表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/145

第99話 忍び寄るもの

 鳴り響いたアラームに身を起こす。

 いつの間にか、また眠ってしまったらしく頬にはよだれの跡がついている。それを拭う前に警告音は止む。

「ああ、アラキアくん。起きちゃったか」

「……あの」

 窓がない実内で唯一時刻を知れるのは壁に設置された時計のみだ。

 針は午前4時を指している。日付をまたいだあたりまでは記憶があるが、眠気に負けてしまったのだろう。

「……今度は、何?」

「今のは、警告じゃなくて合図だよ。……投与が終わったっていう。だから眠ってて大丈夫だよ」

「……そう、ですか」

 安心するが、まだ心臓はバクバクといっている。眠気も覚めてしまった。

 椅子から立ち上がり準備体操のように足を伸ばす。

「……っ!」

 左足を襲った激痛に涙目になる。

「あー、まだダメだって!」

 その様子を見ていたアストレが駆け寄ってくる。

「結構深くまで刺さってたし、治癒術も使ってないんだから。あー、かなり腫れてるね。ちょっと診せて」

「え、でも……」

「大丈夫。今は僕が当番でここにいるってだけだし、問題はおきてないから。はい、診せる」

 しぶしぶ椅子に座り左だけズボンを脱ぐ。包帯をとった下の太ももはパンパンに晴れていた。

 アストレはそこに右手をかざすと、手からあたたかな緑色の光が漏れ始める。

「いいんですか? 治癒術使っちゃって」

「いいんだよ。どうせ、アルマちゃんには効果ないからね。治癒術って言ってもできるのは傷を治すことと軽い解毒くらいだし。……確かに便利って言えば便利だけどね。それだけって言っちゃえばそれだけだし」

「……でも、治癒術が使えたから、救えた命もあるんですよね?」

「……ああ、そうだね。……あんなに深々と胸に突き刺さってるのは、即死じゃないだけ奇跡だしね」

 アルマの胸に突き刺さった短剣を思い出しブルリと震える。

 短剣が取り去られた痕は綺麗に縫合されているが時々衣類の下に見えるその傷は痛々しい。それを言ってしまえば自分の太もももそうなのだが、それとはまた違った感情がわいてくる。

 あの後、任務から呼び戻した光騎士こうきし総出で双子の行方を捜したらしいが発見できていないらしい。同様にトガの行方も分かっていない。

 トガ。

 前にヤツに触れたとき、感じた違和は当たっていたのだとその顔を見たとき確信した。

 言葉遣いや声から男だと思っていた。だが、ヤツに触れたとき、服の上から触っただけでもその体が男性のような筋肉質な体つきではなく、女性のような柔らかい体つきだと分かった。

 トガは女だった。

 そして、アルマと瓜二つの顔。

 それを隠すために仮面をつけていたのか。はたまた、前にカストが言った推論通りヤツは誰かを『模倣』することができるのか。あれは、アルマ達とラースから真相を聞いていた時だった。カストはもしかしたらトガの仮面は誰かを模倣することができるという象徴なのではないか、と言っていた。

 それならば、アルマを模倣したと考えれば血液やクレアレアがほぼ一致した理由が分かる。

 しかし、模倣した顔だというのなら彼女はなぜ、顔を隠したのだろうか。

 第一、私にはできない、と言いアラキアを殺さなかった。これまでの《使徒》は容赦なかったが、トガだけは違う。

「……一体、何者なんだろうな」




 器に盛られたゼリーを一気に流し込むと食器を持ち席を立つ。

 返却口に食器を返すと速足で別棟へ続くエレベーターホールに向かう。食事をとらないわけにはいかないため、それと同時に風呂などもすませて戻ることにしている。医療部内にあるシャワーを使わせてもらっているためそのままアルクスへ帰る。

