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(第100話) ウソ【エイプリルフール】

……タイミング的に悪いわ、うん


「あのカイさん」

「なんだ?」

「幽霊、って信じますか?」

 クレアの質問にカイは眉をひそめる。

 クレアは非科学的なことを信じない。それが原因で固定観念がなかなか振り払えず、クレアレアを扱うのに慣れるまで時間がかかったと聞いていた。

 そんな彼女がそんなことを言い始めたのだ。

「あー、いるんじゃねぇの? クレアレアっていう魔法みてぇもんがあるんだし、俺はもう何があってもおかしくねぇと思うぜ」

 カイがそう答えると一気にクレアの顔が青ざめる。

「……なんかマジいこと言っちまったか?」

 カイは自身が他人の気持ちを感じ取りソレに合わせた行動をとることが苦手だということは自覚している。あとで順を追って分かりやすく説明してもらえば理解できるのだが、たいていの場合説明すらしてもらえない。

 やがて、クレアは顔を俯いていた顔をあげるとカイを正面から見つめ話し出した。

「私、本名がクレア・レミントンって言うんです。……兄と姉も大旅団にいるんです」

「へぇ。……って、ん? レミントン?」

 カイでも聞き覚えのある名前だった。

 インヴィディア襲撃の時、防衛隊に所属しているカイは真っ先に最前線に投入された。事後処理にも関わっており、一連の流れは鮮明に記憶している。

 さすがに『現場』を見ることはなかったが、犠牲者の話は聞いていた。

 彼の家族が大旅団内にいることも。

「レミントンって……よぉ」

「ええ。兄は犠牲者です。大丈夫ですよ。私はそれがあって、自分のこの力で守れるものはあるのだと気づきましたから。自分の知識と力を使ってこれ以上、犠牲者を出さないようにしたいと思うことができましたから」

「それが幽霊とどんな関係があるんだ?」

 実は、とクレアは続ける。

「……最近、でるらしいんです」

「幽霊がか?」

 いつものクレアなら非科学的だと一喝しそうだな話題だが、彼女の顔はいたって真剣だった。

 ここで笑うほどカイも馬鹿ではない。崩れきっていた姿勢を正すと、カイはクレアの話に耳を傾ける。

「数人、見たという人がいるんです。はっきりとした姿は分からないのですが、皆さん一様に白いフードの人影を見た、と」

「白いフードとかいかにも幽霊って感じだな」

「ですよね。ただ、そのような存在が本当にいるのなら……兄と、もう一度会えるのではと考えてしまうのです」

「……」

「変、ですよね。ごめんなさい」

「いや、案外いるかもしれねぇぞ? 言ったろ、魔法みてぇのがあるんだしってよ」

 そこまで言ったカイの頭の中からは、幽霊は非科学的な存在でこの世に存在するはずがない、という概念など消え去っていた。

 カイは勢いよく立ち上がるとクレアの手を掴み本部の廊下を走り始めた。

 エレベータから降りると最初に向かったのは本部内にある食堂だった。時刻は夜の7時をまわり、食堂は夕食を取りに来ている戦闘部員達でごった返していた。

 その中で見知った人影を見つけ近づいていく。

「おーい」

 麺類の入ったどんぶりをのせたトレーを持った男性はその声に振り返る。

 規定では戦闘部員は制服を着ているはずだが、その男性は私服と思われる長ズボンとシャツの上から白衣を羽織っている。

「よう、アラキア。なんだ、しばらく見ねぇうちに今度は医療部に異動か?」

「……あ、あぁ。これは……その借り物で」

「ん? でも印は戦闘部だな。ってことはなんも変わってねぇか」

「あぁ、うん。そうかもね」

 アラキアはあいまいな返事を返すと近くにあった席にトレーを置く。

「そういやお前待機命令が出てるみてぇだな。顔色わりぃし、どっか壊したのか?」

「僕はもうなんともないよ。ところで何の用?」

 明らかに様子がおかしいアラキアに質問を畳みかけそうになるが、背後から小突かれ話しかけた本来の目的を思い出す。

「ちょいと聞きたいことがあるんだが、いいか?」

「……なるべく、手短にしてもらえるなら」

「お前、幽霊の話って聞いたことあるか?」

「幽、霊……?」

 元から悪い彼の顔色がさらに青ざめた気がした。

 ソレ系統の話が苦手なのだと判断し謝るが、彼は俯いたままだった。

 背後から伸びてきた腕がカイの制服の首元を掴んだかと思うとそのまま入口の方に向けて引っ張られる。

「おい、クレア待てって」

「これ以上はやめておいたほうがよさそうです。アラキアさん、何かおかしいですよ。分かりませんか?」

「いや、分かるけどよ」

「なら行きましょう」

 カイが頷いたのを確認するとクレアは踵を返す。

「なんか、すまなかったな」

「……いや」

 覇気のない返事が返ってくる。そこでカイはあることに気が付き、先ほどのクレアの忠告を無視してしまった。カイ自身、彼女の言葉を理解していなかったわけではないが、気が付いた時には言葉にしてしまっていたのだ。

