休日2 1
今回、代表者達に与えられた休日は2日間。
前回より1日早まっているが、このあたりは女王達の匙加減……気分次第で決められるので、文句を言っても仕方ない。
要は、与えられた猶予の中で、どれだけの事が出来るかである。
もっとも……一番大変なのは、整備員達であろうが……。
◇
確かに、休日と銘打ったこの猶予の時間は、整備員達がもっとも大変な時間を過ごす。
それに間違いないはない。
しかし、それはHRWWの破損が多い場合に限る事。
第2戦でほぼ完勝に近い形で終わった人族の整備員達には、時間的余裕があった。
フォー機、ラデ機、グラン機の3機は戦闘行為自体が無かったため、最終調整を済ませれば終わりである。
だが、ユウト機にいたっては、関節部分を全改修しなければならない。
それが人族機に搭載されたスキルを使用した際の代償である。
強力な力を発揮する分、その負荷が大きいのだ。
といっても、これは内殻フレームに関わる事なので、中身を変えて外殻フレームを付けてユウト機用に最終調整を施せば終わりである。
なので、人族の整備員達は今回の休日をのんびりと過ごすために交代制を設けて、休む者達は街中へと繰り出しているのであった。
そんな中、ユウトとグランは、前回同様HRWWの操縦技術を学べるゲーム「RW」で対戦をしているのである。
「……随分真面目にやるんだな」
ゲームをしながらグランへと声をかけるユウト。
その表情には余裕が見える。
「……くっ! ……あぁ。どうしても倒したい奴が居るからな」
ユウトの言葉に答えるグラン。
その表情には余裕が一切無い。
ゲーム画面では、グラン機はユウト機の怒涛の攻めに防戦一方であった。
偶に反撃を繰り出すが、ユウト機はその反撃を読んでいたかのように回避し、グラン機はその都度不利な状況へと追い込まれていく。
しかし、その割には2人がこのゲームをやり始めてから、グラン機は1度も撃墜されていない。
グラン機が撃墜されるような状況に至っても、ユウト機は止めを刺さず、仕切り直しとでもいうように、一旦距離を取るのである。
今の状況は手を抜かれているとも取れるが、実際は自分の操縦技術を上げるようにユウトがHRWWを動かしている事を、画面越しにグランは理解していた。
だからこそ、グランは悔しさを感じるよりもその心遣いに内心で感謝をして、自らの腕を磨く事を優先する。
ユウトもまた、グランの操縦技術向上のために動いていた。
それが巡り巡って人族の勝利に繋がると信じて……。
「倒したい奴? 今回の代表者の中に居るのか?」
居るだろうな……と、半ば確信しながらユウトが更に問う。
画面越しに伝わってくるグランの雰囲気を、ユウトが感じ取った結果である。
本気……というよりは、鬼気迫ると表現した方が正しい雰囲気。
明確な標的を捉えたように感じるからこそ、今回の代表者に居るのではないかと考えたのだ。
その考えを補助する形で思い出すのは、グランと同じ性を持つパラダイスの代表者であるレオンであった。
「……察しているだろ?」
「……レオン・ドレスフィールか?」
「あぁ……。そうさっ!」
画面内では、ユウト機の攻撃を防戦一方で対応するグランが肯定する。
ただ、グランの肯定に対して、ユウトは何も答えない。
「……詳しい事を尋ねないのか?」
「聞いてどうする? 意味がないだろ? 俺が何かを言った程度でどうにかなるのか?」
「………………ならないな。既に舞台は整い、決めた事だから」
「だろ? だから何も言わない。俺が出来るのは、仲間としてこうして手伝うくらいだけだ。結果がどうなろうがHRWWで戦う以上、操縦技術があれば取れる選択肢も増えるだろうし」
「……助かる」
そうして、互いの顔が見えていないにも関わらず、互いに笑みを浮かべるユウトとグラン。
彼等が「RW」で対戦している頃、ラデは自室でのんびりと過ごしている。
一応、身形はきちんと整えており、テラスに置かれているテーブルで、傍らに控えている老執事・グラドが入れた紅茶を嗜んでいた。
「ん~……。グラドさんが入れた紅茶は、いつも美味しいね」
「ありがとうございます。ラデ様」
ラデの言葉を受け、グラドが綺麗に一礼する。
「……そういえば、今回彼は居ないんだね。扉の前に待機しているとかは無いよね?」
「彼とは?」
「……前回の休日で、自分にしつこくつきまとったフォーだよ」
