第29話 対人戦
「ところでさ、どんな感じに見えてるの?」
アストレが例の装置から接続していることを思い出す。
私が訓練で使った時には見え方に多少の違和感があってオブジェクトもよくよく近づいて見ると作りが荒かった。
だが、実際にその中に立っていると錯覚が出来るくらいにはすごかったといえよう。
どうやってチャットの入力やメニューの操作をしているのかも気になる。
「最初は妙な感じがしたんだけどね、やっぱりPFO規格につくられているからか、かなり綺麗だよ。チャット入力はなくて、声に出して喋っているのが文字出力されているんじゃないかな。……メニューは所謂ホログラムって感じで宙にこう」
そう言ってアストレは手でパソコンの画面大の四角を作る。
なるほど。動きがリアルに見えるのも事前に登録されたモーションではなく、入力された信号をそのまま出力しているからなのか。
「……いいなぁ」
「あとで結城さんに頼んであげるから。きっとこのホームのデータもコピーして入れてくれるんじゃないかな?しお……じゃあなくて、アルマの場合ネットに接続できない状況で試すことになるから、世界中のフィールド全部ってわけにはいかないだろうけど」
このホームを再現してくれるなら大歓迎だ。
鳥尽くしの家を実際にまじまじと見ることができるということか。
「さて、本題に入ろうか」
装備を整えると、対戦申込を承諾する。
2人の立つ中間から50メートルの地点を光の壁がぐるりと取り囲む。
その内部は対戦フィールドと呼ばれ、たとえそこが街やホームのようにダメージをおうことのないエリアだったとしても対戦中のみ一般フィールドと同じようにダメージ計算がなされることになる。
当事者でなかろうともその圏内に入ればダメージをおうことになるためそれを防止するための目印ともいえる。
チームの領土合戦でもさらに大規模だが同様の目印が付くことになる。
「準備は、いい?」
開始までのカウントダウンが30をきったところできく。
「ああ、もちろん。なにも勝とうとは思っていないからね」
でも、とアストレは言うと武器を変更しする。
一見したところ剣の柄の様な持ち手だけに見えるが、その先端から立ち上り刃の様な形を作った光を見るとまさしく小型の剣。
魔杖剣と呼ばれる魔法武器だ。
支援よりも攻撃に向き、且つ隙も少ない。下位魔法なら溜めなしでもそれなりの効力を発揮できる武器だ。
主に追い詰められたときの魔法職の武器と言われているが、そういうのは大抵前衛が倒され自身しか残っていないとき。つまりは、前衛としても対応可能な武器ということだ。
「最初から諦める気はないよ。本気だ」
「……」
おもしろくなりそうだ。
カウントが0になった瞬間、回避行動をとる。
その場で動くことなく魔杖剣を振ったアストレ。狙いは不意打ちだったのだろう。それまでいた座標で爆発が起こる。
あれに巻き込まれていればそのまま打ち上げられ体勢を立て直す前に追撃が入っていただろう。そして抜け出せるまではめられる。
低レベルのプレイヤーならまだしもアストレレベルとなると、どれほどHPが削られるかはわかったものではない。
とはいえ、遠くにいてはあちらが有利なだけだ。
微かに両手に持った剣が光を放ち、アバターごと消えさる。
次の瞬間、アストレの目の前に出現したアバターは腕を交差させていた。十字に放たれた斬撃はやすやすとアストレを吹き飛ばす。そのまま下から斬りあげ打ち上げると、両手に持った剣を回転させながら投げつけ地面に叩きつける。
「……」
派手なエフェクトがかかるがこれで倒れるほどHPが低いことはないだろう。
念のため空中で回避行動をとるがあたりだったようだ。
氷のつぶてがたった今落下していた場所で吹き荒れ、かする。まさかと思い、カメラを下へ向けると真下には赤い魔法陣。
(あ、やれらたなぁ……)
立ち上がった火柱が直撃しHPゲージがガクッと減る。微々たる量だがそれでも確実なダメージだ。
このまま地面に叩きつけられては大きな隙を生んでしまう。
先ほどのアストレもそれを回避したのだろう。でなければあんなに早く攻撃がとんでくることはあり得ない。
体勢を立て直してからアストレのHPゲージを見ると驚いたことにまだ3分の2以上残っている。普通の魔法職ならかたくとも2割残っているかどうかのダメージは与えたつもりだった。
このゲームではレベルが上がれば上がるほどレベルの価値はなくなっていく。どちらかといえばスキルや装備品、最終的にはプレイヤースキルがものを言うようになってくるのだ。
おそらくアストレのレベルは相当上だろうが、それはこちらも同じこと。今まで前線に出ることなどほとんど考えていないとなるとスキルの大半は回復上限突破や補助の強化に当てているだろう。そうなると考えられるのは装備品。
基本的に装備品は可視化できる状態で装備される。
魔法職の装備品に詳しいわけではないがある程度は理解しているつもりだ。
そしてその中で唯一知らない装備品があることに気が付いた。
首にかけているアミュレットだ。
他の物は魔法攻撃力や支援の強化のための物だが、あれだけは知らない。
連続で飛んできた火の球を回避すると術の発動による硬直がとけないアストレに向かって剣撃を飛ばす。接近職の中では珍しい中距離攻撃だ。
「っ!」
硬直がとけないということは防御も回避もできない。
直撃した、と思った瞬間彼の前に薄い膜が広がっていることに気が付く。それでもダメージは入ったようだが予想より格段に少ない。
(と、いうことはアレは被ダメージ減少用のアイテムか!)
