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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
54/76

休日 2

 獣人の整備員達がHRWWの整備を行っている中、整備チーフであるグルズ・スプレの隣にはナラスが居る。

 その二人は、整備されていくHRWW各機の姿を眺めながら会話をしていた。


「……それで、わざわざこんな所にまで来て、俺に話というのは一体何だ? 油臭い匂いに慣れていないお前にはきついだろうに」


 視線は整備員達へと向けているグルズが尋ねる。


「……あぁ、ちょっとした相談だな」

「相談? 何やら碌な事にならなそうな予感がするが?」

「そうでもないさ。それに、そう友達を邪見にする事ないだろ?」

「おいおい、俺の中では顔見知り程度の関係だと思っていたのだが?」

「安心しろ。私の中でもそうだ」


 そして、ナラスとグルズはくつくつと笑う。

 その様子は、どこからどう見ても旧知の仲である事がわかる。


「……で? そろそろ用件を聞きたいのだが? わざわざ俺に頼むという事は、HRWWに何か問題でもあったか?」

「HRWW自体に問題は無い。ただ、俺の機体にも何か武器を用意してくれないか?」


 その言葉を受け、グルズはちらっとナラスの顔へと視線を向ける。

 グルズが見たナラスの表情は、どこか余裕が無く、何かしらの決意を固めているように見えた。

 そしてグルズは目を細め、そのまま小さく溜息を吐く。


「……復讐か? いや、既にエルフとの戦いが終わった以上、それは私怨でしかないぞ」

「わかっている」

「……それでも、納得出来ないのか?」

「あぁ」

「……イルムンは、お前にそこまで思われる程の人物だと、到底思えないのだが」

「イルムンの人格については否定しない。大勢の者は、イルムンの死に対して特に何も思わないだろう。寧ろ、せいせいすると言う者の方が多いかもしれない」


 だが、ナラスの次の言葉は力強いモノだった。


「それでも、家族だったのだ」


 ナラスは、ぎゅっと拳を握る。

 その力は強く、爪が皮膚に食い込み、血が流れ出した。


「イルムンが死んだ時、私は何も出来なかった。……反応出来ない超長距離からの狙撃。だからどうした! そんなのは何の言い訳にもならない。……家族を守りきる事が出来なかったという結果だけだ」


 ナラスの激昂を見て、グルズはもう一度溜息を吐き、変われば変わるものだなと思った。

 グルズが知るナラスという人物は、一言で言ってしまえば「大人」である。

 見た目ではなく、精神が。

 常に冷静というか、物事を一歩離れた場所から見る事が出来る者だと思っていた。

 それが今は、その身の内から溢れる怒りを抑えられていない。

 感情の赴くままに行動しているように見えた。

 無論、それが悪いという訳ではないが、時と場合による。

 今のナラスはどう見ても感情が暴走し、それが自身に悪影響を与えているようにしか見えなかったのだ。

 その切っ掛けがイルムンの死。ナラスにとっては家族の死。

 気持ちがわからなくはないが、グルズはそれでは困ると判断する。

 元々ナラスが獣人代表者達のリーダーのようなものだが、代表者の人数が少なくなった今こそ、その役割が強く求められるのだ。

 しかし、今のナラスは私怨に走り、とてもではないがリーダーとして動くようには思えない。


「……落ち着け……と言っても、無駄なのだろうな」

「あぁ。今は無理だ」


 即答で返され、グルズは頭を掻く。


「……何が望みだ?」

「テリアテス機と同様に、私の機体にも特殊兵装を用意して欲しい」


 その言葉に、グルズは分かっていたと溜息を吐いて、ナラスへと視線を向ける。


「更なる戦力を求めるか……。殺されて殺し……殺し殺されて……一体いつまで、俺達は踊り続けなければならないのだろうな」

「……さぁな。ただ、現実は待ってくれない。時間は止まらないのだ。一度無くなったモノは、もう二度と返ってこない。……例え誰かの手の平の上だろうと、この決意は変わらない」