「フォー様ですか? そうですね、今はこの付近に居られません」
「そっ……」
ラデは簡素に納得の言葉を発して紅茶を飲む。
カップから口を離して紅茶の香りを楽しんでいると、ふと思い出した事が声に出る。
「……そういえば、フォーの名字って『アーキスト』だったよね。アースにそんな地名があったような……。彼はそこの出身って事かな? ……あれ? 確かその地に重要な何かがあると記載された書類を見た事があったような……」
「……気のせいでございましょう。重要な事であれば、ラデ様のお母様が教えているはずでございます」
「それもそうか……。まぁいいか。思い出せそうにもないし」
これで話は終わりと、ラデは再び紅茶の香りを楽しみだす。
ラデの後方でグラドが待機しているからこそ、その事には気付かなかった。
グラドがほっとしたような……安堵したかのような表情を浮かべている事に……。
一方、その当の本人であるフォーはというと、人族の整備チーフであるエリスラ・ロンドバードと会っていた。
エリスラの私室で対面するように座っており、両腕を差し出すように前へと出している。
その差し出された両腕を、エリスラが触診していく。
その行為は足や頭部等、全身に及び、フォーの状態を確認していった。
「……ふむ。問題は無いようだな。まぁ、第2戦は酷使するような状況にはならなかったし、当然ではあるか……。あまり補充もきかないし、その点に関してはユウト・カザミネに感謝かな」
「……」
エリスラの呟きに、フォーは答えない。
沈黙を貫くままである。
その事に、エリスラは少々不満気な表情を浮かべた。
「私1人だけが喋っていてどうする。お前も何か話せ」
「……何を?」
「何を……って。何でもだよ。こういう時は相手の楽しみそうな事を話すもんだ。お前はもう少しトーク力を上げた方が良いな」
「……必要があるとは思えない」
「はぁ……。駄目だこりゃ」
触診を止め、エリスラが溜息を吐く。
どこか残念な者でも見るかのようにフォーを見るが、それは直ぐに引っ込め、鋭い視線を向ける。
「先程も言ったように、あまり補充はきかない。緊急時以外、無茶をしないようにな」
「……理解している」
その言葉だけを告げ、フォーはエリスラの私室を出て行くのであった。
◇
魔族の整備員達は、余裕をもってHRWWを整備している。
ウルカ機とファル機は被弾箇所の修理、もしくは交換をし、ユリイニ機は弾丸回避の動きによって損耗が激しい箇所の確認をしてからの調整作業をしなければならない。
整備員達が今回の休日でしなければならないのは、それだけである。
この程度の事なら、軽微といってもいいだろう。
だからこそ、整備員達は余裕を感じていた。
ただ、このような空気のままで作業を行うべきではないと、魔族の整備チーフであるナナリ・テテカノは整備員達を一旦集めて一喝する。
「……全員揃ってる?」
『イエス、マム!』
ナナリの声掛けに、整備員達は直立不動で答える。
「……魔族機の損傷個所は軽微。それで余裕の雰囲気っぽい空気が流れてるようだけど。それじゃ駄目。分かる?」
『イエス、マム!』
「……どんなミスも見逃しちゃ駄目。この2日間で、完璧に仕上げるように。もし、何かミスをしたら連帯責任で全員に『めっ』て、するから」
『イエス、マム!』
最後の返事は、一際大きな声であった。
何かしら期待するような……熱狂するような声色が含まれていたのである。
ただ、ナナリ自身はそれを気にした様子はないし、気にしてもいない。
本人は知らない事であるのだが、魔族の整備員達にとって、ナナリは一種の偶像のように思われていた。
まだまだ幼いといってもいい年齢に、HRWWに対するだけではなく、その他でも際立つ優秀性と、それらを兼ね備えた上での可愛らしい容姿。
ナナリは、魔族の整備員達の人気を集めていた。
魔族の整備員達が言うには、「ロ○コンじゃない! ナナリちゃんは女神だ!」である。
まぁ、本人を前にして「ちゃん」付けしようものなら、レンチが飛んでくるだろうが……。
彼等の行動も、自然とそうなったという感じで今に至る。
そんな風に思われているなどと知らないナナリは、HRWWの下へと駆けていく整備員達を眺めた後、自身も移動を開始した。
向かった先には、ユリイニ機が使用していた剣が置かれている。
「……さて、私もコレを使用出来るようにしておかないと」
むん! っと、両手を握りしめて、やる気をみせるナナリ。
