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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
32/76

第2戦 ドワーフ対富裕者 2

「キサマラァ~! 殺してやるわぁ~!」


 ジジルが怒りのままに咆哮を上げ、自機を突っ込ませる。

 その咆哮と共に自らの魔力をHRWWへと更に注ぎ、それに反応するように双剣グラムが唸りを上げた。

 本来であれば、ここは一旦態勢を立て直すべきであろう。

 頭に血が昇った状態で挑んでも結果は目に見えていると言っていい。

 一度退き、心を落ち着かせるべきだというのも分かる。

 心は燃えても、頭はクールに。

 それが理想の状態であるべきと言うのも、頭の片隅では理解出来ている。

 しかし、そんなモノ知った事かと、ジジルは本能の赴くままに突き進む。

 それは、他のドワーフ代表者達も同様であった。

 ジジル機の動きに追随するように動いている。

 仲間がやられたのだ。

 孫のように思っていた者が殺されたのだ。

 弟のように感じていた者が死んでしまったのだ。

 それなのに、このまま退いて態勢を立て直す等、出来るはずがない。

 ゴッツに対して思っていた、感じていたモノはそれぞれだが、思いは1つ。


 このまま、目の前の奴等を無事に帰すものか。


 ただ、それだけの思いでドワーフ代表者達は行動を開始した。


     ◇


 そして、それを迎え撃つ富裕代表者達は、余裕の表情である。


「ふんっ。愚かな。やはりドワーフは愚鈍と言う事か」


 ゴッツの命を奪った盾をドワーフ機から外し、エダルは不敵な笑みを浮かべた。


「そうだな。状況判断が全く見えていないようだ。自ら死にに来るとはな」


 ゴッツ機に刺さっていた盾を引き抜き、キステトはつまらなそうに目を細める。


「やっちゃお! やっちゃお! ドワーフ狩りだぁ~!」


 ミミクは楽しそうにはしゃぎ、ゴッツ機に突き刺さっていた盾を抜いて、その盾をガンガンと叩く。


「ふぅ……。同族を失った気持ちは理解出来るが、その行動としては余りにお粗末だ」


 レオンはゴッツ機の動きを阻害するように当てていた盾を引き寄せ、物悲しげに眼を伏せる。


「……」


 ウイゼルは何も言わずにゴッツ機へと刺さっていた盾を、身構えるように自機の前へと持ってくる。

 ただ、ゴッツ機を見るその目は、少し怯えているようにも見えた。

 死したその姿に、自分を重ねているのかもしれない。

 次は自分がこうなるかもしれないと考えてしまう。

 そして、自分が死んでも富裕代表者達の誰も悲しんでくれないだろうな、と自嘲するように笑みを浮かべ、迫り来るドワーフ機の方へとそっと視線を向ける。

 相手もコクピット内に居る以上、その表情は窺い知れないが、雰囲気で仲間が殺された怒りに満ち溢れているのが分かった。

 怒りを向けられている事に対しての怯えは一切感じていない。

 だが、その姿を見て、既に死んでいる名も知らぬドワーフ代表者に対して、少し羨ましいと感じてしまう。

 自分の周りには、こんな風に思ってくれる者は居ない……と。

 しかし、そう考えた事を直ぐに振り払う。

