第31話 光騎士(こうきし)
大旅団。
その名の通り巨大な旅する宇宙船の集まり。
そのマザーシップともいえる船が私の新しい家になった。
宇宙船といえど空を見なければさして地球と変わらない。少し洗練されすぎているという点を除けばだが。
重力もあれば所々に自然もある。
聞いた話によれば食糧生産の為に畑のみが広がる船もあるらしいが、それは私達は気にしないでよいとほとんど情報は得られなかった。
閉鎖空間であるにはあるのだがそれを感じさせない。
それもクレアレアであるからこそ遮断用の薄い膜が見えるがそれ以外は宇宙が広がっているため理論から言えば普通の空とほぼ変わらないはずだ。
市街地の中心部。ひときわ大きな建物が全ての中心だ。
戦闘部と医療部の本部でもあり、全てを統括する総務部もここに入っている。研究部や参謀部、情報部などはそれぞれ他の船だという。それでもマザーシップからほど近いところを航行している。
その他にも、技術者であったり船団内の店の店員であったりと戦闘部の人間から見ると所謂一般人の居住区もマザーシップとは別の船に用意されているらしい。
戦闘部の任務は船同士を移動するために使う小型の船の発着場に直結するゲート広場で個別にチェックするらしく、しかも時間指定もないためかなり自由だ。今現状は全員に待機命令が出されていて私も船の内部を探索したりしている。
耳に装着してある通信機は超小型の物で装着感がほぼない。緊急の際は直接連絡が来ることになっている。
戦闘部の規定上、任務時間外でもあの制服の着用を義務付けられていることを除けば本当に地球との生活と大差はない。
「アルマ」
呼びかけられて振り返ると凪、アラキアが立っていた。
思わず凪と呼びそうになるがここではこれまででいうプレイヤーネーム、ここでいうコードネームで呼ぶことが主流になっている。
「どうしたの?この船にいるのは珍しいよね」
参謀部所属のアラキアがここにいるのは大抵本部に用がある時だった。会える機会が減って心細いのは確かだ。
「なにって、今日はアルマの所属隊の発表日じゃん。……で、アストレさんに一緒についてってくれないかって言われてきたってわけ」
「……あ」
すっかり忘れていた。
戦闘部は戦闘部内でさらに4つの隊に分かれる。攻撃隊、防衛隊、援護隊、先遣隊の4つだ。
その名の示す通りで、その人自身の素質によって振り分けられる。
その中でさらにいくつかの班に分かれそれが通常の任務での班となる。と、言うのだが嫌すぎて忘れたか、はたまた攻撃隊だろうという思い込みで忘れていたか。
とにかくアラキアが来てくれたおかげで助かった。
「……い、行こ」
「はいはい」
戦闘部のロビーは多くの戦闘部員でごったがえしていた。5から6人の班が攻撃隊で50、防衛隊で200、支援隊で300、先遣隊で30、つまりはこの場に5000人弱の人間がいるというわけだ。
手元にあるスマートフォンの様な見た目をした認証機器を受付に渡すとファイルと共に返される。
ファイルの中身をみて自分の所属を確認して待機するようにと言うことだったので、ロビーの端に移動してアラキアと2人偶々空いていた椅子へ腰掛ける。
「で、どこなの?」
「……ぼ、防衛隊かなぁ」
「そんなわけないでしょ」
渾身のボケを放ってみたが駄目だったらしい。
恐る恐るファイルを開いてみると挟まっていた紙はたった1枚。右下にはクレアレアの紋章まで入っている。
そこには自分のクレアレア展開時の写真と共にたった1行のみ文字が印字されていた。
「……特別、攻撃隊?」
声に出して読んでみるが一度もきいたことがない。
「特別攻撃隊?」
横から覗き込んだアラキアもきいたことがないらしく首を傾げる。
「お、アルマじゃん。どうだった?」
気さくそうな声がした方を見ると同じ白のクロークを着た背の高い男子が立っていた。カイだ。
彼とは訓練を共にした仲というのもあり比較的話しやすい。
「……カイは?」
「俺は防衛隊だ。んで、お前は?」
「……」
何と答えればいいのだろうか。
フードの下からアラキアを見ると困ったように頬を掻く。
「……アラキアぁ」
「いや、僕を見られてもねアルマ?」
「ん?彼氏か?」
「え?」
カイが放った言葉に一瞬頭の中が真っ白になる。
彼氏?