 これはもう、何を言っても今は無理だろうと、グルズは判断した。

 そう判断した理由の一つとしては、今までの友達付き合いでナラスの人柄というモノを理解しているからだろう。

 グルズは、やれやれと思った。


「まぁ、お前の言いたい事は分かったが、結論から言えばそれは無理だ」

「……何故だ?」

「第一に、テリアテス機の『フロッティ』以外、ココに特殊兵装の類は持ってきていない。その理由として、俺達獣人大陸にある特殊兵装は『フロッティ』以外全て修繕中だからだ」

「なっ! 『フロッティ』以外全てだと!」

「そうだ。前の戦でボロボロになった物や、壊れてしまった物もあるし、まだ完成していない物なんてのもあるな」

「そんなにか!」

「仕方ないだろう。何せ、整備員の人手が足らないのだから。それに、エリスラ・ロンドバードのような天才も居ないのだ。……全く、上はいつもいつも簡単に言うが、こちらだってやれる事は精一杯やっているのだ。それなのに、もっと頑張れば出来るとか、思考を柔軟にしろとか、納期は守れとか……少しは整備員達の苦労を知れと言いたい」


 何やら黒いオーラを立ち昇らせるグルズ。

 それを隣で感じたナラスは、少し冷静になった。


「……えっと、すまん」

「……ん、んん。いや、こちらこそ、すまん。……まぁ、なんだ。分かってくれたのなら別に良い」


 ナラスの謝罪の言葉に、グルズも冷静になる。


「けどまぁ、お前の気持ちも少しくらいなら共感出来る。……特殊兵装は無理だが、機体と武装を少しいじっておく。気持ち程度かもしれんが、少し性能を上げておこう」

「それでも充分だ。……すまんな」

「気にするな。顔見知りの頼みだからな」

「ふっ。なら、期待しておくか。何せ、顔見知りの腕を信頼しているからな」


 互いに笑みを浮かべ、それぞれ別方向へと歩み出すナラスとグルズ。


 一方、他の代表者達はというと――。


「テリアテス~。ほら、どうしたよ~。飲め飲め~」

「……」


 リビングで、テリアテスは酔っぱらっているセーフに絡まれていた。


「まったくよ~、ナラスはイルムンの死を気にしすぎだと思わないか~? うさささささ。家族の死が悲しいのは分からなくはないが、それに捉われていては駄目だと思うんだな~、私は。うさささささ。なぁ~、テリアテスもそう思うよな~? な~?」