 そんな者が自分に出来るとは思わないし、必要も無いと自分を納得させた。

 誰も自分を大切と思わないのなら、せめて自分だけは自分を大切にしようと。

 どんな事をしても、生き延びてみせる……。

 ウイゼルは、自分の中でそう決意した。


 ウイゼルが迫るドワーフ機の方へと機体を向けるのとほぼ同時に、富裕機各機も迎え撃つ態勢が整う。

 全機盾を身構え、先程と同じく、ドワーフ機の攻撃を防ぎきるつもりであった。

 相手が怒っていようが、そこに焦り等、気が逸るような心の動きは一切無い。

 余裕を以って全ての攻撃を受け止め、隙を付いて1機ずつじわじわと沈めていく。

 過去の戦いのままに、いつも通りに、絶対の防御力を前面に出しての行動。

 それだけで、これまで度重なる勝利を上げてきたのだ。

 積み重ねがあるからこそ、それに疑問は一切抱いていない。

 だが、戦況というのは常に変動する。

 こちらが万全であったとしても、相手が居る以上、その相手の状態も加味しなくてはならないのだ。

 ほんの些細な事で、一変してもおかしくはない。

 今回、富裕代表者達が考えなければならなかったのは、機体性能……では無く、ドワーフ代表者達の怒り具合である。

 同族を殺された種族の怒りを感じるべきであった。

 そうは言っても、富裕代表者達にそれを感じろというのは無理な話であろう。

 そういう部分が希薄だからこそ、彼等はこの世界で富裕者足り得るのだから。


     ◇


 ガツンとドワーフ機のハンマーが富裕機の盾を叩く。

 ドルチェは、そのまま魔力をHRWWに流して威力を高めた。


「ハアアアァァァッ! ぶッ潰れろっ!」


 ドルチェ機はそのままハンマーを振り抜いて、相手のキステト機を盾ごと吹き飛ばす。

 キステトは、予想以上の攻撃の圧力に小さく舌打ちをして機体を立て直した。


「魔力を過剰に流して威力を高めたか。だが、それでも私達の盾をどうにか出来るとは思えないな。現に痕は付いても貫く事叶わず。無駄な労力だ」

「あはは! その通りだね。キステトさん」


 ミミクもまた、自機がザッハ機のハンマーで吹き飛ばされながらも同様の感想を述べた。

 その表情は楽しそうに笑みを浮かべていたが、どこか相手に対しての嘲りがある。

 ミミク機の横では、レオン機がジジル機の双剣グラムを見事に防いでいた。

 鈍重な富裕機では考えられないような軽やかな動きで盾を巧みに使い、グラムをいなしていく。

 他のドワーフ機の攻撃同様、レオン機の盾にはグラムで傷付けられた痕がいくつもついているが、未だそれだけである。

 盾そのものを斬り裂く事は出来ていなかった。


「くぅ! 堅い! だが、それでも! ワシ等は退く訳にはいかん! ゴッツのためにも、キサマラはここで潰す!」

 ジジルが更に機体へ魔力を流す。

 目に見えて威力を上げるグラムを見て、レオンは誰に知られる事も無く溜息を吐いた。


「……無茶な事をする。使用武器へと更に魔力を流せば、威力は確かに上がるだろうが、自分達の盾を貫けない以上、それは無意味な行動だ。それに魔力を使いきればHRWWは動かなくなるし、その時間を早める結果にしかならず、武器も痛むだけ。非効率的だな。同種族を亡くして怒りに飲まれるのは仕方ないが、それでは自分達に勝つ事は出来ない」