そうして、ナナリと魔族整備員達は、各々自分に割り振られている作業へと向かう。
一方、魔族代表者達はというと、リビングで寛いでいた。
ファルの言動をどうにかしようと、ヌルーヴが四苦八苦している中、他の3人はソファーに座ってその様子を微笑ましそうに眺めている。
「ふふふ……。さすがのヌルーヴもファルには苦戦しているようだね」
柔和な笑みを浮かべるユリイニに、ロットが声をかける。
「いいんじゃないですか? 偶には。短気なヌルーヴの旦那には良い薬でしょう。あのまま続けて怒りっぽさを無くしてくれるといいんですけどねぇ」
「……怒りっぽいのはロットにだけだと思うけど」
ロットの言葉に、ウルカが苦笑いを浮かべながら突っ込む。
突っ込みを受けたロットはウルカへと視線を向けて、そんな事は無いと答える。
「いやいや、それがそうでもないって。ウルカは知らないから教えるけど、ヌルーヴの旦那の怒りっぽさは俺達の中じゃ有名だから。いや確かに、俺に対して怒ってくるのは断トツだけど、他にも怒られている奴は大勢居るんだな、これが」
「そうなのか? ユリイニ」
「そうですね……。確かにそういう場面はよく目につきますが、だからといって、それが悪いとは私は思っていません。ヌルーヴの美徳の1つであると認識していますよ」
「……これだもんなぁ」
ユリイニの言葉に対して、ロットが溜息を吐く。
「まったく……。ユリイニ様はヌルーヴの旦那に甘いですよ。もっとガツンと言ってやって下さいよ! 主に俺のために」
「個人の感情に走るのはよくないよ、ロット。ヌルーヴもロットのためを思って怒っているのだろうし。彼の本質は“優しさ”なんだから」
「優しさ? いやいや、そんなモノ一切無いですって! 俺に対しては、親の仇のように怒ってくるんですから! やれ、アレは駄目だ。コレは駄目だ。ソレはこうしろってさ。それに、優しさっていうんなら、それはユリイニ様にこそ相応しいと思いますけど?」
ロットの言葉に、ユリイニは困ったような笑みを浮かべる。
自分ではそんな事は無いだろうと思っているのだが、否定しても認めてはくれないだろうなと思う。
だからこそ、否定ではなく、意趣返しをする事にした。
「それをいうなら、ロットも優しいと私は思うけど?」
「え? 俺がですか? とてもではないですが、俺にそんな要素は一切無いと思いますけど?」
「いいえ、私はそういう要素があると思っていますよ。飄々としている態度もわざとで、場の空気を悪くしないように動いているように思えるですが、違っていますか?」
「なるほど。そういう風にも捉える事は出来るな」
「えぇ~……」
ユリイニの意趣返しに、ウルカの同意。
その2つを受けてロットは固まり、数秒間の硬直の後、再起動した。
「いやいやいやいやいやいやいや! 俺はそんな人間じゃないですって! 物事を斜に構えて見ている、只のひねくれ者ですって!」
そう言って、自分の事を表するロットであったが、ユリイニとウルカの2人は、その様子をにやにやと見ているだけである。
「あ~もう! やだ! この空気! 見ないで! そんな優しい目で俺を見ないで! あっ、こそばゆい! なんかこそばゆい! もう、やだ!」
そう言いながら、ロットはもう見たくないと目を瞑り、何も聞きたくないと耳を塞ぐ。
その様子もまた、ユリイニとウルカが楽しそうに見ているのであった。
こうして、魔族代表者達は、柔和な空気を醸し出したまま、ゆったりと休日を過ごしていく……。
◇
ドワーフの整備員達の整備力は、元々の性質も相まってか、全大陸で一番優秀であると言っていいだろう。
個々の能力もさることながら全体的なバランスも取れており、高水準である。
その持てる能力を駆使して、ドワーフの整備員達は瞬く間にバーン機、ドルチェ機、ジジル機、ザッハ機を新品同様にまで修理した。
まぁ、修理といっても、機体へと過剰に流した魔力によって消耗した部品を修理・交換するのと、黒雷を纏うハンマー・ミョルニールと2刀の高周波ブレード・グラムの調整ぐらいである。
ドワーフの整備員達の能力値からすれば、大した手間でもないのであった。
そして、彼等の前には、パイロットの居なくなったHRWWが1機。
「……ぐすっ。……ぐすっ」
大破したゴッツ機を前にして、ドワーフの整備チーフであるラカ・ユーシーが涙を流す。
「……大丈夫か? ラカちゃん」