「……はぁ~」


 深い溜息を吐くテリアテス。

 もう部屋に戻ろうかなと、本気で思い始めた。


     ◇


 エルフ達が利用している塔のリビングでは、小さな嗚咽が何度も漏れていた。


「大丈夫? ムライス君」

「ぐすっ。……ず、ずみまぜん」


 ソファーに座り、嗚咽を漏らしているのはムライスであった。

 そのムライスの傍には寄り添うようにしてアッティが居る。

 アッティは、テーブルの上に置かれているティッシュ箱を自身の傍に寄せ、何枚か抜いてからムライスへと手渡す。


「ありがとうございます」

「良いよ。気にしなくて」


 そう言うアッティであったが、実際は自分も泣くのを我慢していた。

 いや、既に泣いた後なのだろう。

 アッティの目の下は、少し赤く腫れていた。

 ムライスにとってオブイの死が堪えているように、アッティにとってパネラの死もそれ相応に堪えていたのだろう。

 それでも、ムライスよりは大人というべきか、戦争が終わっていない今の状況で悲しみに潰れる訳にはいかないと、気丈に振舞っているのが見てとれた。

 開始当初のアッティとは比べられない程に前を向いている。

 恐らく、パネラという友の死による影響で、アッティの中で何かしら変化があったのだろう。

 いや、成長したと言い換えた方が正しいかもしれない。


「泣くの、我慢しなくて良いんだよ」

「……でも、こんな泣き虫じゃ、オブイさんに笑われてしまいます」

「大丈夫。そんな事でオブイさんは笑わないよ。良いんだ。ムライス君はその心で感じるままに動いて」

「……はい」


 そして、大きく泣き始めるムライス。

 泣いた分、オブイが誇れる自分になれる事を願って。


 その様子を眺めていたのは、二人の対面に座るロカートである。

 オブイ亡き今、エルフ代表者達を引っ張っていかなければならないと思っていたのだが、二人の様子を見て、その考えは間違っていると感じていた。

 この分なら、きっと二人は大丈夫だと思う。

 慣れない事をしなくても良いと思ったロカートは、内心でほっと息を吐くが、そんなロカートに向けて、アッティが視線を向ける。


「ロカートさん」

「ん? どうした?」

「エルフ代表者は、俺達三人だけになってしまいました」

「そうだな」

「俺達の中で、最も戦えるのはロカートさんです。いえ、元々ロカートさんがエースでした。……俺達の力じゃ、おんぶに抱っこ状態かもしれませんが、必死に付いていきます。改めて、これから宜しくお願いします」

「……ぐずっ。お願いじまず」


 アッティの言葉に、ムライスも泣きながら合わせる。

 二人と出会った当初の事を思い出し、変われば変わるものだなとロカートは思い、頼もしさを感じた。


(これならきっと、この後も戦っていける。……オブイさん。ムライスはきっと強くなりますよ。……アッティがここまで頼もしく感じられるようになったのは、パネラのおかげだ。……二人共、あの世で誇って下さい)


 そして、ロカートは心の中でオブイとパネラに哀悼の念を捧げ、ムライスとアッティへと視線を向ける。


「わかりました。頼りにさせて貰います。……けれど、これだけは言わせて下さい」


 一息入れ、言葉を続ける。


「決して、自棄にならないで下さい。オブイさんとパネラの後を追うような真似はしないで下さい。……共に生きて、勝利を目指しましょう」

「「はい」」


 ムライスとアッティの返事を聞き、自分も出来る事を頑張っていこうと思うロカート。

 この二人を決して死なせたりはしないように。

 そしてロカートは、笑みを浮かべてから立ち上がる。


「それじゃ、この場はアッティに任せます。私はオクスに会って『天鹿児弓』の状態を確認してきますので」

「わかりました」


 ムライスとアッティを一瞥してから、ロカートはリビングを出て行った。


 一方、ロカートが会おうとしているエルフの整備チーフであるオクス・オームは、HRWWが置かれている場所とは違う、HRWW用の武器が置かれている整備場に居た。

 オクスの目の前には、「天鹿児弓」が天井から吊るされている。


「んん~……」


 「天鹿児弓」を眺めながら、オクスが唸る。

 その目は、どこか異常が無いかを見逃さないように鋭い。


「……これは、第四戦に間に合うかは微妙だな。核である本体は大丈夫そうだが、銃身が完全に歪んでいる。……はぁ~、HRWWの整備が終わった奴からこっちに回すか。……部品あったかな」


