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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
4/76

第1戦 人族対魔族 1

戦闘描写は難しい。

でも、頑張ります。

武器に関しては、元々の形はあまり考慮してませんので、あしからず……。

 薄暗いコクピットの中で、何かに集中するようにフォーが目を閉じている。

 両手は操縦桿に置かれ、その体には黒を基調とした専用のパイロットスーツを着込み、座席裏から伸びるチューブが背中と両肩に繋がっていた。

 浅く呼吸するフォーの前面横にある小さなモニターに、ブゥンという音とともに映像が表示される。そこには胸から上が画面に表示され、同じパイロットスーツを着こんだユウトの陽気な姿があった。


「いよぅ! どう? 緊張してる?」

「……」

「……相変わらず、愛想がないな。いや、違うか、愛想がないんじゃなくて、何も答えないのか……。はぁ……。もう少し相手してくれてもいいんじゃないの?」

「必要ない」

「必要あるわっ! これは個人で戦うんじゃないんだからさぁ~……もう少し、協調性を持ってくれてもいいんじゃないの?」

「俺には必要ない」

「……はぁ~……」


 画面の中でユウトが盛大なため息を吐く。

 ユウトがこりゃ駄目だ、と呆れるような視線を向けていると、フォーの閉じられていた目がゆっくりと開かれた。


「無駄口を閉じろ。開始だ」

「なっ! どこが無駄――」


 ユウトの激昂を遮るように、戦闘開始の合図を告げる甲高い音がコクピット内に響いた。

 その音はユウトの方にも鳴り響き、その顔に笑みを浮かべる。


「たくっ……さぁ~て、いっちょやりますかっ! いくぞ、フォー!」

「……」

「返事しろよぉっ!」


     ◇


 いくら魔力金属が軽いとはいっても、HRWWの巨大な体躯に比例する質量によって地面には足跡が残る。

 それは岩山と言ってもいい山の地表でもある固い岩盤でも同じだ。

 そして今、人族代表を示す黒い5機のHRWWがその岩山に足跡を残しながら駆け上がっていた。


「いいか、魔族側の出発地点は岩山を挟んでちょうど俺達の反対側! つまり、先に岩山の頂上を手にした方が位置的に有利になるっ!」


 ユウトの指示が仲間内に飛ぶ。

 フォーを除く全員がその言葉に頷き、HRWWを巧みに操縦して岩山を駆け上がっていく。

 ユウト機を先頭に逆V字のような形で進んでいき、全機の前面モニターに頂上が映し出された瞬間、怒号が飛ぶ。


「散れっ!」


 最後尾を進んでいたキーノの突然の言葉に、残りの4機がそれぞれ即座に近くにある巨大な岩陰へとその姿を隠す。

 その場に残ったキーノ機は岩盤へ両手を突き刺すと、おもいっきり岩盤を持ち上げ、巨大な岩壁を自身の前に展開する。

 そしてその岩壁に何かが衝突して辺り一面に爆発音が鳴り響き、土煙が蔓延した。


「ひゃ~、さすが元軍人さん。よくわかったな……。しっかし、これが戦場の空気か……これは気を引き締めないとやられるな……。それに」


 未だモニターには土煙が舞っているが、ユウトは舌なめずりしながら、自機の顔を頂上へと向け、そこに見える物をモニターへと映す。


「やっぱ、魔族機は基本スペックがこっちとは違うか」


 その言葉を証明するように映ったモニターの中には、頂上部を占拠している魔族達の紫色のHRWWが5機揃っており、その内の1機がその手に持つライフルの銃口を人族機達の方へと向けていた。


「すいません、マスター。外してしまいました」

「大丈夫。気にしなくていいよ。むしろ、避けた人族達を褒めようじゃないか。やはり代表に選ばれるだけの事はある。簡単にはいかないね」

「それはそうだけど、有利な位置をこちらが確保した以上、結果はもう決まったようなものでしょ~。ねっ? ユリイニ様」

「自分も同意見です。まぁ、ロットと一緒というのは気に食わないが……」

「まぁまぁ、お二人共」


 ロット機とヌルーヴ機が睨み合う中、油断なく銃口を向けるファル機、二人の仲裁に入るウルカ機、その様子を楽しそうに眺めるユリイニ機、紫色のその5機は見るからに余裕が見えた。


