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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
30/76

第二戦 ドワーフ対富裕者 1

 戦闘開始の合図が鳴り響く。

 その合図と共に、ドワーフ機は富裕機を見つけるために駆け出した。

 ドワーフ機に第1戦での故障痕は見られない。

 万全に直してきたようである。

 いや、正確に言えば、多少装甲を厚くし、腕回りも分厚くなっていて、幾ばくかの改造が施されていた。

 この短期間でここまでやったのである。流石ドワーフと言うべきだろうか。

 その分、ドワーフの整備員達は、今頃死んだように眠っている。

 そして、実際に操縦しているドワーフ代表者達は、向上した機体性能を感じていた。


「ちょっ! 性能が上がってるっスよね、コレ! かなり動きが良いんですけどっ!」


 ゴッツは自らが操縦するHRWWの性能に興奮し、驚きの声を上げる。

 その声は、各機へと通信が飛び、他のドワーフ代表者達は苦笑いを浮かべた。

 苦笑いを消して溜息を吐くと、バーンとドルチェがゴッツへと注意を促す。


「ゴッツ! 嬉しいのか楽しいのかは分からんが、少しは落ち着け!」

「そうそう、驚きで機体の挙動がブレてるぞ!」


 2人に注意され、ゴッツは慌てて機体の挙動を立て直す。


「ふぅ……。危なかったっス」


 自分の額に浮かんだ冷や汗を拭うゴッツへ、先程とは違う2人が声をかけた。


「がっはっはっ! まだまだゴッツは危なっかしいのぅ!」

「機体に振り回されないように気を付けてね、ゴッツ君」


 ジジルとザッハにそう言われ、ゴッツは恥ずかしさ故か顔を赤くしながら答える。


「も、もう大丈夫っス! 問題無いっス!」


 仮にも代表者だからか、その言葉が真実であるかのように、ゴッツの機体は安定して駆け出し、その様子に他の代表者達は安堵する。

 もちろん、バーン達も機体性能が向上した事に当初は戸惑っていたが、それを表に出す事は無く、きちんと調整していた。

 そのあたりは、これまで培ってきた経験値の違いだろう。

 そしてドワーフ代表者達は、周囲を警戒しながら先を進む。

 確かに機体性能は向上しただろう。

 それでも、この戦争に確実なモノは無い。

 ただ突っ込んでいって勝てる程、甘くは無いのだ。

 人数差や技量差、HRWWの性能差や特性の違い、スキルもそれに加わるだろうか、そういった様々な要因が絡み合い、最終的には時の運にも左右されて、勝敗が……生き死が決まると言っていいだろう。

