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第9話 クレアレア

「……っ」

 飛んできた物体を竹刀で弾き返す。

 竹刀を使っているからといって剣道をしているわけではない。

 これは模擬戦なのだ。実戦を見据えた模擬戦。


 クレアレア。

 それがあの場で集まった4人を指す言葉だ。

 それと同時に汚灰はいに対抗できる力を指す言葉でもある。

 使い道は実に多様。

 何か物体をつくりだして投げるもよし、飛ばすもよし。人によっては傷の治療にも使える。

 所謂、異能。超能力だとか魔法だとか言われてもおかしくない力になる。

 どういう原理なのかは知らないが、今は装置の補助を受けて使っている。話によればそのうち補助なしでも使えるようになるらしい。

「おわっ!」

 再び飛んできた物体を何とか避けるが、その速度は先ほどより速くなっている。生身で対応するのはそろそろ限界だろう。

 そもそもソレが何なのか、というのは分からない。

 相手のクレアレアによってつくりだされたモノなのだから分かるはずもないのだが。

「クレアレア展開!」

 途端、まるで自分だけ時間の流れから切り離されたかのような錯覚に襲われる。

 これが最大の特徴であり利点でもある。

 感覚が強化され人を超えた動きを可能にする。そして、この姿。

 ほぼ人と同じ大きさでとがった耳に赤い瞳。それに後ろで1つに縛られた髪は蒼。

 PFOのアバターと同じ姿だ。

 これは私以外にも当てはまる。

 例えば今対峙している男。

 彼はカイ。日に焼けた肌にがっしりした筋肉質な体形、といかにも力がありそうな容姿をしているが、それもアバターの姿。本来の姿はひょろがりの男子学生だ。

 故に、まだ彼が本気を出さない程度ならばクレアレアを展開しなくともまだ対応は出来た。

 だが。

 クレアレアを展開してもしなくとも手加減をする気はない。

 一気に距離を詰めると至近距離で投げつけられたモノを叩き落とし、竹刀を首元に突きつける。

 元のままならそのまま突いてしまいそうだが、これも能力のおかげかぶれることなく首元数ミリの場所でピタリと止まる。

「そこまで!」

 かなり遅れて終了の声が聞こえた気がするが、それもこれも全て力のおかげ。

 竹刀を引くと武装を解除する。

 元の体操着姿に戻ると目の前で茫然とするひょろがり男を見上げる。

「……」

 この男、実戦で役に立つのだろうか。

 説明の際に映像資料で見た汚灰はいに汚染され狂化した生き物であるトルムアや汚灰はいで構成され更に凶暴なラークといった敵がいるというのに、人相手の模擬戦で、しかも自分より頭2つ分以上背が低い女相手でこれだと不安になってくる。

 これでもまだましになったか。

 汚灰はいの根源を断つための計画に参加することを決めて訓練が始まった初日に試しで手合わせをした時、この男は私に対し攻撃さえできなかったのだから。

「いや、相変わらず容赦ないな君は」

 少々大げさに拍手をしながら模擬戦の審判をしていた男は歩み寄ってくる。

 結城正ゆうきまさる

 40代だが若作りなおかげで20代後半くらいに見えるこの男は一応、『地球側』の総司令の1人だ。

 彼は世界的に有名な研究者であり、汚灰はいの研究の第1人者でもある。実際、今使っている補助機器をつくりだしたのは彼だという。

 本人曰く、出来たのは偶然で構造はほとんどブラックボックス状態らしいが。

「……」

「まだ警戒してるのかね?」

「……別に」

 警戒してる、とは初めて会った時のことを言っているのだろう。

 人一倍警戒心は強い自覚はある。それに滅多に笑わないのも影響しているのだろう。

 人から見ると、こっちくんなよ、という風に見えるらしい。

 実際、そう思っていないとは言わないが関わるべきところはきちんと関わる気はある。

 必ず、と言われると怪しいが。

「どうかな?」

「何が」

「調子だよ。何か変わったことはないかね?」

 クレアレアを戦闘レベルで扱える人材は非常に稀。そして今までに前例はない。

 しかも実用段階でありながら研究段階でもあり、その被験者は一般人。

 そんな面で彼らは私達の体調管理に非常に注意を払っていると言ってもいい。

 むろん、デメリットだけではなくメリットも報告することになっている。場面によってはそれがデメリットになることもあるのだが。

「……数日前よりクレアレアを展開してないときでも感覚が強化されてると思う」

「やはりか」

「……ねぇ、結城さんには今どんな音が聞こえてる?」

 ふと、気になり聞いてみる。

 彼はしばらく目を閉じて音を聞いていたようだが、目を開いた彼は眼鏡を押し上げるとこめかみを指で押す。

「うーん、今この体育館にいるのは私達3人だけだからな。特に君は音を立てていないし、そこのカイ君に至ってはピクリとも動いていないからな。……ほぼ無音、と言ったところか」

「そう。私にはあそこの電球がパチパチいってるのが聞こえる。もうすぐ切れるんだと思う」

 普通に目視した限りでは切れそうなどとは思えないが、微かに切れる直前のあのパチパチという音が聞こえてくる。

「なるほど。数日でそれほど感覚が向上するものか。貴重な報告をありがとう。他に何かあるかね?」

「特にない」

「そうか、ありがとう。今日はもうゆっくり休んでくれ」

「……うん。アレはどうするの?」

 アレ、と言って指さしたのは未だに茫然と佇んでいるカイのことだ。本名は知らない。教えられていたとしても覚えていない。

 結城は、私がどうにかしておこう、と苦笑したのだった。


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