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第35話 部屋と統合

「んー……」

 つま先立ちになって思いっきり右手を伸ばす。

 それでも届かず左手をついてさらに伸ばすが、本の表面をかするだけでうまくつかめない。

「……誰だよ、こんなにぎゅうぎゅう詰めにしたやつ」

 2、3歩下がって本棚の本を見上げる。

 第9番艦である通称図書館艦は世界中から本や資料を集めた船になる。もちろんバックアップ用にもう1隻同じ構造の船があり、デジタル化もしてある。

 中は他の船とは違いクラシックなデザインになっている。

 居住区などは一切なく船の中すべてが本棚になっているため、どこになにがあるか覚えるのに通い詰めた。

 中高生時代は図書室の主とも言われていたため本を読むことは好きだ。独特の匂いや騒がしくないところもいい。

「……」

 しかし、人がいないと高い場所に置いてある本に困る。

 台やはしごが置いてある箇所はいいが、この辺はない。だからこそ先ほどから困っているのだ。

 普段はライトノベルやファンタジー系の本を読んでいるのだが、今日読もうとしてたのは専門書の類でかなり分厚く大きい。

 日本人は外国人から見れば背が低く、その中でも私はかなり小さい部類に入る。平均値に合わせられた構造では届かない場所が多くなっている。

 さて、どうしたものか。

 わざわざ誰かを呼んでとってもらうような代物でもないのだが、生憎目的の本を目の前にして諦めるような性分ではない。

「……クレアレア、使ったら怒られるかなぁ」

 クレアレアは想像の力でもある。ある程度の事ならば理論など知らなくてもできる。

 アストレにもよく言われるが私は理論ではなく感覚で理解している部分があるという。確かにくどくど説明されるよりやってみる方が早いし、説明されたとしても伝わらないことはしょっちゅうだ。

 まだ試したことはないがうまく使えば宙に浮くことができるのではないかと思ってしまう。

 それが出来れば高いところにある物などを取る時に楽でいいのだが。

 その前に対象物を動かせないか試すことにする。

 右手を目的の本に向けると掴む動作をする。そのまま軽く引っ張ってみるが詰められているせいで両隣の本まで落ちてきそうになる。

「……むぅ」

 クレアレアを作用させるのをやめ腕を組む。

 これは本当に自らが飛ぶしかないのではないか。

 怒られたら怒られたで今後しなければいいし、そもそもそんな規則などどこにも書いてはいなかった。

 覚悟を決めると集中して力を作用させてみる。

「うわっ!っと、っておぅわ!?」

 バランス感覚には自信があったが全く手足が地面や物に触れていない状態で姿勢を保つのは思ったよりも難しい。

 何回か試し手足をバタバタさせながらもなんとか制御ができるようになった頃には軽く汗をかいていた。

 そうなればあとはこちらのもの。一気に飛びあがると本を引き抜く。

 抱えて床に降り立つとそのまま読めるスペースまで歩いて行った。



「……」

「そういう本、好きだよね」

 当たり前のようにアストレの隣の席に陣取り専門書を読んでいると、覗き込んできたアストレがつぶやく。

「……前、話したでしょ」

「ああ、確かに」

 何の専門書かというと医療系だ。

 もともと第2希望が医療系でもあったためそっち方面には興味がある。それに、どんな処置が行われるのか知っていた方が安心できるというものだろう。

 もちろん、ここにはクレアレアのことなど書かれていないが、もしのことに備えるのは常だ。

 そんなこと、ほとんど人には話したことはない。

 話したところでその話題を話せて正しい知識をくれる相手がいなかったからというのもあるが。

 だが、アストレは正真正銘の医師でしかも話しやすい。これまでもたまにではあるがいくつか質問をしてきた。

「……ふぇ……ぇ、ふえっくしゅんっ!」

 鼻がむずむずして本を手放すと、肘の内側で口元をおさえてくしゃみをする。

「……風邪でもひいた?」

「い、いや……っくしゅ!……アレルギーじゃないかなぁ?」

「うーん、なんだろ?船に持ち込むものは徹底的に洗浄、消毒されているはずだから花粉とかは耕作艦から持ち込まない限りないはずだし、掃除も徹底されてるはずだから埃っていうのも……」