整備員の1人が、ラカを気遣うように声をかける。
だが、実際には、涙を流しているのはラカだけではない。
大勢居る整備員達の中にも、ラカと同じように涙を流している者も居り、それを慰める者、涙を流さないまでも悲痛な面持ちを浮かべている者も居る。
悲しみに暮れる空気が、この場を覆っていた。
流れる空気を察してか、ラカはぐいっと涙を拭い、整備員達の方へと向く。
「大丈夫です!」
この場に居る全員へと、まるで宣言するように大きな声を上げるラカ。
泣き痕がついている目元はそのままだが、気丈に振舞うその姿に、なんとも頼もしさを感じる整備員達。
その姿に感化して、泣いていた整備員達も目元を拭って頼もしい顔つきへと戻る。
そして、整備員達は、ラカの次の言葉を待つ。
「悲しみに暮れたい気持ちは分かります! まだ、ウチにも残っていますから! ですが、ウチ達にはまだやるべき事が残っています! 悲しみに暮れるのはその後でいい! 今は、ウチ達なりの供養をしましょう!」
『おうともさっ!』
「さぁ! やりますよ! まずはゴッツ機を分解! 流用出来るパーツを確保します! そして、残った部品は破棄せずに、ウチ達になりにゴッツさんを思って何か造りましょう! これでいきますよ!」
『アイアイサー!』
「それじゃ、作業開始です!」
そうして、ドワーフの整備員達は言われた作業を開始するために動きだす。
ラカの、チーフ姿に未来を夢見ながら。
そして、ドワーフの代表者達はというと、リビングで一心不乱に物作りをしていた。
細かい部分――ディテールにまでこだわっているのか、それぞれの表情は鬼気迫るモノを感じる。
血走った目でガリガリと削り、やすりをかけ、おかしな部分は無いか確認し、数ミリ単位で修正を加えていく。
職人の目を通り抜け、出来上がるのは同時だった。
『出来たっ!』
同時に同じかけ声を上げ、それぞれが出来上がった物を見せ合う。
それは、それぞれが「喜」「怒」「哀」「楽」の表情を浮かべるゴッツの胸像であった。
ちなみに、バーンが「怒」、ドルチェが「哀」、ジジルが「喜」、ザッハが「楽」である。
「どうだ! 我が作った怒りの表情こそ、ゴッツを表している1番であろう!」
「いやいや、それは早計だよ、バーン。俺の作った哀しみの表情を見て見ろよ! この世の無慈悲を体現しているようだろ?」
「はっ! そんなモン、ゴッツらしさが1個も無いわい! 見よ、ワシが作った喜びの表情を! これこそ完璧というモンじゃ!」
「義父さん……。申し訳ないですけど、完璧なのは私の作品です。見て下さい、この喜び溢れるゴッツ君の表情を。今までの最高傑作と言ってもいいでしょう」
『あぁんっ!』
それぞれが自分の作品を1番だと言い、一瞬即発の空気が流れる。
「いいや、我の作品こそ1番だ! 他のはまだまだディテールが甘い!」
「おいおい、ここを見ろよ。この今にも涙を流しそうな目元を! 哀愁漂ってるだろ?」
「まだまだじゃよ、お主らの作品は。ワシのとは年季が違う。修練が足らんのぅ」
「皆さんは、もう少し見る目を養うべきじゃないですか?」
代表者達は、互いに一歩も引かない状況へと向かう。
自分が作った作品の利点を次々と挙げていき、如何に他の作品よりも優れているかを言い合っていく。
ただ、彼等は至って真剣に取り組んでいるのだ。
亡くなったゴッツのためを思い、自分達に出来る事を考えた末の行動である。
ゴッツは自分達の仲間であると、その事を何かしらの形で残したいと思い、ドワーフらしく物作りをする事になったのだ。
ただし、その結果が今である。
全員が全員、職人としての自分の腕に自信があるからこそ、引く事をしない。
しかし、このままでは決着がつかないので――。
「よぉし! なら、互いの題材を変えて、もう1つ作ろうではないか! 我は「哀」を作ろう!」
「分かった! なら俺は「楽」を製作して、今度こそ俺の腕前を刻んでやろう!」
「上等じゃわい! ワシは「喜」じゃ! 造形の真髄を見せてやるわい!」
「いいでしょう。私は「怒」にします。自由な発想というのを教えてあげますよ」
こうしてドワーフの代表者達は、再び物作りへと没頭していく。
結論から言えば、彼等は与えられた休日全てを使って物作りをする事になり、それぞれが「喜」「怒」「哀」「楽」全ての表情を浮かべるゴッツの胸像を作りだした。
もちろん、決着がつく事はないのである……。