 レオンの言う通り、HRWWを通して武器へと魔力を流す事も出来る。

 だが、それはある意味諸刃の剣と言えた。

 確かに武器の威力は上がるのだが、その分、加速度的に魔力を使用する事になり、使用武器の劣化消耗も激しいのだ。

 代表者達が使用しているHRWWを動かすために、常時魔力を使用しているのにも関わらず、更なる魔力使用をするのだから、そうなるのは当然であろう。

 そして、搭乗者が魔力を使いきればHRWWも止まり、後は的になるしかない。

 ドワーフ代表者達の取った行動は、時間が経てばそういう事態になりかねないのだ。

 それでも、ドワーフ代表者達が止まる事は無い。

 今この瞬間が、決め時だと全員が動いている。


「我等、ドワーフの怒りを知るが良い!」

「くっ!」

「はははっ! 造る事と攻める事しか能の無いドワーフ如きが、俺達富裕者をどうにか出来ると本気で思っているのか!」


 バーン機は、ウイゼル機とエダル機の相手をしていた。

 黒い雷を纏う巨大なハンマー・ミョルニールを巧みに使い、2対1という不利な状況であっても遅れを取っていない。

 だがそれでも、決定的な場面を作る事は出来ずにいた。

 バーンとしては、ゴッツの命を直接奪った盾を使っている機体、エダル機をパイロット毎潰してしまいたいと考えている。

 しかし、そのエダル機は、ウイゼル機自体を盾のように使い、バーン機のミョルニールに対しての障害物となるように動いていた。

 ウイゼルとしては堪ったモノではないだろう。

 けれど、彼に逃げる事は許されていない。

 死にたくないと体に汗を掻きながら必死なウイゼルは、ミョルニールを時にかわし、時に盾でいなしていく。

 その隙間を縫って、エダル機が武器のようにも使う盾をバーン機に向かって突き刺すが、バーン機は身を捻るように跳躍してかわす。


「ちっ! しつこいぞ、ドワーフ如きが!」

「はぁ……はぁ……はぁ……」


 エダルが悪態を吐き、バーンは大きく呼吸を乱している。

 バーンが大きく呼吸を乱しているのは、言うまでもなく魔力の使用量増加によるモノであった。

 バーンは額に大粒の汗を掻き、それを拭う。

 限界が近い事は理解している。

 HRWWに、普通の武器ではない原初の女王の遺産を使い、富裕機2機を相手にしているのだ。

 その魔力使用量も他のドワーフ機と比べて多いと言っていいだろう。

 だが、バーンは今の状態をやめるつもりは無く、そもそも止まるつもりは一切無かった。

 エダル機、ウイゼル機を翻弄するようにバーン機が縦横無尽に動く。

 その姿からは、確かにエダル機を狙ってはいるのだが、どこか何かを待っているようにも見えた。


     ◇


 至る所でドワーフ機と富裕機の戦いが繰り広げられている。

 ただ、ここで互いの動きに方向性を付けるのであれば、富裕機各機は個別で対処しているのだが、ドワーフ機各機は全体的な動きを追っているというか、互いに互いの動きを考慮して動いているように見えた。

 それもそうだろう。

 ドワーフ代表者達は、ある瞬間を狙っていたのだ。


 そして、その瞬間がやってくる。


 ドワーフ機の密かな誘導によって、キステト機とミミク機の2機がガギィンと音を立てて接触した。


「っ! ミミクか!」

「キステトさん!」


 そこで初めて互いがぶつかった事を知る2人。

 戦っていたドワーフ機への注意を外す、逸れる思考の一瞬。

 その一瞬で、キステト機とミミク機の相手をしていたドルチェ機とザッハ機が動く。

 向かう先は目の前のHRWWではなく、エダル機、ウイゼル機とバーン機が戦っている場所。

 富裕機2機をその場に置き去りにするように即座に駆ける。

 逸れた思考は一瞬、突然変化した事態の把握にもう一瞬要し、キステトとミミクが自機を動かす頃には、ドルチェ機とザッハ機へ追い付く事は出来ない程の距離が開いていた。


「キステトさん! “スキル”を使います!」

「分かっている! ……間に合ってくれ!」


 キステト機とミミク機が搭載されているスキルを発動する。

 それに反応して、富裕機の内部からヒュイーンと駆動音が響く。


 富裕機に搭載されているスキル「重力操作グラビティコントロール」。

 効果はそのまま重力――重さを変えるスキルである。

 だが、大層な呼び名とは裏腹に出来る事は酷く小さい。

 使用効果範囲は自機の自重の変化だけであった。

 けれど、全種族のHRWWの中で、最堅の防御力に鈍重と言っていい程の自重である富裕機だからこそ活かせるスキルであると言ってもいいだろう。

 自重の変化はそれだけで武器になり、その動きすら変わってくる。

 第1戦でエダル機が空中から飛んで来るように現れたのも、今現在エダル機、ウイゼル機がバーン機の動きに対応しているのも、レオン機が縦横無尽に動くジジル機に対応出来ているのも、このスキルを使用しているからであった。


