第73話 動き出した諜報員
「逃げ……られた、か……」
そう呟くとトガは床に崩れ落ちる。その手から落ちた白い書物が光となって消え去った。
「トガ!」
駆け寄ろうとするが、腕を掴まれ引き留められる。
「アルマ、成り行きで協力することになったけどヤツは《使徒》だ」
「けど……」
「……僕達を助けてくれたのは変わりないし、僕はヤツに助けられてばかりだ。心配なのは確かだ。だけれども、大旅団員としてはこれ以上関わっちゃいけない」
「……」
「アルマ……」
頭に直接アラキアの声が響く。例の中距離用のスキルだ。
『結城さんが大旅団内で不審な動きがあるって言ってたんだ。諜報員たちが動いてる』
「!」
諜報員。
大旅団内では情報部員でありながら参謀部員でもある人の事を指していた言葉だが、同時に本来の意味である探りを入れる人員という意味でも使われる。
『今疑いをかけられたらまず言い逃れは出来ない。気が付いていたか? トガが襲ってきてからずっと』
「通信が切れていたことを」
「な……!」
「そして、ヤツらと戦っていた時に復活し……もう一度切れ、今また復活している……」
となると、管制側には私達が《使徒》と協力していたようにさえ見えるということだ。そして、その間が悪ければ無条件に相手の指示に従い。さらに間が悪ければ。
「……」
「もちろん意図的にそうされたとは……考えたくない……」
「うん……」
『だからこそ、そこの2人を僕らの味方にしなくちゃいけない。いいね?』
「ん……」
「さてと、えーっと……助けてくれてありがとう。僕はアラキア」
「俺はカイ。んで、こっちがクレアだ。アルマには世話になってるからよ」
「……」
「アルマ……挨拶くらいしなよ……。まあいいけどさ。……で、カイとクレアはどうしてここに?」
カイはポリポリと頭をかくと唸る。
「どうしてってよ、急に総司令から直接命令が下って……ゲート広場に行ったら同じ指令を受けたってクレアがいてよ。……で、来てみれば《使徒》と戦ってやがるし、《使徒》が1人一緒に戦ってるしでよ。正直言って訳わかんねぇんだよ」
「私も同じようなところです」
「う、うーん? 通信が切れてたのによく救援を送ってくれたな……。僕達も通信は斬れちゃうし《使徒》に襲われるしで困ってたんだ。本当にありがとう」
「おう!」
やはりアラキアの考えすぎなのではないか。
そう思ってしまう。
私もアラキアも元は同じサークルで小説を書いていた。だからこそ彼はかなり深く読みすぎるという点を知っているのだ。分析することや設定を考えることについてはとてもすごいの一言に尽きるが、たまに深く読みすぎる。伏線でないものでさえ伏線とよんでしまう時があるのだ。
だからこそ今回も深く読みすぎているとばかり思っていた。
「とりあえず、帰還しましょう? アルマさんもアラキアさんもボロボロです」
「ああ、分かった。……と、さすがに助けてくれた人を《使徒》とはいえ、ほうって帰るのは申し訳ないし」
「あ、私少し治癒術が使えるのでお手伝いしますね」
「ぼ、ボクも何かできること……」
「大丈夫だよ」
急に慌てだすアルマの頭を手のひらで軽くぽすぽすと叩くとアラキアはトガの元へ歩き出す。
未だに気を失っているようで微動だにしない。服はボロボロだが仮面は大きなヒビが一筋入っているだけでその素顔を隠し続けている。
アラキアはうつぶせになっているその身体を仰向けにすると、鞄から取り出した薄い布を毛布のようにかける。
「……」
誰も気が付かなかったが、アラキアの顔は一度驚きを露わにしていた。
(まさか)
ワンシップに乗り込み、カイとクレアから少し離れたところで2人で軽く談笑しながら大旅団本隊への帰路を急ぐ。
「……いろいろあったね」
「ああ、そうだな」
「……帰ったらゆっくりしたいなぁ」
「そういえば寄りたいところがあるって言ってなかったっけ?」
「ああ……実は遺跡から見える夕日がすごい綺麗だったんだけど、もう日も暮れちゃってるし……また今度かな」
「そっか。じゃあまた今度だね」
そんなことを話しながら、のんびりとしていた。
『アルマちゃん!』
「ふえぇぇぇぇ!?」
急に入った通信に驚き声をあげる。アラキアにも同様の通信が入っていたらしく、あちらも驚いたような表情を浮かべていた。
「な、なに!? アストレ、先生?」
『今どこにいる!? どこにいるんだ!?』
「どうしたの? そんなに慌てて……」
今は大した怪我もしていないし、体調を崩してもいない。アストレをここまで慌てさせる要因はないはずなのだ。
しかし、アストレの声はインヴィディアに襲われ怪我をしたあの時より緊迫していると言っていい。
『いいから、答えて! 今どこにいるんだ!?』
「……どこに、って……惑星リエースからワンシップにのって帰還中だけれども」
『帰還中……ダメだ……』
「え?」
『大旅団に帰還しちゃいけない! 帰還するなっ!』




