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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
69/76

第5戦 人族対富裕 1

 第5戦、人族対富裕者の戦いは、既に始まっていた。

 戦場の舞台となった場所は、エデン大陸の端にある荒れ果てた平原である。

 当初は互いに離れた場所からのスタートであったが、各個撃破であたるという目的は同じであったため、双方が望む形での戦いに自然となった。

 ユウト・カザミネはウイゼル・カーマインと。

 フォー・N・アーキストはキステト・ウォーラと。

 ラデ・パークはミミク・ペテトキクルと。

 グラン・ドレスフィールはレオン・ドレスフィールと。

 それぞれが影響し合わないように距離を取りながら、戦いを繰り広げていた。


     ◇


「はははははっ! 凄い凄い! こんなに俺と斬り合う事が出来る奴が居たなんて!」

「くっ! 笑い声がうざいんだよっ!」


 ウイゼルが上げる笑い声に苛立つユウト。

 けれど、その苛立ちを表情に浮かべる暇は無かった。

 ウイゼル機の大鎌「ダーインスレイブ」は既に発動しており、その苛烈な攻撃がユウト機に放たれ続けているからである。

 しかし、そこはさすがのユウトと言うべきだろう。

 ユウト機は、ウイゼル機が放つ攻撃を全て回避し続けていた。

 機体の所々にかすったような傷は出来ているが、それだけである。

 HRWWの性能では劣っているのに、この結果というのは、ユウトの技量が高いという証明だろう。

 また、それだけではない。

 ユウトは、ウイゼル機の攻撃を回避しつつ、隙があれば反撃を繰り出していた。


「なん、でっ! 当たらないんだよっ!」


 だが、ユウト機が繰り出す攻撃もまた、ウイゼル機には届いていない。

 その攻撃の中には、ウイゼル機からは見えない死角からのも含まれているにも関わらず。


「無駄だっ! お前じゃ……いや、誰も俺には勝てない!」

「ほんと、何なんだよ、お前っ! 何で死角からの攻撃も、平気で反応しているんだよ! どう考えても不可能なのに!」


 まるで、もう一つ意識があって、それが全体を観測しているようだ! と、ユウトは思った。


     ◇


 フォーとキステトの戦いは、一方的な状況へと陥っていた。

 もちろん、有利なのはHRWWの性能差すら凌駕する技量を持つフォーである。


「……この、化け物めっ!」

「……しぶとい。時間稼ぎか」


 フォー機の攻撃を何とかいなしながら、キステトが悪態を吐く。

 しかし、機体の状態は満身創痍と言える。

 傷があるのは当たり前で、至る所にある大きな傷は外殻フレームを越えて内殻フレームを露わにし、火花が散っていた。

 HRWWの中でも最も硬い富裕機であろうとも、同じ箇所に何度も攻撃を加えられればこうなってしまい、それを可能にしているのがフォーの技量だ。

 ただ、それでも動けている辺り、キステトの技量も並ではないという証明である。

 けれど、それはほんの時間稼ぎにしかならない。

 フォーはキステト機の動きから、その狙いを言い当てた。


「見え見えだが、付き合って貰うぞ! フォー・N・アーキスト! 死ぬまで私と踊れ!」

「……さっさと終わらせる。俺の最優先任務は、守りきる事だ」


 フォーはキステト機を沈めるため。

 キステトは仲間が来るまでフォー機を足止めするため。

 互いの目的を達成するために、フォー機とキステト機は刃を交える。


     ◇


 ラデ機とミミク機は、一進一退の攻防を繰り広げていた。

 HRWWの性能はミミク機の方が上だが、パイロットの技量はラデの方に軍配が上がる。

 そのため、互いに決定打を欠くような状態になっていた。


「くっ! 押し切れない!」

「以外にやるね、こいつ! でも、そう簡単に富裕機の装甲を貫けると思わない事だね!」


 ラデ機の攻撃を受けているミミク機ではあるが、その装甲に凹みは出来ていても、その影響を受けているようには見えない。

 また、ミミク機の攻撃に対して、ラデ機は何とか回避出来ているという状態であった。

 そのような状況の中で、ミミクは思う。


(……う~ん。いくら富裕機の性能が勝っていても、今潰すのは無理だな。……なら、もう少し時間をかけて、じわじわと追い詰めていくか。機械は疲れないけど、人は疲労していくからね。どこまで今の集中力を保てるか、試させて貰うよ。……うん。楽しくなってきた!)


