時的に解除しインヴィディアを船内に入れたのはディアル・アッカーマン総司令……《使徒》スペルビアでした。そして、今回の件、明らかに濡れ衣であるという証拠を入手しました」

「ご苦労。……聞いただろう? これでもまだジューク、君はディアルのもとにつくのかね!?」

「……儂は」

 しばしの沈黙。

「……ディアルに人質をとられていたのじゃ。300万に及ぶ大旅団員を。……従わなければヤツは彼らを躊躇なく殺していっただろう。ヤツは船の制御権を握っておるのだからな」

「……」

「じゃが、それも……終わりじゃ。アルマ、アラキア、どうかヤツを止めてくれ! 儂らは大旅団員にでる被害を最小限にするために走ろう」

「私を忘れるんじゃない、ジューク。……一時の協力関係とはいえ、私もヤツには腹が立っていてな。……ぼこぼこにしないと気が済まない」

「ああ、もちろんじゃ。……にしてもトガ、何故お前さんはここまで大旅団の手助けをしてくれるのじゃ?」

「……別に手助けをしているわけではないさ。……私には私の目的がある。ただそれだけだ」

 そういうとトガはジュークの横をすり抜け奥の扉へと向かう。置いて行かれぬよう私達もその後を追いかける。

「どうか、ヤツを討ち取ってくれ……」

「言われなくても」



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