第12話 計画
汚灰は宇宙から来たもの。防ぐ手段は小規模すぎて実用できない。何の抵抗もしなければ滅ぶのは確実。
だが、対抗する術はあり、そこへ至る技術も人も、成功する確率もある。
ならば、その根源を断ってしまえばいい。
それが今回の『大旅団』計画だった。
クレアレアを元凶の殲滅レベルで扱える人材は少ないが世界中から集めればそれなりの人数がいて、且つ戦闘レベルでなくとも扱える人材ならもっと多くの数が集まるだろう。
その差は大きく区別する必要も出てきたため前者をイスク、後者をトゥルーエと呼ぶようになった。
計画は単純だった。
イスク達がその根源を浄化する。
ただそれだけだ。
根源はラークと呼ばれる汚灰で構成された正体不明の生物だとされている。地球上に現れることはほぼないが、汚灰の流れをたどった先では確認されているという。
実際、説明を受けた際に何とも言えない気味悪さを持った黒っぽい生物の映像を見せられたがそれがラークだという。撃破されたラークが汚灰となり消え去っていくさまも見た。
それは汚灰に対して耐性のあるクレアレア、イスクでなければ汚灰を浴びた時同様、汚染されてしまうことを意味している。
だからこそ元から数が少ないイスクは貴重な戦力であり、計画上で重要な立ち位置にいる。
だからこそ管理が厳しいといえばいいのか。
3日に1度の定期診断を義務付けられているのはいいが、その度2,3時間医療部に拘束されるこちらの身にもなってほしい。
「筋肉付いたねぇ」
「……そりゃ動いてるし」
「始めの1週間は筋肉痛で半泣きだったのを覚えてるよ」
「……こんなに動くことなかったし」
「まあ、そうだろうね」
目の前の椅子に座って半分笑いながら紙をめくっているのは私の担当医師である深川浩二だ。なんでも結城はクレアレアでもイスクの健康状態をきっちりと管理したいらしく1人に1人、専任の医師をつけつという措置をとっていた。
人選もまた絶妙な采配であまり人と話すことが好きでない私でもこの医師となら気軽に気兼ねなく話せる。
実は深川もイスクであるのだが、その力は治癒方面に偏っていたため医療部所属になったらしい。
そんなこんなでクレアレアの性質も使い方もいちいち説明しなくて済むからなおいい。
「で、不調もないよね?」
「ないよ」
「なら、今日はこれでおしまい。紅茶は?」
首を縦に振る。
人の扱いがうまいというべきだろうか。私の紅茶好きを知ってか知らぬか、いつも検診終わりや立ち寄った時には紅茶を出してくれる。
ここからは雑談タイムになる。
主に話しているのは深川の方だが、いつもこちらを飽きさせない。
「そういえば、紫苑ちゃんもPFOプレイヤーだったっけ」
「え?うん、そうだけど」
「実は僕もやっていてね。アスタリアっていうチーム分かるかな?そこのヒーラーなんだけど」
「……へ?」
アスタリアといえば中央の激戦区でも有力なチームの1つでサービス開始直後からあるチームの1つだ。ある程度の陣地を確保した後は陣地を発展させることに特化して発展度ではトップクラスでもある。
陣地をこれ以上広げる必要はないため、防衛することに重点をおいて装備も選ばれており、他の有力チームの間でもアスタリアの陣地を奪うことはほぼ不可能とされている。
一度、キングというサーバー内1の陣地面積を誇るチームに頼まれ助っ人として参加しアスタリアの陣地攻撃を行ったが、連携の採れた防御と回復で結局は何の利益も得られなかったことがある。
これはゲーム内でも大きな話題になった。
曰く、アスタリアは難攻不落だと。
確かに1対多数という面でも不利ではあったが、当時それなりの攻撃力があると思える程度には強かったはずだ。
「ネームはアストレっていうんだ。緑髪エルフのね。性分なのか白衣姿はゲーム内でも共通でね。紫苑ちゃんはどこのチームなのかな?」
「……チームには入ってないよ。いや、チームメンバーはこの『ボク』だけだ」
ギョッとしたように深川は目を見開く。
「ソロプレイヤーなのか!?」
「それが?」
「いやいや、だってあのゲームでソロプレイヤーといったらほんの一握りだし、それこそ一部は化け物みたいな火力してるじゃないか」
「そっちこそ化け物みたいな防御力なのに」
いやいや、と深川は首を横に振る。
「一度キングに攻められたときはどうしようかと思ったくらいだよ。周りは鉄壁だの難攻不落だの言ってるけど正直危なかったんだから。猛攻を受けた地点が回復がギリギリ間に合ってるって状態でね。あの後急いでヒーラーの強化をしたのはいい思い出だよ」
なん、だと。
ではあと少し粘れば崩せたかもしれないということか。
「ん、どうした?」
思いっきり顔に出ていたのか不思議そうな顔をした深川。
ここは確かめてみるべきだ。あの戦闘では私以外にも、もう数人ソロプレイヤーが雇われていたという。ソロと言ってもチーム自体は複数人で普段は1人で行動するプレイヤーもいるらしいからその類だろうが。
