第28話 クラフター
ペルグランデフェドゥスオンライン第9サーバーフェミル。
比較的新しいサーバーながら過疎サーバーと呼ばれる程度には人が少ないサーバーの1つだ。実際やってみるとそこまで感じることはないのだが。
故に、一番最初に自由に選ぶことができとられることもない初期陣地の場所はかなり自由度が高い。はずなのだが、あえて不便で人気のない森の中を選んだ。
ソロであるため陣地の取り合いが大変だから、ではなく理由はただ1つ。
鳥がいたから。
最初はどこか主街区に近く移動が楽な場所にしようかと思ったのだが、探索がてらふらふらと歩いているうちにこの森に入り込み、この場所を見つけてしまった。そして、たくさんの鳥を目にした瞬間、資源など関係なくここをホームにしたのだ。
鳥こそ最高の生き物である。
今では誰も狙ってこないのをいいことにかなり広大な領土を得られている。
その中にひっそりと建てられた木の家は装飾に凝っているわけでもなく、だからと言って何の装飾もないわけではない。よくよく見れば所々が鳥モチーフになっているのだ。
無論、これがゲーム内の既製品であるわけがない。
PFOが大人気の理由はその自由度の他にクラフトと呼ばれるシステムにある。
ある程度までで審査に通ればという条件付きだが、自分で好きに見た目を変えられるのだ。家の外見やアバターの髪型や服装までやろうと思えば細やかな変更を加えることができる。
用意されているひな形を改造するのが一般的だが、クラフターと呼ばれるクラフトに特化したプレイヤー達は細かい規約にのっとって1から自分たちでモデリングするという。
もちろんパラメーターをいじることは出来ないが、ゲーム全体で唯一のアイテムをつくることが可能だ。
私も少し3DCGの心得があったがためにひな形を少々いじって今の形にした。
クラフターといえば、このゲームとコラボしたゲーム会社の制作チームがゲーム内でチームを結成し、そのホームを全クラフトすることもたびたびある。おかげで至る所に他ゲームのエリアが出来ているのだが、それもこのゲームの面白さの1つだろう。
行き来しやすいようコラボエリアは密集していることが多いため、西洋風のファンタジー感あふれる深い森の古城エリアを歩いていたと思えば、いきなりスチームパンク感満載の近未来都市エリアに入ることもあるからだ。
そのほかにホームにギミックを仕掛けることが出来るため、1歩隣のエリアに出たら宙に浮いていたなんてこともある。
主街区に近いところをホームに選ぶプレイヤーはコラボエリアへ行くことだけを考えるプレイヤーさえいるというのだから余ほどのことなのだろう。
PFOは基本、アイテムの使用なしでは主街区間での転移しか出来ない。
その主街区もかなりの数ある。
マップ自体も広大過ぎて敵を無視して走ったとしても1つの地方の端から端まで行くのに丸2日はかかる。その地方がまた複数集まって1つの大陸なのだから、今後のアップデートでさらに広がっていくだろう。
ユーランド地方はその中でも中世ヨーロッパをイメージした地方らしくどこかファンタジーっぽいフィールドや街が配置されている人気の地方だ。その中でも特に栄えている主街区の1つアドガレ。
石畳に白い石で建てられた建物。街中には水路が張り巡らされており、そこを船が行き来する。
中央にそびえる尖塔付きの大きな城はアスタリアのホームだ。
つまり、アドガレはアスタリアの街と言っていい。
ここを中心に東西南北同心円状に領土を広げている。
その端の領土は全て城塞都市という徹底ぶりだ。
多くの人で賑わうが大抵は補給のために立ち寄った他地方からの冒険者だったり、観光客だったりと思ったほどアスタリアのチームメンバーを街中で見かけないのもこのチームの温和さのあらわれか。
きくところによると、かなり厳重な領土管理をしているチームが拠点にしているある街は至る所に監視のためのチームメンバーが立っているという。下手に動けば有無を言わさず強制退場、最悪PKになることもあったらしい。
気まぐれな天気システムも今日のところは晴天と空模様も悪くない。
チームホーム入り口前の噴水に腰掛けて待っていると、フレンド申請の音が聞こえてきた。
相手はやはりアストレだったためすぐにOKボタンを押す。
それと同時に嫌な予感がしてアイテムバッグを開くと顔から足元まですっぽりと覆うフード付きマントを装備させた。
『今、そっち行くから待ってて』
チャット画面にそう表示され、わかった、と返事をしておく。
そして、悪い予感は当たったのだ。
アスタリアのチームホーム内から出てきたアストレがこちらに向かってダッシュで向かってくる。その背後からアスタリアチームメンバーと思われるアバター数人に追いかけられている。
「ごめん、事情説明はあと!とりあえず、街の外にっ!」
その姿を追いかけながらパーティー申請をし、承諾した次の瞬間、転移アイテムを使った。
「……で、あれなんだったの?」
霧がかかる深い森のダンジョンの入り口で文字を入力する。
不気味さと敵からドロップする品が強さのわりに低レア品が多いため、クエスト以外ではあまり好んで訪れるプレイヤーがいないダンジョンの1つだ。
「いや、アスタリアって大規模ギルドだろう?そうすると役職割が会社並みに厳重でさ。……うっかり、ここ数日承認作業を忘れてたら大量に溜まっちゃってて。偶然鉢合わせた部下に怒られてたところを先約があるって逃げ出して来たら、……女の子の嫉妬って怖いね」
「……は、はは」
これは完全に巻き込まれた形ではないか。
一部の人気プレイヤーにはクラスタがついていることがある。そしてチームに入り直属の部下などになって所謂玉の輿を狙う女性プレイヤーの例もあるのだが、今回の場合、最悪アストレの『女』とみなされた可能性がある。
勘違いからくる嫉妬は怖い。
幸いチャットは2人だけの間で交わされたものであり、アバター自身も隠蔽スキルを使っていたことで、アストレがパーティーに入ってから転移するまでのコンマ数秒しか姿が見えていなかったことになるが、これでアバター名がばれていた暁には領土を狙われるなり、妨害されるなりの報復が待っている。
これは所謂行き過ぎたクラスタの例だが、そんなことがないとも言いきれない。ましてやアスタリアの要職ヒーラーだ。
これは侵入者対策を一応しておいた方がいいと、メニューを開くと境界線付近を中心に対人のトラップをしかけた。
「……誤解があったなら解くのはアストレの仕事だからね」




