第77話 マザーシップの守護者達
「うぅ……」
迫ってくる魚人に一歩、二歩、と後ずさる。
追手とラークはあの2人が抑えててくれているが、行く先で出現するラークは倒して進まねばならない。
「さっさと倒せ!」
「うー……気持ち悪い……」
覚悟を決めると一気に切り裂いた。
汚灰に分解されてゆく残骸を見ながらトガはため息をついた。
「……貴様、どれだけこいつらの事を嫌がってるんだ」
「だってキモイじゃん!」
「……ああ、キモイ」
「あれ、認めるんだ?」
「事実だからな。だからこそ早く倒してしまおうなどとは思わないのか?」
「……だって、近づきたくないじゃん?」
「……そう、だな」
トガは頷くとラークから距離をとり連続して魔法を放った。
先陣をきって進むそんな2人のやり取りを見ながらアラキアは考えていた。
アルマとトガ。
2人の連携のとり方は相変わらず凄まじいの一言だった。
今は、曰く雑魚ばかりだから各個撃破しているが。
トガは《使徒》であり、大旅団の敵と称している割にはこちらの手助けばかりしているような気がする。それに彼の真意は分からない。
口ぶりからはアルティレナスを毛嫌いしているようにさえ思えるのだ。その点では滅ぼしてほしいと話していたというラストと同じだが、《使徒》の本懐とはアルティレナスの復活であり矛盾しているともいえる。
《使徒》は元は人だった。
ならばトガとはどんな人物だったのだろうか。
「ヤツらまだ出てくる?」
「まだ出るだろうさ」
「……キモイ」
「……それを言うな。剣が重くなる」
あのアルマとでさえ普通に会話している。
ますますどんな人物だったのか気になってくる。
それに。
(……あの感覚)
遺跡の最奥でトガを仰向けに寝かせた時、ある事を感じたのだ。触れなければ分からなかっただろう。
あれは明らかに。
アラキアはトガの後ろ姿を見つめていた。
大分歩き壁に囲まれたエリアに入ったためラークも発生しなくなっていた。
どうやらスペルビアの配下のラークは水がないと出現できないらしい。
ここまで来れば死角から襲われる可能性は低いと言えるが、それでも待ち伏せできるような広い場所はまだある。扉の前にある円形の広場だ。
そこできっと彼らが待っている。
大旅団最強にして最後の砦。大旅団における最大戦力。
光騎士が。
「……分かるか」
頷く。
先ほどから高濃度のクレアレア以外に空気がピリピリしている。
そして威圧感。
「……さすがというべきか。一筋縄では、いかないな」
「回り道があればそっちを選んだし、戦いたくなかったけれど」
「ボクも今回ばかりは自信ないよ……」
立ち止まりそれぞれ武器を構える。
視線の先には4人の人。横一列に並び静かにたたずんでいる。
全員がスカーフやマントなど何かしら赤い布を身につけている。そしてその布には紋章が刺繍されている。
「包囲網を抜けてここまでくるとは、さすがじゃのうアルマ」
「アルマちゃん、私達も手荒な真似はしたくないの。大人しく投降してくれないかしら?」
「……そこを、通して。ジューク、ユニータ。ボク達には戦う理由はないでしょう?」
「いいえ、ありますよ。少なくとも私達には、ね。私達がここに集められた理由である貴方方の捕縛はもちろん、今そこにいるのは《使徒》ですよね?……私達、光騎士は大旅団を守る……いいえ、マザーシップを守る最後の砦。引くわけにはいかないのです。大人しく降参してくださればこちらとしてもまだ酌量の余地はあったのですが……残念です」
「大旅団の、敵……我々は……通すわけにはいかない」
「カストさん、フィデさん……」
どちらにせよ、戦いは避けられないことはこれで確定した。
問題は圧倒的な力の差をどうやって埋めるか、だ。
トガはともかく、私とアラキアでは1対1でもまともにやりあえるような相手ではない。アトミアの書の力を使うにしても制御になれていないこともあり力になるかは分からない。それにあの力はきっとむやみやたらに使っていいものではない。
「……」
それでもここを突破してスペルビアを止めなくてはいけない。
覚悟を決めると武器を握る手に一層力を込めた。
「……敵対の意志あり、と受け取るが?」
「……っ」