 そして、ミミク機は防御に念頭を置いたような動きへと変わるのだが、ラデはそれを敏感に感じた。


(不味いなぁ……。明らかに向こうも時間稼ぎし始めたよね? フォーもグランもまだ来そうにないし、どうしたものか。……でも、私の目的も時間稼ぎみたいなもんだし、ミミク機をこのままここに止め続けておけば良いんだよね? ……自分が出来なきゃ周囲を頼るしかないとか……ちょっと悔しいな)


 そう思ってはいても、これが今の自分の力であると正しく認識したラデは、決して無茶をせず、当初の目的通り、ミミク機を押さえつける役目を全うするために動くのであった。

 奇しくも、互いに時間稼ぎを行う事を決めたラデ機とミミク機は、緩急を伴った非常に緩やかな戦闘を行う。

 もちろん、隙あらば……ではあるが。


     ◇


 グラン機とレオン機の戦いは、苛烈を極めていた。

 互いに防御を最低限行うだけで、相手を潰すだけの攻撃を最優先に行っている。

 機体は双方共、既にボロボロであり、動いているのが不思議なくらいだ。

 まるで、決着が着くまで止まる事を許されていないようにも見えた。

 互いに持つ剣が、その刃を交わせた時、レオンがグランに向けて通信を飛ばす。


「……かなり腕を上げたようだな。機体性能はこちらが上だというのに。……兄として負けているのは悔しいが、同時に誇らしくもある」


 その言葉が耳に届いた瞬間、グランは自分が思うままに激昂した。


「ふざっけるなぁっ! 俺の前で兄面をするなっ! 俺とアンタは半分しか血の繋がっていない赤の他人だっ!」

「悲しい事を言うなよ、グラン」


 グラン機とレオン機は、交わる刃を押し付け合い、その反動を利用して互いに距離を取る。

 仕切り直しとでもいうように剣先を相手機へと向け、機先を窺うため、2機は円を描くように歩を進めた。

 その間も、2人は通信を飛ばし合う。


「……グラン・ドレスフィール。何故、種族間戦争に参加した? 何故、死地へと赴いた?」

「俺をその姓で呼ぶな!」

「……相変わらず毛嫌いされているようだな。だが、質問には答えるべきだと思うが?」

「ふんっ! どうして、種族間戦争に参加しただと? こんな状況になってまで、それを聞くつもりか?」

「まぁ、答えは分かっているが、お前の口から聞きたいだけだ」

「なら、教えてやるよ! お前を……お前達を殺すためだっ! ドレスフィール家を許す訳にはいかない!」


 グランの言葉を受け、レオンは苦虫を潰したかのような表情を浮かべる。

 やはり、恨んでいるのかと。


「……お前もドレスフィール家の一員だろう?」

「俺はそれを認めない! 俺と母を捨てたお前達を!」

「それはっ! ……いや、何でもない。なら、どうしてお前はここに居る? どうして、母さん――クミンさんの傍に居ない?」

「お前が母と呼ぶなっ! それに、言わなければ分からないのか?」

「………………そうか。治療の甲斐無く、亡くなってしまったのか。……冥福をお祈りしよう」

「何を言っている、レオン・ドレスフィール。母は、治療など受けていない!」

「………………」


 その言葉で、レオンは気付く。

 あぁ、そういう事かと。

 結局、自分の言葉すら届いていなかったという事を。

 なら、今のこの状況にもレオンは納得が出来た。

 グランが、ドレスフィール家を恨んで当然だと。

 レオンがグランの言葉を信じるのに、理由なんて無い。

 兄として当然であると共に、母親――クミンが亡くなったと言うのであれば、その言葉に偽りは無いと思っていた。

 グランであれば、嘘でもそんな事は言わないと、レオンは確信を持って言えるからである。

 そして、レオンはクミンの死を哀悼するかのように、一度目を閉じた。

 再び目を開いた時、レオンの表情に迷いは無い。


「……良いだろう。なら、お前の……クミンさんの死の悲しみと、ドレスフィール家への怒りの全てを受け止めてやろう。それが兄として、自分が果たすべき事だ」

「なら、憎きドレスフィール家の者として、俺に討たれろ! レオン!」

「それは出来ない事柄だっ! グラン!」


 グラン機とレオン機が同時に前へと飛び出し、刃を交わらせる。

 そこからは、互いに言葉は必要無かった。

 只々、相手機を沈めるだけの行動をする時間である。

 これまでは、最低限の防御だけはしていたが、もうそれすらもしない。

 攻撃だけに集中し、グラン機、レオン機、共に外殻フレームがみるみる内に破壊されていく。

 こうなると、パイロットの技量は関係無い。

 HRWWの性能が優れている方が有利であり、富裕機の装甲の方が厚い。

 それを表すかのように、外殻フレームの破損具合はグラン機の方が酷いのだが、それでも攻撃の手は緩めず、互いに互いの事しか目に入っていない。

 しかし、それがいけなかった。

 グラン機とレオン機の位置は、ある場所へと近付いていたのだ。

 そこでは、ある2機が戦いを繰り広げていたのだが、その内の1機から通信が飛ぶ。


「よけろっ! グラン!」


 コクピット内でそう叫んだのは、ユウトである。

 つまり、グラン機とレオン機は、ユウト機とウイゼル機が戦闘を行っている場所へと近付いてしまったのだ。

 そうなると、この事態を許さない存在が居る。

 先程まで、ユウト機との戦いを楽しんでいたウイゼルだ。

「邪魔すんじゃねぇよ! 雑魚がっ!」


 ウイゼルが叫ぶと共に機体を動かし、大鎌「ダーインスレイブ」の切っ先をグラン機へと向けて振り下ろす。


「――っ!」


 レオン機しか見えていなかったグランは、自機へと迫る刃に反応が遅れてしまう。

 「ダーインスレイブ」の刃の行き先は、コクピット部分を狙っていた。


(……ここで終わるのか! ドレスフィール家に対して、何の復讐も出来ないまま!)


