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第114話 契約


 眷属の契約は、主の力の流れに従者となる人物を組み込むことだ。

 そのためには力が一番馴染みやすく感じやすい完全展開した姿で行うことが最善だ。自然に結ばれていることもあるらしいが、それはかなり稀な事例で多くは契約後儀式を行うことで契約が結ばれる。

 ラースが言うには専用の詠唱があるらしいが、それは教皇側が受け継いでいた術式で詳しいことは分からないという。

 しかし書の記録を当たってみてもそれらしい記録はなかった。

「……うーん」

 書を手にうなるが一向に何も浮かんでこない。

「……ラース、なんか知らない?」

「詠唱に関しては何も知らないよ。ああ、ただ……形式に関してなら、もう少しだけ」

 そう言うとラースは結城の後ろに回り込み私の前まで結城を押し出す。

「えっと、結城。そこで跪いて」

「こうかね?」

 完全展開した姿の結城は私の前で膝を折る。

 改めてここが総司令室であってよかったと思える。

 総司令に跪かせるとは。

「で、アルマ。貴方は書をもって彼の前に立つ。……すまないが、私にわかるのはここまでだ」

「ふぁ!?」

 レクトルの灰色の瞳を見て固まる。

 これからどうしろというのだ。

 形式的にはこの格好で詠唱し契約を結ぶのだろうが。

「……」

 詠唱なら自然に頭の中に浮かんでくることもある。

 そう考えて目を瞑る。

「……うぅーん」

 ふと、背後に誰かの気配を感じる。

 私よりも背が高い男性だ。しかし、それはこの場にいる誰の気配でもない。

 だが、敵意は感じない。

 それどころかいつか感じたことがあるような気配だ。

 とても頼もしくて優しい。しかし、どこかつかめない。

 そのまま流れに身を任せる。

 後ろから回された手は私の手の上から書を支える。

「『繋ぐは力、紡ぐは理。心に応え今ここに彼の者を我が眷属として迎えん』」

(……っ!)

 口からすらすらと言葉が紡がれてゆく。

 だが、今までの詠唱とは全く異なる感覚だった。

 私と共に誰かが唱えてくれているのだ。背後に感じ、今私を包み込むようにいる誰かが。

「『揺ぎ無き理想により我が道を支え其の意思を貫き、民の盟主とならんことを。与えし加護は堅牢なる守護。左手には牢固たる盾、右には誓いの刃。彼の者に与えし真名は』」

 そこで初めて目を開く。

 私とレクトルを光でできた鎖が囲んでいる。

「……『マルクト』」

 そうレクトルのことを呼んだ瞬間、光の鎖は収束し消え去る。

 それと同時に力の流れの中に新たな力を感じた。

「……これが、眷属の契約なのだね」

 恐る恐るといったように立ち上がったレクトルは自分の両掌を見つめる。

「何というべきかね。……明らかに今までの感覚とは異なる。ところでアルマ君、真名とはなんだね?」

「えっと……感覚だから伝えきれないかもしれないけど、真名っていうのはその人の魂の名前、みたいなものかな。本質だったりその人が背負ってる運命だったり、そういうのを表す名前。……でも、なんでレクトルじゃないんだろう」