膨れ上がった殺気に冷汗がつたう。
「ならば、もはや……問答は無用! 光騎士がⅠジューク、参る!」
「光騎士のⅡ、ユニータ。……手加減はしないわ」
「やれやれ……光騎士がⅢ、カスト……はぁ、面倒ですね」
「光騎士Ⅳ、フィデ……」
彼らの手に光が集まり形作る。
光煉、アーマライトAR-50、ソピアー、ヤーヘン。それもこれもアンチ武器であり、その使い手も強い。
だが最悪、策がない事でもない。
(大丈夫。負けない。ヤツラは知らない。アレの事を……)
刃のきらめきと銃撃による光、その2つが黒衣の周りで激しく明滅する。
「ちっ……!」
「鎌と銃の連携はどうだ、……《使徒》?」
「……っは、面倒だな。だがな、私とてこうして話しながら剣を振るう余裕くらいは持ち合わせているさ」
「やっぱり、あの時は本気じゃなかったのね!」
「あれで本気なら私はどれほど……弱いと……!?」
トガは両剣で鎌の一撃をはじくとフィデの懐に飛び込む。
「!」
「私は……《使徒》だ……。だが、ヤツラとは違う。見くびられては困る」
背側に向けていた手のひらを反すと、両剣を弄びながら連続して攻撃を叩き込む。
「フィデ!」
その攻撃も体勢を立て直した銃撃を避けるため数撃で引いたが確実にダメージを与えていた。
軽い身のこなしで後ろへ下がり距離をとったトガは両剣を構え直すと静かに笑った。
「っく!」
横に飛んだ瞬間、今までいた場所でかまいたちが炸裂する。
パージはアサルトライフル型の銃であるため立ち止まらずに連射することもできる。しかし、アラキア自身それに慣れていないのは戦いに大きく響いていた。
「アルマの友であり、新たにアンチ武器パージに選ばれたイスク。どんなものかと思っていましたが、正直期待ハズレですね。……不相応、というべきでしょうか」
「なに……!」
「あなたの適性はやはり参謀なのでしょう。そして、武器を手にしたところそれに相応しい補助が無ければ本来の力を出し切れない……。それでよく彼女を守ると言えたものですね。守られていたのはあなたですよ、アラキア。いいえ、六合凪さん」
「うる、さい……!」
「あなたの存在が彼女の枷になっている……そうは思いませんか?」
「……それは、戦場に出る度痛いほど感じてる。けれどもっ僕はっ!」
「あなたの言わんとしていること、……よく分かります。ですが、そう易々と挑発に乗ってはいけませんよ! 参謀の才も疑った方がよいのでしょうかね!?」
「なっ……! ば……馬鹿にするなぁぁぁ……!」
「はああぁぁぁっ!」
刃がぶつかる度、火花を散らす。
「なかなかやるの!」
「そっちこそ……!」
こちらは二刀、あちらは一刀。なぜ、この速さについてくることが出来ているのだろうか。
本気で相手をしているというのにジュークの表情には一切焦りがない。
「いつかお前さんと刃を交えてみたいと思っておったが、よもやこのような形で実現するとはの」
「……」
「それにしては妙じゃのう。この太刀筋、どこか覚えがあるのじゃが……」
「は?」
私とジュークは模擬戦どころか、訓練さえ共にしたことはないはずだ。
「そうじゃのう……。お前さん、どことなく似た雰囲気じゃのう……」
「だ、誰と……?」
「トガ、とかいう《使徒》とじゃ。感化されたかのう?」
「はぁ!?」
ヤツとは誰よりも早く顔を合わせていたということ以外、何もないはずだ。それに蒼髪のエルフなど現実でもPFOでも、そして大旅団でも知り合いはいない。前から知っていたということはない。
そもそもトガのことなど本当に何も知らないというのに。
「ほれ、がら空きじゃぞ」
「!」
切っ先が胸に迫る。
後ろへ跳ぼうとするが速い。
胸当てから約1cmのところまで迫った刃。しかし傷をつけることはなかった。
キン、という音が鳴り見えない壁に押しとどめられた攻撃にジュークは目を見開き体勢を崩す。
「もらった!」
左の剣で刀を抑え込むと右の剣を前に突き出す。
だが。
「……え?」
切っ先が刀の先でどちらも受け止められていた。
ジュークは片手で刀を握っていた状態であり、すでにグライロスを受け止めている状態。そして右に持ったグライアオスを受け止めているのは刀の切っ先であり。
