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第71話 神に対抗できるもの


「……アルマ、お前はマーテルから『アトミアの書』を受け取っただろう?」

「……」

「黙ってても受け取ったのは知っている。言っておくが、私はそれを奪う気はない。必要ないからな」

 そう言ってトガは扉に歩み寄ると左手を掲げる。

 武器が具現する時と同じように手に現れたのは。

「その、白い本……!」

「……これも『アトミアの書』。……貴様が持っているものと全く同じものだ。膨大な力を秘め、あらゆる可能性が詰まっているモノ。根源だ。貴様らが戦っているものはこれによりもたらされたモノ。言うなれば、神のなりそこないだ」

「神のなりそこない……?」

「この前、ラストが貴様に接触したようだな。奴が言っていただろう? 神がいるから《使徒》がいるのだと。その名を……アルティレナス。負の力の権化だ」

 手に持った書を扉に押し付けると淡く発光し、続いてカチャリと鍵が解けたような音がした。

「……古代の文明があったことは知っているだろう? 彼らは神をこの世界に降臨させようとし……失敗した。そして滅びたのだ」

 ヤツが押し開けた扉の先は壁も床も装飾も全て白で統一された空間が広がっていた。そこを歩きながら語る。

「クレアレアは想像の力。想いの力。……当時の世に満ちた想いは、歪んでいた。何より術者自身が歪んでいたのだろう。それ故に、具現化した神でさえ歪んだ。それは生き物を蝕み滅ぼす災厄となった。その力が貴様たちが汚灰はいと呼ぶものだ。しかし、幸いなことに最後にアルティレナスを封印することに成功したらしくてな……ヤツ自身が他の星を滅ぼすことはなかった……が」

 突如立ち止まるとトガは両手を軽く広げる。

「……私達《使徒》が残った」

「……」

「《使徒》とは、ラークを統べし者。そして、アルティレナスの僕であり、器だ」

 白一色の空間の中、ヤツの身体が霧のような黒い靄に包まれたのが分かる。

汚灰はいを糧とし、多くの力を蓄えた時、神は復活する」

「……っ」

 トガからは圧倒的な力を感じた。しかし。

「アルティレナスの力はこんなものではない」

「……な」

「だからこそ、並みのイスクでは……いや、イスクでも対応は出来ないだろう……。ヤツに唯一対抗でき倒すことができるもの、それが『アトミアの書』とそれの継承者だ」

「……へぇ?」

「……しかし、当然それは継承者と言えど限界を超えるもの。そして、それ以上に、対峙すること自体、危険が伴う。命の危険はもちろん」

 トガは右手を胸にあてる。

「その者自身、アルティレナスの器と化す危険があるのだ」

「なんだと!? それじゃ、そいつを倒すなんて……」

「その通りだ、アラキア。だからこそ古代人は封印しか出来なかった。どちらの力も元は1つ。貴様らがクレアレアと呼ぶものなのだから、その適正が高いほどアルティレナスの器に向いている。そして、アルティレナスに対抗できる力を操ることができる。これは、負の連鎖であり止めることなどできない」

 トガは叫ぶ。

「アルティレナスによる滅びか、汚灰はいによる滅びか、どちらが長く生きながらえることができかなど明白だろう! お前たちは、自ら滅びに向かっているようなものだ! アルティレナスの手にかかれば大旅団など瞬く間に壊滅する。たとえ、光騎士こうきしが前線に立とうともな」

「……!」

 アルティレナス。

 神のなりそこない。

 それがラストが言っていた真の敵だというのか。

「……」

 ふと、肩に手が置かれるのを感じた。

「……アラキア」

「大丈夫さ、アルマ。……なあ、トガ。アルティレナスは封印されているって言ってたよな? 仮に大旅団がアルティレナスを倒すのを諦めて地球に戻り汚灰はいによる滅びを受け入れるという選択をした時、あと何年生きられる? その間に封印が解ける心配はないのか?」

「……っふ」

 アラキアのその問いにトガは笑い仮面の上から顔を覆うように左手を置く。

「アラキア……やっぱり、気が付くか。貴様なら、そういうと思った。……そうだな。正確な年数は分からない。だが、封印がほころび始めているのも事実だ。……だが、封印が解けたところで器が無ければ意味がない。……それも《使徒》ではなく、書の継承者並みの力を持った、な」

