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第44話 世界


「リザードマン、か。確かにその名称はぴったりだね」

『ふむ。ゲーマーが多い集団ゆえかな』

「……実物は不気味だよ」

 私の私室にはアストレが来ていた。

 ソファに寝転ぶが持つダブレットには惑星ドラクに生息する二足歩行の生物が映し出されている。これが先ほどの会話にも出てきたリザードマンと名付けられたトルムアだ。

 知性を持っているような動きはするものの汚灰はいの影響でもはや意思疎通は不可能と判断されている。

 モニターに映っている結城もその話に加わりながら本題の準備を進めて午前中が過ぎようとしていた。

 部屋の隅で結城の指示を受けながら配線をいじっているアストレがポリポリと頭をかく。最初は無理だのなんだの言っていたが意外と手際がいい。

『アストレ君、そのコードはそっちにさしてくれ』

「こっち……ですか……?」

『その隣だ。……よし、それでいい』

「終わった……」

 そう呟くとアストレは工具を持ったまま床に寝転ぶ。

『ご苦労だった、アストレ君。ありがとう。……で、頼めるかな?』

「……そうですね、こちらが本業なもので。アルマちゃん、こっちに」

 手招きされたのは自分のベッドだ。そこに置かれているのは、ガライア。

 かなり小型化されており見た目はサークレットのようになっている。サークレットと言っても顔の上半分ほどの大きさはあり改良の余地はあるという。

 これが数日前にカストから受け取ったものの正体だ。

 それを頭に装着し、補助機器となる腕輪型の機器も右腕に装着する。

『そのまま横になってくれたまえ』

「ん」

 これから1週間、このガライアの試運転と動作確認をするのだ。

 それが結城から提案されたもの。

 技術の確立に関わりたいという私の夢を叶えてくれるというのだ。

 しかも、ただの試運転ではなく1週間を通しての試運転だ。

 そのために総司令から戦闘部には偽の指令を流して私に指令が来ないようにしているのだ。

 なぜそこまで厳重に情報管理をするのか。それは技術にクレアレアが使われており、且つ今までの理論では議論できないものになるからだろう。

 これまで使っていた卵型の大型の機器を使ったガライアは脳とリンクして稼働していた。それでさえ一般的に見ればかなりの問題なのだ。しかし、このクレアレアが使われた新型のガライアは脳ではない。

 それを超えたのだ。

 ソレを表す言葉は存在しない。一番近い言葉で言うのならば、魂。

 それが倫理的な観点から言ってどんな議論を巻き起こすかは未知数。だからこそ結城も渋っているのだろう。

「……」

『準備はいいかね?』

「……うん」

『では、始めよう』




 白のブーツが石畳に触れコツリと音を立てる。

 ゆっくりを目を開けると飛び込んできたのは回廊に囲まれた中庭だ。

 正面には教会を思わせる石造りの大きな建物。

「……ここは……フィレイン?」

「その通りだ、アルマ君」

「?」

 私の他にもう1人その広場にはいた。

 ゆったりとした赤いロープといった剣士というよりは魔術師を彷彿させるいで立ち。しかし後ろで1つにまとめられたアイボリーの髪とモノクルはどこか騎士を思わせる。

「ここは始まりの街フィレイン。……そう、あの世界を再現してみた。どうかね?」

 その声と口調、まなざしに見覚えがある。

 それに、若干気だるげなその雰囲気にも。

「結城さん……?」

「ああ、そうか。この姿は初めてだったかな。この世界ではレクトル。……それが私の名だよ」

 そう言って彼は口元に笑みを浮かべる。

「私にも追い求めた夢があってね。……見たまえ、この世界を」

「……まるで……現実。本物みたい」

「そう。それだ。……ついてきたまえ。見せたいものがある」



 視線の先でHPを表すゲージがガクリと減る。

 硬い床を打った靴の下で微かな光のエフェクトが発生する。肩には先ほど直撃を受けてしまったダメージを表す赤いエフェクト。

「ズエアァァァァ!」

 気合の入った声と共に大きな剣を彼は盾で受け止める。

「頼むっ!」

「っ!やあああああぁぁっ!」

 彼が作ってくれた足場に飛び乗りそこから巨大な敵の腕を駆け上って跳躍する。

 目指すは、弱点である赤い瞳。

「終わり……!」

 右手の剣を深々と突き刺す。

 これまで現実で戦ってきたどの敵よりも確かな手ごたえだった。

 これが仮想現実だというのだろうか。ゲームだと言えるのだろうか。

 精巧に作りあげられたオブジェクトは綺麗すぎるという点を除いては現実とほぼ変わりはない。

 エネミーもクレアレアとして訓練を受け実戦経験を積んでいなければ自らに攻撃が向かってくる恐怖に負けてしまっていたかもしれない。

 エネミーが光となって消え去ったあとには大きく勝利表示が表示されている。

「ふむ、問題はないようだな」

「……ふぅん」

 今戦っていたのはPFOでも最弱のボスと言われるテーゴスという牛の様な姿をした大剣を使うボスエネミーだ。始まりの街フィレインからほど近いダンジョンのボスで、大抵のプレイヤーが最初に戦うボスエネミーでもある。

