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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
72/76

ウイゼル・カーマイン

 ウイゼル・カーマインは、奴隷である。

 しかし、富裕大陸の中では、それ程珍しい事でもない。

 他の大陸であれば、奴隷と言えば犯罪者であるのだが、富裕大陸においては、その身に借金を背負った者達が最も多い。

 借金を返すために奴隷へと落ちるのだ。

 だが、完済して自由になる見込みは余りない。

 そのような能力があれば、富裕大陸で大成しているからである。

 そして、大成した者達が奴隷を使役する。

 それが、富裕大陸の常であった。


 ウイゼルが背負っている借金は、莫大である。

 それは、既に亡くなっている両親から引き継いだもの。

 ウイゼルは、生まれた時から奴隷であり、物心付く頃から、その環境は彼にとって普通の事だった。

 富裕大陸の中でも有数の資産家であるリズベルト家に、生まれた時から仕える事がしていたウイゼル。

 その直接的な主人となったのは、エダルであり、その性格を考えれば、ウイゼルが幼き頃から受けていた仕打ちは多岐に渡る。

 けれど、ウイゼルにとって、それは普通に事。

 特に何かを思う訳でもない、日常なのは間違いなかった。

 種族間戦争に参加する事になった理由も、エダルが盾代わりに連れてきただけという、ウイゼル本人の意思によるものではない。

 ウイゼルの中に、エダルに対する反抗心のようなモノは一切無く、自分は奴隷のまま生涯を終えるだろうと思っていた。

 種族間戦争へと来るまでは。


     ◇


 エダルから、HRWWの教えにもなっていない操縦法を学ばされた後、ウイゼルは種族間戦争へと赴いた。

 そこで、初めて戸惑いを感じる。

 奴隷が居ないのだ。

 正確には、富裕代表者に仕える者達が連れた奴隷は居るのだが、他の大陸から来た者達の中に奴隷が居なかった。

 その事に、ウイゼルは驚く事しか出来ない。

 そう思うのと同時に、ウイゼルの中である種の疑問が芽生える。


 果たして、自分の居た環境は普通の事だったのか? と。


 他の大陸の者達が浮かべる笑みを見て、ウイゼルは今まで自分はあんな風に笑った事があっただろうか? と振り返る。

 しかし、そんな記憶は一切無い。

 なら、もしかしたら、自分は普通ではない環境を生きていたという事になると、ウイゼルの中で戸惑いを与える。

 その思いは、ウイゼルに大きな影響を与え、エダルに対する反骨心が生まれた。

 ただ、同時に、自分は今の状態から抜け出せないのでは? と、恐怖を感じる。

 これまで奴隷として生きてきたのだ。

 他の生き方を知らない。

 エダルの下から逃げ出したとして、果たして自分は他の大陸の者達のように生きていけるのかと、先の見えない恐怖に縛られていく。

 ここから抜け出したい。

 けれど、抜け出して生きていけるとは思えない。

 そう思えば思う程、ウイゼルの心は追い詰められていく。

 生まれた反骨心も、次第に萎んでいった。

 そして、その心に出来た隙間を突くように、「声」が囁きかける。


     ◇


『……誰か……この声に反応する者は居ないのか……』


 ウイゼルは、この言葉が届いた時、最初は空耳かと思った。

 とうとう自分はヤバい所にまできてしまったのかもしれないと、皮肉る。

 幻聴まで聞こえるなんて、心が病んでいるとしか思えなかった。


『……誰か……誰か……』


 耳を塞ごうが、何度も聞こえてくる言葉。

 誰かを求める声は、どこか寂しそうな、悲しそうなモノに聞こえる。

 もしや、幻聴ではないのか? と思った時、次に囁かれた言葉はウイゼルにとって、正に天啓であった。


『……やはり、誰も反応はしないか。……我を手にすれば、絶大なる力を与えるというのに』


 力。

 それも絶大なる力。

 今の状態から脱したいが、脱した後の事に恐怖を感じているウイゼルにとって、絶大なる力というのは、魅力的な甘美な響きとなって届く。

 脱した後、どうすれば良いのかは、皆目見当も付かない。

 だが、絶大な力があれば、何でも出来そうに思えてしまう。

 そして、ウイゼルは声が聞こえる方へと向けて歩を進める。


     ◇


 ウイゼルが手にした力。

 それは、大鎌「ダーインスレイブ」。

 ただ、「ダーインスレイブ」は普通の武器ではなかった。

 本体は只の棒にしか見えないが、大鎌の刃はビーム兵器である。

 それだけでも大きな力ではあるし、現行機の装甲や武器では太刀打ちできないだろう。

 だが、それだけではない。

 「ダーインスレイブ」の本体部分には意思が……AIが搭載されていた。

 「ダーインスレイブ」は、原初の女王が造り上げた試作ビーム兵器である。

 この試作兵器で培った経験を経て、後に「エクスカリバー」が造り出されるのだ。

 「エクスカリバー」や他のビーム兵器には、AIは搭載されていない。

 「ダーインスレイブ」にAIが搭載されている理由は、ただ単純に、原初の女王が色々試した結果の末としか言いようがなかった。

 要は、試作だからこそ、色々遊んだのだ。

 搭載されたAIは、学習型である。

 ただ、造られてから長年放置されていたという事に加え、時折現れる使用者の性格にも恵まれなかった事も関係し、AIによって作られた性格は非常に歪んでいた。

 その性格を一言で表すのであれば、「尊大な王」である。

 「ダーインスレイブ」にとって、自身の使用者は奴隷という認識でしかなかった。

 そして、言葉を巧みに使い、使用者を歪めていくのだ。

 自分が奴隷であると理解出来ない奴隷へと。

 それはまるで洗脳のように。


     ◇


 「ダーインスレイブ」を手にしてからのウイゼルは、歪みに歪んでいく。

 ウイゼルに、HRWWの天才的な操縦技術があった事も関係しているのだろう。

 もっとも、その力を見出したのも「ダーインスレイブ」であり、ウイゼルはますます「ダーインスレイブ」に依存していく。

 自らが絶対の強者であると思い込んだウイゼルの態度は、尊大になっていき、自分に出来ない事はないとまで思うようになっていった。

 エダルが死んだ事も、それに拍車をかける一因だろう。


『全て殺せ。歯向かう者全て。そうすれば、お前は王となるのだ』

「……そうだな。俺は王になれる」

『そうだ。そのために、我が力を貸してやろう。お前は望むままに行動すれば良いだけだ』

「……あぁ。その通りだ」


 その頃には、「ダーインスレイブ」が囁く言葉は、ウイゼルの心の深い部分にまで届くようになっていた。

 こうなってしまえば、最早ウイゼルの意思はあってないようなもの。

 完全に、「ダーインスレイブ」の操り人形と化していた。

 「ダーインスレイブ」の狙いは、正にそれである。

 自分に都合の良い人形を作る事であった。

 ウイゼルという人形を使って、種族間戦争を楽しんでいたのである。

 その行為は、ウイゼルの肉体を使うにまで及ぶ。

 本体からHRWWを通じて電気信号を流し、ウイゼルの体を使用する。

 それが、第4戦でのウイゼルの変異であった。

 自分が「ダーインスレイブ」に使われているという意識も持てないままに。


 ウイゼルは、奴隷から抜け出したいと思って行動を起こしたにも関わらず、結局は本人がそれを意識出来ないまま、再び奴隷へとなってしまった。

 その最期は、「ダーインスレイブ」に裏切られる形で終わる。


 「ダーインスレイブ」も、「ヴァジュラ」によって本体を砕かれたが、それがウイゼルにとって救いとなったかは分からない。

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