第76話 第0番艦
凄まじい衝撃にしびれた体の感覚はまだふわふわとしている。
第0番艦までたどり着き、墜落するように着陸したワンシップの中で私はアトミアの書を抱えたままへたり込んでいた。
「……アルマ、大丈夫か?」
「う、うん……。アラキアは……みんなは……?」
「僕は大丈夫」
「俺も平気だ」
「私も怪我一つありません」
どうやら攻撃の軽減はうまくいったようだ。
あの衝撃も書によるものが大部分だったらしい。これが書の力と反動なのか。
「……とりあえず、奥に進もう。時間が惜しい」
一度歩いた道は覚える。
それは私の特技の1つだ。
マーテルによるとディアルがいるのは前にマーテルとあったあの部屋だという。
「にしても、ここが第0番艦かぁ。なんつーか、変な場所だな」
カイは水が張り巡らされた船内を見渡しながら言う。
「縁がない場所と思っていましたが、……確かに不思議な場所ですね」
「満ちてるクレアレアが異様っつーかよ。これが汚灰ならまるで《使徒》みてぇな濃さだな」
「そうですね……」
2人が話していることはもっともだ。
「……そういえば、みんな……気分は?」
ここまでのクレアレア濃度だと対応できるクレアレアは少ない。だからこそ、ここを目指したのだが、それはあくまで私とアラキアなら耐えられるであろうという試算の元だ。カイとクレアは含めていない。
「ん? なんともねぇよ?」
「私もそこまで適性は高くありませんが何ともありません」
「ふうん?」
真っ先に思い浮かんだのはマーテルがクレアレア濃度を調節してくれているというものだったが、マーテルはディアルに権限を奪われぬよう必死に抵抗しているはずでこちらに力を割くような真似はしていないはずだ。
(まあ、考えていてもしょうがない)
今はディアルを止め、中枢にあるであろう改ざん記録を引っ張り出すことが最優先だ。生きるか、死ぬかなのだから。
「あともう少しで半分……」
少し広めになっている場所があるが、そこから先は分岐もなく1本道のはずだ。だからこそこさえ超えればもう少し。
「……アルマっ!」
「あー……そりゃ簡単に通してはくれないよね……」
行く手に立ったいくつもの光の柱にため息をつくと武器をかまえる。
大方第0番艦の環境に耐えられるイスクを総動員して捕らえようといったところだろう。再編成を終え、ここに直接転送してきた、ということだ。大旅団内だからこそできる芸当だ。
「総員、迎撃準備! 絶対にここを通すな!」
光の柱から出現したイスク達は手に持った武器を私に向ける。
銃装備が一番多く私達を囲むように、後ろには魔法職の長杖が見え隠れしている。
そして、先頭には数少ない接近職が10名ほどいる。
「……」
総員100人以上。戦闘部の規模から見れば少数の予備戦力を残し大方を投入してきたと見ていい。
「あー、ボクもかなり過大評価されてるようで……」
ゲームなら喜ぶ。
しかし、今は全くもってうれしくない。
「目標はアルマとアラキア。ヤツらだけは生きて捕らえろ! 反逆者には厳重な罰をっ! それ以外は殺してもかまわん!」
「な……に……」
いくら大罪人扱いされているからといっても、大旅団内でこれ以上死者を出そうというのか。インヴィディアの襲撃事件を除けば死者は出ていないというのに。私の扱いはともかく、他は殺せ、だと。
「……っ」
許せない。
奴らは上からの、ディアルの命令を実行してるに過ぎないだろうが、それでもそれを実行に移すとは。
そしてなによりそんな命令を出したディアルを許すわけにはいかない。
「……アトミアの書よ」
手元に具現化こそさせていないが、書は私と同化していると言っていい。ならその力、具現化させなくともひきだせるはずだ。
両手に握った剣の刃が眩い光を宿す。
手加減するつもりはない。手加減できるわけがない。
湧き上がる怒りに柄を握りしめる。
「はあぁぁぁぁっ!」
轟音が鳴り響き刃から斬撃がとぶ。
あれだけ密集していれば避けることなどできない。悲鳴が上がり前方の一団が倒れていくのが見えた。
その中でチラチラと光って光に包まれる人影もいたが、さすがに私も殺すまではしない。安全装置が働いて致命傷を負う前に本隊へ転送されているのだろう。
無論、この安全装置は船内のみ、そして戦闘部員のみに働くものであるためそうそう目にするものではない。
私も説明時を除いてみたことはない。
完璧でないとはいえ気が楽になる機能であることに変わりはない。
「ひ、怯むな! 構え、……撃て!」
向けられた銃口から色とりどりの光の光線が撃ちだされ迫ってくる。
それでも不思議と落ち着いていた。
「皆それぞれ背を向けて構えて。……合図で一気に撃って」
剣を床に突き刺すと4人を包み込むように防御壁が展開する。
今度は反動もなく、攻撃は全て打ち消されてゆく。これにはさすがに追手のイスク達も驚いたのか若干ざわつき始める。
「今!」
そしてそれが収まらぬうちにアラキア、カイ、クレアによる攻撃が放たれ前面に出ていた狙撃隊が倒れてゆく。
「……ま、魔法部隊、回復部隊、詠唱用意!」
半数以上があっという間に退場した現状を見て指揮官であるらしいイスクの声が上ずる。