 ここに至るまでも全3層からなるダンジョンをこえてきたが驚くべき再現度だった。

「どうだったかね?実戦に近いかな?」

「実戦以上……特に斬った感覚とか、刺した感覚とか。迫力もあるし……すごい」

「それは結構。私としても満足が行く結果が出てうれしい。……これならば」

「……」

「それよりも、どうだね。他に何か感じることはないかね?」

「ほか……」

 必死に考える。

 クレアレアとして、その中でも剣士として感じたのは先ほどの感想とほぼ同じだ。

 言うならば気配も再現されている点は素晴らしい。だが、それは旧型機も同じだ。

 ほか。

 唸るとほぼ同時にある効果音が発せられる。

 きゅー、という小さな音。

「……」

 それが何なのかに気が付いて一気に顔がほてる。

 思えば試運転を始めてから既に6時間以上たっている。システムや動作などを確認しダンジョンを1つ攻略。それくらいはたっているはずだ。

「……お、お腹減った」

 何故こんな感覚まで再現されるのだろうか。いや、再現ではなくこれは実際に感じている感覚なのだろうか。

 説明では外界からの感覚はたとえ自分自身の感覚だとしても全てキャンセルされ伝わってこないはずだ。

 それに1週間ずっといるというのだから、この感覚が外からの感覚であっては困る。

 恐る恐るレクトルの方を見ると彼はメニューを開き何か操作をし始めた。

 そして何かをオブジェクト化しこちらに差し出してくる。

「何、これ……?」

 見た目は肉まんやあんまんといったあの白い物体でホカホカと温かい。

(食べれる……のか……?)

 試しに割ってみると中から湯気が漏れ出る。

 しかしあんまんでも肉まんでもなかった。

「どうかね、魚肉ソーセージまん……というべきかな……?」

「……」

 いろいろ突っ込むべき箇所が見当たる。

 しかし、どこから突っ込むべきなのか。いや、突っ込まない方が妥当なのか……?

 1口かじってみると魚肉ソーセージ独特のあの味と共に魚介系のあんだろうか。とろっとした何かが口の中に広がる。予想よりおいしい。

「……おいしい」

「それはよかった。これもパラメータ調節はしたのだがどう出力されるのかは分からなくてね。うまくいったようでなによりだ。満腹感はあるかね?」

「うん」

 不思議だがお腹が膨れた感じがある。空腹感もなくなっていた。

「……」

 こうなると心配なのは。

 それを見透かしたかのようにレクトルは口を開く。

「心配しなくとも食べて終わり、だ。娯楽の1つとして風呂やプールはあるが……その、私があまりそういったものに縁が無くてね。完全再現とはいかなくとも、とね」

「へぇ……」

 自由に家などをカスタマイズできるPFOに娯楽が加わってしまえば、もはやそれは現実と変わらないではないか。

 ここまで自由度が高いMMORPGを聞いたことはない。

「アルマ君に依頼がある。レベル調節のためにソロでどこまで行けるか試したい。無論、娯楽も楽しんでくれて結構。あくまで1つのサンプルとして1週間でどの程度遊べるか、というのを見せてほしい。……そしてバグがないかも、な」

「わ、わかった!」

「それと、HPが0になった場合だが……」

「あ……」

 あまりにも現実のようで忘れかけていたがここにはHPの概念があるのだった。それにこの世界では痛覚が制限されている。それで忘れていたのだ。

「……今回は、自動復活するように設定してある。思う存分駆け回ってくれたまえ」

「うん」

「何かあればフィレインの教会にある端末から呼びかけてくれればすぐに反応しよう。いいかね?」

「大丈夫!」



 そう言ってあの場でログアウトしたレクトルこと結城と次に話したのは1週間後、試運転が終わってからだ。

 夢中になって遊びまわったため外との連絡など一切忘れていたのだ。

 そして自分自身もログアウトし、ベッドで目覚めた時。

「……なんで……こんな」

 身体が思ったより動かないことに驚いたのだった。

「一応動かしてたんだけど、完全に衰えるのを防ぐのは無理だよ。だって食事とれてなかったんだから」

「あぁ……」

 なかなかに充実した食生活を送っていたと思っていたがあれは現実ではないのだったと改めて思ったのだった。

『なかなかにいいデータがとれた。ご苦労だった、アルマ君』




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