 そして、その刃がコクピット部分を貫こうとした瞬間、グラン機は何かに押されて体勢を崩して倒れたのだが、それによって「ダーインスレイブ」の刃を回避出来た。

 一体何が? と、グランがモニターで様子を確認すると、そこ見えたのは、「ダーインスレイブ」の刃にコクピット部分を貫かれたレオン機の姿だった。


「はははははっ! 何やってんの、こいつ? 人族機なんか庇っちゃって! 何がしたかったの? ねぇねぇ、答えてよ! この富裕を裏切ったレオン・ドレスフィール!」


 ウイゼルの高笑いが響くが、それにグランは反応が出来なった。

 目の前で起こった出来事が理解出来ていなかったのだ。


「………………どうして……どうして俺を庇った」


 グランが呟くのは、その言葉だけだった。

 それに答えるように、レオン機がギギギと最後の力を振り絞るように動き、手を伸ばしてグラン機の頭部へと置く。


「………………お前は弟だからな。……半分しか血が繋がっていなくても……兄として……お前を守る」


 それは、直接触れた事で、グラン機のコクピット部分にだけ届く通信だった。


「……クミンさんの事はすまなかった。………………あれで守れた気でいたなんて……子供だったとい」


 ウイゼル機が「ダーインスレイブ」を引き、レオン機が真っ二つに折れて沈黙し、機体が地に沈む。

 その光景に、グランは目を大きく開く。


「……何だよ、それ。……何で、謝るんだよ。……お前は……俺と母さんを死に追いやった張本人だろ? ……何で、そんな事を言うんだよ。……何で………………憎ませてくれないんだよ」


 つぅ……と、グランの目から涙が伝う。


「………………レオン兄さん」


 それに、答える者はもう居なかった。


「しっかりしろ! グラン! まだ戦いは終わっていないんだぞ!」

「………………」


 ユウトからの通信が飛ぶ。

 けれど、それはグランの耳に届いていなかった。

 また、ユウトにそれを気にする余裕は無い。

 レオン機を裂いたウイゼル機が、再びユウト機へと襲いかかったからである。

 周囲の状況の変化に取り残されたグランは、ほんの少しの間呆然とした時間を過ごす。

 そして、流れる涙を力強く拭うと、その目はある一点を凝視し、心が思うままに体を動かして機体を立ち上がらせる。

 グラン機はその動きに応え、一歩ずつ前へと進む。

 その歩みは次第に速くなっていき、ウイゼル機に向かって駆けていく。


「ウイゼル・カーマインンンンンッ!」


 グランが吠える。

 その声には、怒りと怨嗟が宿っていた。

 しかし、ウイゼルはその声を心地良さそうに受ける。


「はははははっ! 吠えるなよ! 雑魚がぁ!」


 それはいけないと、ユウト機が横槍を入れようとするが、「ダーインスレイブ」によって牽制を入れられ、初動が遅れる。

 それは致命的な瞬間だった。

 グラン機は満身創痍のような状態なのだ。

 それでなくても、双方の技量は元より、機体の性能にも差がある。

 今のグラン機で、ウイゼル機をどうにか出来るとは誰も思えない。

 グランも、それは充分に理解出来ていた。

 けれど、これはそういう事ではない。

 一撃だけでも入れないと、グランは納得が出来なかった。


「ああああああああああっ!」


 グランが吠えると共に、機体が持つ剣をウイゼル機に向けて突き立てる。

 しかし、ウイゼル機はその剣ごと、「ダーインスレイブ」の刃でグラン機のコクピット部分を引き裂く。

 大事な何かを失ったかのように、グラン機はそのまま沈黙して地へと沈んだ。


「……母さん、約束を守れなくてごめん……レオン兄さん」


 コクピット内部でそう呟くグランの体は、機体と同じように引き裂かれていた。

 口から血を吐き出し、そのまま絶命する。


「雑魚が粋がるからだよ」


 ウイゼルはそう吐き捨て、機体をユウト機に向け直す。

 その表情は、満面の笑みだった。


「さぁ、お前の命も刈り取ってやるよ! ユウト・カザミネ」

「てめぇ………………てめぇだけは、ぶっ殺す!」


 そして、ユウト機とウイゼル機の戦いは、苛烈さを増していく。

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