 どこか疲れた表情を浮かべながら、オクスは整備場を出て行くのであった。


     ◇


「ふぅ~……」


 溜息が漏れる。

 富裕代表者の一人、キステトが大きく息を吐いた。

 その様子を見ていたのは、ミミクとレオンである。

 富裕代表者である彼等が居るのは、リビングだ。

 そこで、それぞれが品の良いソファーに座り、のんびりと英気を養っていた。

 用意させた軽食と酒を嗜みながら、親交を深めるように会話をしている。

 もちろん、ミミクはまだ年齢的に酒は厳禁なので、上質な果実水が用意されており、彼等の会話は弾んでいたといえるのだが、その途中で突然のキステトの溜息だ。

 何故そんな事をしたのか、ミミクとレオンは容易に想像がついた。

 この場に居ない、ウイゼルが原因なのだろうと。

 ウイゼルの突然の強気な態度には、もちろんミミクとレオンも驚きはしたが、所詮は今だけ……この種族間戦争の間だけしか通用しないモノだと判断していた。

 いくら強気になろうとも、元々の立場は変わらないためである。

 自分達の大陸に帰ってしまえば、強気な態度だけでは覆しようもない現実が訪れるのだ。

 ウイゼルの戦闘能力が上がったというのなら、今はそれを利用して勝利を得れば良いだけと思っていた。

 触れず、煽てて、駒のように使えば良いだけと。

 そう考えている二人の頭の中に、エダルの死を悲しむという意識は既に無い。

 せいぜい、戦う人数が減った程度の認識でしかなかった。

 この辺りに、富裕代表者達それぞれの関係の希薄さが現れているだろう。

 しかし、キステトにとっては違うかもしれない。

 元々、エダルとそれなりに関係を築いていたキステトである。

 その死に何か思う所があるかもしれないし、ウイゼルが初めから今の力を発揮していれば、第二戦でエダルが死ぬ事は無かったのではないかと、そう考えていてもおかしくはないのではないかと邪推してしまう。

 ……まぁ、続く第三戦でミミクとレオンは魔族にやられたが、キステトは一応仲間であるはずのウイゼルにやられたのだ。

 単純に、それがムカついているだけかもしれないが。


 さて、この切れた会話をどう繋げようかとミミクとレオンが頭を働かせていると、キステトはもう一度息を吐き、ソファーに深く背を預ける。


「……まっ、アレだな。ウイゼルに関して色々と思う所はあるが、あの戦闘能力は使える。放って置いても勝手に戦ってくれそうだし、楽が出来ると判断しておくか」

「それで良いの? やられてムカついていたんじゃないの?」


 ミミクの問いに、キステトは獰猛な笑みを浮かべる。


「構わんさ。私が今だけ我慢するだけで、自然と勝利を得られるのだ。それぐらい、なんて事はない」

「しかし、ウイゼルの好きにやらせるという事は、奴の増長を招きませんか?」

「レオンよ。何も戦闘能力が高いだけが世界の全てではない。それだけで上に立てる程、世の中は単純ではないぞ。増長するなら、好きなだけ増長すれば良い。その増長が通用するのは種族間戦争の間だけ。それが終われば、所詮は奴隷の身よ。それに、そういう奴を上手く使うのも、上に立つ者の資質だ」


 そう言って、キステトは自分の手の平を眺める。


「……上手く躍らせるさ。私の手の平の上でな」


 その言葉に、ミミクは憧れを抱くような目をキステトへと向け、レオンはとりあえず大丈夫だろうと内心で判断する。

 そこからの三人は、あの家はどうとか、自分達よりも下で起こっている権力争いの話、後はミミクがあまり体験していないカジノでの逸話や裏の話などを交わして、休息時間を潰すのであった。


 一方、富裕代表者達に波紋を起こしたウイゼルはというと、整備場に立て掛けられている自身が使用した武器「ダーインスレイブ」を前にして、恍惚の表情を浮かべたり、何かぶつぶつと会話をしているように言葉を発していた。

 その様子を整備場の外から見ている者が居る。

 富裕の整備チーフであるイーニン・インだ。

 小さく開いていた扉の間から、その様子が見えて、少しの間見ていたのである。

 もちろん、彼にも整備の仕事はあった。

 何しろ、ミミク機とレオン機は魔族機によって潰され、キステト機に至ってはウイゼル機によって真っ二つにされたのだ。

 その事で、色々と忙しいのだが、視線の先で繰り広げられている異常な光景に、ついつい足を止めてしまったのである。


「……こわっ」


 寒いという訳ではないが、イーニンは体を震わせ、足早にこの場を去るのであった。

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