第34話 研究部の爆弾
『緊急連絡です。第4番艦研究部にてコード86発生。至急対応願います』
通信機越しに聞こえてくるのは特殊攻撃隊専属オペレーターの声だ。今対応しているのは数人いるうちの1人になる。総務部の中でも特に洗練された人員がここに配置されておりとても聞き取りやすく、指示も的確だ。
コード86。
これはある人物の起こした騒動を指すのだが、これがたまにイスクでないと対応できないレベルで騒動を引き起こす。いや、たまにではなく大旅団として宇宙に出てから数度、つまりは4日に1回の頻度で起こしている。
初めて緊急連絡がきたときには驚いたが、それでももはや日常と化したソレに驚くこともなければ恐れることもない。
ゲート広場からワンシップに乗り込むと第4番艦に向けて自動運転を開始する。
透明な窓の向こうには宇宙が広がっている。巨大な宇宙船が何隻も並んでいる間を抜けるとすぐに第4番艦のワンシップ発着場に着く。
「アルマさんっ!」
着くなり駆け寄ってきた複数の研究員の手には四角い箱のようなものが持たれている。
結界装置と呼ばれるそれは多少なりともクレアレアが扱えれば使用することができる防御装置だ。主に対ラーク用につくられているが、用途はそれだけに限らず普通の物理攻撃でもクレアレアを紡いだ攻撃でも防ぐことはできる。複数用いて対象を囲めば動きを封じれるのも特徴の1つだ。
無論、耐久性はそこまで高いわけでもなく大物のラークともなれば数人がかりで10分足止めできるかどうかになるだろう。
しかし、これまで使われたことは試用試験のみだったはずだ。
「……今回は何?」
「今回は……」
遠くで聞こえた破壊音を耳が捕らえる。
恐らくトゥルーエである彼らには聞こえていないだろうが、クレアレアを展開していなくてもイスクである私には聞こえる。
「……実物見せて」
これは説明を受けるより実物を見たほうが早いだろうし、その方が被害も少なくなるだろう。
再度聞こえてきた破壊音に無意識に光剣の柄を握った。
「次!次だ!」
「結界装置発動!」
数人の研究者がもうもうと上がる煙の中に向けて結界装置をかまえ発動する。
背後では壊れた結界装置を急ピッチで修理している研究者もいる。
「おい、使えそうなのあと何台残ってる!?」
「もう12しか残ってねぇって!あと3回分!」
「修理終わりそうなのは!?」
「かろうじて3!あとはもう修理もできねぇよ!」
「マジかよ!」
ガシンっ!というぐもった音が響き発動中の装置の1つが火花を散らす。
「うわっ、まずいって……」
その後も何度か打ち付けるような音がなり、その度装置が壊れていく。
「交代っ!交代っ!」
ついには煙を上げ始めた装置を見て悲鳴を上げる。
その様子を研究者たちの背後から眺めていたアラキアはため息をつく。
運悪く研究部に資料をとりに来ていたところを巻き込まれた形だが、参謀部であったことが功を奏した。なんとか作戦と呼べるものを実行できているのだ。
暴走し始めたブツをどうにか結界装置を使い動きを封じることに成功したはいいが、その肝心の結界装置も残りわずか。それも修理品が多くなっているため耐久時間は格段に短くなってる。
本来ラークなどの襲撃に備えて設置してある障壁もあるにはあるが、最終的には周囲を見る影もなく破壊された挙句突破されるので意味はない。
破壊も考えたがそもそもクレアレアでない人が多く、クレアレアであってもトゥルーエであることが多いためそこまでの火力は出ずにそのまま防戦になってしまっている。
戦闘部に支援要請を出したがそれができたのもついさっきのため到着はまだだろう。
薄れ始めた煙の向うに見え始めたブツはなおもその手に持った剣で動きを封じている結界を壊そうと猛烈な攻撃を繰り返している。
人の身長の2倍ほどの大きさで見た目はそう、戦隊物のロボットといったところだ。ピンクで塗装され額に桜の花びらを模したマークがついていなければ、だが。
「あぁ、もう、人の試作品んんんん!!ハルタローおおぉぉぉ!」
「おとなしくしていてください、ハル室長っ!」
「だってー!だってー!」
「おい、誰かおさえるの手伝ってくれっ!」
ハルタローと呼ばれたのはそのブツだ。
製作者は言わずもがな。
本来、対ラーク用だというハルタローは何が誤作動したのか研究室を飛び出して研究部を破壊しだした、というわけだ。
何かしら原因があるだろうが大抵はくだらない理由なためその詮索はあとでいい。今はヤツをどうやって止めるかだ。