 完全展開した姿は魂の姿。

 すなわちその姿で呼ばれる名前こそ魂の名前のはずなのだ。

 しかし、さっきレクトルに対し口にした名前はマルクトだ。

 意味は思い当たるものはあれど、はっきりとは理解できない。何かに操られたかのように口に出したのだから。詠唱もそうだ。

 いつの間にか感じた気配は消えていた。

「じゃあ、次は……カストさん」

「わかりました」

 先ほどと同じように詠唱を開始する。

「『繋ぐは力、紡ぐは理。心に応え今ここに彼の者を我が眷属として迎えん』」

 彼に与えた真名もカストではなかった。

 困惑したままアストレとの契約に移る。

「『彼の者に与えし真名は』」

 アストレ。

 そう言おうとしたが、口から出たのは違う言葉だった。また違う名だ。

 消えていく鎖と新しい力を感じながらその不満ともいえる感情を塗りつぶしていく。

「……」

「気にしても仕方ない、か。これで、全員だよね?」

「ああ。しかし、不思議だな。……とても体が軽い」

「そうですね。それ以外は特に変化はなし、ですか。実際、戦場に赴いてみればまた違うのかもしれませんが」

「力の使い方自体はボクらがいくら口で説明しても理解してもらえないとおもう。ね、アラキア」

「そうだね。そればかりはね。ああ、あと1つだけ注意してもらいたいことが。くれぐれもアルマの力の届く範囲から出るような真似はしないでください。力が届かなければ契約の効力は発揮できません。地球くらいならまだ力の範疇です。……それよりも問題なのは蝕灰域しょくはいいきでの力の行使です」

 私が伝えたいことをアラキアがすべて伝えてくれている。

 安心して彼の声を聴いていた。

「力の届く範囲としてはまったく問題ありません」

「ではどういうことだね?」

 私たちが扱うクレアレアと汚灰はいの力の元は同じだ。そしてアトミアの力はその2つの力と限りなく性質が近い。しかし、反発することがあるのだ。

 それ故に対抗策ともなりえるのだが、同時に反発しあう力を持つ者の力の影響範囲がぶつかるとそこで力同士の衝突が起きる。

 その力が弱い者同士ならば交じり合ってしまい影響は少ない。

 だが大きなものの場合。アルティレナスの力の影響を強く受けた蝕灰域しょくはいいきとアトミアの書の継承者の影響範囲が重なってしまった場合は。かなりの反発が起きるだろう。力同士が互いを打ち消そうとするのだ。

 とはいっても実際に何か爆発したり吹き飛んだりと変化があるわけではない。

 アルティレナスの力にこちらの力が負けてしまえば眷属は契約の効力を発揮できないというだけ。

 効力が発揮できないのは困るが試したことがないため出たとこ勝負になる。

 仮に抑え込まれてしまったとしてもこちらがさらに力をつければよいだけ。

 ラースも大昔の伝承として聞いたことがあるだけで確かめたことはないらしいが、惑星ディーオのどこかにそのような用途に使われる遺跡があるという。もっとも、そこに行くだけの余裕はない。今の状況では探し出す余裕すらないだろう。

「……つまりは善は急げ?」

「試運転が必要ということでしょうね。そうと決まったらほんの少しだけ行きますか。蝕灰域しょくはいいきであった魔獣の確認に先遣隊を出そうとしていたところです。観察程度で済ませようかと思っていましたが、交戦してみるのもアリですね」

「……」

「もちろん、危なくなったら逃げますのでご心配なく。それと、少々アストレを借りていきますがよろしいでしょうか?」

「アストレ先生を?」

「はい。交戦経験が少ないのは何かと不安ですので。アストレ、いいですね?」

 アストレは一瞬嫌そうな顔をしたがしぶしぶ頷く。

「では、早速行ってきます」

 そう言うなりカストはアストレを連れて総司令室を出ていく。

 本当ならば彼らについていってその効力を見ておきたかったが足が動かなかった。

「……アルマ?」

「……う、ん?」

 それだけではない。

(なんか……ふわふわする……)

 視界がぼやけた気がして目をこする。心なしかアラキアの声も遠くに聞こえる。

 アラキアは私の目線に合わせるようにかがむ。

 手が伸びてきて額に触れる。いつも温かいはずの手が冷たく感じた。

「あつっ……契約の反動がもう?」

「うーん?」

「あー……。ほら」

 アラキアは私に背を向けてしゃがむ。

 ぼうっとする頭でもその動作の意味は理解できた。素直にアラキアにおぶわれると身体から力を抜いた。

 自分の力流れに新しい力を組み込んだ。それは人の身からすると異物を取り込んだことになるらしい。アラキアと契約を結んだ時も一時的に体調を崩した。

 しかし生き返った時に無意識に結んでいた契約のため、体調を崩したのはアルクスにいた時だった。その時は気が付いていなかったがラースと話している時にこの話が出てきて当てはまることがあったと思い出したのだ。