 その事を、過去の戦争を生き残ってきたバーン、ドルチェ、ジジルの3人はよく理解している。

 ザッハもまた、ジジルからそのあたりの事は教え込まれているために、いざ戦闘開始となれば、油断等はしていなかった。

 ゴッツにも、そのあたりの事を教えていかなければとバーン達は考える。

 と言っても、それを考えたのは一瞬だけで、意識は周囲へと向けた。


「いいか! まずはこちらが富裕者達を見つける! 攻撃はそれからだ!」

「わかってるよ、バーン。先手必勝だろ?」

「ふむ。富裕機の搭載スキルは未だ謎に満ちたままじゃし、先手で出来る限りのダメージを負わせておきたい所じゃわい」

「そうですね。防御力は大したモノですが、こちらは攻撃力特化。私達ドワーフの矛が、富裕機の盾を貫けぬ道理はありません」

「やるっス! やってやるっスよ!」


 ドワーフ代表者達は、富裕機を見つけ出すために駆けていく……。


     ◇


 一方、ドワーフ代表者達が先に見つけ出そうとしている富裕機5機は、開始当初の場所から一歩も動いていなかった。

 本当に一歩も……微塵も動いていなかったのだ。

 完全に、向こうから見付けられるのを待つ態勢である。

 そして、コクピット内に居る富裕代表者達は、当初の予定通り、紅茶を飲んだり、茶菓子を頬張ったり、本を読んだりと、思い思いに過ごしていた。


「……ふむ。こちらの茶葉はどうだろうか?」


 エダルはいくつもの茶葉缶をコクピット内に用意して、ポットと共にカップも用意、少しずつ茶葉の味を確認しては、次のに移るというのを繰り返していた。

 時折、物は試しにと、茶葉を掛け合わせたり等をして、思いっきり趣味の時間を過ごしている。

 エダル本人は、普段見られないような上機嫌な表情を浮かべていた。


「……う~む。香りは良いが、味は……少々薄いな。……いや、これは茶葉の量を増やせば濃度が増すだろうか? ……良し。物は試しだ。金を積めば、いくらでも用立てる事が出来るのだし」


 そうしてエダルは、茶葉の量を増やしてもう1度試飲する。

 その様子は、コクピットのモニター内に表示されているために、富裕代表者達全員が見る事が出来るのだが、その姿を気にする者は1人を除いて居ない。

 今まで見た事無い表情を浮かべるエダルの様子に、驚いているのはウイゼルである。

 ウイゼルは特にする事が無く、辺りを警戒しつつ、富裕代表者達の様子を見ていたのだ。

 そんな中で先程の様子を見たのである。

 自分に決して向けられる事は無いエダルの表情だったからこそ、ウイゼルはモニターを食い入るように眺めていた。

 そんなウイゼルの目に、羨望等は一切宿っていない。

 ただただエダルも、そんな表情をする只の人なんだと思っていた。

 そして、他の富裕代表者達はと言うと、キステトは丸眼鏡をかけ、優雅に読書タイムである。

 簡易的な音楽再生装置も持ち運び、重厚な音楽をコクピット内に流しながら、ゆったりと読んでいた。


「……」


 コクピット内では、音楽とページをめくる音だけが響く。

 ちなみに読んでいるのは、富裕者らしく経済学や資金運用の本かと思いきや、小説であった。

 しかも、恋愛小説である。


「……うぅ」


 その上、涙まで流していた。

 パタンと本を閉じ、自分の直ぐ傍に用意していたティッシュ箱から何枚も抜き、涙を拭う。


「……良かった。……良かったなぁ、アベル。無事、お姫様と結ばれる事が出来て」


 キステトはうんうんと頷きながら、本を片す。

 片される場所は、小さなケースのような本棚だ。

 きちんと整頓された本棚へと本を仕舞うと、そのまま隣の本を取って読み始めた。


「確か、これはベストセラーになっていたな」


 涙を拭き取って気持ちを切り替えたのか、キステトは再び読書タイムへと戻った。


 そしてミミクは、コクピット内のモニターを利用してゲームをしている。

 やっているジャンルは、横スクロールのアクションだ。

 いつの間にそんなシステムを組み込んだのか、家庭用ゲーム機専用のコントローラーをコクピット内に繋ぎ遊んでいた。

 ただ、少しばかりは分別があると言っていいのか、モニターの大部分はゲーム画面ではあるが、一応申し訳無い程度で、小さな画面で外の様子と各代表者達の様子を映している。


「くそっ! このっ!」


 ゲームの腕は大した事無いのか、ミミクは少しばかり苦戦していた。

 ガチャガチャとコントローラーをいじる。

 その様子を微笑ましそうに画面越しで見ていたのは、レオンだ。

 レオンも、ウイゼルのように外の様子を警戒しているのだが、余り真剣見は感じられない。

 その証拠に、両手は操縦桿から離れ、小腹が空いたのか、持ち込んだ茶菓子を口に放り込み、紅茶で流し込んでいた。


「ふぅ……」


 息を吐き、ついにはその両目を閉じる。

 その姿は、どこか考え事をしているように見えた。

 何か嫌な事でも思い出しているのか、眉間に皺を寄せて顔を顰める。


「……グラン。……どうして戦争に参加した……」


 その呟きを聞く者は、本人以外に居ない。

 それ程小さな声での呟きであった。


 この富裕代表者達の余裕は、自機の性能を信頼しているが故か、自らの技量に絶対の自信を持っているが故か、はたまたその両方か、それを窺い知る事は無いが、彼等はこうして思い思いに過ごす。