「うわぁぁ、ハルタローおぉぉ!」
「ああ、もう、お願いですから暴れないでくださいっ!」
数人の男性研究員におさえられてもなお動けるハルの力はどこからくるものなのだろうか。
彼女の元についた人間は運がいいのか悪いのか。
「もう、持たないぞ!交代はっ……」
「次が最後だ!おい、残りは全員奥に退避っ!」
「ハルタロオオォォォォォっ!」
「ああ、もう室長いいかげんにしてくださいっ!」
これでもう、今発動している結界装置が破壊されてしまえば足止めは出来ない。
一応奥にある研究室の人員は退避させているが、実験器具などはそのままだ。破壊されれば大旅団全体に影響が出かねない。
「と、とりあえずアラキアも退避して!」
「でも……」
「ハル室長の部下である以上、俺はアイツをどうにかしなくちゃ。というわけで、コレコレ」
ハルの研究室の副室長である男はポケットから銃の様なものを出す。
しかし弾倉の様なものは見当たらない。
「ハル室長だって無能じゃないんだぜ。むしろ天才さ。……天災でもあるけどな。光剣の理論を応用して作られたこれこそ光銃さ。おい、ハルタロー俺だってトゥルーエだがクレアレアなんだぞ。見てろよ!」
トリガーが引かれ赤い軌跡を引きながら光の弾が発射される。見事に胸の装甲に命中するが最初に試した通りさほどのダメージは与えられていないようで、その攻撃が止むことはない。
それでも攻撃されたことで敵と認識されたのだろう。
ハルタローは副室長の方へ向かおうとしている。
「おい、もう持たんぞ!」
「よし、全員退避!」
足止めしていた結界がなくなったことで猛スピードでこちらに突っ込んでくる。
「おいおい、マジかよ……」
「予想してなかったのか!?」
「アイツもっと鈍足なはずなんだよ!うわ、来るっ!」
反射的に頭を抱えてその場にしゃがみ込む。
次の瞬間、ものすごい衝突音が響き渡った。
それと同時に不機嫌そうな呟きも。
「……なにコイツ」
研究員に突進する目標を見つけて光剣を抜き間に入ってその攻撃を受け止める。
周りの破壊状況から見ればもう少し押されてもいいはずだが、さほど力を入れておらずクレアレアも完全には展開していない状態であっても容易に受け止めきれた。
しかし、何かが違う。
「……なにコイツ」
なんだが無性に腹が立ってくる。
周りの状況から見てここでなら何をしても怒られないだろうと判断。思いっきり押し返すとピンクのロボットを薙ぎ払った。
気持ちのいいほど見事に吹っ飛んでくれたが、再び見えたその装甲には光剣で薙ぎ払ったとは思えないほど小さな傷しかついていない。
「……」
普通ならば、金属でできていようともイスクの前ではほぼ意味をなさないはずなのだ。
それなのに、これだけの損傷とはどういうことだ。
「……クレアレア展開」
手加減など不要。最初からそうすればよかった。
完全にクレアレアを展開すると《双氷剣》をかまえ床を蹴る。
「……」
一番損傷の酷い胸の装甲前に瞬間的に移動すると、剣を一閃させた。
「……で、なんで対ラーク用の自動攻撃ロポットに対クレアレア用シールドがついていたんです?」
比較的被害が少なかった研究室の1室。そこでアラキアとはじめとした参謀部や事後処理、状況分析のために派遣されてきた情報部員、総務部の面々に囲まれたハルに向かって不機嫌なのを隠さず聞く。
「だって、対汚灰ができるんだったら対クレアレアもできるかなって。で、できたから試しにどれくらい耐えられるのかって実験してみたら敵って認識されちゃった。えへへ」
「えへへじゃないですよ。室長……」
「……医療部の仕事も増えましたし」
「情報部も増えたし」
「……参謀君、お疲れさん」
「そうそう、いてくれて助かったよ。アラキア」
各部署の面々が仕事が増えたと嘆く中、副室長は深々と頭を下げる。
「で、迅速な対応ありがとう。戦闘部の……アルマさん」
「……任務だし」
何度かハルの騒動の始末に来ているため名前を憶えられたのだろう。こちらは名前は覚えていないが、この副室長の顔は覚えている。確か前回もいた。
「さてと、報告書をまとめなきゃいけないから僕は行くよ。アルマは?」
「……一緒に帰る」
「船別でしょ?」
「……あ」
「まあ、送ってくけど?」
「……うん!」
この後、テレビ電話を通じて事の一部始終を見ていた結城にハルが叱られていたのは言うまでもない。