最前面にいた接近職のイスクは既に倒れたのか見当たらない。そして狙撃手たちも半壊状態。これならば接近戦を仕掛けても問題ないだろう。
「……っ!」
ほとんど見えないが羽を構成し羽ばたかせブーストさせる。床を蹴った体は一瞬にして魔法職のイスクの目の前に移送していた。
「っふ!」
詠唱中は無防備である。
恐怖がありありと浮かんだ彼らにむけ左右に持った剣を振り続けた。
「アルマっ!」
離れたところから聞こえたアラキアの声に振り返ると色とりどりの魔法が私に向かって飛んできていた。種類が多すぎてもはや何の魔法だが分からない。
今、私は人が密集している場所にいる。あれがここに降り注げば私以外にもあたってしまう。ゲームのように味方には当たらない仕様などないのだ。
そうすることもできなくはないが、それができるのはクレアレアの扱いにたけたカストなどの一部のイスクのみだろう。
「っく……障壁展開……!」
先ほどよりも大きな防御壁を展開する。
しかし、その様子を見ていたクレアが何事か叫んだ。必死なのはわかったがその姿はイスク達に隠れ、すぐに見えなくなってしまった。
「……え?」
だが、クレアが何と言っていたのかはすぐにわかった。
攻撃を中断し障壁を展開した私に向け銃口と杖が向けてあるのだ。
彼らを守るための障壁なのに。
私は、大旅団員を殺すためにここにいるわけではないのに。
引き金が引かれる。
障壁展開中は無防備。それは詠唱中と同じ。
(……彼らは)
もう私を敵としか見てくれないのか。
私は敵なのか。
(そう……か……)
今からでは防御壁は展開できない。
半ばあきらめ来るであろう攻撃に備え目を閉じる。
「何をぼざっとしてる! 死ぬ気か!」
上から飛び降りてきた黒い人影は私を引き寄せると小さいながらも強固な障壁を展開させる。
「……!」
私より少し高い程度の背。そして青い髪にエルフ耳。
仮面の隙間から見えた血のような瞳と視線が交わる。しかしすぐにそらされ仮面で隠されてしまう。
「……どうして、ここに」
「私には、私の目的がある。それだけだ。……そして、今、それはお前たちと利害が一致しててなっ!」
ブン、と右腕で振られたのは片側が赤、もう片側が青でグラデーションがかかっている両剣だった。金色の輪が印象的なものだ。
振られた風圧で障壁に魔法がぶつかり起きていた煙がはらわれる。
トガの姿をみたイスク達が大きく後退する。
「……ふん。弱弱しい奴らめ。……私がそんなに怖いか。……そうだろうな、私は敵だからな」
「き、きさまは、《使徒》トガ……!」
「そこを通せ指揮官。私は変わり者でな。貴様らと争うつもりはないが、……立ちふさがるのなら手加減はしない。私は、この奥にいる《使徒》に用があってな。……そこを通せ」
「な、なにを言っている……!?」
「そのままの意味だ。この奥にいる《使徒》スペルビア……貴様らがディアル・アッカーマン総司令と呼ぶ人物に用がある」
「何……!」
完全にイスク達の統率が失われたと見ていい。
イスク達を押しのけながら合流したアラキア達と共に強引に包囲網を突破する。
しかし、カイとクレアは包囲網を抜けたところで立ち止まる。
「残りは任せとけ!」
「これくらいなら大丈夫ですから!」
確かにまだイスクの中にはこちらを狙ってくる奴らもいる。
だが、その少数だけでは私達の敵ではない。追ってこられても問題はない人数だ。
その考えを読んだかのようにトガは口を開く。同時に指さしたのはイスク達の背後だ。
「……ラーク、だ。言っておくが私ではないぞ。スペルビアの配下だ。忌々しい」
「ひっ……」
ぬめぬめとした肌。そして鱗。
惑星ハーウィンでよく目撃されていたあの魚人もどきたちだ。次々と水の中から現れてはこちらに向かい歩み寄ってくる。
陸上での動きがそこまで早くないため会話する余裕はある。
「そこの指揮官! 今の状況をよく考えてみろ! 貴様らの本当の敵はコイツか? それともソイツらか?」
「そ、それは……」
「……ふん。……戦う気があるのならば聞け! そいつらは主からの力の供給がある限り永遠に沸き続ける。死にたくないのならば再編成しうまく入れ替わりながら戦え。根源は私らが断ってやろう。……それと」
宙にいくつもの黒い靄の塊が現れる。
まるで《使徒》が転移する際に包まれるあの靄だ。そしてラークが出現する際の目印でもある。
「貴様らを手助けしてやる。……行ってこい、私の仲間たち」
「これは……!」
報告にあった有翼系のラーク。なかなか目撃されることはなく、目撃されたとしても強力すぎるためなるべく交戦しないよう呼びかけられていた種だ。
全体的に鳥類のような見た目をしているラークが多く、黒一色だけでなく赤や紫、金など装飾が綺麗なものもいた。まさしく別格と思えるラークたちだ。
その先陣をきっているのはラークとは思えない白一色のオウムだった。
「ラークが……ラークを、襲ってる?」
「ああ。可愛いだろう? 私の配下だ」
トガは魚類系のラークを倒してゆく己の配下を見ながら、仮面で隠れていない口元に満足そうな笑みを浮かべる。
「……だが、死なないわけではない。……時間が惜しい。ここはカイとクレア達に任せて行くぞ」
むぐぐぐ……