「《使徒》は、器だと言っていなかったか?」

「ああ。だが、素質があるだけで肉体が耐えられるとは言っていない。ほとんどの《使徒》は言うなれば力を蓄えるための餌だ。……アラキア、お前なら分かるだろう?」

「……! インヴィディアか!」

「ああ、そうだ」

 大旅団が襲撃を受けた際、《使徒》が《使徒》を喰らったという記録があったがそれのことだろう。

 そして、喰らったのは目の前にいる《使徒》。

「……で? まだ言いたいことはあるんだろ、アラキア?」

「もちろんだ。継承者っていうのがいれば、アルティレナスを倒せる可能性は、汚灰はいを世界から消し去ることができる可能性はあるんだな?」

「……さっきも言ったはずだ。封印がほころびかけているアルティレナスにそれだけの力を持つものが近づけば、そうなるか、を」

「だが、それも可能性だろ?」

「な……」

 口を半開きにしてトガは一歩後ずさる。

「ば、馬鹿なのか、貴様! そんなわずかな可能性に賭けようというのか!?」

「他に何も方法が無くて、且つ可能性が少しでもあるのならば何を迷うって? 戦いを避けて勝利を得られないのならば、戦うほかないだろ?」

「……な、……な。……まさか、お前がそんなことを言うとは。そこの猪突猛進野郎ならまだしも」

「誰が猪突猛進野郎だ! 貴様っ!」

 チビ、と言われた並みに腹が立ち思わず叫ぶ。

 正鵠はいているがあんまりだ。

「……私は、……しかし」

 アトミアの書を左手で抱えたトガは何かを呟く。

「……倒せる……かも、しれない。だが……私は……」

「……」

「……奴らとなら……アルティレナスを」

「倒せると思うの?」

「本当に?」

「っ!?」

 突如幼い声が聞こえたかと思うと白い空間をものすごい衝撃が襲う。

「うわあぁぁぁ!?」

「アルマぁぁ!」

 どこから発生したのか煙が視界を遮る。

 かろうじて隣にアラキアがいるのが分かるくらいだ。

「なにが……」

 あの攻撃はトガではない。

 奴ならこんな大規模な攻撃を行わずとも、あの距離から油断していた私達を一太刀で切り伏せるなど容易なはずだ。動揺もしていたためさらに容易だったろう。

 晴れてきた視界にうつったのは書を片手に右手を掲げるトガと、その先にいた宙に浮かぶ2人の幼い子供だ。

 子供は双子なのかそっくりな顔に白髪、そして不気味な赤い瞳。

 そして一目見るだけで何者か分かる。

 似たような黒衣をまとっている。

 宙でパリパリという音がし一瞬発光すると何か膜の様なものが光となって消えてゆく。ほぼ同時にトガがガックリと膝をつく。

(防御障壁か!)

 崩れ去っていったものは防御用の障壁だ。

 しかしあれだけの短時間でよく展開できたものだ。

 いや、つけはトガ自身にまわっていると見ていい。十分な展開が出来ていなかったが、無理やり攻撃を防いだ。トガはその衝撃と反動を一気に受けた。そうなのだろう。

「……双子……《使徒》グライにリティイ。……いい……挨拶だな」

「挨拶? 挨拶ってなんだっけ? ははは」

「こんにちは、ってなんだっけ? ふふふ」

「……っ」

「それよりも、それよりも」

「そんな事よりも」

「倒すってどういうこと?」

「殺すってどういうこと?」

「神様を」

「アルティレナスを」

 交互にしゃべるその声音はふざけているようにしか聞こえない。

 しかし、気配は異様だった。ここにきてトガと戦ったがその時の方がまだマシだったと言っていい。

「……くっ、……面倒な。おい、アルマ、アラキア。手を貸せ。……ここからヤツらをたたき出すっ!」

「え、ああ、わかった!」

「成り行きだが、今はしょうがないか!」

 それぞれの武器を手にトガの隣に並ぶ。

「あれ? 戦うの?」

「ふうん、敵になるの?」

「おもしろい」

「おかしいわね」

「いいよ」

「わかったよ」

「本気で、相手してあげる!」

「全力で、可愛がってあげる!」



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