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第118話 アトミアの聖堂


 図書館の奥にあった扉を抜けた先にあったのは水路だった。

 下水道とは繋がっていないようで、通路の両脇に通された水路を流れる水は湧き水らしい。有害性はもちろんないようで水分補給をさせてもらった。

「……すごい」

 両脇に並ぶ竜の像の口からは水が流れ落ちている。

 古代の伝承はすこしかじった程度だったが、それが何なのかはわかる。

 『神竜の伝承』だ。

 はるか昔、この世界には竜がいたという。彼らは神の使いと呼ばれ信仰の対象となっていた。

 惑星ドラクの竜はそのモチーフになっているのだろう。もしくはあれは地の主などではなく、想像イメージ汚灰はいと結びつき具現された存在だったのか。

 これはアトミアの書が現れるより前の時代の話らしい。

 しかし、その時代にも人智を超えた力を操り人々を導く存在はいた。そのような人のことをその時代は聖王と呼んだという。

 アトミアの書もどのようにしてもたらされたかは不明だが、そのような存在に作られたという説もある。

 聖王は神竜と呼ばれた竜たちを眷属に迎え世界を治めていた。

 しかしいつしか神への信仰は薄れ神竜は力を失った。それを嘆いた聖王はイルタレンシア聖教のもととなる体制を整えたらしいが、それが正しい歴史なのかははっきりしない。

 分かっているのは力を持つ存在がいて、のちに彼が作り上げた共同体がイルタレンシア聖教となったことだけなのだから。

 そしてその際携えていた書物がアトミアの書。

 地球の歴史には弱いが、こういった伝承や歴史はとても興味がわく。時間があればアトミアに関する書物を読み漁ったり遺跡を巡ったりしてみたい。

 まずはアルティレナスをどうにかしなければ。

「……の前にここから出ないと」

 時刻はすでに夜の7時を過ぎている。

 水を飲むのと同時に携帯食料を食べたがちっとも食べた気がしない。結界の影響か地下に入った時から通信も切れている。

「……まずいな」

 敵勢反応はないためここで夜を明かすことはできる。

 だが、今私の反応が消えてしまっているはずだ。仮にビルギットか結城が位置確認をしたら行方不明扱いされかねない。それこそ大騒ぎだ。

 入り口は閉じてきたため間違って誰かが迷い込んでくることはないだろうが、捜索可能範囲にいないとなれば最悪死亡判定されかねない。

(今晩中にここから出ないと)

 大旅団も夜に動くようなことはしない。

 朝になるまでに帰還できれば、夜しか見れない現象を調査していたとかどうにか言い訳はできる。

 地図によると礼拝堂はもう少しだ。そこに敷かれた陣がエントランスへつながっているらしい。

 だが、このまま帰してくれるとは思えない。

 礼拝堂の前は十字路になっているらしく、水路はそこで途切れている。そこに絶対何かがある。

 クロノスを両手に構えると警戒しながら歩みよる。

 ドラゴンならまだマシだ。竜とならドラクで一度戦ったことがある。戦法が分かりやすい。

 嫌な予感がしてならないのだ。

 遠くから鎖の音がする。

「……っ!」

 殺気が膨れ上がる。

 アトミアの力をもってしても鳥肌が立つ。

 宙からにじみ出るように現れた感じはラークと似ているが雰囲気は全く違う。恐らく後継者以外には見えていないのではないだろうか。そして何も分からないまま殺される。

 両脇の水路はその遺体の処理に使われたとみていい。突き当りの石が動くようになっている。どかせば恐らくその先にはさらに地下に通じる穴がある。

 漂う汚灰はいに近い『怨念』が酷い。

「いやはや……礼拝堂の前に、死神、とは笑えないな」

 黒いぼろぼろのマントに覆われた影は私の前に立ちはだかる。死神、とはいってもその手に持っているのは鎌ではなく柄に棘付きの鉄球を鎖でつないだ武器、モーニングスターだ。鎖がジャラリと音を立てる。

 死神の腕が動き、私の横を鉄球が通過する。

 体をひねって避けると背後で石が砕ける音がした。

「……よく崩落しないな」

 もしかしたら自動で復旧するのだろうか。

(そんなこと気にしてる場合じゃないか……!)

 鎖が引っ張られ背後から鉄球が迫る。それを走りながら回避すると手を振り氷の槍を投げつける。

 氷の槍は死神に直撃するがさしてダメージが与えられた感じはしない。

「『業火よ、焼き尽くせ』」

 接心しきれるまでまだ距離がある。剣を向けると宙に飛び上がり落下しながら詠唱する。さすがに攻撃速度は高くないらしくまだ鉄球の構えもできていない。

 実体を持っているのかさえ分からない身体を炎が包む。

 その炎が消えるのとほぼ同時に斬りかかる。

 だが、手に持った柄で防がれてしまった。仕方なく距離をとると再び鉄球が唸りをあげて襲い掛かってくる。

 ゲームならば光属性の魔法が利きそうな相手だが、残念ながらクレアレアによる魔法は大きく分けて火、水、風、土の属性に分かれている。そこに回復魔法と防御魔法が入って全部で6属性だ。