「……馬鹿な」
とんだけの馬鹿力なのだ。いや、こんなことが可能なのか。
「光騎士のⅠ、その名は伊達ではないというわけじゃ。ほれ!」
「うわああぁぁぁぁぁっ!」
そのまま押し返され宙に飛ばされる。飛ばされる直前、パリンッという嫌な音も聞こえていた。
「うぐっ……」
床に叩きつけられ手から剣が離れる。
しかし、完全展開していたのは正解だったのか、小さな傷は負っているものの動けなくなるような怪我はない。
両手をついて立ち上がる。
「……!」
双氷剣。手から飛ばされた剣はすぐ近くに落ちていた。
だが、その刃は。
「……砕け……てる?」
「どうじゃ? 光煉の特殊能力、斬魔は?」
「な……」
アンチ武器。
そう呼ばれる理由は性能以外にもある。
武器そのものに付与された特殊能力だ。ユニータのアーマライトAR-50は千里眼。カストのソピアーは気配遮断、フィデのヤーヘンは生命吸収。
そしてジュークの光煉は斬魔。
魔の者に対し絶大な効果を誇るというものだ。
全てPFO内での効果だが、そのイメージを正しく再現できれば使うことも可能だろう。
「本当に……斬魔なのか……!?」
本当に特殊な能力でPFO内でも超高難易度ダンジョン内のボスである邪神、そしてその配下である魔神や魔物といった魔のものにしか効果を発揮しなかったためアンチ武器の中では役に立たないと言われていた。
そう、『魔のモノ』にしか効果を発揮しないはずなのだ。
「何を疑っておる。儂が魔と判断すれば、それは魔じゃ。そして論理的に考えたとしても、誰よりもトルムアやラーク、そして《使徒》と対峙していたそちは誰よりも、……汚灰による汚染が進んでいるはずじゃ」
「え……?」
「いくらイスクと言えども、己の浄化能力を超えた汚灰を取り込めば汚染されるのじゃよ。イスクが汚灰に対抗できる、というのは単に浄化能力があるかどうか。その能力の大小であり、ただ単にクレアレアを扱い展開し戦うことができるもの者という意味ならば『イスク』の数は大幅に増えるじゃろうな」
「……そんな、説明は」
「受けてないと? 当たり前じゃ。浄化能力の限界を超えるスピードでラークを殲滅できるものがいようとは思ってもなかったのじゃからな。……そんな逸材を、この手で斬らんといけんとは」
「……っ」
まだ、諦めることはできない。
相手がアンチ武器を使ってくるのなら。
言うなれば、目には目を歯には歯を、だ。
「投降、してくれるな。アルマよ」
私の首元に光煉を突きつけながらジュークは言う。だが、私はそれにニヤリと笑った。
「来たれ時神、歪めよ蒼穹を……クロノス!」
構わず一歩前に出るが、刃は私には突き刺さらない。輝く刀の刃は、くにゃり、とねじ曲がり私からそれていた。
「なにっ!?」
同時に右手には青、左手には赤色の剣を握っていた。どちらも柄から剣先にかけて綺麗なグラデーションがかかっており、3重の金色の輪の装飾が持ち手に施されている。
「まさか、それは……!」
「ああ。そうだよ……ボクの本当の武器だ……」
「アンチ武器……時空剣クロノスじゃと……!」
クロノス。
それは剣カテゴリのアンチ武器だ。
その能力故にPFOでは最強の名を冠していたアンチ武器である。
形勢逆転だ。
そして。
「ズエアァァァッ!」
「なんです!?」
雄たけびが聞こえたかと思うとアラキアと戦っていたカストが後ろへ大きく飛びのく。アラキアとカストの間には大きな盾と長剣を携えた赤い影が割り込んできていた。突き出された長剣がカストのいた場所で唸りをあげる。
「……!」
「久しぶりだな。いや、はじめまして、と言うべきかね?」
赤の騎士は光騎士に不敵な笑みを投げかける。
「お前は……いや、あなたは……。何故、ここに!?」
「言っておくが、ホログラムではない。本物だ。不穏な噂を聞きつけたものでな。……で、お前たちは何をしている? 光騎士よ。お前たちの敵は誰だ?」
「……っ!」
いつの間にか全員が動きを止めていた。
それを見た赤の騎士はジュークの元へ歩み寄った。
「……ジューク、お前は何故ただ命令に従っているだけなのかね?」
「……それは、……これは、私に与えられた使命だからです。結城総司令」




