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第25話 明かす正体

 注目されることにも慣れてきた。

 とは言っても直接話すことは無理だが。

 ここに来るのも24回目になっていて、施設の構造もトラブルの対処方法もしっかりと頭の中に入っている。

 これまでよせられた感情や視線は決して好意的なものだけではなかったが大きな問題も起こらず順調に進んでいた。

 一般人、というくくりで見れば今日が最後になる。

 次回のコールドスリープは大旅団の親族のみになるからだ。

 場所はこの東京1カ所のみになるが、クレアレアだけでなく研究員や技術者、参謀部、情報部などの部署所属の家族も含まれるため、今までで最大規模のものになるという。

 最後の待機組が全員扉の向こうに消えたのを見て施錠する。

 体育館が3個ほど入りそうなほど大きなホールに残っているのは私達クレアレアと、数十人の研究部や参謀部の人間だけだ。2桁の人間がいるというのに閑散としているとさえ思えてしまう広さなのだ。

 午前中にはここいっぱいに待機列を作っていた人が、今では1人もいない。

 なんという巨大なものをつくったのだろうか。

 コールドスリープの施設は地下につくられている。

 地上に出ているのは大ホール1つくらいの大きさの建物のみだが、地下部分は何層にも及んでいるという。一度歩いた場所は迷わない自信のある私でさえ、初めて来た時は迷いかけた。手元に地図があったのが救いだった。

 こうも広いと移動も大変だ。

 それでも毎回、終わると凪は迎えに来てくれていた。

「ほら、帰るよアルマ」

「うん……」

 ホールを出るとき、一度ふりかえる。

 明日は、ここで。ここに見知った人が来るのだ。

 それに、大旅団に関わっていると打ち明けねばならない。

 凪などは既に打ち明けてあるらしい。だが、私は未だに打ち明けられていなかった。

 世間からどう見られているか分からないこの立場にいる私にどんな反応をするだろうか。

 大旅団の関係者であるだけでなく、クレアレアだとわかったら。

 車に乗り込むと携帯端末を取り出して連絡アプリを起動する。

 明日会場で合流するから、とだけ送って閉じる。思えば前に連絡と取ったのはコールドスリープが始まったころだ。コールドスリープは何日かおきに実施されていたため、1か月半は連絡をとっていなかったことになる。

 明日は例外ではあるが問題はないと結城も言っていた。

 明日が終われば、出発の準備のために一度家に帰ることになる。私の物は整理しなくていいと言ってあるからそのままだろうが、残りの物は保管庫へ搬出された後だろう。

(……)

 考えるのをやめてカーテンの隙間から外をのぞく。

 相変わらず汚灰はいが降り続けていた。




 今日の待機列は少し違っていた。

 敵意や興味本位の視線をほとんど感じないのだ。

 クレアレアがいる、と一瞬物珍しそうな目で見られるがそれ以上のことはない。彼らは私達も自らの家族と同じく人間だと分かってくれているのだろう。

 いつもよりも警備が緩い今日は全体の雰囲気も柔らかい。

 所々で立ち話をしている人もいる。

 普段は立っているだけの他3人のクレアレアも今は家族と共にいるらしく姿が見当たらない。

「アルマ君」

「……結城さん」

 ふらりと現れた結城は私の肩に手を置く。

「行ってきたまえ」

「……うん」

 振り返らずに歩いてゆく。

 かなりの人数がいるということもあってなかなか見つからない。

 ふと、耳がある声をとらえる。

 そちらの方へ歩いてゆくと、いた。

 鳥の入った小さなかごを持った母親と父親が列の最後尾に並んでいた。かごの中では不安げにピィピィと愛鳥が鳴いていた。探していたのはこの子の声だ。

「……」

 どう話し掛けたらいいのだろうか。

 どうしたらいいのか分からずしばらく棒立ちになる。が、こちらは仮面の下からだが、母親と目が合う。

 母親は父親の袖を引っ張るとこちらを小さく指さす。

(ああ、もう、……ここは流れに身を任せるしかないな)

 動き出してしまえばそのままいけばいい。

 覚悟を決めると2人のもとに歩み寄っていった。

 近くまで来たとき、仮面に手をかけると外しフードも外す。

「ママ……パパ……」

「紫苑……」

「……!」

 何も考えられなくなりふらふらと近づくと、一瞬躊躇い胸に飛び込む。

 今はただ何も言わずに抱きしめてくれた両親の温もりに包まれていたかった。



「……私はクレアレア、イスクだから……だから……」

「うん」

「大旅団の一員で、今回のコールドスリープの対象者じゃないから……」

 どうにか落ち着いて今の自分の立場を下手なりに説明している。

 それを何を言うでもなく相槌を打ちながら聞いてくれていた。

「……ごめん……なさい」

「……そんな予感はしてた」

「え?」

「紫苑は分かりやすいからな」

「え?」

 両親の思わぬ言葉に混乱しそうになる。

「それにテレビで見てた時からアレは紫苑なんじゃないかってパパと話してたの。それにここに着いて、ニュースで見てた雰囲気とは少し違ってたからね」

「じゃあ……」

「……気を付けて……いってらっしゃい」

「必ず帰ってこい。いいな?」

「……うん!」

 その後はこれまであったことを話したり、愛鳥を愛でたりと最後の最後まで一緒にいた。

「それじゃあ、いってらっしゃい。気を付けてね」

「またな、紫苑」

 扉の前で立ち止まって話をする。

 周りでは他のクレアレアの家族と思われる人と男子たちが同じように話していた。全員、仮面やフードは外している。

「……必ず、成し遂げて見せるから。安心して?」

「ああ、それじゃまたな」

「……うん。……パパ、ママ!」

 扉の奥に向かって歩き始めた両親を呼び止める。

 ずっと、言おうか迷っていたが、それでも今言わなかったらもう言えない。後悔だけはしたくない。

「……また、会えたら……帰ってきたら、……今日みたいにギュって抱きしめて」

「ええ。それに何でも好きなもの食べさせてあげる」

「……ん」

 母親は微笑み、父親は気恥ずかしかったのか少し頷くだけだったが、それで十分だった。

 あとはもう、研究員と医療部員たちに任せるしかない。


 全員が入ったことを確かめると、扉に手をかけ閉める。

 背後に1人の人の気配を感じるが振り向けなかった。視界はにじんでもはや何が目の前にあるのか分からない。

「……紫苑ちゃん、お疲れさま」

 肩に置かれた手から熱がじんわりと伝わってくる。

 そのまま軽く引っ張らるが逆らわずその流れに身を任せた。

 涙でぐしゃぐしゃの顔を見せたくはない。なのに。

「……ダメだなぁ、ボク……こんな年になってまで……はは」

「いいんだよ。……たまには、感情を見せてくれてもいいでしょ?」

「う……うわぁぁぁん……!」

 消毒液の匂いに包まれて泣き疲れるまで泣いた。

 その間、深川は両親と同じように何も言わずにただ、そこにいてくれた。



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