第47話 嫉妬の罪
惑星ドラクの施設。
あれは何処からともなく水をつくりだせる施設だった。
どのような仕組みかは未だに公表されていないのだが、驚いたことにクレアレアを動力に動いているという。
これが事実ならばこの惑星に存在したであろう知的生命体はクレアレアを操ることができる存在ということになる。これは大きな発見だ。
汚灰が地球で降る前からクレアレアが存在していたのならば、この不思議な力は一体どこから来たものなのだろうか。汚灰とは何なのだろうか。何故、クレアレアは汚灰に対抗でき、扱える人と扱えない人がいるのだろうか。
それが分かれば大旅団も苦労しないだろう。
地球からの連絡ではあれからも汚灰に汚染された人は増えているという。初期の頃は国や政府の決定に従わず身を隠し、クレアレアによる捜索からも逃れていた人が大部分を占めていたというが、最近は現在コールドスリープに入っていない一般人にも汚染の兆候が現れ始めているという。
それでも地球に残った少数のイスクレベルのクレアレアたちによって浄化できる軽度な汚染である為、さして混乱は起こっていないらしい。
惑星に降下しトルムアと剣を交える度、彼らが浄化で済む程度の汚染ならばどんなに良かったのだろうと思える。
私が指示される区域が比較的汚染が進んだ地域であることも関係しているのか、未だに浄化で済むようなトルムアに出会ったことはなかった。
「……大丈夫」
大丈夫だ。
きっと解決策は見つかってすぐにこの戦いも終わる。
地球で眠る両親とももう一度会えるはずなのだ。
コールドスリープにしたのは無用な混乱と汚染を避けるため。ただそれだけなのだから。
「……誰?」
背後に感じていた気配が一層濃くなり、声をあげる。
今日、私に指示されたのは惑星ドラクの浮遊大陸エリア。その名の通り大地が空に浮いており、地上の砂漠や火山とは違い、草木が生える地だ。所々で大小さまざまな大きさの水晶の様な石があり、研究部も重要な研究資料と考えている。
しかし、現状でここに降下でき探索できるのは特殊攻撃隊と限られた数チームのみのはずなのだ。
それ以外には許可どころか情報さえ与えられていない。
そして、私が探索するエリアの周囲に他のチームの探索エリアはなかったはず。つまりは、私はここで誰かに出会うなど考えられないのだ。
「……何者だ!」
振り向いた刹那、目に飛び込んできたのはラーク。
インズはもちろん。その他にも。
砂漠でも見かけた、あの火山にいたリザードマンを模した爬虫類の様なベイルマンと名付けられたラークだ。剣のかわりに斧を持っているのはいかがなものか。
それに見慣れないものも数匹いる。小型ながら大きな口にはまるで掴んだら離さないとでも言いたげにずらりと牙が並んでいる。
どちらにせよラークはトルムアより強力で厄介だ。
ここまで接近されているというのにオペレーターが何も言ってこないのは不思議だがここは戦うしかない。
私も進歩していないわけではない。
飛びかかってきた新種のラークを躊躇いもなく斬り捨てると、1歩踏み込んで反対の手に持った剣を一閃する。一瞬剣が光ったように見えたのはクレアレアでさらに攻撃を強化しているからだ。
何度も戦ううちに自らがつくりだした武器はクレアレアで強化できることが分かっていた。それは防具も然り。
考えればクレアレアで出来たものなのだから当たり前なのかもしれない。
それに、強くイメージすればクレアレアで補助しながらもゲームで使っていた技が使えるのだ。
ただの瞬間移動だけではなく、斬撃も。
最初は剣に引っ張られる形だったが今では自分の体重を乗せてさらに速く強く発動できるようになっている。防御も前よりはうまくなっているはずだ。
この強化は私だけではなく、他のイスクにも当てはまるという。
試しにこの理論を試してもらったところ、効果があったというのだ。
