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第66話 クレアレアの結晶


 船の中であるというのにクレアレアを完全展開して歩いていた。

 大旅団のマザーシップは第1番艦であるが、それとは違いもう1つ、大旅団の根幹にかかわる重要な船があった。

 第0番艦。

 真のマザーシップと呼ばれ、光騎士こうきしと言えど簡単に足を踏み入れることはできない。大旅団全てのシステム制御がここで行われている。

 人が住むということは考えられておらず、通路以外には水が張り巡らされており照明もクレアレア特有の色であるの青色と不思議な空間が広がっている。

 そしてなによりも、クレアレアの空間濃度がどこよりも濃い。

 クレアレアはとても役に立つが無害というわけではない。イスクやトゥルーエといったクレアレアでも、自分の適性を超えたクレアレアを取り込むとそれは害になる。実際に何件かそういった事例は起きており、注意喚起もなされている。

 だからこそ第0番艦は人の立ち入りが厳重に制限されているということもある。同時に機密情報を置いておくにはとてもいい場所なのだ。

 今日何故こんな場所にいるのかというと、マーテルに個人的に呼び出されたのだ。

 ラストとの接触後、持ち帰った情報は全てマーテルの管理下にあるデータベースに記録してある。

 きっとそれに関することだろう。

「……クレアレアの濃度が濃すぎるのも問題ですね」

 案内役として前を歩くカストがそう話しかけてくる。

 ソピアーを手に持っているが敵が出るとかではなく、ただ単に彼の制服の一部とかとしているだけである。

「……光騎士こうきし、……とまではいかなくとも、それなりの適応力を持っていなければ耐えられませんからね。……あなたでなれけば、こうも容易く許可が下りることはなかったでしょう」

「確かにここ、なんかピリピリするくらい……クレアレアが……」

 この船に一歩足を踏み入れた瞬間、異様なほどのクレアレアを感じたのだ。気持ち悪くなりそうなほど、しかしどこか心強いものだった。

「あなたが聞き出してくれた情報はとても貴重なものでした。真偽についてはこれまでのデータや先日サブコンソールから入手した情報と照らし合わせて確認してあります。……にわかに信じがたいものもありますが、大方信じられるものと言えるでしょう」

「……あの神っていう存在も真実?」

「結論を言ってしまえば、ありえます。辻褄は合います。……となれば、最後は総力戦となるでしょうね。神と言う名のつくものですんなり解決するものなどそうそうありませんから」

「……」

「めんどうなことにならなければいいのですが……」

 カストは立ち止まる。

 目の前には両開きの巨大な扉があった。青い照明に合わせたように青っぽい素材で出来ている。床も同じような素材だ。

「この先が大旅団の中枢、……ここから先で見たことは決して口外してはなりません。いいですね」

「……うん」

 私が返事をしたのを確認し、カストは扉を押し開ける。

「では、私はこれで。道は覚えましたね?」

「うん」

 部屋の中央には青い光を放つ巨大な結晶体。そこから強い力を感じる。

 その結晶体の前に人がたたずんでいた。

 彼女は振り返る。

「待っていたアルマ。……いや、一ノ瀬紫苑」



 マーテルはホログラムでできた画面を表示する。

「……《使徒》との接触、疲れただろう?」

「……まあ、疲れたっていうよりなんだろ……印象に残ってる、かな?」

 その言葉にマーテルはふっと笑う。

「確かに、ヤツは変わっているからな」

「ん?マーテルは知ってるの?ラストのこと」

「……知っている、といったら知っている。記録は私の管理下だ。参照は容易だろう?」

 それもそうか。と納得すると、本題は何か、と聞いてみる。

 何故私だけここに呼び出されたのか分からない。

「……アルマ、貴方はそこの結晶体はなんだと思う?」

 マーテルが指さしたのは部屋の中央の結晶体だ。

「……んー、感じるのは強いクレアレアかな。でも、クレアレアって結晶になるものじゃないんじゃ?」

「いや、なるのだ。実を言うと貴方達イスクの扱う武器は全てクレアレアの結晶と言っていい。そして……」

 マーテルは結晶のそばまで歩み寄ると渾身の力をこめてその一面を強打する。

 パキリ、という音が響き砕けた破片が落下する。しかしそれは床に落ちる前に空中で一瞬眩く光ったかと思うと、次の瞬間、パシャンという音と共に四散し光の粒となって消えていってしまった。

「……このように、過度の衝撃を与え耐えられなくなったものは消え去る。……見た目上は、な。実際はクレアレアの結晶体として目に見えていたものが大気中を漂うクレアレアに戻っただけなのだが」

「……」

「……では、質問を変えよう。……これを踏まえて、クレアレアを完全展開中に、死んだらどうなると思う?」

「……え?」

 過度な衝撃、というのを死という単語に置き換えたならば。それは。

「……跡形もなく消え去る?」

「その通りだ。まだ実例こそ無いが、イスクがクレアレアを完全展開中に死んだ場合、痕跡1つ残らず消え去るだろう」

「ま、待って、クレアレア完全展開中ってボク達の体は……どうなっているの?」

「……そうだな。まずはそこからか」

 そう言って彼女が語ったのは次のような事だった。

 イスクとトゥルーエの違いは体がクレアレアに順応できるかどうかの違いである。

 トゥルーエが身体をクレアレアによって構成できない程度しか順応していないのに対し、イスクは身体そのものをクレアレアに置き換えられるほど順応している。

 人が生きる上で重要になっているのは、所謂『魂』と言うモノなのだから身体を何で構成していようが関係はない。しかし、限度はある。

 そして順応できるほどの適性を持つ人間は極めて少なく、イスクの中でも完全に体をクレアレアで構成できているものはいるかどうか、だと。

「……じゃあ、え?え?」

「混乱するのも無理はないだろう。……そして、重要なのはここからだ」

マーテルの青い瞳が正面から私を見据える。久しぶりに人の瞳というものを見たが、それでも彼女の瞳が強い決意を秘めているのが伝わってきた。

 そして彼女の発した問いに、私は言葉を失った。

「貴方は、……『想像を現実にする力』があったら……どうする?」



 

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