それもかなりの量を防いでいる。だが、ある法則が見えてきていた。
そうなればこちらも考えがある。
《蒼氷》グライアオスのみの片手剣装備に変更すると、低い構えから地を蹴る。先ほどと同じように姿が消えるが、変わったのは出現位置。
アストレの背後に現れると剣が煌めき高威力の1撃で斬りあげる。
「!」
思った通り大幅に削れたアストレのHPの残量は半分を下回る。
あの装備品は正面からのダメージは大幅にカットするようだが、背後からの攻撃には意味がないらしい。さすがは後衛職らしい装備だ。
「でいやあぁっ!」
さらに武器を持ち替え巨大な両手剣を装備すると叩きつけるように振り下ろす。
しかし、削りきれることはなくほんの僅かに赤く表示されたゲージが残っている。
そして大剣のデメリットを知っていたのだろう。
落ち着いて体勢を立て直したアストレは今度は詠唱を始める。
大きいためリーチもそこそこあり、威力も大きいが素早い行動は制限される。技を発動してからや回避行動をしてから次の行動に入れるまでに課されるほんの僅かな硬直時間もその対象。
僅かだが、大きいのだ。
そしてアストレは離れた場所にいる。つまりは詠唱を妨害できず。
足元に現れた風の魔法陣はあまり見かけることがない上級魔法の1つ。無数のかまいたちに切り裂かれ恐ろしいほどHPゲージが減っていくのがみれる。
(おお、すっごい)
けれども、追撃はさせるわけがない。
相手はこちらが完全に体勢を崩していると思っているだろう。だが、大剣のメリットの1つ。生半可なダメージでは体勢は崩さない。
再度、片手剣装備になると背後に瞬間移動し、斬りあげた。
「いやー、久しぶりに負けたー!」
地面に寝転ぶアストレはすっきりとした笑みを浮かべて大の字になる。
「うん、すっきり!」
「……負けるかと思った」
「そんなこと言っちゃって。本気出してないでしょ?」
「……」
当たりといったら当たりだ。だが、今の装備では本気だったと言えよう。
その『本気』は、1対1の対人戦や雑魚モンスター向きではない威力を秘めているからだ。
使うのは1対多数だったり、あるいは超高難易度ダンジョンと呼ばれる場所くらいだ。
1対1では卑怯だし、モラルを問われる武器だと言っておこう。
それにアレはゲームバランスを崩壊させるような能力を秘めている。何故運営はあのような物を作ったのだろうと思えるような代物だ。
「ま、いいけどさ。きっとアンチ武器だろ?」
「……」
アンチ武器、とは通称だ。
ゲームバランスを崩壊させるような威力や能力を持った武器の事でサーバーではなくゲーム全体にそれぞれの武器種で1つあるかどうかと言われている武器のことだ。
通常のプレイで手に入ったことはなく、ソロのもとにしか現れないとさえ言われている。
現在確認されているものでは、全部で4つ。公表していないから私も含め5といったところだろう。
私以外の所有者達は入手後、例外なくチームを立ち上げ大規模チームとなっているらしいがその内2人が同じチームの所属のため全部で3つの規格外チームがあるわけだが、幸いサーバーが異なるため所有者同士の領土争いは起きていない。
仮に全部が同じサーバーだったとしても、どのチームも一定以上の欲がないためよほどのことがない限りそのチーム間で戦うことはなかったとも言えるが。
「ところでさ、なんでアンチ武器だなんて思うの?」
「ああ、見たことがあるんだよ。僕の兄が所有者でね」
「は?」
「カストって言うんだけど。第3サーバーの。同じ反応するからさ。明らかにこちらが押しているはずなのに余裕ってね」
「カスト……」
長杖のアンチ武器の所持者でかなり変わった人物だったはずだ。趣味に興じるわけでもなく、かといって強さを求めるわけでもなく、ただ情報を集めるプレイヤー。
実際、チームを立ち上げたのは彼だが、その後チームリーダーの座を受け渡し今は参謀の様な立場で情報収集を続けているという。
「よかったら、後で本人に紹介するけど。……一応、戦闘部の人間らしいからね」
「……へ?」
「そもそも、あんな陰険メガネなんかほっといてもいいんだけど」
そう語るアストレの顔には不気味な笑みが浮かんでいた。