「……と、とりあえず、ティッシュくだふぁい」

 あふれてきた涙と鼻水に顔を隠しながら左手を差し出す。

 自分用の物も持ち歩いてはいるのだが、ついさっききらしてしまった。

「あー、はいはい」



 箱ごと貰ったティッシュ箱を部屋まで持ち帰るとベットの上に置く。

 普通、部屋は共用らしいが一部の戦闘部員や大旅団上層部には1人部屋が与えられている。

 こじんまりとしているが狭いと感じることはなく一通り必要な家具などはそろっている。

 引き出しやクローゼット、鏡にソファや机、一応小型の冷蔵庫もある。

 これは戦闘部のみに言えることだが、与えられた部屋は全て医療部の中にある。一番わかりやすいことを言えば病室というのが一番しっくりくるだろう。

 実際、設計もそれを意識したものになっている。

 怪我をした時などに備えているというのが正しい。自分の部屋でそのまま入院扱いに出来るというわけだ。その他にも他部署の人間用に入院施設はあるがそれはまた別になっている。

 まだ本格的な任務が始まっていないため入院扱いはいないが、始まれば大怪我をする人間も出てくるだろう。

 先日のハルタロー騒動で一時騒がしくなったのはいい思い出ということにしておこう。

 ベッドも病院で採用されているものが使われているが、それで助かっているといえば助かっている。

 まず、寝相が悪いが落下防止策がとられているため落ちる心配がない。そして、素材。ハウスダストなどが出にくい素材のため今日のようにくしゃみと鼻水に悩まされる日が減った。

 窓際まで寄るとカーテンを閉める。

 風呂とトイレは共用だが、防音もしっかりされておりとても心地が良い部屋だ。それに運よく角部屋だったため部屋の前を通る人もいない。

 風呂も済ませてあり、食事の時間まではまだ少しある。

 パソコンを起動するとFPOにログインした。

 つい先日、大旅団内で1サーバーに統合したサービスが再開したのだ。結城の計画がうまくいっている合図でもある。

 まだガライアは使用できないが、これで1歩進んだことになる。

 1サーバーに統合されたマップは旧バージョンよりさらに広大になっている。チームの領地などはなるべく変更が無いように統合されているが、一部の最初期からの市街地周辺では重なってしまうことが多かったらしく、双方の承諾を得て修正がくわえられているところもある。

 当然と言えば当然だが、私の領土は重なることなどなく、そして周りにも何ら変更がおきることはなかった。

 変更があった箇所は新しいマップと同義。サービスが再開してからずっとユーランド地方以外の地方にも足を伸ばしている。今日はほぼ正反対にある砂漠地帯、アルラ地方の変更箇所を重点的に回っている。

 転移用アイテムを惜しみなく使って移動する。

 一度行った場所にならこのアイテムを使えば簡単に移動ができる。もちろん地点は限られアイテム自体も貴重なため使うプレイヤーは少ないが、ここ最近ユーランド地方に閉じこもっていた影響で倉庫からあふれるほどの備蓄があった。それを使っているというわけだ。

 これで残るはエイムス大陸中央部に位置する始まりの街、フィレイン。始めたばかりのプレイヤーが初めて降り立つ地であり、最初期から配置してある主街区の1つだ。

 レアアイテムや店売りの強い武器などが少ない代わりに物価が安くこの周辺をホームにする人も多い。

 思い返せばあまり戻ったことはない。

 あの辺はホームが密集しているためかなり大変だっただろう。

 どのようになったのかは明日の楽しみにするとして、適当な宿屋でログアウトすると夕食へ向かった。



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