第36話 惑星リエース
「……これ」
ゲート広場に集まった戦闘部員達は唖然とした顔をしている。
もちろん私も例外ではない。
共に来てくれたアストレも同様だ。
中央や所々にある大画面に映し出されているのは最初の目的地である惑星の映像。
惑星リエース。
そう名付けられた惑星は地表のほぼ全てを森林が覆う緑豊かな惑星だ。湖や川もありほぼ地球と変わらない。
だが、ここにいるのはほとんどがPFOプレイヤーだということが関係しているのだろう。
私達にはこの森に見覚えがあった。
正確には、その中に点在する朽ち果てた遺跡や生息する生き物に。
「……アミル地方まんまじゃないか」
アミル地方はPFOエイムス大陸西部に位置する地方だ。他の地方に比べると比較的小規模だが、南部には熱帯雨林、北部に行けば行くほど針葉樹林など北欧のような森が広がり探索がてら観光に訪れる人も多かった。
特に北部にある遺跡群はエルフの遺跡とも言われ撮影スポットにもなっていた場所だ。
エネミーのレベルも低く初心者でも来やすかったのが有名になった1つの理由だろう。
「混乱を抑える為、この時点まで秘匿していましたが潮時でしょう。明日から任務に出てもらうのに、情報1つないのはマズいでしょからね。この地が何故、アミル地方と酷似しているのかはわかりません。また、大型のトルムアも確認されています。気を抜かずに任務に励んでください。なお、事前に通達してある先遣隊数チームについてはこの後、私と共に惑星リエースへ調査に行ってもらいます。以上、何か質問は?」
中央の高くなった部分で話すのは光騎士の1人、先遣隊のリーダーのカストだ。
アストレと同じ緑の髪と瞳をしているが四角い縁のメガネの奥からのぞく瞳はどこか冷たい。
常にクレアレアを完全展開しているため彼の素顔を知るのは弟であるアストレくらいだろう。私も長耳のエルフ姿しか知らない。
手には隠すこともなく長杖のアンチ武器、知の長杖ソピアー。シンプルな作りで白い持ち手の先端に緑色の宝石がついているだけだ。
それでも威力はアンチ武器と呼ぶのにふさわしい。
「……質問等、無いようですので今日はこれで解散とします。この後、何か抗議や質問がある場合は私の元まで直接来るように。以上!」
そういうなりその姿が空気に溶けるように消える。
ソピアーの特殊能力の1つである気配遮断をクレアレアで再現したものなのだろう。
そう1人納得した次の瞬間、背後から今しがた説明をしていた声を全く同じ声が響く。
「で、何故医療部のあなたがここにいるのです?」
振り返るとそっくりな緑髪のエルフが顔をつき合わせていた。
どちらもクレアレアを完全展開してその顔には微笑をたたえいる。
「いちゃいけないかな?」
アストレの手が白衣の下の魔杖剣を掴んだのは見間違いだろうか。
「本来ここは戦闘部員しか入れない場所。そこをあなたは付き添いを名目にズケズケと入ってきているわけです」
「これも仕事の一環で結城総司令からもディアル総司令からも許可はもらっているし、それに直接指令を受けているんだけど?」
「そんなことは知っています。私がそんな些細な情報をとり逃すとでも?」
「相変わらずなようだね」
最初はまだゲート広場から出ていなかった戦闘部員達が何事かと目を向けるだけだったが、どちらも半分構えられた武器にすこしずつ注目が集まってきている。
「そうですね。まさか、こんなところまで阿呆と共になどと。これが腐れ縁というやつですか」
「僕だってここまで一緒なんて気味が悪いね、陰険メガネ」
「眼鏡なのはあなたも一緒でしょうが」
「陰険なのは兄さんだけでしょ?」
「阿呆」
「なんだと、この陰険メガネっ」
なんなのだろう。
段々と口論の内容がずれてきている気しかしない。
そして小学生のような口論に。
「まあ、いいです。私はこの後リエースまで行かなくてはいけないですし、今日のところはこの辺でいいでしょう。と、……おぉっと」
カストが不気味な笑みを浮かべた瞬間、アストレはその場から大きく後退する。見ると、そこでは小規模ながら竜巻が発生していた。
「手が滑ってしまいましたか」
「そろそろ来ると思ってたよ、陰険野郎……!」
アストレは堂々と魔杖剣を構えると詠唱なしで振る。
ほぼ同時にソピアーを振ったカストは涼しい顔で床を杖でつつく。
それが特殊能力の発動動作だったのだろう。次の瞬間、その姿はどこにも見当たらなかった。
「また、逃げた……」
「逃げていませんよ、阿呆」
「!?」
背後に現れたカストに襟首を掴まれたアストレはそのまま動きを止める。
「全く、毎度毎度油断はしないようにと言っているはずですがね。……これで私の弟ですか。まったく」
「……」
「まあ、いいです。本当にこの後予定が詰まっているので今日はこれで。……ああ、お見苦しいところを見せてしまいましたねアルマさん。初対面で失礼しました。同じ隊の所属として、どうぞお見知りおきを。では」
「え、あ、はい?」
答えたころにはカストの姿はどこにもなかった。