「そういや、アルマはどこだ?」

「カイさんっ!」

「……っ!!」

 クレアの悲鳴に近い声が耳に届くのとほぼ同時にアラキアの目が見開かれる。

「……アル……マ」

「アラキア?」

「……っ」

 アラキアの両手があがり頭を抱える。

 クレアはカイの横をすり抜けるとアラキアを廊下に連れ出す。幸い、出入り口が近かったためすぐに出ることができたが、人気の少ない場所まで移動することはできなかった。

 通路に出た瞬間、アラキアは膝をついて座り込んでしまった。

「おいアラキア、やっぱどっかわりぃんじゃ?」

 アラキアは小さく頭を振る。

 ほとんどが食堂の中にいるとはいえ人通りが少ないわけではない。道行く人たちの視線がアラキアに集まる。

「誰か医療部の人間を……」

「……大丈夫だ。……ほんとに」

「けどよ」

「本当に、大丈夫だから! お願いだから放っておいてくれっ!」

 壁に手をついて立ち上がったアラキアはエレベーターホールの方へ消えていった。

 カイはあとをつけようとしたが、押しとどめる手があった。

 不満そうなのが顔に出てしまったのか、クレアは困ったような笑みを浮かべてカイの手をひく。談話室まで移動するとそこでやっとクレアは口を開いた。

「……カイさん、確かにあなたはとても素直ですよね。ですが」

「ああ、すまねぇ。けどありゃ何があったんだ?」

「しばらくアルマさんの姿を見かけていません。そしてアラキアさんはアルマさんの話題に反応していました。何かあったのだと考えるべきですが、公式の発表がない限りすべては憶測にすぎません。……新たな犠牲者が出れば必ず何かしら発表はあります。ですから、そう思うのは早とちりですよ」

「幽霊の話から妙な方にいっちまったな……」

「いいんですよ。確かにもう一度兄と話せたらうれしいですが、きっとそれは夢のままの方がいいんです」

「ところでよ、噂の幽霊ってもっと情報ねえのか?」

「ありますが、ご協力願えませんか?」

 肩に置かれた男の手にカイとクレアはふり返った。




 薄暗い部屋に1脚だけ置かれた椅子には人の姿はない。

 人影は椅子ではなく、その椅子の横の床にあった。

 台を背に床に座り込んだアラキアは体育座りのまま自らの身体を抱え顔を埋める。

 先ほどカイから聞いた幽霊という単語がこだましていた。

「……幽霊、か」

 台の縁を握ると立ちあがる。そのまま手を伸ばし小さな人影の頬を包む。

 血の気のない顔は、何故かとても穏やかに見える。

「……幽霊が存在するなら、僕はもう一度君と話せるのかな」

 アラキアは笑い声が聞こえたような気がして部屋の入り口を振り返る。しかし、当然ながらそこには誰もいない。

 椅子を端に寄せると小さな照明を消し、部屋をあとにする。動揺してしまい夕食を食べそびれてしまった。空腹は感じていないが、足はふらついていた。

 エレベーターを使い、上の階へ戻ると誰もいないと思っていたフロアにはカイとクレアの姿があった。

 カイは軽く手を挙げてアラキアに挨拶すると歩み寄ってくるなり頭を下げる。

「すまねぇ。知らなかったんだ」

「……アルマのこと……なら、大丈夫だよ」

「そうだけどよ、なんか」

「お詫びと言っては何ですが、噂の幽霊さんについて情報があるのですが。女の子の幽霊みたいなんですよ」

 女の幽霊、という単語に思考が切り替わる。

「白いフードを被った女の子。というのも、かなり身長が低い方らしいのですが。目撃情報もここ数週間なんです」

「どこで……? その子はどこに?」

 あまりの条件にアラキアはとある可能性を求めて聞いた。

「図書館艇とか、あとは夜なら本部の最上階に屋上庭園があるだろ? そこの最奥に現れるらしい」

「……! ありがとう!」

 踵を返しエレベーターに飛び乗ったアラキアに2人は顔を見合わせ微笑んだ。



 エレベーターを降りると屋上庭園を走る。

 かなりの広さがあるこの庭園には格子状に通路が張りめぐらされ水路と橋が整備されている場所もある。エレベーターの設備自体も庭園に合わせ宮廷を思わせるデザインの建物になっていた。

 最奥のアーチ状の橋が見えたところでアラキアは立ち止まり目をこする。

 欄干に肘をついて小川を見つめる白い小さな影が見えたからだ。

「……君は」

「……」

 アラキアは橋に足を踏み入れ人影に近づいていく。

「誰なんだ。アルマ……なのか?」

 アラキアの声は届いているはずだが、彼女は相変わらず川面を見つめたままだった。

「生きていたのか? だとしたらどうやって? 僕の目の前でアルマは、死んだはずなんだ。アストレ先生も弥田さんも確認したのに。幽霊なのか? それとも、まったく違う別人なのか?」

 触れられそうなほど近くに来てようやく足を止める。

 ようやく欄干から手を離した人影はアラキアの方に向き直る。風が吹きフードが外れる。





「ごめんなさい」

 彼女は深々と頭を下げる。

 フード付きマントの下には死に装束が見え隠れする。

「え?」

「最初、本部に運ばれてきたときにダミーの身体と入れ替わって、君の反応を見てたんだけど、その。区切りがつかなくなっちゃって」

「……まさか、ここまでやられるとは私も思いもしてませんでしたよ」

 椅子に座り足を組んだカストはやれやれと肩をすくめる。

「どこで伝えようか迷っていましたが、ちょうどよい区切りも見つからず。結局カイさんとクレアさんに誘導してもらい接触させましたが……まあ、あなたの思いは十分伝わってきましたから」

「え、えぇ!?」

「そういうわけでほんと、ごめん!」

 アストレも深々と頭を下げる。

 数分の沈黙を経て状況を理解したアラキアは涙を浮かべる。

「う……うぅ、……あんまりだ。アルマ……ほんとに、死んじゃったかと」

「ごめんなさい」




……あの、真面目に読んでくださった方

ごめんなさい

エイプリルフールです(次話はちゃんと投稿します)

美味しく頂きました|д・)


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