「……あれが……魔族代表者達」


 魔族機達をモニターに映したラデが喉をごくりとならしながら呟き、その身に緊張を走らせ、握りを確かめるように操縦桿を握り直す。


「そう固くなるなって。確かに格上でスペック差はあるが、だからといってそれで負けるとは限らないんだし」


 ラデの緊張を解すようにユウトが声をかける。

 だが、ユウト自身もその身に緊張が走っており、その事に気付くと、解すように軽く身じろぎをした。

 確かにユウトの言う通り、人族側と魔族側のHRWWにはスペック差が生じている。それは同じ距離を走破しているのに、先に岩山の頂上を魔族側に占拠されている事でわかる通りだ。

 確かにHRWWの内殻フレーム部分に差異は無い。

 では何故スペックに差が生じているかというと、それは例え同じような姿であっても外殻フレームの性能に差があるからだ。

 しかし、それも当然である。

 魔族側は常に異種間戦争の勝利者であり、それによって得られる物資の質も自然と最上の物が用意されるからであり、それは常に最下位である人族に与えられる物とは雲泥の差と言ってもいいからだ。

 つまり、姿形は同じでも中身が違う上位互換のような状況である。

 その事を思い浮かべたユウトは自然とやる気に満ち溢れ、操縦桿の握りを確かめながら不敵な笑みを浮かべた。


(HRWWの性能だけが勝者を決める――そんな事は無いって事を教えてやる……。それになんか楽しくなってきたな)


ユウトは画面内に映る魔族機達へ視線を固定したまま、仲間達に通信を飛ばす。


「さぁて、反撃開始だ! まずは俺が先行する。フォー、ラデ、グラン、キーノは援護射撃を頼む。当たらなくてもいい。バンバン撃ってくれ」


 それだけ言うと、ユウトは即座に自機を動かし隠れていた岩陰から飛び出す。

 その動きをわかっていたかのようにファル機の持つライフルの銃口がユウト機を捉えると、ファルはその身に流れる魔力を、パイロットスーツを通して機体に流した。

 するとライフルの銃口に幾何学模様の魔法陣が1つ展開され、その魔法陣を貫くようにして銃弾が通過すると、その表面に炎を纏い発射される。

 爆発したような銃撃音と共に射出された炎弾は、無防備な姿を晒すユウト機に着弾すると思われたが、機械とは思えない流動的な動きによってかわされ、人族機達の遥か後方で地面に衝突し爆発した。


「すみません、マスター。またよけられました」

「いや、ファルは悪くないよ。むしろ今のは、よけた向こうを称賛すべきだ。動きを見るにあれが人族のエース機かな?」


 そしてユリイニ機の合図と共に魔族機達はそれぞれ銃を構え、次々に銃弾を放つ。

 だが、その全ての銃弾をユウト機は流動的な動きでかわし続けながら、魔族機達が陣取っている頂上に向け少しずつ進んでいく。

 そんなユウト機の信じられないような動きに触発された残りの人族機は、援護のために各々も銃を取り出し、当たらないまでも銃弾を放つ。

 お互いが牽制の意味合いが強い銃撃戦を繰り広げ、その中を突き進むユウト機が両腕を大きく広げる。


「やっぱゲームと実際に戦場で扱うのは違うなぁ~。だけど、そろそろ試運転は終わり。少しばかり本気でいくぜ~」


 ユウトのその言葉を示すように、ユウト機の両の手の平にある穴から、先端が宝石のような煌めきを持つひし形の鉱物が抜け落ち、その鉱物と手の平はワイヤーで繋がっている、俗にいう“ペンデュラム”を取り出した。

 銃弾をかわすだけであったユウト機が明確な武器を取り出した事に、魔族機達は警戒を示す。

 魔族機達の警戒を感じつつ、ユウト機はペンデュラムをヒュンヒュンと回し、銃弾をかわしながら岩山を登っていく。

 そして、ある程度まで距離を詰めると、ユウトは自機に魔力を流した。


「いけっ! “ヴァジュラ”!」


 ユウトの言葉と魔力に反応するようにペンデュラム――ヴァジュラの先端に魔法陣が1つ現れ、そのまま魔族機達が居る頂上に向けて投擲すると、ヴァジュラはまるで生きているかのようにカクカクと何度も折れ曲がったり、円を描くように曲線的に動きながら銃弾をかわしながら突き進む。