 光騎士こうきしとなってから別棟に移された自室にはしばらく戻っていない。

 エレベーターに乗り込むと認証装置に手をかざしてアルクスのフロアを選択する。

 三重になっている扉を抜けると定位置と化したベッドサイドに向かう。

「……ただいま、アルマ」

 当然、彼女からは何も反応は返ってこない。

「おかえり、アラキアくん」

「あ、おはようございます。アストレ先生」

「ん? どうして仮眠明けだってわかった?」

「表情がすっきりしてます。くまはひどいですけど」

 寝ぐせのついた髪を無理やり撫でつけたのか、その髪はところどころあらぬ方向にはねている。目の下には隈ができているが、顔には生気が戻っている。

「2時間くらい仮眠とっただけなんだけどね。休むのも大事だよ」

「そうですね」

「と、いうわけでアラキアくんも横になって休んでくれるとうれしいんだけど? ああ、別にそこでいいからさ」

 よほど、離れるのか嫌だ、と顔に出ていたのかアストレは慌てて言い直す。

「……ここで?」

 ここ、とはアルマのベッドサイドだ。

 しかし、ここには横になれるような場所などない。

「そこに簡易ベッドを用意してあげるからさ。お願いだから少しでもいいから休んで」

「……わかりました」

 アルマのそばにいれるというのなら、まだいい。

 これが隣や医療部内の仮眠室などだったら拒否したが。

 用意されたベッドに横になると、すぐに眠気が襲ってくる。自分で思っていた以上に疲れていたらしい。

「……ごめん、アルマ。……ちょっとだけ、寝させて」

 手を伸ばし重ねると瞼を閉じる。



 すぐに寝息を立て始めたアラキアを見てアストレはホッと息を吐く。

「やっと……まともに休んでくれてよかった……」

 太ももの処置を終えるや否やアルマの元にずっと付き添っていたアラキアはあれから3週間、いくら言っても自室に戻り横になって休むことはなかった。

 アラキアがトガからきいた情報はすべて把握しているためそばにいること自体、反対することはなかった。だが、彼の健康が害されるという点はこれ以上看過できない。これでも頷いてくれなかった場合、強制的に眠らせるつもりだった。

 白衣の下で握りしめていた魔杖剣まじょうけんの具現化を解除する。

「物騒なこって」

 振り返ると弥田が壁にもたれかかってカルテを開いていた。

 しかし、その目はアストレのほうを見ている。

「……さすがに私もここで魔法を放つようなまねはしませんよ」

「へぇ? おっさんには、そーはみえなかったけどねぇ?」

「なら、それは錯覚ということにしておいてください」

 アストレはどこからか取り出してきた毛布をアラキアに被せる。

「……ん?」

 ふと、違和を感じて機器類を順にチェックしてゆく。

(特に機器の異常はなし……)

 その様子を見ていた弥田の顔からふざけたような笑みが消える。壁から背を離して背筋を伸ばして立つとその様子を見つめる。

「……おっさんにも、診してくれる?」

「ああ」

 弥田が最初に近づいたのはアラキアだった。熟睡中の彼の腕をとると指先に向けて辿ってゆく。

 その手が止まったのは繋がれた手だった。

「……ああ」

 ため息をついたような声を出したのは弥田だけではなかった。心電図モニターを見ていたアストレも同じような声をあげていた。

 顔を上げると互いにこわばった顔をしていた。

「弥田医師……すまないけど……」

「わかってるよ。行ってくる」

 踵を返して駆け足で部屋から出て行った弥田の背中を見送るとアストレはアラキアの肩をゆする。

「アラキアくん、アラキアくん……凪くん……」

「んー……? んあー?」

 珍しく寝ぼけた声をあげてうっすら目を開いたアラキアは、ぼんやりとアストレを見上げる。

「休んでって言って寝かしておいてあれだけど。ごめん。……少し、壁際によっててくれるかな?」

「あ、はい。……何を」

 するんですか。

 その言葉はなり始めた警告音にかき消される。

 呆然をするアラキアを押しのけるとアストレはアルマの首に手をあてる。そのまま両手を彼女の胸の上で重ね合わせると体重をかける。

「……え?」

 その動作の意味することを理解し手を伸ばすが、肩に置かれた手に動きを止める。

「青年、おっさんと一緒に来な」

「弥田さん……」

「壁際で待機。そいういう約束だろ? ほら、おっさんたちを、なによりあの子を信じてやんなよ」

 弥田の後から入ってきたチームメンバーに次々と指示を出すアストレを見ながら、頷く。

「よし、いい子だ」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