第75話 戦闘――宇宙にて
ワンシップは通常、目的地まで自動運転で航行する。
しかし緊急時に備えて手動運転モードもあり、搭乗する人員は皆、その扱い方の訓練を受けている。左右に1つずつあるレバーが操縦桿なのだがその操作方法はゲームと酷似している。左で上下左右、右でゲームではカメラにあたる機体の回転だ。
そしてちょうど親指が当たる場所にあるボタンはビームの発射ボタンになっている。
本来ならば隕石や浮遊物など行く手を遮るものに使うものだが、今回は違う使い方も考慮せねばならないだろう。
操縦桿を握りしめるとワンシップを覆う膜を想像し障壁を展開する。カイやクレアが同じワンシップ内にいる限り、攻撃されたとしても足止めのみでこの船を撃ち落とすような真似はしてこないはずだが念のためだ。
最初は慣らしのため荒くなってしまったが段々カンを取り戻しつつあり、比較的スムーズに航行できている。そして宇宙空間のため実感はないだろうが、かなりのスピードを出している。
なるべく大旅団のワンシップと鉢合わせにならなければいいのだが、それは無理だろう。
今向かっている第0番艦は船団の中心に位置するのだから。そしてその前方には本部のある第1番艦。戦闘は必須だ。
(大丈夫だ……きっと大丈夫だ……)
操縦桿を握る手が汗ばんでくる。
攻撃手段は遠距離攻撃であるビームのみ。
そしてそれは最も苦手とする攻撃方法の1つだ。
操縦桿からの操作以外にも計4つ設置されている小型ビームによる攻撃でアラキア達も援護してくれるだろうが果たしてどうなるか。そして交戦してしまえばもう後戻りはできない。
「アルマ、索敵範囲内に複数の反応だ。来たぞ」
「……ん」
「接触まであと5分ってどころだ」
既に3人には配置についてもらっている。
と、耳元につけた通信機が鳴る。
「……」
アラキアが頷いたのをみてつなぐ。と、聞こえてきたのはマーテルの声だった。
『……アルマ』
「……マーテル」
マーテルも大旅団の管理者としてこの件は知っているだろう。
もしやトガがアトミアの書と呼んだあの書物の事だろうか。それとも裏切り者、と罵られるのか。
『……アルマ、動き出したのだ。ヤツが……ついに』
「へ?」
予想外の返答に戸惑う。
一体マーテルは何を言っているというのだ。
『……巻き込んでしまったことを詫びる。すまなかった』
「どういうこと?」
『……大旅団を囲む悪意、ヤツから大旅団員を守るために私は動いていた。だが、ヤツの方が上だった。ヤツはアトミアの書の存在を知り、書を求め、書の力で自らの理想郷を作り上げようとしていた。そのためには大旅団員などただの駒。ヤツから書を守るために私は貴方に書を渡したのだ』
「……」
『ヤツが邪魔者を、君達を排除し書を得ようと起こしたのが今回の騒動だ。止められず、巻き込んでしまった……。すまなかった』
「ヤツ、とは?」
『……《使徒》スペルビア。またの名を、ディアル・アッカーマン。大旅団の総司令だ』
「!」
大旅団総司令ディアル・アッカーマン。
確かに今朝ゲート広場であった彼は書の事を知っている素振りを見せていた。
そして、彼ならば大旅団にうその情報を流しさらに全体を動かすことも可能だろう。何よりマーテルの事を知っている。彼女からクレアレアの性質について少なからず情報を得ているだろう。
「どうしてディアル総司令が……」
『ヤツはもともと研究の為ならば、手段を択ばない人間だ。そして、ヤツは知ってしまった。最高の研究材料を、アトミアの書を。私は何度も危険性を伝えたがヤツは聞く耳を持たなかった。故に、書を隠すためアルマ、貴方に託したのだが《使徒》となっていた彼にはその証が見えていたのだろう。気が付かれ、罠がはりめぐらされたと私が悟った時には既に遅かった。ヤツさえ倒せれば……打破できる可能性も……あるが』
「……つまり、ディアル総司令を倒せばいい、ってこと?」
『倒し……かつ悪行と正体をばらせれば、あるいは。……そしてヤツはいま第0番艦にいる』
自然に口元に笑みが浮かぶ。