 しかし、いくら自重が軽くなり、軽快に動けるようになったからといって、発動完了までにも少しの時間はかかるのだ。

 先行しているドワーフ機2機へと、即座には追い付ける距離では無く、キステトは祈るような気持ちでミミク機と共に後を追う。


 そして、キステト機とミミク機が、ドルチェ機とザッハ機へと追い付く前に1つのケリが付く。

 ドルチェとザッハは、ここが決め時と自機へと魔力を更に流し、ハンマーの威力を上げてから一気にウイゼル機へと迫る。

 その動きに反応して、バーン機は咄嗟に横っ跳びした。

 バーン機の影に隠れるようにして近付いて来ていたドワーフ機2機に、ウイゼルはどう対応すべきか思考するため、機体の動きが一瞬止まる。

 その隙を付いて、ドルチェ機とザッハ機のハンマーがウイゼル機へと襲いかかった。

 ウイゼルは追い立てられるように盾を構えるが、防げたのはザッハ機のハンマーのみ。

 ドルチェ機のハンマーは、そのままウイゼル機の、盾で守られていない腕の方を肩部分ごと破壊してはじき飛ばす。


「なぁっ!」


 ウイゼルが驚きで目を見開き、その視界の中にあるモニターには更なる脅威が迫っていた。

 バーン機のミョルニールがウイゼル機の横合いから襲いかかり、そのまま機体毎吹き飛ばす。

 それは狙っていたのだろうか。

 ウイゼル機が飛んで行った方向には、こちらへと向かって来ているキステト機とミミク機が居り、その2機を巻き込むようにして倒れ込んだ。

 そして、バーン機、ドルチェ機、ザッハ機の3機は、時間はかけられないと攻撃の手を緩めない。

 一番の標的であるエダル機へと殺到する。


「はっ! たかが奴隷の操るHRWWを倒したぐらいで調子に乗って! 俺が教育してやるよ、ドワーフ共!」


 エダルが威勢良く吠え、自機を前へと出す。

 それに合わせるようにドワーフ機各機が展開し、バーン機が先行して攻撃を繰り出す。

 ここが決め時と分かっているからこそ、バーンは残った魔力を絞り出した。


「これで決める! 命には命を以って償え!」


 ミョルニールの黒い雷が勢いを増し、更なる放電現象を起こす。

 だが、エダルも無策ではない。

 スキルを切り、機体の自重を元に戻し、その分の魔力を盾へと流して強化する。

 エダルの頭の中に、退くという選択は無かった。

 いや、もしその選択があったとしても、本人の性格故に選ぶ事は無いだろう。

 兎にも角にも、エダルは完全に迎え撃つつもりである。

 強化された盾を前面に出し、放電するミョルニールを防ぐために動く。


「死ねぇ~!」

「お前達がな!」


 ミョルニールがエダル機へと迫るが、その攻撃が機体へと届く前に両腕で支えられた盾で防がれてしまう。

 けれど、威力を完全には相殺出来なかったのか、強化された盾にミョルニールが少し陥没し、エダル機の足部分が地面に少し沈む。


「はっ!」


 コクピット内で、エダルが嘲笑の笑みを浮かべる。

 だが、ドワーフ機の攻撃はそれで終わっていない。


「まだだ! ドルチェ! ザッハ!」

「「おぅ!」」


 バーンの叫びに反応して、ドルチェ機とザッハ機がバーン機の後方から現れて跳躍する。

 そしてバーン機、ドルチェ機、ザッハ機はタイミングを合わせて、ドワーフ機搭載されているスキルを発動した。


「「「“波紋衝撃”」」」


 ドワーフ機に搭載されているスキル「波紋衝撃」。

 これは、ドワーフ機の手の平部分にある小さな穴から衝撃波を発するスキルである。

 威力としては、補助的な部分が強く、上手く利用すれば銃撃の弾丸を弾く事も出来るだろう。

 だが、その最大の特徴は、その手に持つ武器にもその効果を与える事が出来る事だ。

 他の種族機のスキルは、自機が効果範囲である事が多い。

 けれどドワーフ機のスキルは、使用武器にすら影響を与える。

 それが、他の種族機との違いと言えるし、真似出来ない部分であると言えるだろう。


 そして、ドルチェ機とザッハ機のハンマーが、勢いを付けてミョルニールの後ろを叩き、スキルの効果によって更に突き出す威力を増した。

 ガキーンという音を立てて2つのハンマーがミョルニールを押し、その2つの衝撃を加えたミョルニールが一気に突き進む。

 その威力は、エダル機の盾、両腕部分を粉砕する程であった。

 盾と両腕を失ったエダル機がたたらを踏み、それに合わせて動いたバーン機が、ミョルニールを振り上げる。


「これで終わりだっ!」

「馬鹿なっ! 俺を誰だと思っている! リズベルト家の次期当主だぞ!」


 バーンが叫びを共にミョルニールを振り下ろし、エダル機を圧壊する。

 グシャッという機体が潰れた音と共に、エダルの命も潰れてしまった。

 そこで、バーン機は魔力切れで動かなくなってしまうが、その事によって富裕代表者達の間に動揺が走り、隙を作り出してしまったのだ。

 動きが止まったレオン機は、ジジル機のグラムで四肢部分を斬り離され、キステト機とミミク機は、自分達の所へと戻って来たドルチェ機とザッハ機の相手をするが、そこにジジル機が加わる事で数的不利の状況に追い込まれ、辛うじて自身の命を残す事は出来たが両機は撃沈してしまう。


 こうして、第二戦ドワーフ対富裕者は、ドワーフの勝利で終わった。

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