 未だ、ドワーフ機の姿は現れていない。

 それでも、富裕代表者達が動く事は無く、待ちの態勢を崩す事は無かった。


     ◇


「見つけたっス!」


 最初に富裕機の姿を見つけたのは、ゴッツであった。

 その言葉に反応して、他のドワーフ代表者達はゴッツ機の周囲へと集まる。

 富裕機全機が陣取っていたのは、開け放たれた場所であり、恐らく前は草原であったと思われる所であった。

 草原だと思われる理由として、その名残なのか至る所に枯れ果てた草木が点在しており、吹けば簡単に砕けそうな程である。

 だが、それは問題では無い。

 ドワーフ代表者達にとって問題なのは、自機の姿を隠した場所から飛び出せば、富裕機までの間の距離を遮る物が何も無い事だろう。

 未だ自分達の存在が、富裕代表者達に気付かれた様子は無いが、ここから出ればHRWWの姿は丸見えだ。

 だからこそ、バーンは考える。

 近付く前に認識される事は間違いなく、そうなると何機か動かして挟撃するように回り込ませるかとも考えるが、それは戦力の分断に繋がる事でもあるし、あんなに堂々と姿を見せて待ち構えているのだ。

 何かしらの罠が用意されていてもおかしくは無い。

 しかし、それがどうしたと、バーンはコクピット内で踏ん反り返った。

 自分達はドワーフである。

 そして、今自分達が搭乗しているHRWWは、その自分達が造り上げた物であり、その性能を自分達が信じなくてどうすると思い至っていた。

 どうせバレるのなら、真正面から堂々と挑めば良い。

 罠があるというのなら、正面突破で跳ね除けてやれば良い。

 と、バーンは口角を上げ、好戦的な笑みと共に強気な姿勢を見せた。

 そして、それはバーンだけではない。


「……がははっ! どうやら、全員同じ気持ちのようだな!」


 バーンを除くドワーフ代表者達全員が、まだ挑まないのかと好戦的な表情を浮かべていたのである。

 モニターに映る仲間達の様子を見て、嬉しそうに笑うバーン。

 そのバーンの言葉に、ドワーフ代表者達は不敵な笑みを浮かべる。


「よぉしっ! 行くぞ! テメェラ! このまま突貫だぁ~!」

「「「「オオオォォォ!」」」」


 そして、その言葉に反応してドワーフ機全機が飛び出し、富裕機に向けて一気に駆け出す。


     ◇


 のんびり過ごしていた富裕代表者達。

 その内の1人、ミミクは子供故の集中持続力の無さなのか、ゲームをしてはいるのだが、時折暇そうというか、眠そうに大きく口を開けて欠伸をしている。

 そうして、再び大きく口を開けて欠伸をしている最中に、通信が飛んでウイゼルの声がコクピット内に届く。


「来ました。ドワーフ機全機が、こちらへと向かって来ています」


 普通であれば、大慌てでゲームを片すだろう。

 だが、ミミクは「ふ~ん、やっとか」と言いたげに、ゆっくりと作業を進めた。

 コントローラーとコクピット内のシステムを繋ぐケーブルを抜き、ぐるぐるとコントローラーに巻き付ける。

 そして、注いだまま放置されて冷めきった紅茶をぐいっと飲んで、カップを軽く磨くと座席の後部部分へと、コントローラー共々片した。

 そこまでしてからようやく、ミミクは操縦桿へと手を置いて、機体を動かしてドワーフ機の方へ向き直る。

 そしてそれは、他の富裕代表者達も同様であった。

 ウイゼルは発見者という事もあり、元々何もしてなかった故か、即座に行動に移していたのだが、他の3人、エダル、キステト、レオンの行動は、ミミクと同じようにゆっくりと自分がしていた事を片していく。