 自分達へと迫り来るヴァジュラを受け止めようと、背に提げていた黒い大剣を構えてヌルーヴ機が前面に出る。


「そのような矮小な武器で――」

「よけろっ! ヌルーヴ!」


 ユリイニが叫ぶと共に、ヌルーヴ機を無理矢理引っ張って後方へと下げる。

 そのヌルーヴ機の目の前をヴァジュラが通り過ぎたのだが、先端が即座に方向転換し、今度はユリイニ機に向けて突き進む。

 ユリイニ機はヌルーヴ機を引っ張った事で態勢がまだ整わず、そのままヴァジュラの先端が突き刺さるかと思われたが、その前にロット機が立ち塞がり、わざと刺させた片腕を犠牲にし、ワイヤーを掴んでヴァジュラの動きを止めた。


「こちら側の装甲をやすやすと貫いただとっ!」

「まだ終わりじゃないんだなぁ~」


 驚愕するヌルーヴに対して追い打ちをかけるように、ユウトが更なる行動に移る。

 ロット機が掴んでいるワイヤーが意思を持ったように動き、ロット機の腕にくるくると巻き付くと、そのままロット機をユウト機に向かって一気に引っ張った。

 ロット機が宙を舞いながらユウト機に向かって飛ぶ。

 それを待ち構えるユウト機はもう一方のヴァジュラを放つが、その動きは2機の間に飛んで現れたヌルーヴ機の持つ大剣にユウト機の片腕が粉砕される事で阻止された。


「そう簡単にやらせはせんぞっ!」

「ちぃっ!」

「“カラドボルグ”!」


 ヌルーヴが叫んだ言葉と同時に魔力を流す。

 それによってヌルーヴ機の持つ大剣の柄部分に魔法陣が展開され、そのまま下から上へと剣先まで移動すると、魔法陣が通った剣身部分は黒から赤へと変化した。

 全体に届く通信回線にユウトの叫び声が轟く。


「ちょっ! 性能差に、それはいくらなんでも卑怯じゃねっ!」

「これは戦争である! 殺るか、殺られるかだっ!」


 ユウトの叫びに対して律義に答えるヌルーヴ機が赤くなった大剣――カラドボルグでユウト機へと斬りかかる。

 とても巨大な大剣を振るっているとは思えない剣速で振るってくるが、ユウトは持ち前の操縦技術を駆使してヌルーヴ機の剣撃をかわし続けていき、その間にロット機に巻き付いているヴァジュラを回収すると、牽制するようにヌルーヴ機に向かって放っていく。

 ヌルーヴ機も負けじとカラドボルグで弾き返しながら、互いに一進一退の攻防を繰り広げる中、その均衡を崩す要素が現れた。


「ヌルーヴの旦那と互角なんてやるなぁ、お前っ!」


 ヴァジュラのワイヤーから解き放たれたロット機が参戦し、その両手の爪部分が、ナイフのような銀色の刃物へと変わる。


「“ブリューナク”!」


 ロットの叫びと同時に魔力が機体へと流れ、空中に2つの魔法陣が展開。その魔法陣へ両手を通すと、爪の刃物部分に紫色の炎が宿る。

 そのままロット機は地面に両手を付き、獣のような前傾姿勢を取った。


「じゃあ、いくぜ~!」

「ちょっ! すいません! 今手一杯なんで、またの機会にしてくれませんか!」

「あっはっはっ! それは無理~」

「ですよね~」

「さっさと手伝わんか! こやつ思いの外やるぞ!」


 ユウトとロットの会話にヌルーヴが一喝する。

 ロットが操縦桿を握りながら肩をすくめ、舌なめずりをすると自機をユウト機へと獣が襲いかかるように飛びかかった。


「こなくそっ!」


 ロット機の両爪であるブリューナクを、ユウト機は足を使ってヴァジュラのワイヤーをピンと張って防いだり、行動の先を読み、とても性能差があるとは思えない動きでかわし続けていく。当然、その間を縫うようにカラドボルグで斬りかかってくるヌルーヴ機の剣撃もかわしていく。

高いパイロット能力を誇るさすがのユウトでも2機の攻撃をかわし続ける事で手一杯になり、反撃を行う事が出来ずにいた。

 その事実にユウトは内心焦りを覚えていく。

 このままでは、集中を切らした時点で自分が殺られるだろう。

 それほどまでに、ロットとヌルーヴのパイロットとしての力量は高く、ユウトの想定外である。

 ユウトは2機の攻撃をかわしつつも仲間達の方を確認すると、そちらはそちらで身動きが取れないようで、頂上に居る残りの魔族機達と銃撃戦を繰り広げていた。

 その様子ではユウトの救援に駆けつける事は出来ないだろう。

 自然とユウトは冷や汗を流すが、仲間達の数が1機足りない事に気付いた。

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