「好都合だ!」
『……そうもいくまい。ヤツは今、私の権限を奪おうと躍起になっている。時間の問題だ。……権限が奪われれば大旅団は完璧に奴の制御下。思うがままだ』
「なら、奪われる前に倒すのみ!」
「……ほんとにアルマは勢い任せだな。少しは作戦とかないわけ?」
「それを考えるのはアラキアの役目。ボクは突っ込んで暴れるだけ」
「まったく。……でも、まあ、嫌いじゃないよ。案が思いつくまではそれで行こう」
『2人とも……』
「なんだかよく分かんねぇが、ようするにアレだろ? 敵をぶっ飛ばせってことだろ?」
「……今は考えるより行動しろ、ですね。やりますよ!」
「てなわけで、4人だよ。マーテル」
『……いい、仲間をもったな。私も、精一杯抗ってみせよう。……船の防御は任せろ。貴方はいつも通り攻撃することだけを考えるんだ』
マーテルによる防御壁が展開されたのと射程圏内に大旅団のワンシップが入ったのはほぼ同時だった。
全速力で突っ込むと四方八方から光線攻撃が飛んでくる。
「こっちだって、だてにゲームしてるんじゃないんだよ!」
シューティングゲームは苦手だが、それは2Dのモノだけだ。奥行という概念があるのならばそれはPFOに代表されるようなアクションRPGとほぼ同じ。敵の攻撃を見切り、多少動きは違えどキャラクターはこのワンシップ。
そこに援護射撃まである。
今日はソロではないのだから。
負ける気はしない。
大きく上下左右に動きながら攻撃を避け一発、続いてもう一発連続でビームを撃ち出し1機ずつ確実に撃破してゆく。2つあるうち1つエンジンを残しておけば帰還くらいはできるだろう。
他の3人もさすがは中・遠距離職と言える腕前で次々とエンジンを撃ち抜いてゆく。
それでも攻撃をまったく受けないということはなく、被弾するたびに機体が大きく揺れる。
外の様子は見れていないがマーテルと私、二重の障壁があるとはいえこれだけの攻撃を受けて傷が出来ないはずがない。このペースだと第0番艦にたどり着けるかどうかくらいだろう。
「アルマ、前方に高エネルギー検知だ」
「……へ?」
前方といえば大旅団本隊の船団。真正面は第1番艦だ。
ということは。
窓の外にずらりと並んでいたワンシップがそちらの方向からこのワンシップを繋ぐ直線状だけいない。
「……!」
機体を急旋回させると真下に飛ぶ。
次の瞬間、窓の外から眩しい光が差し込み強い衝撃が機体を襲う。
(やられた……!)
第1番艦の防衛装置の1つ。
巨大ビーム砲。その中でも高火力なものだ。
多くのクレアレアを消費するため最終兵器の1つとして搭載されていたのだが、よもやそれを使ってこようとは。まともにくらっていたら跡形もなく吹き飛んでいただろう。
幸い左のエンジンがやられただけで機体自体は無事だが、これでは攻撃を避けるのも難しい。
「アルマ、左右からも高エネルギーを検知……」
「な……」
左右、となると第3番艦と第5番艦だろう。
中心に近いほどそういった兵器を搭載していたはずなのだから。
「……」
やられるわけにはいかない。
攻撃を完全に防げなくとも、軽減できれば砲撃のために開いた包囲網を突破し第0番艦にたどり着くことができる。そうすれば追ってこれる人間の数は少ない。
むしろそこからが本番と言えるが、それはたどり着いてから考えるべきだ。
「……アトミアの書」
そういえばトガは双子の攻撃を防いだときアトミアの書を片手に持っていた。考えてみればあの双子の攻撃の威力も相当なもので、それを軽減したトガの防御壁も何かしらの強化を行っていたと見ていい。
白い本。
あの不思議な感じ。
強くイメージすると前に出した左手に重さを感じる。
「アラキア、操縦変わって。……何も考えずに第0番艦まで全速力で。突っ込んでいって」
「え? ああ、わかった」
「……同じものなら」
ヤツが言う通り、これが同じものなら。
「ボクに力を貸せ! アトミアの書!」
次の瞬間、私達ののったワンシップは2本のレーザー砲に撃ち抜かれていた。