「……ちなみに、崩されかけたエリアってどこなの?」
「おやおや、今はそこを狙っても対応できるようにしたから意味はないよ?」
「別に取りたいんじゃなくてちょっと気になっただけだよ。今は攻撃しても意味ないんだったら教えてくれてもいいよね?」
「まあ、そうだね。当時の北城塞エリアって言ったらいいかな?」
聞いた瞬間無意識に足が床を蹴る。
表情にも相当出たらしい。深川が記憶にない表情をしたのが見えた。
「あー、なんでそんなにお怒りなのかな?」
「そ、こ、は……」
「?」
「ボクが攻めたエリアだっ!くそがっ!あと少し押せばよかっただけだなんてっ!」
「はいぃ!?」
普段と言葉遣いなどが違いすぎるのに驚いたのか、それともほかの要素に驚いたのか、深川は目を引見らいたまま口をパクパクする。
「あああぁぁっ!」
「……ま、まさか、君が《双氷》アルマ?」
「へ?《双氷》?」
深川は宙に双氷と書く。
「氷の双剣を使うから《双氷》。滅多にチーム間の抗争に顔を出さなくてチーム推奨の高難易度ダンジョンに1人で潜ってるソロプレイヤー」
それに、背が小さい女性アバターで普段はフードを被っているから声がかけにくいことで有名だ、と続ける。
イベントものにもそこまで興味はないのか最低ノルマを達成した後はまた高難易度ダンジョンをさまよっている、と。そうかと思えば安全地帯である森でのんびり過ごしていたりなどいまいち行動の読めない奴だと。
(……そんな風に見られていたのか)
確かにあのゲームでは異色の遊び方だという自覚はあったが、まさかそこまでとは。
これまでやってきオンラインゲームでは少なからず中学や高校時代の友人がプレイしていたり、そもそも強制的にパーティを組まされる、またはパーティを組んだ方が劇的に効率がいいしデメリットがないというゲームが多かった。
だからこそソロプレイの方が最終的に自分の利益になる可能性のあるこのゲームではソロと従来からの超攻撃型を貫いたのだが、よもやそんなことになっていようとは。
確かに今使っている《氷双剣》グライオスは物理、魔法共にゲーム内1の攻撃力を誇る超レア武器だが、それも偶々手に入れたと言ってもいい。
まだ高難易度ダンジョンに入れるようになった頃、不運にも遭遇してしまったボスエネミーからドロップしたのだ。のちに知ったのはそもそもそのボス自体が超レアボスらしくパーティーメンバーの数と強さによって、パラメータの増減があるらしく、通常ならば強敵のはずがソロだったがために楽に倒せてしまったということだった。
というより、ダンジョンにチーム推奨などというものがあるとは知らなかった。
「確かに、ボクはアルマだけど。……そんな風に見られてたんだ」
「おぉ、最高の日だね!ずっとどんな人物なのか気になっていたけれど。まあ、納得かな」
「そう?」
「まあね。その様子だと知らないようだけれど、ネット上じゃいろんな噂が飛び交っているんだよ。まあ、女のアバターした男廃人ゲーマーだとかいろいろ言われているけど。まあ、実際に話してみて納得だよ。確かにアルマは君そのままだしね。あ、そうだ」
いろいろ言われているのだな、とネット上の話は流すことにして。いきなり立ち上がった深川はクレアレア展開の補助装置を装着するとクレアレアを展開する。
深川の立っていたところには緑髪に短耳のエルフが立っていた。ヒーラーの一般装備と言えるローブの上から白衣を着て腕にはバングルやブレスレット、首にかけているのはアミュレットだろう。1つ1つの装備が高ランクなのがわかる。
手にしているのは白い樹で出来た杖で先端に緑色の宝石があしらわれている。宝石は内から光が漏れ出ているかのように淡く輝いていた。世界樹の杖と呼ばれる最高ランクの杖だ。
「僕も治癒術に傾いているけれどクレアレア。イスクだからね。ぜひ見てみたいのだけれども」
「あとで結城さんに怒られない?関係のないところでクレアレアを展開した、って」
「大丈夫。そうなったら検診で使ったって言っておくから」
そういうことなら、と立ち上がるとクレアレアを展開する。
かなり展開にもなれ補助装置なしでも武器を具現化する程度までなら出来るようになっている。それでもまだ完全に装置を手放してこの姿になることは出来ない。
「……これで、十分?」
展開したときに無意識に被ってしまっていたフード付きマントを外すとグライオスを具現化させて軽く手を広げる。
おお、と感嘆の声をあげた深川―――アストレは、
「まさかゲーム内のアバターを実際にこんなまじまじと見れるなんて!」
と、こちらを見つめてくるが、途中でごめん、と謝る。
「アバターの姿といえど、生身だからね。あまりやると変質者呼ばわりされちゃいそうだからこれくらいで」
確かにゲーム画面内でしか見れなかったアバターの姿をこうやって詳細まで眺められるのはとてもうれしい事なのだが。
今日の話で深川の新たな一面がみれた、と心の中で独りごちた。