戦闘部の大部分は剣などの接近武器ではなく、銃や魔法などの中、遠距離武器の使用者が多い。特に銃が多いのは安全性と機能性に優れているからだろう。無論、攻撃力も高い。
その大半で、実用化できたというのだ。
大半、というのはPFOプレイヤーだった人のみという意味だ。それ以外は技というイメージがないのだから当てはめようがなかったといえる。
しかし、その中でも自分のイメージで強化できる人はいる。
事実、成功したとも聞いている。
ならば、強いイメージさえ持てれば自分のオリジナル技を使える可能性もあるというわけだ。
今までの、PFOにはない技を。
「……手っ取りばやくっ!」
ラークの中心に踏み込み重心を低く、そして剣を持った両手を軽く開き。
「でやぁ!」
その場で素早く数回転。
強化された刃が淡く発光し、密集していたラークをまとめて斬る。
汚灰となり消え去ったあとには何も残っていなかった。
「あらぁ、また酷いことするわね」
「誰だ!」
ずっと感じていた気配。
それはこの黒衣の女性だ。
緩くウェーブした薄紫の髪は腰辺りまで伸び、口元のほくろが何とも言えない妖絶さを醸し出している。
その雰囲気にたがわず、とても女性らしい体つきだ。ユニータといい勝負といっていい。
「そこまで警戒しなくてもいいじゃない。私は《使徒》インヴィディア。仲間からは嫉妬の女神って呼ばれてるわ」
「……で?」
「あら、あなたもつれない子ね。こんなにかわいいのに。……食べちゃいたくなるわね」
「!」
とっさに剣をクロスさせ相手の攻撃を受け止める。
「……さすが、あの子が夢中になるだけあっていい反応ね。私の攻撃を受け止めることができるなんて……かわいい子……」
「どうしたら、斧を……片手でそんな力を……!」
「どうしてかしら?」
限界に達し1歩、2歩と後ろに下がったところに容赦なく斧は振り下ろされてくる。
右と左の剣で交互に弾きながらどうにかできないものかと打開策を考え始めた。
目の前の女性は明らかに人間ではない。
人間ならばクレアレアだろうが、それでもこの動きはあり得ない。
それに、このラークよりも濃い気配は身に覚えがある。
2回ほど会ったことがある仮面の人物と同じ気配なのだ。これが彼らが名乗る《使徒》というものの気配なのだろか。
「……《使徒》って、なんなんだ?」
「あら、大旅団はそんなことも分かっていないの?」
「……!」
「私達《使徒》はその名の通り使い。そして、ラークの統率者。そう言えば分かってもらえるかしら?」
ラークの統率者。
ならば、この重く禍々しい気配も納得できる。
そしてこれが正しいのならば、《使徒》という存在を消し去れば汚灰も消え去るのではないか。そんな考えが頭をよぎる。
深く考えるなどということができる状況でもない。
通信も途切れてしまっているのか何の指示も命令もない状況ですべきことはただ1つ。
大旅団にとって、戦闘部、イスクにとって最優先事項とされているのは汚灰の根絶。
「はあぁぁぁっ!」
振り下ろされた斧を左の剣で弾くと、後退から一転、大きく踏み込みインヴィディアの胴を斬りあげる。
体感では確かに斬った、と思えたのだが、実際にはかすっただけらしく彼女は軽々とバク天をし大地の淵ギリギリまで後退していた。
「あら、もう少し芯がない子かと思っていたけれどお姉ちゃんの間違いだったようね。認識を改めましょうか。……本気で殺してあげる、この子と一緒に!」
宙に浮いているはずの地面が揺れる。
動けないほどではないがここ最近地震を経験していなかったため新鮮味さえ感じてしまう。
地の淵から姿を現したのは人1人が楽々と乗れるほどの大きさの竜が姿を現す。砂漠で出会ったあの竜よりはかなり小さいが、その威圧感は圧倒的だ。
その背にまたがったインヴィディアは妖絶な笑みを浮かべる。
「さあ、始めましょうか」




