第38話 期待
初任務から帰還するなり待ち構えていたかのように総司令から呼び出された。
出発したときにしか面識はないのだから、何かやらかしたのか、それとも何か地球であったのかと嫌な汗をかいた。
しかし執務室に行くと待っていたのはディアルだけでなく、カストやアストレもいた。アストレの髪が若干乱れているのはまたカストと『口喧嘩』でもしたからだろう。
アストレの隣に座り出された紅茶を飲んでいるとディアルが口を開く。
「まずは、お疲れというべきだな。アルマ」
「……どういたしまして?」
どう返したらいいのか分からずとりあえずとっさに思い浮かんだ言葉を発しておく。この際使い方があっているかなどどうでもいい。
「と、結城さんからもなんだ。口を酸っぱくだったかな?言われていたがなかなか気を許してもらうのは難しそうだな。まあ、少しずつ慣れていくといい。気長に待とうではないか」
そこでディアルは咳ばらいをすると背もたれにもたれかかる。
「まあ、悪い話で呼び出したわけじゃない。むしろ逆だ。カスト、続きを」
「はい、了解しました総司令。実は出撃した全戦闘員の撃破記録などは全てデータ化されて蓄積されるようになっています。そこで今日、初出撃の記録を早速照合していたのですが、アルマさん、あなたはどこよりも撃破効率がいいようですね。ソロであるというのにチームに引けをとらない実に素晴らしい記録です」
「うん?」
「さすがは《双氷》と言われていたことだけのことはある。……クレアレアの適性も跳びぬけて高いんですよ。条件さえ合えば光騎士に選ばれていたでしょうね。と、まあ、前置きはここまででいいでしょう」
「ん?」
「我々は、貴重な戦力を失うわけにはいきません。ましてや光騎士に匹敵するようなクレアレアの使い手を。ソロというのは1歩間違えば死に直結する。チームならば回避できたものでも簡単に死ぬ」
カストが何を考えているのかはその表情からは読み取れない。
相変わらず四角縁のメガネの奥から見つめる緑色の瞳は冷たい。
だが、何を言おうとしているのかは予想がついた。
「単刀直入にお聞きします」
「……ヤダ」
「あなたは……え?」
「私は、……パーティーは、組みたくない」
「……何故です?」
1人でやった方が早い。
もちろんそれもある。
自分の好きに動けるのもいい。
全てが自分の責任だということも、どのような結果になろうと納得できる理由になるだろう。
もちろん、死にたくはない。
パーティーを組んだほうが安全だろう。そんなことは分かっている。
それでも、絶対に誰かと組みたくはなかった。
ゲームならばドロップ品の配分が面倒だったりラグの発生原因になったりと理由はいくらでもある。だが、今この状況で明確な理由を問われるのならば。
それは。
あの問いと同じで。
「……分からない」
「ふむ。……まあ、いいでしょう。その回答はこちらも予測していました。ですので、こうしましょう。次の任務のみ、そこにいるアストレと共に出撃してください。その後の任務の同行者はあなたの自由にして構いません。私達、光騎士を連れていくもよし、戦闘部はもちろん、他部署から連れて行ってもかまいません。もちろんソロでも結構です。ただし」
「……」
「出撃中は常にアストレの治癒術が届くようにこれを常備するように」
そう言って差し出されたのはバングルだ。
シンプルな作りでかなり細く邪魔にならないようになっている。
試しに左腕に着けてみるとぴったりとはまる。
「これ、……何」
「遠隔用の補助術装置とでもいいましょうか。完璧にとはいきませんがある程度の術の効果なら対となっているバングルを介して作用させることができるようになっています。あくまで気休めですが、ないよりはマシです。いいですか、初めにも言ったようにアルマさん、あなたは戦闘部の中でも貴重な戦力になりうります。それに、結城総司令も言っていました。……あなたは、きっと。……いえ、やめておきましょう。とにかく、期待しているのですよ」
「……私に、ボクに期待?」
「ええ。そうです。私もあなたのことがとても興味深い。人でここまで興味を持ったのはあなたで3人目です。あてにしていいですよ。あなたの他の2人は共に、世界を動かしましたから。きっと。……何故でしょう、我ながらいつも以上に饒舌ですね」
「気持ち悪いくらい、ね」
「あなたには何も言っていません、阿呆弟」
「陰険メガネの言う悪口は気にしなくていいからね、アルマちゃん。でも、まあ、直感は認めてあげるよ兄さん」
「っは。そういうのは超えてから言え阿呆。……くだらない言い争いなど時間の無駄ですね。ですから、今後も私達上層部が直接コンタクトをとる場合が増えるとは思いますが、悪い事ではないので恐れないでほしいということだけです。では、引き続きがんばってください」