化粧の次に縁がないと思える言葉だ。もしくは同等か。
彼氏いない歴=年齢の私にどうしろというのか。それで小説を考えるときの心理描写に困るボクに。
「い、いや、ちがっ……え、え?えぇ?」
もはや自分が何を言っているのか分からない。
そのまま、数分思考停止した。
「アルマ、……アルマー?」
「ん?」
「呼ばれてるよ」
「え、あ、うん」
カイは既に立ち去った後らしくいなかった。
ロビーの中心部には4つの集団が出来上がっていた。それぞれの隊ごとの塊だろう。班分けもできているようで綺麗な列になっている。
「ボク、どうすればいいんだろ……」
「お前さん、アルマってやつじゃないか?」
「ふぁい!?」
いきなり背後から聞こえた声に跳びあがってアラキアの背後に隠れる。
どうしてこのボクが気配を察知できなかった?いや、その前にどうして知らない人からいきなり話し掛けられるのだ。
そっと顔を出すと日に焼けた初老の男性が立っていた。背も高く筋肉質でいかにも銃のゲームの主人公のような風貌だ。おそらく日本人ではないだろう。
「アルマだな?」
「……う、うぅ」
軽く頷く。
「こら、ジューク!ダメじゃない、見た目から怖いのに、迫ったら余計怖がるでしょう!」
ジュークと呼ばれた男性を軽く小突き横から入ってきたのは金髪の女性だ。赤い口紅がとても似合っている。背には銃を担いでいる。ということは、その姿はクレアレア展開時の姿だろうか。
同性でもその胸に視線がいってしまう。
「ジュークがごめんなさい。私はユニータ。本名もユニータだから気軽にユニータって呼んでね。それで、あなたがアルマであってるかしら?」
「……う、うん」
この人たちが今後何度も会うのだったらそのうち慣れるだろうが、最初のうち挙動不審なのは許してほしいところだ。
軽くアラキアの袖を引っ張ると、アラキアは苦笑する。
「はいはい。……と、ジュークさんとユニータさん初めまして。僕は参謀部のアラキアって言います。アルマは初対面の人と話すのがこの通り苦手でして、かわりに僕が。何の御用でしょう?」
「ああ、あなたがアラキア君。結城さんから話が来てるわ。その点はこちらも理解しているから心配ないわよ。……それでね、アルマちゃん、あなたの所属の事なんだけれども特殊攻撃隊って書いてあったわよね?」
「ん」
「あれは私達と同じ隊なのだけれども、他の隊とは少し訳が違うの。これから他の子たちにも説明はするけれど私とジューク、あと2人は光騎士っていう各隊のリーダー、つまり戦闘部の幹部なの」
「うん?」
「その光騎士と数人いるソロ戦闘員で作られる班が特殊攻撃隊。あなたの所属班よ」
「……うん」
「だから、あなたは比較的自由に動けるはずだから心配しないで。これまでのPFOと同じよ」
「ん?」
PFO?
その単語に頭をフル回転させる。そう言えばこの2人の名前もどこかで聞いた名前だ。
「……あ」
ジュークにユニータ。
2人ともPFO内のアンチ武器所持者の名前ではないか。
ジュークは第1サーバで斬魔光煉という刀を。ユニータは第8サーバでアーマライトAR-50という実際にある銃と同じ銃のアンチ武器の所持者だったはずだ。
「……あの、その、武器」
ユニータが背負っているのは間違いなくアンチ武器と同じものだ。現実にも存在するため本物かもしれないが。
「ふふ、気づいちゃった?」
「え」
「そうよ。私もジュークも、光騎士は全員PFOでのアンチ武器所持者よ。残りの二人はカストにフィデ。わかるわね?」
「ん……」
なるほど。
アストレはカストと鉢合わせたくなかったからアラキアをついてこさせたのか。聞いたところによるとそこまで仲がいいわけではないらしい。
フィデは確かユニータと同じ第8サーバの大鎌使いだったはずだ。同時にユニータと同じチームで大鎌ヤーヘンの所持者だ。
つまり、幹部は全員PFOプレイヤーだったということか。
結城といいアストレといい、あのゲームをしていた人間はかなり多いということか。
「それじゃあ、これからよろしくね。分からないことがあればいつでも聞きに来て大丈夫よ。それじゃあ」
「ではな」
「……うん」