 その様子は余裕があるというよりは、どこか相手を見下しているかのように感じる。

 そうして3人が操縦桿へと手を置き、機体の向きを直した時、それに合わせるようにしてドワーフ機が襲いかかってきた。

 ドワーフ機は、全機既に武器を構えて飛びかかっている。


「“ミョルニール”!」

「“グラム”!」


 バーン機が持つ巨大なハンマーが黒い雷を纏い、

 ジジル機が持つ2本の短剣が高周波ブレードと化す。

 それに続いて、ドルチェ機、ザッハ機、ゴッツ機が武器としてのハンマーを取り出して、各機それぞれが富裕機へと攻撃を加える。

 だが、そのどれもの攻撃が、富裕機が持つ巨大な盾で防がれた。

 少し凹む程度の痕は出来ているが、言ってしまえば、その程度のダメージしか与えられなかったという事だ。

 その手応えに、バーンは舌打ちをする。

 自分が操るミョルニール、もしくはジジル機のグラムであれば、数度の打ち合いで富裕機の盾に穴を開ける事は出来るかもしれないが、他の機体が使っている普通のハンマーだと何度打ち合おうが貫く事は出来ないだろうと理解したからだ。

 それほどまでに、富裕機の持つ盾は堅くしなやかであった。


「ちっ! 堅い!」

「はははっ! それでも攻撃特化か? ドワーフ共! その程度の威力で、俺達富裕者の盾をどうにか出来ると思っていたとは、愚かとしか言えんな!」


 エダルが高笑いを上げ、ドワーフ代表者達にも聞こえるように全方位で通信を飛ばす。

 ドワーフ代表者達は、挑発とも取れる内容に激高して再度攻撃を加えるが、その全てが富裕機の盾に防がれてしまう。

 この攻防は何度も続くが、ドワーフ機が富裕機の盾を突破する事は出来なかった。

 その様子は、見ようによっては拮抗しているように見えるだろう。

 ドワーフ機の攻撃を防ぐので精一杯のように。

 しかし、実際は違う。

 富裕代表者達は、じわじわと真綿を締めるようにドワーフ代表者達を追い詰めていっているのだ。

 その圧倒的な防御力を以って、じわじわと追い詰めて相手を圧倒する。歴代富裕代表者達が得意とする戦い方であった。

 その例に漏れず、エダルもまた、そのように行動している。要は相手の疲れを待っているのだ。

 疲れは、思考力と判断力を鈍らせる。それは、反応速度へと如実に現れるだろう。

 その時になって、初めて富裕機は牙を剥くのである。

 そうしたあたりの事が分かってはいても、その前に富裕機を沈める事は難しい。

 全種族機で1番の防御力を誇っているのは伊達ではないと言う事だ。


 それが分かっているからこそ、相手はそうなる前に沈めようと躍起になる。

 それは焦りを生む。

 エダル機があえて見せた隙に、ゴッツ機が飛び出してしまった。


「まずは1機撃沈っス!」

「ばっ――」


 ジジルの制止の声が届く前に、ゴッツ機は富裕機全機に取り囲まれてしまう。

 そして、その盾が凶器となってゴッツ機を次々と貫いていった。

 その内の1つは、コクピット部分を貫いている。

 ゴッツが飛び出したのは、若さ故なのか。

 それとも、自分達ドワーフが造り上げた自機を信用していたからなのか、性能向上で気分が高揚していたからなのか、富裕代表者達の思惑通りに焦っていたからなのか。

 または、その全てが原因なのか、それ以外の要因があったからなのか。

 それを窺い知る事は最早出来ない。


 既にゴッツは、コクピット部分毎エダル機の盾に貫かれて、その命が終わっていたのだ。


「ゴッツーーー!」


 ジジルの叫びが辺り一面に響いた。

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