 今回も来るだろうとは思っていたがこんなに早く襲ってくるとは考えてもいなかった。

「一気に3人も契約したからかな? とりあえず、アルマの部屋に行こうか。すみません結城総司令。落ち着いたら説明に戻ってきますね」



 やはりアラキアの言う通り契約による反動だった。

 高熱は出るが命にかかわるようなものではないため、3日間ずっと寝込んではいたが比較的アストレも安心していたらしい。ほとんど記憶がないためそこはアラキアから伝え聞いた話だ。

 それ以上に驚くべき話をアラキアはしてくれた。

 新たなアンチ武器ウェポン使いが現れたというのだ。それも2人。

 1つ目が慈愛の魔杖剣まじょうけんウィリデ。回復と支援に特化したアンチ武器ウェポンだ。

 そして2つ目が聖騎士の堅盾ファランクス。珍しく武器と盾が一体になったモノであり、防御に特化したアンチ武器ウェポンである。

 PFOではアンチ武器ウェポンは正体不明の武器だったが、ラースがイスクの目印として利用していたことは既に幹部には説明されている。

 しかしあくまでラースは目印にしていただけで、彼がアンチ武器ウェポンを与えていたわけではないという。アンチ武器ウェポンは古代人たちに神器と呼ばれておりその時代から強力な力を宿す武器だった。そしれ神器は自らの力を引き出す者を選んだ。

 それぞれ所有者はアストレとレクトルだ。

 単に素質があれば使えるのではなく、素質があり武器に選ばれ同調しなければ真の力は使えない。

 大旅団にはアンチ武器ぶき使いが6人いた。それが今では8人だ。

 最強の継承者と呼ばれた教皇の時代にもここまで神器使いは多くなかったという。

「それとね、まだあるんだ。どうぞ」

 部屋に入ってきたのは片山だった。

 護衛のためにいつも部屋の手前までついてくるが部屋の中に入れたことはなかった。最初こそ彼のことを警戒していたが、今ではある程度の信頼関係を築けている。

 たまに体術の訓練に付き合ってもらっている。トゥルーエでもないというのに私についてくるほどの実力を持っている。銃の扱いもうまく一度手ほどきを受けた。

 結果は予想通りである。

「どうして片山さん? ボクなんかマズイことした?」

「いや、していない。私がここに来たのは私から報告があるからだ。それと礼を言いに」

「礼?」

 何かしただろうか、と首を傾げて片山を見る。

「これを見てほしい」

 片山が取り出したのは前にハルがもってきたことがあるクレアレアの測定器だ。

 それを片山が握りしめると青く光る。

「……!」

 ここからでは値は見えないが光から目測すると大体3。イスク一歩手前といったところだ。

「少々クレアレアが使えるようになったらしくてな。聞くところによると君の影響らしい。私のことを少しは信頼してくれているようでよかった」

「……別に。片山さんが側にいるのに慣れてきただけだし」

「素直でないな。まだあのマジックのことは許してくれてないのか?」

「……怒ってないし」

「相当根に持たれているようだな」

 測定器を持ちながら片山は苦笑する。

「今はゆっくり休んでくれ。私も部屋の前に立っているのはそろそろ飽きてきた。……ああ、と」

「?」

「……弥田医師、というよりかは……あや、の方だが。私にやたらめったら話しかけてくる。それにも疲れた。というわけで1日でも早い復帰を。では失礼する」



 それから数日後。

 地球から恐れていた一報が入った。

 地球に蝕灰域しょくはいいきが出現したという。

 それと同時に惑星リエース以外でも蝕灰域しょくはいいきが出現し始めた。やはりどの蝕灰域しょくはいいきも神殿を中心に広がっている。

 結城も出て対応に当たっていたがその勢いは収まらない。当然中心地の汚灰はい濃度も上がっていきますます眷属以外では対応できなくなっていた。

 地球も被害が出ていないだけでこのままでは危険だ。今はまだ予備の戦力のみで対応できているらしいが、そちらもいつ眷属でなくては対応できない魔獣が現れるか。

 もはや猶予はない。

 そうして大旅団はある決断を下した。

 惑星ディーオへの降下を。



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