 氷は水の応用といったところだ。

 そのほかはアンチ武器ウェポンによる特殊能力か、私たちの場合アトミアの力ということになる。

 普通、PFOでもイスクでも得意な属性は基本4属性のうち1属性に偏っているはずなのだ。経験を積めば得意でない属性もそこそこ扱えるようになるが、手間がかかりすぎてPFOでもわざわざ訓練を積む人は少なかった。

 そこに光や闇といった属性はない。

 大抵、光属性が利きそうな敵は炎属性の魔法が利いたのだが効果はいかほどだろうか。そう思い様子を見るが、フードの下から覗く赤い光は衰えた様子はない。

 失敗だ。

 そこでクレアレアからアトミアの力に切り替えることにした。

 こうなれば大抵のことはできる。

「『光、我が力となりて……うち抜け』」

 光属性、と思われる攻撃を放つことだって。

 なによりここはアトミアの力を試される場所らしい。光の矢に貫かれた死神は一瞬怯んだ様子を見せる。

 ここまで分かればあとは単純だ。

 再び光の矢を放つと、同質のものを弓につがえ放つ。

 4本、8本、12本、24本。全ては想像なのだからいくらでも一気に打ち出すことができる。改めてクレアレアとアトミアの力がほぼ同質のもので助かったと思えた瞬間だった。

 とどめ、と接近するとクロノスを振り下ろす。しかし、振り上げた瞬間に巻き付いてきた鎖に動きを止められる。

「なにっ……!?」

 そのまま手を離れていったクロノスに目を見開く。

 頭上からは棘が付いた鉄球が落下してくる。

 回収は後回しとして左手に残っていた空間のクロノスの力を借りて死神の背後に瞬間移動する。

 ほぼ同時に今まで私が立っていた場所を鉄球が穿き轟音を立てる。

 その隙を利用して時のクロノスを呼び戻すと大剣形状へ変化させ、振り下ろす。刃はマントを切り裂くが、中身はやはり実体がないようで揺らいだだけだった。

 そのまま短剣形状に変化させ両手に持つとバックステップで距離をとる。

 決定打がない。

 純粋な力をぶつければいいというわけではなく、だからと言ってそうでない攻撃はあまり効果がない。

 動きに癖がないため対応はしやすいが、厄介さでは《使徒》を上回る。これこそゲームでいえばとどめに何か特別な道具が必要な敵を相手にしているような。

「……あ」

 間抜けな声をあげた私の横を鉄球が通り抜ける。

 道具なら最初から持っていたではないか。絶対になくしてはいけないと言われたものが。

 カバンから神子の短剣を取り出すと右手で構える。空いた左手には空間のクロノスを短剣形状にしたものを持った。

 そのまま走って接近すると、死神は引き戻した鉄球をこちらに向かって投げようと鎖をつかみ振り回す。

「でいやぁぁぁぁっ!」

 鉄球が放たれると同時に床を蹴る。正面から鉄球が迫ってくるが構いはしない。

 攻撃が当たる直前、クロノスの力で鉄球の向こう側に転移すると死神の胸とみられる部分を神子の短剣で斬りつける。

 出現した時と同じように、黒い靄のようになると空気に溶けるように死神は姿を消す。

 ほぼ同時に十字路の先の通路に明かりが灯り扉が開く音がした。



 礼拝堂の造りはイルタレンシア聖教のものと似ていた。

 ただし遺跡の一部らしくその壁は白ではない。こうしてよくよく見てみるとアトミアとイルタレンシアの様式はとても似ていて、同じ系統だという考えも頷ける。

 地下だというのに祭壇の奥側の壁にはステンドグラスのようなものがはめられ、その向こう側からは光が漏れている。

 自ら光を発する鉱物や生物がいるのだろうか。

 時間が許すならばいつまでも見ていたいほど幻想的な風景だ。

 祭壇の両脇にはアトミアの紋章が刺繍された幕がかかっている。

「……」

 おもむろにアトミアの書を取り出し紋章を見比べてみる。アトミアの書の紋章は金属でできているのか金色だが、タストペリーの紋章は赤色だった。

 これまで赤色がアトミアにしろイルタレンシアにしろシンボルカラーだったというのは聞いたことがなかった。しかし近づいてその糸の1本1本を見るうちにそれが何なのか気が付いて思わず後ずさる。

 今まで薄暗いせいで少しくすんだ赤だと思っていたが、違う。

 赤い糸は血で染め上げられていたのだ。

 どんな意図や歴史があるのかは知らない。興味が出てくる一方で触れるべきでないとさえ感じてしまう。

 どちらにしろこの遺跡についてはもう一度来てじっくりと調べ上げたい。

 塔のエントランスへ戻ろうと祭壇の前に敷かれた陣に足を踏み入れた時だった。

 抱えた書から光が立ち上ったかと思うと、その光は球となり私の前の床に触れる。そして人の形をとったのだ。

 高い身長。バイオレットの髪はポニーテールになっており、その左半身を包むのは青いマント。

「……教皇?」

「……君は、驚かないのだな」

 振り返った男の蒼い瞳と視線が交わる。

 驚きはしてないが、疑問はつきない。

 相手もそれを分かっているのか、口を開こうとした私を手で制すと独り言のように語り始めた。



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